テレパシー (1分小説)
昔、他人を変えることは難しかったらしい。話し合ったり、喧嘩したり。
人間関係で、精神的に参ってしまう人もいたという。
だけど、2050年、現代に生きる僕らは違う。
相手と視線を合わせ、どのように変わってほしいのかを強く念じれば、角膜を通じ、相手の心に思いが浸透、自然に態度が変わるのだ。
「テレパシー」みたいな感じ。
気づかない間に変わるから、相手にも、「変えさせられた」という苦痛は伴わない。
このあいだ、ミネソタに帰省した時、ママとダディに、テレパシーをしてみたら、早く結婚しろだの、仕送りしろだの、うるさかったのに、静かになった。
気が強い、恋人のダイアナも優しくなった。金と時間にルーズだった、友人のジョンソンも変わった。
僕の周りは、イイ奴ばかりだ。僕も、知らない間に、誰かの願いを受け、変わっているのだろうと思う。
ただ一人、新しく職場に来たスミス部長だけは、変わらない。何回、テレパシーを試みても、僕の成績に厳しいまま。
ある日。
「スミス部長」
至近距離、背後から、ふいうちに、僕に声を掛けられた部長は、あわてて振り返り、視線を合わせた。
『僕に、優しく接してください 』
いつもより、強く念じてみる。
スミス部長は、ブルーの瞳で、じっと僕を見つめたまま言った。
「私は、角膜移植をしてるんだ。そろそろ、どこかの墓場で、動きがあるかもしれないね」