センスないと思われそうで好きと公言してない映画 ヴァン・ヘルシングとANON アノン
前回に引き続き、ようこそ「センスない映画」の世界へ。
「センスない映画」って何?と思われた方は前回の記事を読んで頂きたいです。
ただ、軽くおさらいすると、以下の条件を満たすものを「センスない映画」と定義しています。
メジャー娯楽作品。
その中でも評価が高く、ライト層コア層関係なく長年ファンに愛されるものではない。
かと言って後々カルト的な人気が出たわけでもない。
話題になること自体があまりない。
本編の突っ込みどころをあげればきりがない。
しかし好きなシーンが突っ込み所を凌駕しているため嫌いになれない。
今回は二本立て。どちらもネタバレあり!!
ヴァン・ヘルシング(2004年)
19世紀のモンスター・ハンター、ヴァン・ヘルシング(ヒュー・ジャックマン)は、トランシルバニアのドラキュラ伯爵(リチャード・ロクスバーグ)と何百年も戦い続けているヴァレリアス一族をサポートする命をバチカンからうけ、修道僧カール(デビッド・ウェナム)と共に旅立つ。一族の王女アナ(ケイト・ベッキンセール)と反目したり協力したりしながらドラキュラ打倒を目指すのだが…みたいな話。フランケンシュタインとか、ジキル&ハイドみたいな有名な悪役達も共演してます。
この映画の好きな部分はこれに尽きます。
狼男の変身シーン
アナの兄ヴェルカンは狼男なんですが、狼男って普通は、満月の夜にうっかり月の光浴びて変身しちゃうみたいなパターンじゃないですか。でも、ヴェルカンはそうではありません。彼は絶対に変身したくないんですが、室内にいても、体が強制的に月を見せようとしてくるんです。
具体的には、壁に背中が張りつけになりそのまま上に登っていきます。体の正面を壁と反対方向に向けながらロッククライミングをしている、みたいな。その間ヴェルカンは必死に抵抗してるんですが体はガンガン上に登っていき、天井近くにある窓から月の光を浴びてしまいます。
なるほど!狼男の本能が人間の理性を凌駕する、というのが非常に納得できる形で表現されています。どんなしっかり者でもこれなら変身は不可避。というか今までの、普段は全然そんなことないのに満月の夜だけうっかりさんになるという状況がおかしいよね、という気づきが得られます。あと背中で壁を登るという映像が新鮮だった。
他に好きなところは、ヴァン・ヘルシングに次のミッションを説明する謎のスライドショーとガジェット紹介、ヴァンパイア大集結の舞踏会の不吉で豪華絢爛な雰囲気、ドラキュラ役のリチャード・ロクスバーグのいかにも演技、ヴァン・ヘルシングの相棒カールのシーン全般。この俳優さん(デビッド・ウェナム)は「ロード・オブ・ザ・リング」のファラミアの人というイメージしかなかったけど、コミカルな演技が上手かった。
突っ込み所は…本当に絞って挙げると、ケイト・ベッキンセールのめちゃめちゃわざとらしい東欧なまりとフェティッシュすぎる衣装(この衣装はベッキンセール本人も嫌っていたらしい)、ドラキュラの花嫁がヴァン・ヘルシングを威嚇するシーンの微妙さ、最後のアナとその一族の成仏シーン。
ドラキュラの花嫁の威嚇シーンに関しては少し補足したい。確か黄色のコスチュームを来た花嫁の一人が、両手を広げてシャー!!って猫みたいに威嚇するシーンがあるんですよ。
女優さんは精一杯やっていると思います。ただ、このシーンって容姿が良い人ほど滑稽に見える気がするんですよね。で、女優さんは超美人、モデルみたいなプロポーションという多大なハンデを背負っているわけです……(どんな状況なんだよ)
このシーンはえ?それわざわざあげるところ?と疑問に思う方もいるかもしれませんが妙に記憶に残ってるんですよね。
でも!このシーンの5000倍ダサいシーンがクライマックスで待っています。アナは最後死んでしまうのですが(これ予想外だったな)、でも一族達と一緒に天国へ行けたよ、というしるしに、微笑むアナと一族の映像が大空に被せられ、これが衝撃的にダサいんです。
ここは怒るところではありませんよ皆さん。笑うところです。みんなで一族の成仏を笑顔で祝おうではありませんか!
