どこよりもまんまるな花火
「今まで見た花火の中で、一番丸い花火を見せてあげる」
大学時代、当時付き合っていた彼にそう言われ、とある花火大会に一緒に出かけた。
しかし、彼は私を花火大会の会場ではなく、田んぼの畦道に連れていく。
私の不安は募る。
付き合い始めてまだ4ヶ月ぐらいの彼。
信頼はしてるけど、どういうつもり?
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は車を止めた。
外に出るように言われたので出てみると。
そこは、花火大会の特等席だった。
観客は私たち以外誰もおらず、花火は彼が言う通り、綺麗にまんまるな形をしていた。
「ここの花火は、関東の花火大会よりも綺麗だし、落ち着いて見れるから好き。一度見せたかったんだ」
そう、彼と私は当時、関東(地元は愛知)と愛知で遠距離恋愛中だった。
束の間のデートで、彼が考えてくれたサプライズだったのだ。
自分のためにもてなそうとしてくれた気持ちが嬉しくて、今でもよく覚えている。
あの日、田んぼの畦道から見た花火は、確かにまんまるで綺麗だった。
でも正直、花火の形よりも、気持ちが嬉しかった夏の夜だった。