Cloud クラウド 後半ずっと笑ってた。
アイキャッチ画像引用元:映画.com
Amazonprimeで年末配信されていて、え?早くない??と思いつつ観賞。もう先に言っちゃうと、2024年に見た映画の中で一番楽しんだかもしれない。一番良いっていうよりは、楽しいって感じがしっくりくる。
Cloud クラウド(2024)
工場で働きつつ転売屋として金儲けしている吉井(菅田将暉)。様々な要因から工場をやめ、恋人の秋子(古川琴音)と共に心機一転地方に引っ越し転売業に専念するが、二人の周囲に不吉な現象が起き始める。
ストーリーを大きく3つのパートに分けて、順に感想を書いていきます。最後にまとめ的なことも。完全にネタバレ。
東京で消耗編
このパートは全体的に潤いのない雰囲気で、不吉な予感が濃い。
冒頭で吉井は町工場から電子治療器を安く買い叩き、地も涙もない転売屋という印象。加えて吉井は口調に感情がほとんど感じられず、その場に合う台詞をただただ棒読みしている感じ。菅田将暉による独特の演技なんだけど、これはもしかしたら好みが分かれるかも。私は好き。
しかし高額な値をつけた電子治療器が全て売れると、意外にもすごくほっとしている様子(ここの演技すごく好き)。あと、ネットで値上がりしそうなゲームを見つけて買い付けようとするけど、ひよって商品を買い逃してしまう描写もあって人間らしさが感じられる。生まれながらのソシオパスってわけじゃなさそう。この最初のパートでの吉井のキャラクターは、人間:非人間=3:7くらいの割合かな。
他の登場人物としては、勤め先で不自然に吉井を高く評価する上司の滝本(荒川良々)、何考えてるのかよくわからないけど雰囲気だけはある恋人の秋子、転売屋の先輩の村岡(窪田正孝)。村岡先輩は経済的に行き詰まっているっぽく、終始目が完全に死んでいる演技が素晴らしかったです。
あとあんまり関係ないけど、吉井は銀行のアプリとかじゃなくて、紙の通帳に記帳して口座の残高を確かめていた。堀江貴文から理不尽にキレられそうなアナログなタイプだね。
湖畔に逃避編
滝本から執拗に望まない昇進を迫られたり、何となく不吉なことが身の回りに起き始め、仕事をやめて秋子とともに地方の湖畔にある大きな家を借りる吉井。
ここで自分の転売業のアシスタントとして、素直で割と仕事ができそうなのに無職の若者、佐野(奥平大兼)を雇う。この俳優さん初めて見たけど演技いいですね。
東京を離れても不吉な現象がややバージョンアップするし、地元警察にヤバいもの売ってるんじゃないの?と勘づかれそうになるし、田舎に飽きた秋子は出ていくし、佐野君に勝手にパソコンいじられたのでクビにして、そうこうしているうちに金がなくなり急いで美少女フィギュアを買い占めたり、東京にいたときよりも忙しそうな吉井。やっぱ個人事業主って大変そう。
吉井はラーテルっていうハンドルネームで転売屋をやっているんだけど、冒頭で言った通り商品を安く買い叩いたり、偽物のブランドバッグを売りつけたりして結構恨みをかっていて、闇サイトでラーテルぶっ殺そうぜ的な人達が集まっている。その中の一人、三宅(岡山天音)というネカフェ民で人生詰んでるっぽい人の演技がとても良かった。
このパートの吉井は、相変わらず冷たく無感情なんだけど、予想外の出来事が立て続けに起きてちょっと参っているので、人間:非人間=5:5ってところかな。
菅田将暉の演技は台詞で非人間を、表情で人間らしさを表すって感じで分かりやすい。
楽しいゲームの始まり編
とうとう闇サイトチームが吉井の家にやってくる。このメンバーの中に前の職場の上司、滝本も入っていたのが個人的に予想外だった。
荒川良々が銃を手に現れたところで、あ、これ絶対にオモロイことになると確信。オモロイっていうのは、緊密で手に汗握る展開っていうよりは、どっちかっていうと可笑しいっていう意味ね。多分この後の展開はあんまり深刻にはならないんだろうなって予感がしたんですよね。
こっから先の私の感想には、ほとんど全ての語尾に(笑)がついていると想定してください。実際につけると(笑)×50くらいになっちゃうから文面では省略しますね。
闇サイトチームのメンバーは、何かに気をとられると(物音とか人とか)、標的の吉井のことをすっかり忘れちゃう、5歳児くらいの集中力しかない。何でだよ。そんなんだから吉井はあっさり逃げる。
吉井は逃げている途中で、若干不審な秋子に再会。でも結局メンバーに捕まり工場みたいなところに連れていかれる。メンバーの中には、相変わらず目が死んでいる村岡先輩とか、電子治療器を安く買い叩かれた町工場の経営者とかもいるみたい。
絶対絶命なんだけど、ここで吉井がクビにしたはずの佐野君が助けに来てくれる。佐野君はフワッとした「あくのそしき」に過去所属していたらしく、銃の扱いにも慣れている。
