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右へならえ! (1分小説)

ウミガメの妊婦たちが、我も我もと岸辺へ向かい、泳いでゆく。

私は、それを冷めた目で見送りながら、海の中をプカプカと、時が過ぎゆくのを待った。

私には、生まれつき、協調性が備わっていない。

「急がなくても、向こう岸に着く時間なんて、たいして変わりはしないのに」

みんなからしてみれば、私の方が、オカシイ奴に見えているのだろう。

でもさ。

海に生きる仲間たちは、なぜあんなに「群れになって生きてゆくこと」に、必死なのだろうか。

サケも、アユもクラゲもイルカも。

単独では、生きていけないから?でも、出産時になると、場所やエサの取り合いで、半狂乱になって争うのに。

「お先にどうぞ」、みんな、譲りあうという、清い心もない。

最初から一人の方が、なんだか気がラクなんだ。

しばらくしてから、私は一人、岸へ向けて泳ぎ始めた。

「あんた、ちゃんと涙を流すのよ」
ウミガメのコーチの言葉が、頭の中でこだまする。

さすがは、コーチ。私の性格を、よくぞ見抜いていたもんだ。


「出産時に、泣く」が、子供の頃から、人生最大のテーマだった。

世間では、何百年何千年前から、「ウミガメは泣きながら産む」ことが、普通だと思われている。

なぜ、泣かなければならないのかは、誰も教えてはくれなかった。

「ルールは、ルールだから」
コーチは、何度も言って聞かせた。


向こう岸に着くと、仲間たちが、集団でオイオイと慟哭しながら出産していた。

悲しいの?それとも痛いわけ?理由なんて、とても聞けない空気。

私は、見よう見まねで出産用の穴を掘った。

ほどよい大きさに掘れた時点で、穴の上にまたがり、リキんでみる。

ゲッ、やっぱり泣けない。卵も出てこない。

「そんな時は、ヒッヒッフーッと呼吸してみなさい。必ず泣けるから」
コーチが、教えてくれたことを思い出す。

ヒッヒッフーッ。

ごめん、コーチ。やっぱり私、無理みたい。


あきらめて、砂浜に寝転がっていると、人間のお姉さんが私に近づいてきた。

「あなたの気持ち、よく分かるわ。わたしも器用じゃないから」

お姉さんは、私の瞳にそっと目薬を差してくれた。

なんだ、人間にも似たような人がいるんだ。 思わず笑ってしまった。

「でもね、泣けないと、ここでは本当に生きてゆけないわよ」

ふと、お姉さんの胸元を見ると、国家主席の肖像をデザインしたバッチが付けられていた。

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