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フランチャイズ本部のはじめかた【その.8】〜名古屋の物件、決まる〜
前回のつづき
初の名古屋訪問から2日後、愛知で複数店舗経営しているふみくんから「良さそうな物件が見つかった」との連絡が入る。
その2週間後、私はふたたび名古屋へ向かい、候補物件を見て回るツアーに同行した。
初日はイメージに近い物件を複数見ることができた。
さて、2日目はどうだろうか。
候補物件ツアー2日目
本日も名古屋のど真ん中を中心に4件ほどの内覧ツアー。
昨日の物件たちがすごかっただけに、それ以上のハコに出会えるのだろうか?
しかし、そんな疑問はすぐに吹き飛ぶことになる。
それがこちら↓
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そう、現在のnuu栄店となった物件。
元々名古屋の有名サロンさんが入っていた場所で、ちょうど退去されるタイミングで居抜きの募集が出ていたのだ。
2〜4階の3フロアでトータル90坪。
名古屋supreme横の立地でThe.繁華街のど真ん中。
渋谷で借りたら250万/月以上はするだろう。
テナント内に階段が2つある大空間で、内装の状態も良い。
シャンプー台やエアコンは取り払われるとのことだったが、天井も綺麗に残っており、初期費用も抑えることができそうだ。
素晴らしい立地と条件の物件であるのは間違いないが、一つだけ問題が。
退去が2週間後に迫っていたのである。
借主は、契約満了を迎えるとスケルトンに戻して退去しなくてはならない。
解体工事もかなりの費用がかかってしまう。
もし借りるならば早期に契約を決める必要がある。
さもなくば現オーナーさん側は解体費用が、こちらは初期工事費用のコストが余分に必要となるからだ。
しかし、これだけの大バコ。やれるのだろうか。
その他3件の内覧をしたが、正直この物件のインパクトが大きすぎて他はかすんだ印象となった。
物件選定、その答えは?
2日目の内覧を終え、2人栄付付近の居酒屋へ。
私
「いやーすごかったですね」
ふみ
「よさそうな物件が複数ありましたね。昨日今日と見た中でどれがピンときましたか?」
私
「個人的には栄のsupreme横のビルですかね。ただ広さと家賃を考えると。大きな賭けになるでしょう」
ふみ
「そうですよね。僕もあの物件が一番良い気がしました」
私
「90坪3フロアの物件は東京ではなかなか手が出せません。でも名古屋の坪単価であれば届かなくもないというか、、」
ふみ
「あれでいきましょう」
私
「!?」
彼の発言を飲み込んで理解するのに一瞬時間がかかった。
冗談なのか?
いや、そういう雰囲気ではない。
少し間を置いて、ついに我々の話が核心に入ったであろうことは理解できた。
ふみ「まずは銀行からの借り入れが通ればですが。融資の打診をしてこようと思います」
私「わかりました。僕の方でも内装デザインや広告配信の段取りを進めていきます」
初めて会ってから2週間。
やはり、彼はとんでもない行動力と決断力の持ち主だったのだ。
この瞬間にユニストア1号店、nuu sakaeが誕生することが決まった。
我々は何を燃やすのか
なぜこれほどまでに早く物事が進み、意思決定できたのか?
それについても少し触れておきたい。
このブログでは交わされた会話のすべてを記述することはできない。
当然ながら、書き連ねた文章以上に2人でいろいろなことについて対話してきた。
我々は経営者である。
ビジネスとしてシェアサロンを運営し、成長させていかなくてはならない。一方で。それだけでは片付けられない想いも持ち合わせている。
90年代終盤、ミレニアム直前。
才能があって、過激で、出所のよくわからない美容師がそこらじゅうでギラついていた頃。
「カリスマ美容師」なる言葉が誕生し、TVに露出し、キムタクがドラマをやって、社会的に注目された時代。
その後ブームが鎮静化し平常運転に戻ったのち、業界はかつてあまり語られてこなかった「マーケティング」なるものに目を向けだした。
ホットペッパーマーケティング、SNSマーケティング、youtubeマーケティング。
数字、数字。
結果、結果。
界隈ではヘアデザインの良し悪しに変わり、「刺さる」「囲い込む」「刈り取る」「吸い上げる」のような物騒な言葉が飛び交うようになり、クリエイターたちが好んだ路地裏は整地され、工学的なものに収斂されていった。
もちろんビジネスにおいてマーケティングは必要である。
そして(マーケティング)に振り切った勝ち筋というものもあるだろう。
私もさまざまな手法を使ってきたし、今も使っている。
しかし、個人的には違和感を感じることが多かった。
「マーケティングとは販売を不要とすることである」
マネジメントの神様として有名なドラッカーの記述だ。
この言葉の本質に比べて「マーケティング」と謳ってビジネス展開している自称〇〇億円の方々やネットインフルエンサー、エセコンサル的な人たちは、私にとって真逆なことをやっているように感じる。
わかりやすい演出に、直喩的な表現方法。
それら勝ち筋のテンプレートは多くの人々の心をくすぐるだろう。
くすぐりはするかもしれないが、大笑いにはならないし、持続しないように思う。
なぜなら彼らは「売るため」に刹那的な販売活動を繰り返し、それを(マーケティング)である。と嘯いているから。
我々には()付きのマーケティングやビジネス工学ではなく、思想の宿った商売を生業としたいという想いがある。
「既存勢力へのアンチテーゼとしての在りかた」
「正面からぶつかる戦争ではなく、内側から捻り上げるような内在的な革命」
シェアサロンというテーマを用いて、そういったことができやしないだろうか?
底知れない熱量を共有した世代の残骸として。
生意気にもこれからスタートしようとしている新たな商売を、社会実験になるような画期的なものにしたい、と。
そんなクソめんどくさい野心を内に秘めていたのだ。
多少記憶が湾曲しているかもしれないが、私たちはおおよそそんな会話を重ね、熱量を燃やせそうなテーマが目の前にあるような幻想を抱いた。
こうして2人は合意し、最初の難関である「物件」が決まったのである。
つづく