花火 (1分小説)
ヒュルルルルル~。
花火玉が、らせん状に舞い上がり、パンッと音をたてて、夜空を明るく鮮やかに染める。
打ちあがるたびに、 ワーッと大きな歓声があがった。
出だしはOK!問題はこれからだ。私は、群衆に混じり夜空を見上げた。
「あれ?どうなっちゃってるの?」
「空に張り付いちゃったよ」
どよめきが起こる。
花火が満開に咲いたまま、落ちる気配がない。
今年の新作花火のテーマは、『消えない思い出』。
私は、開花したまま、落下しない花火を創ったのだ。
どうやら、成功したようだ。
色とりどりの花火は、翌朝になっても、重力に反して、まだ青空に浮かんでいた。
通学、通勤途中の学生やサラリーマンは、空を見上げながら、ゆうべの余韻にひたっている。
私は、その姿を見て、あらためて成功を噛み締めた。
ルルルルルルル。
胸ポケットの携帯電話が鳴る。
弟子からだ。
「親方! ゆうべ、花火大会があった時刻に、現場上空を飛んでいた飛行機が、まだ着陸していないようなんです」
天を仰いでみる。はるか上空に、ゴマ粒ほどの大きさのモノが浮かんでいる。
「親方、うちの花火と、何か因果関係があるんでしょうかね?」
ヤバい。 どうやら、花火以外の物体の重力も、同時に止めてしまったようだ。
乗客たちには悪いが、ここで非を認めてしまっては、のちのち大きな責任問題になる。
マスコミや乗客の家族は、こぞって私を責めたてたが、罪悪感にかられながらも、はぐらかし続けた。
その間も、飛行機は宙に浮かんだまま。
自衛隊や救助隊が移動させようとしても、ピクリとも動かない。
【1年後】
空に、花火と飛行機が浮かんでいるのを、誰も不思議と思わなくなってしまった頃。
町に、また花火大会がやってきた。
「去年の新作が、空に張り付いているから、打ち上げるスペースがせまくて」
弟子たちが困っている。
私は、新作の花火玉を弟子たちに渡した。
「これを打ちあげてくれ。相当な高度まで上がるはずだ」
【動かない飛行機内】
ヒュルルルルル~、パンッ!
「パパ、見て見て。今年の花火大会は『文字』みたい」
小さな女の子と父親が、一緒になって、飛行機の窓の外をのぞきこむ。
「『あ、い、た、い』だってさ!!」
ママの筆跡だな。
しかし、 『あいたい』の文字はすぐに消えてしまった。
『はやく、かおがみたい』
『げんきに、しているか』
一文字一文字打ちあがるたびに、他の席の乗客からも、歓声が沸く。
「今年こそ、消えない花火にして欲しかったね」
女の子が、ボソリと言った。
ああ。でも、消えるから心に残るのかもな。
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