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メキシコTemazcal旅【番外編③】マヤ族が崇める地底の水風呂セノーテめぐり

これが、メキシコ編のほんとの最終回。
最後は、メキシコ南東部(ユカタン半島)の地底に無数に点在する、マヤ族が雨の神の宿る泉として崇めてきた神秘的なCenote(セノーテ)の沐浴紀行です!


地盤が崩壊すると現れる、地底空間の巨大な泉

雨水がゆっくりとろ過され溜まっており、水深10m以上先もクリアに見える抜群の水質

セノーテとは、長年の溶食によって石灰岩の地盤下が空洞化し、その陥没穴に地下水が溜まってできた泉のこと(※つまり泉と言っても湧き水ではない)。日本の秋吉台(秋芳洞)などと同じ、カルスト地形の一種です。

カリブ海に面した常夏エリアのユカタン半島の地底には、このセノーテが1万近くも存在していると言われます。ただ、そのすべてに地上からアクセスできる出入り口があるわけではなく、まだ気づかれず地底に眠っている地下空洞も数多くあります。

セノーテは、その露出段階において4パターンに大別される。青色部分が地下水の水位
(photo: Cenote Finder

ご覧の通り、地下空洞が形成される段階(左)では、地上からはまったく存在がわかりません。けれど、侵食による空洞化が進んで天井部が崩壊を始めると、穴の奥に巨大地下空間=セノーテが突然出現するのです(初期は入口がすぼんだ形状からJug cenotes = 水差し型セノーテと呼ばれる)。

さらに地盤の崩壊が進むと、Cylinder cenotes=円柱セノーテと呼ばれる、垂直な壁をもつセノーテに進化します。そして最後は穴が土砂で埋まって水が枯れ、セノーテ自体が消失してしまう。もちろん、この変化サイクルには途方もない年月を要します。

生贄も捧げられた、古代マヤの聖なる水源

亜熱帯のジャングルに突如ぽっかりと開いたセノーテ

ユカタン半島は、言わずもがな古代マヤ文明の栄えた地。ところがこのエリアには、文明の勃興に欠かせない大河も山川もなく、さらに雨もほとんど降りません。つまり地下空洞セノーテの貯水こそが、マヤの人たちの暮らしを支えてきた貴重な生活用水だったということ。マヤ文明で栄華を極めたチチェン・イッツァ遺跡に周辺にたくさん巨大セノーテがあるのも、うなづけます。Cenoteというスペイン語も、マヤ語の"Ts'ono'ot "(水のある穴)という語が語源になっているのだそう。

メリダ郊外のカバー遺跡の壁に延々彫り刻まれていた、雨の神チャクの顔

一方、マヤの人びとはセノーテには雨の神(農業の守り神)「チャク」が宿っていると信じ、ここで雨乞いの儀式も行なってたようです。後世のダイバーがセノーテの水底で発見したいくつもの遺骨を考古学検証すると、ほとんどが子供や成人男性のものだったそうで、さらに焼骨など儀式の跡も見られることから、セノーテには生贄も捧げられていたと見られています。

今日では…というと、セノーテに溜まる粒子状物質をほとんど含まない抜群の純度の地下水は、依然この地の暮らしを支え続ける一方で、稀有な沐浴&ダイビングスポットとして、観光面でも一役買っています。なにせ見方を変えれば、これはまさに水質抜群かつ圧巻の景観のなかでの究極の天然水風呂

1月でも外を歩けばすぐに汗ばんでしまう常夏のユカタン半島では、正直サウナや風呂より断然この冷泉浴がありがたい!!(日本人だったら速攻そばにサウナを建てて、文字通り水風呂として利用するのでしょうが…笑)

場所によっては光のまったく届かない、ひんやりした地下空洞内になりますが、水温は体感的にはどこも20度くらいなので、結構長く泳ぎ続けていられます。

水底にまで鍾乳洞が続いているという不思議な光景

Google mapsに名前が登録されているような、安全が確保できる地形のセノーテの多くは、水面の安全ロープや階段、飛び込み台などが最低限に整備されていて、遊泳用に日中開放されています。若いセノーテだと水深10m以上のスポットが多いので、かなり高い場所に飛び込み台が設けられていたりもします。

観光名所ツアーでついでに立ち寄ってもらえるセノーテもあるし、あまり観光っ気のない田舎集落には、管理人さんに数百円程度の入泉料を払うだけで、ライフジャケット貸与付きで自由に泳がせてくれる穴場セノーテも探せばありますよ。

