本覺思想の形成(2)

院政期には彌勒信仰、地藏信仰、観音信仰、法華信仰、神佛習合など様々な信仰が花開いた。そのようななかで淨土教が思想的な発展を見せた。淨土教は天台宗だけでなく、三論宗や真言宗など様々な宗派に広がった。
三論宗の永觀(1033-1111)は称名念仏をひろめ、法然にも影響を与えた。
理論的には、本覚思想が淨土教に与えた影響が大きい。この世界はそのまま悟りの世界であって、それ故に別に淨土があるわけではない。「己心の淨土」、「己心の弥陀」、「久遠の弥陀」、「一色一香、弥陀に非ざる無し」などとも言われる。

往生要集(源信撰)
諸佛同體之相好光明也。萬
徳圓融之相好光明也。色即是空。故謂之眞如實相。空即是色。故謂之相好光明。
一色一香無非中道。受想色色。本來空寂一體無礙。願我得佛齊聖法王。

今我惑心具足八萬四千塵勞門。彼彌陀佛具足八萬四千波羅蜜門。
本來空寂一體無礙。貪欲即是道。恚癡亦如是。如水與氷性非異處。
故經云。煩惱菩提體無二。生死涅槃非異處。

なお、本覚思想は源信にはじまるとされる。良源(912-985)は源信に本覺門を、もう一人の弟子の檀那院覚運(953-1007)に始覚門を授けたという。良源と覚運の問答は檀那疑問・御廟決答『草木発心修行成仏記』が知られ、次のような言葉がある。

草木既具生住異滅四相。是則草木発心修行菩提涅槃姿也。
草木、既に生・住・異・滅の四相を具(そな)う。[これ、すなわち、草木の発心・修行・菩提・涅槃の姿なり。

本覚門、始覚門といった傳授は事実でないとされるが、中世の天台宗は口伝の形で伝えれらた。祕密口伝という伝承方法も中世の文化一般で広く見られた。

天台宗の淨土教においては、大原の良忍(1072-1132)は「一人の念仏は、すべての人のためにあり、全ての人の念仏は、ひとりのためにある。互いに融通し合って、極楽浄土がかなう」という、一則一切の念仏を説いた。後に融通念仏宗の祖となる。

真言宗では、覚鑁(1095-1143)が、阿弥陀仏と大日如来とを同一と観て大日如來の淨土、密厳浄土を真の淨土とした。

五輪九字明祕密釋(覺鑁撰)
自心發菩13提。大圓鏡智。寶幢。阿閦。東方
即心具萬行。平等性智。華開。寶生。南方
見心正等覺。妙觀察智。阿彌陀佛。西方
證心大涅槃。成所作智。天鼓。不空。釋迦。北方
發起心方便。法界體性智。大毘盧遮那佛。中央
密嚴淨土理智不二五佛五智。即金剛界是胎藏五佛五智

覚鑁の思想は後に新義真言宗として今日に至る。

参考:末木文美士、日本仏教史、新潮文庫、1996

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