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アメリカにおけるDUNEとゴジラ-1.0への反応は似ている

アイキャッチ画像:映画.com
この前DUNE関連作品のランク付けをやりました。

その時昨今のハリウッド大作の低迷についても書こうかと思い付き、今回はDUNEとゴジラを絡めて書きたいと思います。ただDUNEは既に上の記事に感想を書いたので、今回はゴジラがメインかな。


注意点

私は重度の北米YOUTUBEジャンキーであり、ここで言う「アメリカの反応」というのはわたしが目にしたYOUTUBEチャンネルのレビュー動画のことを指しています。つまりある程度映画を批評的に見る人たちの感想で、ごく普通のアメリカ人に直接街頭インタビューしたとかではありません。よって全アメリカ人の意見が反映されているわけではありませんし、あくまでレビュー動画の私の勝手な解釈になります。
映画のネタバレはなし。

DUNE part2 大絶賛の怪

上に貼った記事でも触れたけど、アメリカの映画レビュアー達はDUNE part2を大絶賛していた。主な評価ポイントは、

  • 迫力のある映像

  • 豪華俳優陣の素晴らしい演技

  • アクションだけでなく複雑な政治劇

これらの評価ポイントには同意するしもちろん面白かったけど、私は「史上最高のSF映画」という評価にはかなり温度差を感じていた。

ゴジラ-1.0 絶賛の怪

ゴジラ-1.0はアメリカでかなりヒットし、さすがにDUNEほどではないけど評判も上々。正直日本よりも反応が良かった印象。
私の感想は、大袈裟な演技とか都合の良い展開とか突っ込みどころはありつつも、ゴジラの銀座襲撃やクライマックスシーンなど、肝心なところは外さない「まあまあ優秀な映画」と言ったところで、やはりアメリカの反応との温度差を感じた。アメリカでの主な評価ポイントは、

  • ハリウッドと比べて低予算にも関わらず迫力のある映像。

  • ただ怪獣が暴れまわるだけでなく人間のドラマが充実している。

ちなみに、「アメリカ人は日本語がわからないから演技が大袈裟だと気づかず、好評価に繋がったのでは?」という意見を聞いたけど、アメリカ人レビュアーの中でも「もうちょい演技を抑えて欲しかった」という意見もちらほら聞いた。例えばこの動画。たまーに見ている(主に)映画レビューのチャンネル、Double Toasted。

ホスト役の一人Koreyは「とても楽しんだけど、突っ込みどころを挙げるとするならメロドラマ風の演技」とのこと。言語がわからなくても、大仰な演技はある程度伝わるのだと思う。その演技込みでも、やはり高評価の様子。


ちゃんと面白ければ見るんだよ!

2つの評価に共通しているのは、「ちゃんと面白い」というところかな。斬新な要素とかは特にないけど、ゴジラは決めるところは決める、DUNEはすべての要素において平均点以上。逆に言えば、私にとって新鮮な要素がないからこそ、そこまでグッとこなかったのかもしれない。
しかし、アメリカの映画レビュアー達が今求めているのは「ちゃんとした面白さ」なのかもしれない。では他のハリウッド大作はちゃんと面白くないのか?その疑問には以下の2つのことが関係していると思う。

ポリコレ要素(ちょっと長くなる)

やはり最近のハリウッド映画を語る以上この話題は避けては通れない。ポリティカル・コレクトネスは色々なものを含んでいるけど、ここでは大雑把にポリコレ≒多様性としておきます。
大手スタジオが映画をリリースするとき、最近は「この映画では女性が活躍します!」「メインキャラクターに非白人を抜擢しました!」「主なラブストーリーはLGBTQコミュニティー内で展開します!」と自分たちの映画かいかに「先進的であるか」をアピールすることが多いです(特にディズニー)。そしてその都度、性差別主義者、人種差別主義者、保守的キリスト教徒等が映画やキャストを一斉にバッシングすることが問題となっています。
しかし、そういった特定の思想を持たない一般的な映画レビュアーたちの反応といえば、

で?それは面白いんか??

一般映画レビュアー達も、キャストやキャラクターに多様性を出すのは良いことだと思いつつ、多様性を出したから自動的に高く評価するわけではない。「先進的である」以前に、やはり映画自体が面白くなければ高く評価は出来ない。っていうか、真に多様性が実現した社会だと多様性のところはスルーするよね。それが当たり前なんだから(勿論現時点ではそういう社会ではないよ)。

ちなみに、ポリコレがハリウッド映画をダメにした、という意見も聞くけど、私はそれは違うと思う。
ちょっと前の映画になるけど、トッド・フィールド監督の「TAR/ター」がとても面白かったです。この映画では主演のケイト・ブランシェットが、国際的に成功したレズビアンの指揮者を演じている。
あとポール・シュレイダ―監督の「カード・カウンター」も面白かったな。この映画では主役をグアテマラ出身のラテン系であるオスカー・アイザックが演じている。もっとも彼はすでに実力が認められている俳優だけど。相手役はおそらく、そんなにまだ知名度のない黒人の女優であるティファニー・ハディッシュ。この女優さんは初めて見たけど、陽気でありながら落ち着いた雰囲気を醸していて、作品のトーンに良く合っていた。オスカー・アイザックとのケミストリーも感じさせてとても良い演技だった。ちょっと前なら、主役がラテン系なら相手役は白人の女優だったんじゃないかな。
人によっては、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」等をここであげる人もいるかも(私は未見)。
これらの映画は「多様性に配慮した映画」以前に「面白い映画」を目指した結果できた映画だと思う。