ここでは、私たちがユカタン観光の定番ビーチリゾート滞在&古代遺跡巡りの合間に一汗流してリフレッシュした、おすすめセノーテ3箇所を(周辺観光案内とともに)ご紹介します!
(セノーテは得てして公共交通機関では行きにくい奥地にあるので、訪問場所に合わせてレンタカーやレンタサイクルの利用がおすすめです)

古代遺跡村の地底に潜む、水深27mの霊泉Cenote Tankach-Ha

足がつかないプールが平気な人には、間違いなく唯一無二の遊泳体験ができる空間

1箇所目は、コバ(Cobá)村という、個人的にとても親しみの湧く名前の村外れにある水差し型(洞窟内)セノーテのCenote Tankach-Ha。ビーチリゾートのTulumから車で1時間弱、内陸に進んだほうにあります。

すっとおんなじところで羽を休めてた湖畔のサギ

村の真ん中に大きな湖が横たわっていて、湖面が凪いで風景を映し出す時間帯は、まるでフィンランドの水景みたいで郷愁を誘われます。でもそこ以外は亜熱帯の元気なジャングル植物に覆われた、the南国の農村風景でした(笑)

マヤ文明と邂逅させてきます!とオーナーさんに誓ってにはるばる持っていった、
南相馬の「サウナ発達」名物、発達君Tシャツをずっと着回していた二人w

村の観光の目玉は、7-10世紀のマヤ文明の栄華が徐々にジャングルの草木に呑み込まれてゆく廃墟感がたまらないコバ遺跡。ユカタン半島に来たからにはかのチチェン・イッツァ遺跡も訪れてみたかったですが、価格も人波も凄そうだったので、同時代の遺跡ながらややニッチなこちらを目指しました。マイナー遺跡とはいえ、日中は各地からの観光バスが一斉に到着すると耳にしていたので、村に1泊して朝一に入園。他にほぼ人もおらず、朝の涼やかさが心地よいサルだらけの深い森の中を歩きながら、風化が進み緑に飲み込まれんとしているエモいピラミッドや球技場などゆったり探索しました。

マヤの末裔のお兄さんに、未知なる植物たちの成分や効能を延々とレクチャーしてもらう、
貴重だけれどだいぶ不思議な時間

それから、この集落にはマヤ語やマヤの生活文化を継承する末裔の方が多く住んでいらっしゃるそうで、ふらりと行き着いた彼らの薬草園や養蜂場を見学させていただいたりも。

ほとんど消えかかった入口看板。朝8時から夕方6時まで入水できるらしい

そんな小規模ながら見どころも多いコバ村のセノーテは、村の中心からレンタサイクルで30分ほどジャングルを分け入った奥地に点在しています。すべてハシゴできる範囲内に全3箇所ありましたが、それぞれに100ペソずつ入浴料もかかるので、私たちは最も水深があり雰囲気も一番ミステリアスそうなCenote Tankach-Haを選びました。地上には簡易の更衣室やシャワー室があり、更衣してから地下に潜ってゆきます。ライフジャケットは別料金。

入口は井戸程度の小さな穴。そこからしばらく延々と木の階段を降りていく
光があたる地点だけ、わずかに緑の植物も育っている

ここのセノーテは、最深部で水深27メートル。それでも水底の様子がくっきり確認できるくらいに、水の透明度はパーフェクトです!これだけ深ければ勢い余っても負傷するリスクもないので、水面からそれぞれ高さ5メートルと10メートルの地点に飛び込み台が設けられていました。とはいえ、さすがにこんな異国の田舎村で病院送りは怖いので、10m飛び込み台のほうは見送り。。

剣山のような鋭い鍾乳石がびっしりはびこる天井。まじまじ見るとややゾッとする…
ときどき見かける魚も、深海魚みたいな出で立ち

ここは、泉上の天井が完全に閉ざされた自然光の届かない密閉空間なので、不気味なくらいに音が遮断され、静寂が保たれています。物陰からたまにコウモリの鳴き声が聞こえるのがちょっぴり薄気味悪いけど、地底世界ムードは満点。

