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ステラおばさんじゃねーよっ‼️92.白色アマリリス〜花言葉のくだり
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️92. 白色アマリリス〜ブーケ は、こちら。
🍪 超・救急車
若森はナイフとフォークを完全に置き、コーヒーに口をつけ話を戻した。
「《アマリリス》には、さまざまな花言葉があるんです。元々はギリシャ神話に出てくる少女と少年の恋のエピソードが由来のようです」
ふーん、花言葉…そう来たか。
アップルパイの出来栄えが素晴らしくて、知波は耳だけ若森に貸し、手と口はデザートを頬張るのに集中した。
「羊飼いの少女アマリリスが、同じ羊飼いの少年アルテオに恋をしました。
アルテオは花が好きでした。
アマリリスは内気で、アルテオに恋心を伝えられずにいました。
そこで神様にお願いすると、一本の矢をもらったのです。
そしてアマリリスは、その矢で自分を傷つけました。
傷口から流れた血が地面へ落ちると、そこには美しい花が咲きました。
この花をきっかけに、ふたりは結ばれたんです。
目を奪われるほどにその花が美しかったことから《輝くほどの美しさ》、少女アマリリスが内向的だったことから《内気》、そして自らを傷つけてでも恋を実らせたことから《誇り》という花言葉が生まれました」
若森といただく今日のアップルパイはなんだか特別で、少しも残さぬよう、フォークとナイフでパイのかけらをすべて集め味わった。
食べ終えると口福で、幸福な気持になった。
口元をナプキンでぬぐい、知波はゆっくりと口を開いた。
「悟さんって、想像以上のロマンティストね。デザートと花のチョイスは、満点よ!」
ブーケを胸元に持ち、内気そうにはにかむ知波は少女アマリリスを彷彿とさせた。
「このブーケに込めたのは」
知波の胸元を指しながら、若森は告白した。
「《アマリリス》のように、いろんな魅力を持つ知波さんと覚悟を持って共に生きたい!という想いです!!末永くよろしくお願いします」
…こんなわたしに恋の告白をし、真剣なまなざしを投げかける、かなり年下の男がいま目の前にいる。
可愛いじゃない、グッとくるわ。
これが最後の恋花(こいばな)になり、やがては愛花(あいばな)が咲き乱れるだろうか。
そう想うと、知波のほとばしる気持も抑えがきかなくなった。
「はい。わたしも悟…さん、好きですよ。これからも一番近くで見ていたいし見ていて欲しい。けど…」
「けど?」
若森が身を乗り出す。
「花言葉のくだり、長過ぎだけどね」
知波は若森にペロリと舌を出した。
若森は急に気恥ずかしくなり、コーヒーカップで顔を隠した。
恋の仕方を忘れてしまった40代後半の知波にとって、ようやく絞りだせた若森への恋情だった。
⭐︎
《アマリリス》の想いに導かれ、ふたりは気持を重ね合せた。
「春先には球根が出回るので、一緒に鉢植えを育てましょうね」
若森が耳元でささやくと隣りを歩く知波がコクリとうなずく。
木枯らしはだいぶ鳴りをひそめたが、ふたりはさらに身体を寄せ合うように歩いた。
駅近くの小洒落た洋酒専門店で、互いが気に入ったワインを何本か買った。
それからふたりは、若森の自宅マンションへと消えていった。