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映画『哀れなるものたち』は、一人の少女が世界を冒険して大人の女性に成長するお話
知人が絶賛していたものだから、どんな作品かと気になって一人映画に行ってきた。(※ネタバレあり)
仕事を急いで切り上げ、徒歩数分の映画館へ向かう。レイトショーだし、ポピュラーな作品にはなりにくそうな雰囲気を勝手に感じていたので、意外に人が入っていることにまずびっくりした。
上映が始まると、映像の美しさに心と視線が自然と引き込まれていく。
あらすじを調べずにきたから、何が始まるんだともう好奇心ワクワク。
けれど物語の序盤で何度か、気まずさでスクリーンから目をそらしたくなった。登場してきた主人公の女性、どこか様子がおかしいのだ。
食事中に食べたものを吐き出し、奇声をあげ、お漏らしをする。外見と行動がアンバランスで。
エログロ耐性はあるのに、汚いものがダメな私。口に入れてくちゃくちゃ噛んだものを口からこぼすシーンに(やめてくれ……)と気持ちが萎えそうになる。
あとから明かされるが、この女性は妊娠中に自殺して、その後に育ての親となる外科医に拾われ手術を受けていた。一度死んで、なんと自分の胎児の脳を移植されたという。
中身が赤子の女性は日を追うごとに内面が成長していった。けれどその成長はとても微笑ましくは見守れない。
ほとんど軟禁されるように生きていた彼女は、当たり前だが性に無知。羞恥心もなく、善悪や残酷が何かを知らない。
あるのは子ども特有の強烈な好奇心だけ。
危なっかしすぎるし、嫌な予感は的中。まんまと遊び人にそそのかされて「冒険してくる」と家族(?)に告げ駆け落ち。そして文字通り男とやりまくる。
観ている方からすると”騙された女”って思っちゃうし、いつもなら(あーあ、こんな男に引っかかっちゃって)とため息つきたくなる展開だけれど、あまりにもセックスをしまくり楽しみまくりの主人公を見ていると(男の方が弾切れするほどに)、そんな気持ちにはならず、むしろ(あっぱれ!)って感じだった。
主人公は男と生活をしながら、世界を旅し、次第に常識や知性を身につけていった。性以外の楽しみも覚え、男と二人だけの世界から精神的に自立していくうちにその関係性も変化していく。最初は『俺に恋するなよ。俺は女に真心はやらないんだ』なんてほざいてた男は、主人公の関心が自分から離れていると気づくや必死に追いすがり、『こんな気持ちははじめてだ』『結婚してくれ』なんてずいぶんと身勝手なことを言い始める。
実は主人公は結婚しており、男も知っていたはずが、結婚を断わられた男はキレて怒鳴り散らす。
この作品に出てくる男性陣は、善人も(!)悪人も揃いも揃って身勝手なやつしかいないなと思って見ていたが、原作がヴィクトリア朝時代のイギリスが舞台と知り、当時の社会を描いていたのかと納得した。
主人公の成長とともに、画面は鮮やかに色づいていく。親(?)の元へと戻った主人公は、自分の出生の経緯を知り怒るが、親とその事実を黙っていた夫を許す。
一通り世界を見てきたあとで、なんだかんだ安心感を与えてくれる元々の居場所が、一番穏やかで居心地が良いと感じたようで。火遊びしてきた人間が年取って落ち着く、ってこういう感じなんだろうな、なんて火遊び経験ゼロの私は勝手に納得する。
設定は特殊だし、登場人物たちが持つ異常性は強烈だけれど、かつての時代に生きる女性の成長譚としてまとまっている。
二時間半くらいある作品だったけれど、最後まで没入できた。良い作品だった。