足がつかない場所での遊泳が平気な人は、一番水深の深そうなあたりまで泳いでいって、脱力して水面に体を浮ばせ、とげとげの鍾乳石がはびこるドーム状空間を見上げながらしばらく呼吸してみてほしい。半分水に浸った球体世界に1人放り込まれ、ただただ揺蕩っているだけの意思のない人形になったような無機質な心地になって、恐怖心が和らいだ後は不思議とディープリラックスできますよ。

どこからが水面下なのかわからないくらいに水が透明

★Cenote Tankach-Hahttps://mexicocenotesandruins.com/cenote-tankach-ha-coba/
コバ村(Coba)までは、ADO高速バスでヴァッジャドリドから90分、Orienteバス(※時刻表を持たないローカルバス)でトゥルムから50分。Tankach-Haセノーテへは、コバ中心街から自転車で30分、車で10分。

聖なる太陽光線が射し示す、地底版ラピュタ帝国Cenote Yaal Utzil

太陽が泉の上に来ると、とてつもなくはっきりしたレーザービームが水底に照射される

私たちが一番気に入ったのは、間違いなくこのセノーテ。車でそばまでアプローチできて(※メリダ近郊の旧プランテーション区域は、高額な民営トロッコに乗らないと行き着けないセノーテのほうが多そうでした)、あまり観光地化されていなさそうな無名の村のローカルセノーテを、Google mapsで徹底的に調べまくって発掘しました(笑)

ここは、他とは違ってすでに地盤が大きく崩落してクレーター状にくり抜かれた、いわゆる円柱セノーテ。泉の表面積と、そこから見上げた地上の穴のサイズがほぼ同じで、日中は日光がすとんと射し込んできます。大きく開いているので落ち葉も浮かんではいますが、やはり自然光に照らされると、水の青さと透明度が際立って格別に美しいです。

受付では、ライフジャケットを無料で貸してくれます

秘境を探り当てただけあり、行ってみると遊泳客は終始私たちだけで、管理人さんも暇そう。けれど後半、このセノーテのさらに奥に広がる洞窟網に潜っていたらしいダイバーたちが戻って来ていました。水底まで光が届くロケーションだから、ダイビングスポットとしても最高でしょうね…一応ライセンスは持っているので、飛び入りでなければ久しぶりに潜ってみたかったな〜。

自分でネタにするのもなんだけど、結構気に入っている一枚(笑)

ここも、水深が十分にあるので、水面から高さ6-7メートルのあたりに飛び込みデッキが設けられています。ドボンと勢いよく潜ると、「天空の城ラピュタ」に登場した水底に沈んだ廃墟にも見まがう、鍾乳石が織り成す圧巻の造形世界が広がっています。

まるで建造物が風化したようにも見える、鍾乳洞の造形美
太陽光線が射し込むと、強烈なビームで水底の一点が照らされる

そして何より、上から照りつける太陽光がレーザービームのごとく一直線に泉に刺さり、水底をまばゆいほどにきらめかせているのです。
この光景、やはりラピュタで、木の根に守られた巨大飛行石が魅せるきらめきとまったく同質ではないですか!だとしたらこの光線こそ、天空に浮かぶ城の方向を射し示す聖なる光……!?と、もう私の中ではすっかり地底版ラピュタ帝国認定セノーテです。

鍾乳洞探検から上がってきたダイバーたち。
ボンベは地上から荷紐を垂らしてもらって引き上げていた

★Cenote Yaal Utzilhttps://yucatandivecrew.com/dive-sites/cenote-yaal-utzil/
メリダから車で45分、Mucuyché村の外れに入口がある(駐車スペースあり)。ライフジャケットは無料で貸出あり。

エネケン農園ツアーのおまけで泳がせてもらったCenote Dzul Ha

最後は、大都市メリダから車で45分ほど南下したSotuta de Peónという場所にある、かつての巨大プランテーション跡地を活用したユニークなツアーで訪れた鍾乳洞セノーテです。

200年ものの巨大機械でエネケンの繊維だけを抽出し、乾かしてから縄づくりの機械にかける

ソウタ・デ・ペオンは、伝統の保存と観光用に今でもエネケンを栽培し、昔ながらの機械で希少な縄作りを続けているプランテーション跡地(=先住民の労働力が搾取されていた植民地の大規模農園)。エネケンというのはテキーラの原料でもあるリュウゼツランの一種で、ロープなどの原料になる強靭な繊維を抽出できる植物です。プランテーション制度自体には人道面でも環境面でもいろいろ負の側面がありましたが、化学繊維の時代が来るまで、エネケン繊維の産出はメキシコの経済を潤す一大産業だったそう。

