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ムーミンバレーパークと『ムーミン谷の十一月』
心が疲れた時、訪れるのが、ムーミンバレーパーク。まあ、簡単に言うと、埼玉県の片田舎である飯能に過ぎないのだが、日本には「見立て」るという文化があり、桂離宮にしても何にしても、「見立て」ることを一つの文化形式として楽しむことを寿いでいる。
したがって、飯能の片田舎を、ムーミンバレーとして「見立て」ることは文化的に正しい振る舞いであり、類似の程度ではなく、観客の作品理解の深さと視線の細やかさを必要としながら、正しく「見立て」ることの楽しみを追求する場なのだ。
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目の前にあるのは宮沢湖という人造湖なのだが、これをバルト海ないしはボスニア湾の入江として見なしていく技量が必要となる。残念ながら私は若い時にスウェーデンのストックホルムの北のハズレの島に生活したことがあり、記憶の中の幸福だった入江のイメージとは色も雰囲気も似てはいないのだが、それでも、この人造湖を幻想の中の海、ムーミンパパがトチ狂って漕ぎ出してしまう海として幻視する。
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ヤンソン描くムーミン一家の生活や人間関係は、思うほど平坦なものではない。多産なミムラのお母さんは、居候した後に、いたずらっ子のリトルミイを勝手にムーミン一家に置いてきてしまうし、スナフキンはなんだかんだ言って、ただの引きこもりである。現実の戯画として読むと、案外と重苦しく皮肉な作品になってしまうのだ。
だから、ムーミン谷の話は、一つのファンタジーとして読む。世界観を切り替え、異星人としての心持ちで読むことを要求される極めて難解な作品なのだ。ただだからこそ、トーベは、文化を横断すると述べる。
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ムーミン谷の十一月
ムーミントロールのシリーズの中で『ムーミン谷の十一月』はちょっと変わった回である。
ムーミンの主要メンバーたちが、なんとなくムーミン一家に会いたくなり、いそいそと会いにくるも、ムーミン一家は海に漕ぎ出してこれはこれで揉めているので不在で、なんとなく一家を待ちながら集団生活を送るというものである。
ミムラのお姉さん、フィリフヨンカ、スナフキン、ヘムレンさん、スクルッタおじさん、ホムサ。結局最後まで、ムーミン一家は帰ってこないのだが、これがまたゴドーを待ちながら感のある渋いストーリーになっている。
それにしても、ムーミン一家に会いたくなる理由が、ふるっている。みんな、自分であることをやめたいと自問自答したあげく、ムーミン屋敷を目指す。なんというか、メタフィクションっぽい回なのだ。
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結構陰鬱な回で、フィリフヨンカはただの神経質な独居老人だし、スクルッタおじさんは完全な痴呆のじいさんだし、スナフキンはスカした離人症の皮肉屋だし、ヘムレンさんは偉そうな仕切り屋のオッさんだし、ホムサは殻に閉じこもった少年だし、ミムラは不思議ちゃんだしってことで、何日かの生活の後、また皆なんとなく家に帰っていく。
ただ、この回は、みんながバラバラで不調和だらけでありながら、不調和が不調和のまま進み、衝突は少ない。細かな諍いがそこかしこにあるだけで、党派も組まないし、結束もしない。そこが居心地は悪いが、それでも気持ちの良い回なのである。
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刺激のなさという刺激
ムーミンバレーパークは、最初のころは刺激のあるテーマパークを目指していたのだと思うが、もうそれを諦めて、徹底的に刺激のない空間を実現しようとしつつある。物珍しさよりも、3度4度ときて、ただボケッと図書コーナーで涼んでいるくらいの使い方がふさわしい。
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ムーミン関連書籍だけではなく、トーベ・ヤンソンに関する書籍も網羅してある。ボーッと一冊二冊、コーヒーでも啜りながら読み、各所を流しながら帰るのが、贅沢な時間の使い方ではないか。
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今日くらいの気温だと、日陰は風が通って涼しい。もちろん、湿気はやはり飯能なのだが。
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日曜日とはいえ、このくらいの人出なので、ゆっくりとできる。
選挙に一票を投じ、せっかくなのでどこかで骨休めという場面で、活躍する公園である。
食事はそれなりの値段なので、用意してきてもいいのかな。