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2.7 あますことなく
結局、葉山牛の牛すじを出汁の下地にしたおでんは、火をいれつつ一週間ぐらいたべた。その都度、具材をいれて、出汁が減ったら出汁をたし。もちろん、具材をいれ、火をいれるたびにすこしずつ濁っていったがその分味わい深いおでんとなった。なにしろ、葉山牛──と、いうより黒毛和牛の存在感はすごい、さいごのさいごまでそこにいた。松阪の精肉屋、アミティで豚のすね肉を買った時に「おんなじようなものなら、牛すじがおでん出汁にいいよ」と勧められたが、確かに寒い時期の定番にしてもいい。時間はかかるが、その分台所からじんわりあたたかい。
さて、すっかり食べ切ったおでん鍋に、わずかな出汁と牛すじの切れ端たちがのこった。それを沸かしたら、少し酒を足して、しめじをいれて、さらに白米を足して出汁をふくませる。雑炊未満。見るからに、米粒ひとつひとつに旨みがふくまれているのが目にわかる。つやつや。
メインよりもこんなのが旨いなんてこともよくある。河豚鍋やすっぽん鍋、あれなんかもそう。あれは、雑炊に向かってひたすら出汁を育てているようなところが多分にある。
余寒の春。ああ、今夜もひとり鍋かしら。
《アミティのはなしはこちらでも》
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