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【映画】『八犬伝』

滝沢(曲亭)馬琴の長編小説「南総里見八犬伝」の実写映画化ですよ。(オフィシャルでは山田風太郎の「八犬伝」を基に映画化)かつて、薬師丸ひろ子主演で映画化されましたね。リアルタイムで見ています。
その前だとNHKの人形劇でしょうか。わたしはほとんど見ていませんが、同世代はかなりな割合で見ていたようです。
未見の方に簡単に説明すると、今作は馬琴(役所広司)が書いたところまでを浮世絵師の葛飾北斎(内野聖陽)に読み聞かせる。その部分が映像で表現されるといった具合です。
なので、現実世界と小説世界を交互に見るという作りになっています。
馬琴が八犬伝を書いたのは1820年ころから1848年ころまで、八犬伝の舞台は室町幕府がすっかり衰退している1500年の前半
今っぽく言うなら、300年くらい前の時代を舞台にしたファンタジー小説を書いたってことですね。
馬琴は深川の生まれ、北斎は本所の生まれ、2人とも長くその辺りに済んでいます。(北斎はかなり引っ越し魔ですが、なんやかんや本所のあたりに帰ってきていたようです。)
下町で生まれ育った身としてはなんとなく親近感が沸きますし、登場する地名にもニヤニヤしてしまいます。
八犬伝の映像部分に関しては、長い話しですから全てを映像にするにはムリがあります。なので序章といえる部分と8人の剣士が揃うところ、そして最終決戦という風に描かれます。
八犬伝の部分で思ったことは、里見の殿様、為政者なら自分の言動に責任を持とう!です。
君が言ったことを翻さなければ、ここまで大事にはならなかった、かもしれないよ。でも大事にならないと物語としては面白くないよね。だから物語の中の里見の殿様にも、書いた馬琴も否定はしない。
現実の為政者にこうはならないでよと、反面教師にしてもらえればそれで良い。
「人の振り見て、我が振り直せ」ですよ。
犬坂毛野の板垣李光人は登場シーンが白拍子に扮しているので、「どうする家康」の井伊直政とほぼ同じじゃんって、見ながら笑ってしまいました。小柄で綺麗で化粧乗りがいいからどうしても毛野みたいな役が来ちゃうよね。やれる賞味期限は短いので、やれるうちにたくさんやって欲しいです。う~ん、目の保養。
蛇足ですが、毛野が狙った扇谷定正は一条天皇ね。
アクションシーンは映像技術の進歩のおかげで申し分ない仕上がり。登場人物たちの衣装も適度に派手。良いですね。ファンタジーはこうでなきゃ。
物語内の合戦シーンで火縄銃が登場します。
北斎が馬琴にまだ火縄銃はない時代だと言うと、「物語においてその程度の脚色は許容の範囲」的な回答をします。まさにその通り!なんでもかんでも史実通りにやっていたらありきたりのつまらない話ししか書けないし、そもそもこの時代の人々が火縄銃はいつから日本に存在するかなんて知らないでしょ。
さて、馬琴たちの方に目を向けますと、なんと金丸座が登場ですよ。
金丸座は馬琴と北斎が鶴屋南北作の四谷怪談を観る芝居小屋として登場したのです。奈落はCGを加えていましたが、ほぼそのまま。金丸座は凄い芝居小屋なので、金比羅詣をしたら立ち寄ってください。写真は撮り放題。そして是非ボランティアガイドについてください。時間は多めに配分ね。わたしは電車を一時間遅らせました。
役所さんと内野さんの演技は今更書くこともないのですが、馬琴の妻役の寺島しのぶさんが絶品なんですよ。もちろん以前からステキな役者さんなのはわかっています。ドラマや映画で拝見していますからね。
この作品内での馬琴の妻というのはある意味悪役。亭主の才能を理解できない悪妻ってポジションでしょうか。
そもそも妻の実家の家業(下駄屋だったかな)を手伝いもせず、たいした収入にならない物書きなんてしてるわけですよ。(原稿料だけなので、売れても馬琴の懐には入ってこない)
巷で曲亭馬琴ともて囃されていても、妻にしてみればたまったもんじゃないですよね。(ソクラテスの妻が悪妻と言われているのに似ている)
しかし文句を言いつつ、家業を手伝わせようとはせず、物書きすることを諦めつつ仕方なく認めているといったさじ加減がいいのよね。
わたし的に寺島しのぶさん演じる妻の最大の見せ場は死の直前です。
体調を崩し、歩行困難な状態の妻ですが、馬琴が息子の嫁に口述筆記させている部屋へ這ってくるのです。(この頃、馬琴はほぼ目が見えていません。)助け起こされた妻は腕の中でひと言、「畜生・・・」と悔しそうに唸って亡くなりました。
この畜生という言葉がね、どういう思いの畜生なのか、いろいろ想像出来るのですよ。
・おまえみたいな男と結婚したことを後悔しての畜生なのか。
・嫁に口述筆記させていることへの畜生なのか。(北斎と嫁のあいだに妻が入り込めない空気があった。師と弟子のあうんの呼吸的なものを映像から感じた)
・自分の居場所を嫁に盗られたことによる畜生なのか。
上げれば他にもありますが、見る側の感情移入の度合いや、その時の精神状態でいかようにも取れる「畜生」なんですよ。見てる側の想像力をそそる演技だったのです。
そもそも八犬伝部分を見たさに足を運んだのですが、すっかり寺島しのぶさんに取り込まれて帰ってきたのでした。

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