【インタビュー】臼井コーチに聞く 第1回 RPE、sRPE、ACWR導入の効果
トレーニング内容の評価やケガのリスク軽減に用いられるRPEやsRPE、ACWRといった指標が注目されています。これらのデータを使った定量的な運動負荷のモニタリングやマネジメントについて、S&C(ストレングス&コンディショニング)を専門とする臼井智洋コーチにお話しをうかがいました。
RPE、sRPE、ACWRとは?
ーーまずはRPE、sRPE、ACWRそれぞれについて、どういう指標か教えてください。
臼井コーチ:RPEはRate of Perceived Exertionの略で、日本語では主観的運動強度と言われており、選手が主観的に感じたものを表す数字になっています。一般的に0から10までの数字を用い、0が全くきつくない、10が非常にきつかったというようなことを数字で表していくといったものです。
sRPEというのは「セッションRPE」というもので、先ほどのRPEにトレーニングの時間(分数)を掛けたものです。トレーニングの強度と時間を掛け合わせることで負荷の大きさを定量化する手法として広く使われ始めています。
ACWRはAcute Chronic Workload Ratioと言い、Acute(急性)の負荷とChronic(慢性)の負荷がどういった比率で体にかかっているかという割合を示すものです。一般的にはAcute Workloadというものを1週間の負荷、Chronic Workload を3週間もしくは4週間の負荷で表します。
このACWRは急性と慢性の負荷割合を見ていくといったときに使われています。特にACWRが急激に高まるとケガの発生リスクが上がったり、逆にいきなり落ちてしまった場合も(その後また負荷が上昇してしまうので)ケガが発生やすい。過去には「ACWRが0.8~1.3の範囲内だとケガのリスクが少ないのではないか」というようなリサーチ結果も発表されていますが、それに関しては賛否ありその後も各種の論文がでています。
なぜ今RPEが必要?
ーーなぜいまRPE、sRPE、ACWRなどの指標が重要度を増しているのですか?
臼井コーチ:まず一つは、こういった指標を通してケガを予防するということ、そしてパフォーマンスをアップしていくということ、加えて、特定の試合や大会に向けてパフォーマンスを上げていくいわゆるピーキングの時に、選手ひとりひとりの負荷コントロールをしてあげることが重要だと言われています。
一方で普段の練習やトレーニングの組み立てを考える時に、こういった負荷の指標を使うことで適切にプランニングをし、かつトレーニングをモニタリングしていく必要があります。いわゆるPDCAサイクルを回すにあたって定量的な指標が必要なことから、このような指標が使われ始めています。
負荷をみていくときに、体の内部で起きてる内的負荷に限らず、外的負荷など色々な負荷を見ていくのが本来は理想的です。ですが、例えば外的負荷となると種々の機材が必要になってしまい、なかなか手軽にモニタリングやアセスメントをするのが難しいという現実があります。RPEやsRPEといった指標に関しては何も機材を使うことなく、自分たちの感じたものをきちんと記録していく、もしくは練習時間を記録していくという意味で、一番簡便にできる手法としてこれから広く使われていくのではないかと考えています。
RPEやACWR導入のメリット
ーーこれらの指標を導入することで、選手やアスリートのパフォーマンス、あるいはチーム全体のパフォーマンスにどういう効果をもたらしますか?
臼井コーチ:特にコーチスタッフという目線で言うと、今まで「きつい練習」だとか「楽な練習」、あるいは「負荷を高くして追い込んでいる時期」、「今は楽な時期」だといったように、全て感覚だけで練習についての議論がなされていました。それに対して、こういった数値が加わることでより具体的な議論になっていく。必ずしも計画通りにいかなかったとしても「RPEでこのくらいの練習強度を狙ってみましょう」と定めて、実際選手から聞き取ったRPEの数値と照らし合わせる。そうすることで自分たちが計画している練習がきちんとできているのかどうかといったことが議論しやすくなった点が、大きな効果かなと思います。
また、RPEやACWRなどを組み合わせて使っていくことで練習の負荷をコントロールできます。(強くなるためには)負荷をどうしても上げていきたいのだけれども、上げすぎてしまったり上げる期間が長すぎてしまったりするとケガが発生してしまうといったことを、数字を使いながら自分たちで防ぐことができると思います。
選手たちにとっても、「今日の練習はこのくらい(の負荷)だったんだ」と自分たちの状態や練習を振り返るきっかけにもなっていて、それは非常に大事な点だと思います。例えば、今日の練習はきつかったなと感じたときに、「じゃあ昨日よりもしっかりとリカバリーをしなければならないな」というように選手の判断材料に繋がり、そこで色々な気づきが生まれるのかなと思っています。
もう一つは、こういった数値を使うことで個別の対応というものができるようになっていきます。例えば、特定の選手が練習に参加している時間が長い、もしくは強度の高い中で練習を繰り返していて、他の選手はそうでないといった場合(大学生では、授業のスケジュールによって特定の選手に全然負荷がかからないなど)でも、個人差をきちんと数値化することで、それぞれに適切な負荷をかけるための練習量の調整といったものができるようになっていくと思います。
ーー臼井コーチは現在、学生や子どもたちにS&Cコーチとして指導していらっしゃいます。(データ)導入後に実際にケガが減ったという事例はありますか?
臼井コーチ:実は東洋大学としては、まだそこまでデータを溜め込めていないというのが現実です。やはり1シーズンだけ使ってもなかなかそこまで評価できないという部分もあり、2シーズン、3シーズン使っていった時に、「こういった練習の組み合わせをしたシーズンはケガが少なかった」とか、「こういった取り組みをしたときにケガ人が多く出てしまった」とか、今後データが蓄積されていくとどんどん色々なものが見えてくるのかなと思っています。ただ、他のチームでの経験を言えば、やはりこういったものを組み合わせていくことでケガ人が前のシーズンより減ったというような事例もいくつか経験しています。
インタビューの第2回「S&Cの現状と魅力」についてはこちらから ↓↓↓
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