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バレンタインに生キャラメルを大量生産した話。
突然ですが、生キャラメルって覚えてますか?
ずっと昔に、大流行しましたよね。
あのころのバレンタインの思い出です。
当時付き合っていた彼は、チョコレートが好きじゃない人でした。なので、バレンタインにはチョコレートではないものを渡す約束をしました。
とはいえ、バレンタインに贈るものといえばやはりチョコレート。ギフトを求めて、私はデパートの洋菓子売り場へ偵察に行きます。しかし、ピンとくるお菓子が見当たりません。赤みを帯びたバレンタイン一色になっている洋菓子売り場で、チョコレート以外のものを探すのが至難の業だったのです。この時点で心が折れそうでした。それでも恋の力はすさまじい。彼を喜ばせるために、私は諦めませんでした。
肩を落として帰宅後、情報を求めパソコンを開いてみました。すると、よく見ていたブログ記事にこんなことが書いてあります。
バレンタインに手作り生キャラメル♡
なになに?
今流行ってる、生キャラメルだよね?
あれって手作りできるの?
先にお伝えしますが、当時の私の料理スキルは限りなくゼロです。料理経験なんて、家庭科の調理実習程度しかありません。にもかかわらず、なぜか興味を持ってしまいました。
生キャラメルなら、出来るかもしれない。
無謀にも、私は作る気満々でした。
料理どころか、お菓子なんて作らないのに。
根拠のない自信が温泉のように湧き出てきます。
不思議です。
これが恋のなせる業なのか。
恋に猪突猛進女のバレンタイン、開幕です。
デート前日に、材料をそろえました。
次に、母から台所使用許可を取ります。当時は実家暮らしだったので、台所を使うには母の許可が必要でした。バレンタインのお菓子を作ると言ったら、母はひん剥きそうなほど目を見開きました。
「ホントに?本気で言ってるの?」
「そう、彼氏にあげるお菓子を作るんだよ」
「これはいかん。めまいがしてきた」
母は、ものすごい勢いで騒ぎ立てました。私が台所に立つだけでも緊急速報並みのニュースなのに、お菓子を手作りすると言うのです。母のアンテナが危険を察知したのでしょう。天地がひっくり返ると言わんばかりに、あれやこれやと言われました。
それでもやっとの思いで台所使用許可を取った私は、調理に取りかかります。ずいぶん昔のことなので細かいことは思い出せません。確か、生クリーム・バター・砂糖などを鍋で煮て、とろみがついたらバットに流しいれて冷蔵庫で冷やし、包丁で切ってからラッピングするという工程でした。焦がさないように弱火で煮詰める作業は、かなりの時間がかかりました。
しかもこのレシピ、よく読んでみると、「友達に配ろう」なんて書いてある。私が見ていたレシピは、大量生産用レシピだったのです。しかし、時すでに遅し。目の前には鍋いっぱいの生キャラメルのもと。ここまで来たら意地でも作り上げるしかありません。
大量だろうと何だろうと作ってやる。
気合を入れなおした私は、材料を根気よく煮詰め続けます。甘い香りが充満し、お腹が空いてきましたが我慢です。おかげで何とかとろみがついたので、バットに流し入れて冷やし固めました。
生キャラメルなんて初心者が手を出していいレシピではなかったと、この時やっと実感しました。料理に対する未熟さが、あらゆる面で露呈したのです。全くもう、詰めが甘い。しかし、これだけでは終わりません。
デート当日の朝、早起きして生キャラメルを冷蔵庫から出しました。固まっているか心配でしたが、ちゃんと仕上がってひと安心です。包丁でキャラメルサイズに切って、ラッピングします。作ってみて初めて知ったけど、ラッピングって結構時間かかるのですね。悪戦苦闘しながら何とか包み終わり、ちょうどいい量をデートに持っていきました。残りは家の冷蔵庫に置いたままです。母の冷ややかな視線を浴びながら、私はデートに出かけました。
結果を言うと、彼は大変喜んでくれました。手作りのお菓子をもらうのが初めてだったらしく、こちらが引くほどテンションが上がって感激していました。味もおいしいと喜んでくれて、私もホッとします。
「一緒に食べよう」
彼は私に生キャラメルを分けてくれようとしました。しかし私は固辞します。
なぜなら、わが家に大量の生キャラメルが残っているから。冷蔵庫を占拠する生キャラメルを見た母が、「何とかしなさい!」と激怒していたのを思い出し、ひきつった笑顔でやり過ごしました。幸せそうに生キャラメルを頬張る彼の横で私は、家の台所で般若のような顔で怒り狂う母を思い出してしまったのでした。
色んな意味で思い出深いバレンタイン。
当時の彼、元気にしてるかな。
🍫
「ねえねえ、最近生キャラメル作らないよね。あれ、量多かったけど美味しかったよ」
夫がソファに寝そべりながら、話しかけてきます。
「あのレシピ、もうどこに載ってたか覚えてないから作れないよ」
私はそっけなく言いました。
テーブルには、ウイスキーとチョコレート。
夫が買ってきたものばかり。
彼は結婚してから、私の影響でチョコレート好きになりました。下手すると、私よりもチョコレートを喜んでいる気がします。
みんなチョコレート好きなわが家。今年のバレンタインも、様々なチョコレートを買いそろえて味わうつもりです。
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