「ローマ人の物語Ⅹ すべての道はローマに通ず」/豊富な写真がイメージを形作る珠玉の一冊
本編は、これまでローマ帝国の歴史を編年体で記述してきたⅨ巻までとことなり、ローマ人がローマ帝国(正確には帝国以前の、建国以来)の歴史をインフラ構築について、特別に視点を集約して編纂してモノです。
ローマ帝国のインフラストラクチャー
1)ハード
ローマ街道と上下水道について綿密に紹介してくれています。
「すべての道はローマに通ず」という言葉と、最も端的に現わし、代表中の代表と言えるものが、ローマ街道です。
帝政以前の最初のローマ街道である「アッピア街道」は紀元前4世紀末アッピウスによって工事がはじめられました。
それ以来、綿々と当時で言えば高速道路に値する堅固で利便性の高い「ローマ街道」を延々8万キロにわたり構築してきたローマ人の偉大さに驚倒されます。
それは、シナ帝国と違い、オープンな、自由と個人の独立に基づいた、ある意味近代に繋がる人間社会のモチーフに基づいていると塩野七生さんは書かれています。
それは、実に上下水道というインフラにも現れていて、人間が人間らしい生活をする上で必要なモノは、お金がかかっても必要なモノだから断固!つくるという意志の産物だのだということです。
実に近代的な合理主義です。
そういうハードなインフラも社会がキリスト教に支配されてくると一遍に消失していくというのはどういうことなのだろうと思います。
その辺の謎が徐々にこのあと、Ⅺ巻以降で解き明かされていくのでしょう。
2)ソフト/医療と教育
「すべての道はローマに通ず」Ⅹ巻で主に取り上げているソフト面のインフラは、医療と教育です。最も重要な安全保障は、これはこの物語全体を通して流れる主旋律のようなもので敢えてこのⅩ巻では取り上げていません。
この医療も教育も、ローマ帝国では「公」のものではなく、「私」に任せるという形で、帝国は減税やローマ国民に成れるということを通して活性化して運営していくことが特徴になっています。
このⅩ巻の最後のあたりに記載あるように、その「私」がキリスト教の「公」に代わることでキリスト教ドグマに侵され合理性を失っていくと予言のように書かれています。
ローマ帝国のインフラがいかに破壊されていくか、Ⅺ巻以降の愉しみ
ローマ帝国のインフラがいかに破壊されていくか、Ⅺ巻以降の愉しみです。早速、Ⅺ巻は「終わりの始まり」と副題がついています。
一神教である、キリスト教、ユダヤ教徒の相互作用的相関がどういう形でローマ帝国を変えていくのか、興味は尽きません。
素晴らしい、カラーでの写真や地図の数々
このⅩ巻の愉しみは、巻末に、実にページ数で60ページほどにもなる、美しいカラーの写真や地図です。これらを眺めながら本編を読んでいくのは極めて愉しい作業です。
塩野さんは、「はじめに」で遠慮気味にⅩ巻の内容を謙遜しておられますが、本巻は、この「ローマ人の物語」のシリーズの中でも、珠玉の一巻にあたるものと思います。
ほんとに、このれらの遺跡を観に旅行に行きたくなります。