そんでまた、吉井が拘束されている工場は銃声がやたらと反響し、「バン!」じゃなくて「ズキューン!!」みたいにいちいち大袈裟で楽しい。
何でここにいるの??と戸惑う吉井に、佐野君はこう答える。
「アシスタントですから」
「え???」
↑この吉井の反応に、自分の感情が完全にシンクロした。
佐野君は肝が据わっていて、素直なのに何の躊躇もなく人を殺していく非人間度高めなキャラ。でも自分のその特性を生かせる場所がなかったから無職だったんだろうな。
どうして「あくのそしき」をやめたのかはわからないけど、まぁ組織に属すのに向いていないタイプだったんでしょう。新卒で就職した会社でそれに気づく若者も割といるしね。
対して吉井は非力だけど金を稼ぐ力があるから、俺たち組んだら最強じゃね?と思ってやたらと吉井を慕って助けている、と私は解釈しています。あと、吉井にどこか自分に似た空気を感じたのかもしれない。今はまだ人間らしさが残っているけどね。
これ以降は佐野君と吉井が組んで反撃していくパートで、めっちゃ楽しい。何でこんなに楽しいのかよくわからないんだけど、多分、登場人物が皆ちょっとずつ違う方向に狂っていてバラエティー豊か、そしてこれら狂人たちに対して普通の人間っぽく怯える吉井の表情とか反応、のバランスが絶妙だと思う。あと好きなのは、工場にいる奴らは佐野君以外全員ズブの素人だから、情けなく失敗したりする。このキレのない銃撃シーンが芝居がかっていない感じで良いですね。ちなみに私は元々キレのあるアクションよりも泥臭い、どっちかっていうと無様なアクションの方が好みです。
ここまで書いてきて思ったけど、吉井を中心とする各キャラの、人間性と非人間性の揺らぎがこの映画の一番の見所な気がする。
ただ、これらのシーンが全然好きじゃなくてイライラする人も一定数いると思う。ちなみに私は同じく黒沢清監督の「クリーピー 偽りの隣人」の後半は無性にイライラした。でもこの作品は、自分にとってはリアルと荒唐無稽の混在具合が丁度良かったんですよね。あと俳優さんたちがそれぞれ、すごく役にハマっていたのも大きい。
最後のパートの吉井はさすがに終始ピンチなので人間:非人間=8:2くらい。ちなみに非人間の部分は、いちいち転売商品のことを気にしているところ。あ、そうだ。こいつもおかしいやつだった。と気づかされる。
結局闇サイトチームは全滅、吉井から金を奪い取ろうとした秋子も佐野君に殺された。
というわけで吉井の今後のパートナーは秋子でもなく、妻子を殺してはるばるやって来た荒川良々でもなく、自分の用心棒に立候補してくれた佐野君だったのです。
そして二人は車を走らせ、地獄へと一直線に進むのでした。
おしまい。
Cloudとは?
タイトルのCloudというのは普通は雲、もしくは群衆という意味ですね。三宅が吉井を襲う前に、「お前を恨んでいる群衆が雲のように次々とわき出てくるぞ」みたいな感じでていねいに説明してくれる。ご親切にどうも。
ついでに言うとラストシーンでも文字通り暗雲が立ち込めていますね。
あと劇中で二回、吉井の片目が青っぽく曇るときがあったと思うんですよ。最初は電子治療器が売れていくのを待っている時、あとは後半で佐野君が闇サイトチームの一人を殺すのを目の当たりにした時。
演出なのか、偶然なのか、菅田将暉の目が特殊なのか、私の目がおかしいのか。ちょっとわからないけど、曇ってた・・よね・・・??(自信なくなってきた)
いろんな人の恨みをかってるから、それが目にも映っちゃってるよ、ってことなのかな?
では今後佐野君と共に地獄に進むと、更に多くの人の恨みを買って、吉井の目は曇りきってしまうのか?というと・・・そうでもないんじゃかな。
何故かと言えば、そういう恨みをもった群集を次々と始末してくれる用心棒の佐野君がいるから。佐野君は、俺があなたの目の曇りを取り除いてやるからこっち来いよ!的な感じで吉井を引っ張っているような気もする。
あと、ラストシーンの雲はおなじみの「いやどこ走ってんの?」ってなる黒沢清的「世界の車窓から」の風景だから、そんなに大きな意味があるとも思えない。それに、あの場面はあくまで地獄の入口だしね。
あの雲を抜けた先には、きっと澄みきった地獄の世界が待っていると思う。その世界では、吉井はもう転売が成功するか不安がったり、商品の買い付けにひよったりすることは決してない、人間:非人間=0:10の最強ラーテルになるんでしょう。
この映画はアカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品に選ばれたとのこと。正式なノミネート作品になるかは・・・うーん。どうなんだろう。正直アメリカの人には受けなさそう。でも審査員の人を思い切り戸惑わせてほしいな。それが一番オモロイ展開。
とっても楽しかったです。
それではこの辺で。