そして作られることのなかった続編に思いを馳せましょう。
ANON アノン(2018年)
近未来、全ての人間がイーサと呼ばれるネットワークに繋がれている社会。この社会ではプライバシーは皆無で、実質殺人犯が逃亡するのは不可能のはずだが、視覚を乗っ取られた末に殺される殺人事件が発生。刑事のサル(クライヴ・オーウェン)はデータが全くない匿名の女・ANON(アマンダ・セイフライド)を見かけ、彼女が犯人ではないかと疑う。そして上司のチャールズ(コルム・フィオール)と同僚のレスター(Joe pingue)と共に、視覚データを操作するハッカーであるANONに囮捜査をしかける…という話。
この映画は一見センスない映画とは思われないんじゃないかな。映像がかなりかっこいいので。ただ、「それっぽい雰囲気の映画をマジに受けとる人」だと思われる可能性が高い。この監督(アンドリュー・ニコル)ってそんな映画ばっかり。でも作品に独特の愛嬌があると思う。
そんなこの映画の見所は…
レスター役を演じるカナダ人俳優Joe Pingueです!
この映画に出ている人達って美形ばっかりなんですよ。クライヴ・オーウェンは、相変わらず内臓を壊してそうだけど(いつも顔色悪いし浮腫んで見えるから)ワイルドかつ渋いイケメンだし、アマンダ・セイフライドも目が顔の半分くらいある人工的な美女。通常運転。
他の脇役やエキストラっぽい人たちも端正で肉の薄い感じの美形ばっかり。でも頭髪薄め・髭もじゃ・太めの同僚レスターだけは違います。
レスターの容姿だけ明らかに異質なので、レスターが出ているシーンはもうレスターしか目に入らない。サルもANONもどうでもいい。この主役二人のシーンになると「早くレスター出てこないかなあ」と思う。
スタイリッシュでかっこいい映画こそ、こういう特徴的な外見の人をいれるべき。キャストがみんな美形だと、逆に印象が薄くなっちゃうんですよね。あとレスターはキャラ的にも、サルと違ってプロに徹していて好き。彼はおどけた三枚目ではなく、あくまでクールな役柄です。そこも良いと思う。
でも中盤で殺されてしまうから悲しかった。
Joe pingueの出演作品リストを見てみると、私が見たものもチラホラあります。でも何の役で出てたのかまるで覚えていない。多分この人が映えるのは、ちょっとやり過ぎなくらいかっこいい映像の中なんだと思う。
他に好きなところは視覚を乗っ取られる怖さ、監視社会のうんざり感。視覚で全ての情報が手に入るあたりはヴィジュアル的にも、アップルとグーグルが手を組んで世界征服したらこうなりそうだなと思う。
あと無機質なインテリアデザイン(自分の趣味ではないけど、インテリア必見の映画と言えるかも)、そして最後、サルに何故身を隠したいのかと問われたANONが言う台詞「私には見せたいものがないだけ」。
この台詞の反対語は「見せたいものがある」。つまり、誰かと共有したいものがあるということで、つまりANONはそれと反対の状況を欲している=誰とも繋がりたくないんだって意味だと思うんですよ。
この台詞はけっこうハッとしました。私も学生時代から、一人でいるときは誰とも繋がりたくなくて、SNSは全然やっていませんでした。それが今ではnoteをやっているというね…まあ人間大きな病気をやると考え方が変わるものです。
レスターがいなくなって以降ぼんやりしていて(何しろサルとANONに興味がないので)前述した台詞以外あまり印象に残るシーンがないんだけど、最後は結構がっかりだった。
結局犯人はANONではなくてサルの捜査チームにいたサイラス(マーク・オブライエン)という若者で、ANONの狂信的ファンで彼女を一人占めしたいから、ANONに仕事を依頼した人たちを殺して回ってたみたい。
…これであってるよな……自分の書いた文章があまりにも意味不明すぎて不安になってくる。
ミステリーにおいては、誰が犯人かではなく、何で殺したのかが気になるタイプだから、「コイツが犯人です!何故なら頭がオカシイから」というパターンすごく萎えますね。
でも、それでも嫌いになれない。それが「センスない映画」の世界なのです。
それではこの辺で。