ちなみに、「ポリティカル」というワードに関連して少し触れておきたいんだけど、ゴジラ-1.0には政治的要素がないとは言い切れない。韓国など旧日本軍が占領していた国々では公開が見送られたらしいし。あと勿論ゴジラは元々は原爆を象徴している。しかしこの映画が全面的に押し出しているテーマは「トラウマの克服」「人命尊重」という特定の国に関係しない普遍的なものなので、そこら辺もアメリカ人に受け入れやすかったのではないかと思う。

過去作品の焼き直しと興業成績

映画がヒットするのはスタジオだけでなくレビュアー達にとっても重要なこと。なぜならスタジオが儲けられなければ映画はつくられないから。ただ、こんなことは今に始まったことではない。

しかし最近は、ある程度の成功が約束された企画ばかりが通る傾向が特に強い。ディズニーの過去のアニメーションの実写化、過去のヒット作のリブート、人気のキャラクターを交錯させるいわゆる「ユニヴァース」。
大手スタジオがなかなかリスクを取りたがらない風潮の中、新しい試みをしても(つまりある程度リスクをおかしても)映画が面白ければヒットするということを、レビュアー達はよく強調している(大ヒットした「バービー」や「オッペンハイマー」のレビューでも聞いた気がする)。
そうしなければ過去の作品の焼き直しばかりがつくられ、映画の創造性が衰退してしまう。(といってもゴジラは最も長く継続しているフランチャイズ映画のギネス記録を持っているんだけどね…でも-1.0では今まであまりなかった「人間ドラマ」を加える試みをやったから…あとDUNEだって過去に一度映画化されている)

DUNEとゴジラのレビューからは、

「先進的」云々の前にちゃんと面白い映画つくってくれよ!そしたら自分らは見に行くし、誉めるし、それ聞いた奴らも見に行って結果映画はヒットするんだからさ!頼むよ!!

という、苛立ち混じりの祈りにも似た気持ちを感じます。
Movie Overloadというチャンネルがゴジラ-1.0を誉めつつ、これは今のハリウッドには良い刺激になる、と言った趣旨の動画をあげていました(厳密に言えばMovie Overloadはアメリカ人ではなくオーストラリア人がやっているチャンネルだけど、レビュー対象はほぼアメリカ映画)。

このチャンネルは基本的にハリウッドの大作映画に文句ばっかり言ってるけど、たまに誉める時もある。まさかゴジラがその対象になるとは思わなかったけど。

低予算でもやればできるんだよ!

これはDUNEにはあまり関係ない話題なんですが、ゴジラ-1.0の批評では、ハリウッド大作と比べてかなり低予算であるということが絶対に触れられている(約1500万ドル≒約20億円)。ハリウッド大作の約十分の一ほどの予算でつくられ、アカデミー視覚効果賞を受賞したCG映像を見て、アメリカ人はハリウッド大作についてある疑念を持ったのではないかな。その疑念とはつまり、

自分達が見ていたのは本当に映画なのか?それとも大手スタジオのマネーロンダリングの産物なのか?

いや、さすがにここまで言っている人はいなかったかな。でも「こんなに制作費かけて、こんな何の面白味もないCGIつくって、一体あの金はどこ行ったんだよ??」というテンション。

Screen JunkiesというチャンネルのHonest trailers(正直な予告編)というコーナーでも、他の大作との予算の比較がされていて笑いました。ちなみにこのコーナーは映画レビューというよりは、一つの映画を面白おかしく茶化して予告編風に紹介するコーナーです。

ゴジラ-1.0の制作費についてレビュアー達が必ず触れている理由としてはやはり、

お前らいい加減にしろよ。こんなに宣伝打って制作費も回収できねえってどういうことだよ?ゴジラはこんな少ない予算で上手いことやってんだぞ?そろそろちゃんと本気だせや!!

とハリウッドに発破をかけているんじゃないかなと思います。
ただ、制作費の少なさに関しては日本人として複雑な気分になる。邦画は本当に食えない業界だと聞くし、ゴジラ関係者の賃金とかワークライフバランスとかどうなってるんだろう。いやゴジラだけでなく邦画関係者の人たちに正当な賃金が払われる世の中になってほしい。(とか言って映画館に見に行ってなくてごめん…諸事情が解決したら行きますから許してほしい)


というわけで、DUNE part2とゴジラ-1.0のレビューは、純粋な作品の良し悪し以外にも、大手スタジオへの批判および激励が織り混ぜられた複雑なものを感じる。

今後ハリウッドがどうなっていくかはわからない。でも、私はそんなに悲観はしていません。ハリウッドには才能ある人が大勢いるし、あんまり稼げないとなったら大手スタジオだって方針転換せざるを得ないでしょ。くらいな感じ。それまでは大作ではない地味目な映画と、昔の映画と、面白い映画レビュー動画でも見ながら待ちますわ。

それではこの辺で。





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