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MEN 同じ顔の男たち 黒歴史思い出すけど好き。

アイキャッチ画像引用元:映画.com
前からちょっと気になっていて、やっとアマプラで観賞。最近日本のアニメとツイン・ピークスしか見てなかったから久しぶりの映画鑑賞。
ネタバレです。


MEN 同じ顔の男たち (2022年)

引用元:映画.com

ハーパー(ジェシー・バックリー)は夫ジェームズとの別れ話の最中、逆上したジェームズが上の階から飛び降りて死ぬのを目撃し、大きなトラウマを負う。
気分転換に田舎の美しいカントリーハウスに滞在するが、村で裸の変質者にストーカーされたり、教会の司祭に粘着されたりする中でジェームズとの最悪の思い出が甦り、まったく気が休まらない。そのうち不気味な現象がピークに達し、ハーパーは精神的に追い詰められていく。
村の男達は全て同じ俳優(ロリー・キニア)が演じていて、皆同じ顔をしている。見たことある顔だと思ったら、007の「スカイ・フォール」のMI6職員だった。


同じ顔の男達

こんなわかりきったことをいちいち言うのは逆に気が引けるけど…まあ村にいる同じ顔の男たちは、個人ではなく男の総体なんでしょうね。トラウマ体験をした、ハーパーの視点から見た男の総体。女がアバズレだと決めつけたり、夫が死んだのはお前のせいだとハーパーの罪悪感を増幅させたり、一方的に威圧して怖がらせたり。屋敷の大家さんだけは気のいい人って感じだったけど、最後の車のシーンで弾けてしまった。ダントツでキモくてムカつくのが司祭であるのは間違いない。

同じ顔の男の中で、裸でうろつく変質者が最も男として「原始的」な存在なんだと思う。トンネルの中でハーパーが発したこだま(多分セイレンの唄的なアレ)で、彼は目を覚まします。序盤で、ハーパーは屋敷の庭に生えているリンゴを取って食べてしまいますが、後に変質者もリンゴを木からもいでいます。これは知恵の実を食べようとアダムをけしかけたイブを連想させる。これらのことから、全ての悪いことを女のせいにする、女=原罪という考えをかなり感じます。


女の中に侵入しようとする男

ハーパーが滞在するコテージの中の壁は、かなりの面積が赤色に塗られています。これはもちろん意図的なもので、女の体内を象徴しているのでしょう。

前にパク・チャヌク監督作品「イノセント・ガーデン」に出てくる赤い壁について触れました。

パク・チャヌクの意図もおそらくこんなところだろうと思います。

そして同じ顔の男達は赤い壁のコテージの中へ押し入ろうとします。鍵をかけて閉め出しても、郵便受けから手を入れ、ハーパーがその手にナイフを突き刺すと、亡くなった夫の遺体のように男の腕に裂け目ができる。このシーン好きだったな。ちなみにこの裂けた腕はのちに刺又みたいな実用的な使い方もされる。

夜に再び姿を現した原始的な男は、ハーパーの目の前でタンポポの綿毛を飛ばします。無数の「種」が飛び散り、ハーパーの口の中に入ります。
性的モチーフ多いな。
この女の中に侵入する男というのは、肉体的だけだなく、精神的にという意味も多分ありますね。

自分!自分!自分!

ハーパーと夫の間に何があったかはわかりませんが、ハーパーが本当に夫にうんざりしているんだろうなというのはわかる。
二人は別れ話の間激しい口論となり、君と別れるくらいなら自殺する!みたいなことを言う夫。
おいジェームズ、そんなこと言われた方の気持ち考えたことあるか??本当に自分本位だな、と私までうんざりするよ。

映画の後半で、同じ顔の男達による、ド迫力の出産シーンが展開されます。この映画の一番の見せ場ですね。
しかし男から生まれてくるのは、やはり同じ顔の男。何度出産を繰り返しても、同じ顔の分身。
普通、女の体から生まれてくるのは、女とは別の個体です。いくら両親からDNAを受け継いでいても、立派な他人です。しかしこの映画での男の出産からは自分しか生まれてきません。出産の最後の最後で、自殺した夫が生まれてきます。何が欲しいのか?と問うハーパーに「愛だ」と答えるジェームズ。

もうお前ずっと自分の話しかしないなぁ!

ハーパーはため息をつく。
もうわかったよ。とりあえずその気持ちは受け止めるから。前は口論してたけど、今は冷静に受け止められる。もう私とあんたは交わることのない他人だから。
こうしてハーパーは自分の中でトラウマにケリをつけたんだと思う。
全てが終わったあと、ハーパーを心配して女友達ライリーが車で村までやってくる。今までスマホの通話画面で顔しか映らなかったけど、この時初めて全身が映ってライリーは妊婦だということが判明する。
庭に座っているハーパーはスッキリした表情。女友達が出産を控えていても、昨日の悪夢に怯える様子はない。そのお腹から生まれてくるのは、ライリーの分身ではなく紛れもなく別個体、他人だから。


つまりこの映画は何が言いたいかっていうとね

ここまで読まれた男性読者は一方的に罵倒されてる気分かもしれません。しかしこの映画が伝えんとすることは、必ずしも主語が男性に限定されるわけでもない、と思うのですよ。
かくいう私は、二十歳そこそこの頃非常に利己的かつ重い女でした。なので、ジェームズへの罵倒は過去の自分への戒めでもあります。そして映画からのメッセージは多分こんな感じ。

自分で自分の感情をコントロールできないのを、相手のせいにして責めてはいかんよ。
ましてや、自分と相手の境界をない交ぜにして土足で相手の人生に入り込んだり、相手の人生をめちゃめちゃにするなんていう権利は、お前にはないのだよ。
とりあえず相手に責任転嫁する前に、お前は自分が未熟な人間だって自覚しろ。話はそれからだ。

みたいなね。

ところで私は、恋愛のやらかしを若いうちに済ませて良かったと思ってます。(当時付き合っていた人には迷惑かけたけど。スンマセン)
何故なら人は年をとればとるほど、自分の誤りを認めたがらないからです。ジェームズみたいな歳(多分30代前半くらい?)まで自分の未熟さに気づけないと痛々しいだけでなく、映画が示す通り、人生詰んじゃうから。


おまけ:進撃の巨人ネタ?

この映画は進撃の巨人から影響を受けた、というような記事を読んだのですが、

映画を見終わったあとでは「影響を受けた」というのは日本人向けのリップサービスだったんだなとわかります。おそらく正確には、「進撃の巨人」のあるシーンからヒントを得たよ、くらいのものだと思う。
進撃の巨人の序盤で、巨人の口からぷらーんと腕が下がるシーンがありますよね?たぶん映画の中の出産シーンの一部は、ここをヒントにしたのではないかと。

こういう主人公の内面が投影された現実か夢かよくわからない世界観の映画は、コアの部分は当たり前でシンプルな主張で出来ていることが多いですよね。やっぱり映画は何を言わんとするかではなく、映像でどう伝えるかが大事だから。
と、これまた当たり前なことを言って終わります。映像がきれいで面白かった。

それではこの辺で。



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