この農園で観光向けに主催されたツアーでは、終始雄弁で客ノセがうまい熟練ツアーガイドさんのもとで、興味深いエネケン繊維の作業工程や当時の農園地主の館などを見学・体験(併設レストランの本格グルメタコス付!)。さらに最後に1時間ほど農園内で発掘されたセノーテ(Cenote Dzul Ha)で泳がせてくれるという、盛りだくさんの3時間コース。

エネケン畑の合間に敷かれたレール上を、馬が引くのんびりしたトロッコで移動する

広大なエネケン畑の間を縫うレール上を、往時から活用されていた馬引きトロッコに揺られてしばらく移動。果てしない農園の外れに…ひっそりありましたよ、セノーテの入口が!

人が1人ずつ降りるのがやっとなレベルの小さな入口

ここはセノーテとしてはまだ年代の浅い(天井部がまだほとんど崩れていない)水差し型セノーテ。地表にわずかに開いた穴の出入り口から潜入し、人工灯を頼りに階段を降りていくと、外の光がほとんど届かない奥先に、大木のようないかめしい鍾乳洞が乱立する静かなのに賑やかな地下空間が広がっています。

ただただ圧巻の、鍾乳洞の森
全体的にそんなに深くはなく、妖艶なグリーンの水が溜まっていた

自然の繊細な造形美に圧倒されつつ、さっそく水中へ。空気がひんやりしていたので水も結構冷たいかと思いきや、意外と長居できる温度で、なにより焚きのお風呂みたいにとろんと柔らかい水質でした。ゴーグル無しで潜って目を開いても全然痛くない!

競技会は背泳メインでしたが、実は大の潜水好きな私!

ここは他の場所ほど水深がなく、水底にも黄土色の鍾乳色があるからか、水中がなんとも妖艶なエメラルドグリーン色に見えていました。古代の人も、突然地割れが始まり、地下からこんな神秘的な色の泉を讃えた地下空洞を見つけてしまったら、そりゃあ聖なる水瓶と崇めたくもなるだろう…

地下へ潜る入口そばにある、ととのい椅子の並ぶ地上外気浴スペース。ミニバーもあります!

観光客で溢れていないセノーテを自力で見つけてアクセスするのは大変そう…という人には、ここのツアー参加はオススメです。セノーテ滞在も十分に時間が取ってもらえるし、前半の農園ツアーも、いつかの歴史の授業で習った「プランテーション」の実像に出会えるので学びが多いですよ!

★Sotuta de Peónアシエンダリゾートhttps://www.haciendaviva.com/en
メリダから車で45分。Dzul Haセノーテを訪れるには、リゾートが1日数回行なっているエネケン農園ツアーに要事前申込(英語ガイドもあり)

終わりに。

導入編、準備編を含めると、なんと全10編という空前の超大作になってしまったメキシコ編。自虐でしかないですが、ちゃんとわかってます。きっと、これらの記事をリリースした時点で真っ向から食いついてくださる人は、ほとんどいないでしょう(笑)

思えば数年前のリトアニア編も公開当時はそんな感じでしたが、日本のサウナ愛好家たちの関心が、少しずつ海外の未知なるサウナ文化に向かうにつれて、あとあと多くの人に読まれて反響をいただけるシリーズになりました。

メキシコも、多くの日本人にとって強く旅情を掻き立てるような国ではまだないだろうし、テマスカルというサウナの在り方も、自国とはだいぶ目的違い過ぎて、少なくとも今はまだ日本のサウナ愛好家の心を掴むようなものではないだろうと察します。

それでも、世界にはこんな入浴文化もあるという事実をどこかの誰かは真剣に面白がってくれると信じて、あるいはいつかこの情報が多くのサウナ愛好家に喜ばれる日も来るはずと夢見て、今回の旅で得られた私の知見のほぼすべてを惜しみなく、インターネット世界のセノーテにそっと投げ入れておきますね。少しずつ、然るべき人に見つかって手を伸ばしてもらえますように!

次回どの国のサウナ話を書くかはまだ未定ですが、本当はこのメキシコ編の前に書いてしまいたかった、2019年春に繰り出したモロッコのハマム編が濃厚ですかね。気長にお待ちください!

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