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虹かけ人 (1分小説)

私は「虹かけ人」。世間一般には明るみにされてはいないが、虹を作る職人である。

水分が少しでもあれば、どこにでも虹をかけられる。

誰にも見つからず、完璧な七色の虹を、瞬時にかける腕を養うには、20年の年月を要する。

だいたいが、政府関係者からの依頼で、先月は、北朝鮮と韓国の国境38度線上に虹を作り、今月は、レインボーブリッジに虹をかけ、ダブル・レインボーと人々から喜ばれた。


今回の仕事は、生前、虹が大好きだったという、78歳の大手企業社長のお葬式。

脳溢血を起こし、風呂桶で死亡したのだという。

突然の事故死に、遺族も社員も動揺している。

私は、庭に残っていた水溜まりで、手始めに、360度、円型の虹を空に作った。

「きっと、主人も喜んでいるわ」
夫人の顔が、少し明るくなった。

続いて、サプライズに見せかけ、娘のグラスの上にも虹。

「きっと、お父さんね」

「ママ、おしっこ!」
参列中、我慢できなくなった孫のおもらしにも、サービスでかわいい虹を作ってやった。

「社長がここにいて、みんなを見てくれているんだ」

遺族も社員も、感動している。

棺桶の小窓をひらいて、社員が話しかけた。

「社長。遺書が見つからなくて、困っているんですよ」
「社長。どうか、後見人を虹でお示しください」

まさか、こんな重要な仕事になるとは。

頭の中で、後見人を、娘婿か副社長の二人にしぼった。


するとその時、棺桶周辺にいた人たちから、どよめきが起こった。

見ると、棺桶の上に虹がかかっている。

私は、まだ何もしていないが!?

「見ろ、社長の髪や白装束が濡れているぞ」
「涙かな。どえらい号泣だな」


一人の社員が言った。

「いや、棺桶に水が溜まってきているんだ。風呂桶みたいに」


ハッ。

これは、「本当に事故なのか、洗い直せ」という、社長からのメッセージなのでは?

後見人を、決める前に。


私は、依頼主の議員に電話をした。

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