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アイシングの善悪-筋再生を鈍らせるというEvidence-

▼ 文献情報 と 抄録和訳

エキセントリック収縮による筋損傷後のアイシングは、マウスの壊死筋線維の消失とマクロファージの表現型の動態を阻害する

Kawashima, Masato, et al. "Icing after eccentric contraction-induced muscle damage perturbs the disappearance of necrotic muscle fibers and phenotypic dynamics of macrophages in mice." Journal of Applied Physiology 130.5 (2021): 1410-1420.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[目的・方法] アイシングは、スポーツ医学において、急性骨格筋損傷に対する最も一般的な治療法の1つである。しかし、これまでのネズミを用いた研究では、アイシングが損傷後の筋再生に悪影響を及ぼすことが報告されている。本研究では、電気刺激によるエキセントリック収縮誘発性筋損傷のマウスモデルを用いて、アイシングによる筋再生の障害を支配する重要な因子を解明することを目的とした。

[結果] 筋損傷後にアイシングを行うと、壊死した筋線維への多核細胞や単核細胞の浸潤が遅延・減弱し、壊死した細胞片が持続的に存在するようになった。これらの現象は、再生部位にPax7+筋原性細胞が遅れて出現し、持続的に蓄積されることと一致した。また、アイシングにより、腫瘍壊死因子α(TNF-α)やインターロイキン10(IL-10)などの炎症関連因子の発現パターンが変化したことに伴い、M1マクロファージの浸潤が遅れたり、持続したりした。筋原性前駆細胞の活性化・増殖・分化に関与する重要な筋原性制御因子(MyoDとmyogenin)は、再生過程においてアイシングによって変化しなかった。筋損傷後14日目の再生筋線維のサイズ分布を詳細に解析したところ、全再生線維に対する小再生線維の比率は、アイシング処理をした動物の方が未処理の動物よりも高かった。

[結論] これらの結果から、筋損傷後のアイシングは、筋原性因子に影響を与えるのではなく、壊死した筋線維の除去やマクロファージの表現型の動態を乱すことで、筋再生の効率を鈍らせることが示唆された。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

この話題は、しばしば議論となる。だが、なかなか決着がつかない。個人的には、『アイシング単体が生体に及ぼす影響』だけでは、議論は平行線を辿るような気がする。

今回は対象がネズミである。ネズミは、アイシングを良くも悪くも思っていないだろう。そこで出た結果というのは、ニュートラルにアイシングは筋再生を鈍らせるということを示唆するかも知れない。

だが、人ではなかなか複雑になる。たとえば、アイシングを「良い」と思っている人と、弊害を強調した説明やビデオを見せられた「悪」と思っている人に同じアイシングをしたときに、同じ結果が出るだろうか?こと人間では、精神が症状を誘発する・消失させる身体化(somatization)がある。

『アイシング単体が整体に及ぼす影響』と『身体化』の両面を含めた研究デザインを組むことで、双方の影響度の大きさや、もしかしたら教育(アイシングに対する善方向の効果を強調した説明を受けてアイシングは良いものだと思わせる)後のアイシングは効果的とか、真に効果的な介入につながるかもしれない。

人を対象としたアイシングの研究では、おそらく、そこは避けて通ることはできないのだろう。避けていては、あるときは効果的であったり、あるときは悪だったり、議論に収拾がつかないのかも知れない。