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昼寝の威力:仕組みは『血流の分散制御』
📖 文献情報 と 抄録和訳
昼食後の短時間休息が午後の血行動態に及ぼす影響
Nakao, Hinako, et al. "Possible effects of short rest after lunch on hemodynamics in the afternoon." European journal of applied physiology 122.2 (2022): 523-530.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
📗 ミニレビュー:昼食後の眠気が引き起こすこと & なぜ生じるのか?
- 昼食後の眠気は、午後の生産的な時間の妨げになる傾向がある(📕 Carskadon and Dement, 1987 >>> doi. ; Smith et al., 1991 >>> doi.)
- このような食後の眠気や精神的な霧は、腸への血流増加を補うために脳への血流が減少することが一因であると考えられる。食後の血流は劇的に変化することがいくつかの報告で示されている(📕 Fagan et al. 1986 >>> doi.)
- 昼食後、脳に向かう総頸動脈(CCA)の血流が減少し、その代わりに腸に向かう上腸間膜動脈(SMA)の血流が増加することが示された(📕 Ishizeki et al., 2019 >>> doi.)
[背景・目的] 昼食後の午後に眠くなることはよくある。食後は消化器系の血流が増加するため、脳への血流が減少することが原因である可能性がある。短時間の休息が精神活動に及ぼす様々な効果が報告されていることから、本研究では、昼食後の総頸動脈(CCA)および上腸間膜動脈(SMA)のドップラー超音波検査を用いて血行動態を調べ、休息例と非休息例を比較検討した。
[方法] 対象は健康な若年成人24名(男性10名、女性14名、平均年齢22±1歳)である。各日の昼食前後に超音波検査を行い、昼食後に目を閉じて15分間横になって休んだ場合とそうでない場合の血流を測定した。
[結果] SMAの速度-時間積分のピークのタイミングは、昼寝例では昼食後1.5時間であったのに対し、非昼寝例では0.5時間早いタイミングで生じた。CCAは昼食後に拡張末期速度が低下したが、昼寝例では非昼寝例と比較して昼食後4.5時間でも低下が抑制された(中央値96%、四分位範囲[IQR]83-102% vs. 中央値87%、IQR77-92%、P = 0.037).CCAにおける平均速度(MV)は、昼寝例では昼食後も変化しなかったが(P = 0.318)、非昼寝例では昼食後にMVが低下した(P < 0.001)。
✅ 図. 上腸間膜動脈(SMA)と総頸動脈(CCA)における血行動態のベースライン値に対する比率(%)の中央値(昼食前との比較)。昼食後と昼食前の各時点の値の有意差を示す(P2)。収縮期ピーク速度(PSV)のみ抜粋して図示した。
[結論] これらの知見は、目を閉じた短い横臥位での休息が、昼食後の消化器官への血流増加を抑制し、脳への血流を維持することを示唆する。このような血行動態の変化は、午後の休息がもたらす効果を説明するのに役立つかもしれない。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
以前、昼寝(パワーナップ)の威力についての文献抄読をした。
この文献では、システマティック・レビューにより認知機能、運動、ほぼすべてのパフォーマンスが昼寝によって改善することが示された。
今回の論文は、その仕組み編である。
どうして、昼寝によってパフォーマンスが改善するのか。
1つの答えは、『血流の分散制御』にあった。
すなわち、パワーナップは腸管への急激な血流増大を抑制し、脳への血流を保つ。
分散の制御は、何においても大切だ。
たとえば、力学的な分散。スクワットをするとき、股関節の動員が乏しければ荷重負荷が膝関節に集中し、障害を引き起こす可能性が高まる(このような考え方を協調分散理論という)。
✅ 協調分散理論;coordinated distribution theory
- 京都大学の建内先生の講義より
- ある関節運動, 動作において全身のすべての部位が個々に適切な役割を果たし、かつ互いに協調することで ストレスが分散され, 組織損傷につながる局所へのストレスの過剰集中が回避される
たとえば、栄養。世界の農家は毎日、地球上の一人当たり2,868キロカロリーを生産している。これは、世界食糧計画が推奨する一日の摂取カロリー2,100キロカロリーを上回り、90億に迫る人口を支えるのに十分な量。だが、栄養不足に苦しんでいる人々は、まだまだいる。(National geographic December 2014 P19)
全体量が決まっているものの分散を制御することは、とても大事だ。
そして、人間における血流もその1つだと思う。
パワーナップは『土手』のような働きをしている。
血流の河、それが食後に過度に内臓へ流れ込んでしまう『洪水』を防ぐのだ。
「土手つくりに行ってきまーす」といって、昼寝をしよう♪笑
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