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呼吸の影響力

今朝起きてから、何回自分の呼吸に意識を向けましたか?

呼吸や体温、免疫、食べ物の消化や心臓の動きなど、普段意識せずとも私たちの体は自律神経やホルモンで自動的に体内環境を調整し、バランスが保てるよう働いてくれています。でも「呼吸」だけは自律神経系であると同時に、唯一、私たちが意識的にコントロール出来る機能なのです。

例えば心臓を早く動かそうと思ってもスピードを変えることはできませんが、呼吸をゆっくり深く吸おうと思えばスピードの調整が可能です。呼吸を意識できるようになると、集中力のアップやストレスの軽減、日々のトレーニングやパフォーマンス精度の向上、競技前の緊張の改善など、様々な効果が期待できます。今回は呼吸が体や心に与える影響についてお話ししたいと思います。

呼吸と集中力

マイクロソフトの研究所の発表によると、人が集中できる時間は2000年には平均12秒と言われていました。それが2013年にはたったの8秒となり、金魚の集中時間の9秒よりも短くなりました。周囲の会話など外からの刺激、気がかりなこと、疲労の蓄積、加えて近年はパソコンや携帯から絶え間なく届く通知やメールなど、集中力を乱す原因はそこら中に転がっています。そんな中、マインドフルネスやヨガなどでは「注意をコントロールする能力」を身につける方法として呼吸法が注目されています。

「集中力は、注意が他にそれないようにする能力ではなく、他のことに注意がそれたことに『気づき』、注意を『戻す』ことができること」とマインドフルネス普及機構・代表理事の小西喜朗先生は言います。

まずは呼吸を意識する簡単なエクササイズを試してみましょう。背筋を楽に伸ばし、鼻呼吸でゆっくり優しく4秒息を吸い、4秒止めます。この時肺に空気が入りすぎて体に力が入らないように気をつけましょう。今度はゆっくりと自然に6秒かけて吐き出し、2秒止めます。

この単調な呼吸を10回繰り返してみてください。

呼吸を意識する前と比べて、何か変化はありましたか? 気持ちが落ち着いた、呼吸が深くなった、途中で呼吸への意識がそれていったなどでしょうか。もし途中で意識がそれても、慌てず呼吸に意識を戻す作業を繰り返してみましょう。

瞑想では「ありのままの体験、状態に『気づく』こと」がいちばん大切です。集中できても、できていなくても、そのことに気づくことがポイント。ただ客観的に眺め、そして注意を元に戻すこと。それが、腕立て伏せをして筋トレするようなもので、注意をコントロールする力を養うことにつながります。

出典:https://www.fujingaho.jp/lifestyle/beauty-health/g35284148/concentration-210122-hns/?slide=6

また、脳科学的視点からも呼吸で集中力が上がるといわれています。トリニティ・カレッジ神経科学研究所とグローバル・ブレイン・ヘルス研究所の研究では、意識的に呼吸をするとノルアドレナリンという脳内物質の放出が促され、集中力が高まることが分かっています。

ノルアドレナリンの役割は、危機と闘ったりストレスから逃げたりするために、心身を「戦闘モード」にすること。「闘争と逃走(fight or flight)」をつかさどる物質とされています。

出典:https://studyhacker.net/noradrenaline-effect

ノルアドレナリンが適切な量で放出されれば、集中力を高め、脳の細胞間の新しい結合を促し、脳の「若さ」を保つのに役立ちます。ただ、たくさん放出されれば良いというものでもなく、ストレスが過度にかかるとノルアドレナリンは過剰に分泌され、脳の活動が活発になりすぎて集中力は低下します。またノルアドレナリンの分泌が少なすぎると、体がだるくなったり、やる気がなくなったりして、これも集中力を低下させる原因になります。

マインドフルネスに焦点を当て、体内の呼吸の感覚を感じる練習は、注意が散漫になりやすい人に有効です。一方で、呼吸を数えてコントロールする練習は、覚醒レベルが低すぎたり高すぎたりして眠気や試験時の不安感を感じやすい人に有効と言われています。

呼吸と持久力

平均的な人の肺は、リラックスして呼吸するたびに約0.5リットルの空気を動かしています。激しい運動をすると、この量は3リットルにまで跳ね上がります。呼吸をするたびに肺が酸素を取り込み、血液に溶け込んだ酸素は筋肉に運ばれアデノシン三リン酸(ATP)に変化し、このATPがあらゆる動作のエネルギー源となってくれます。筋肉の収縮には酸素が必要不可欠なのです。運動量の増加に伴い、血液量や呼吸数も増加し、必要な酸素が供給されていきます。

呼吸筋(肺に空気を送り込むために収縮する筋肉)を働かせると、体力とスタミナが向上して息切れを抑えられます。心拍数と血中乳酸量(筋肉の疲労の指標)を低下させることで運動と呼吸を楽に感じさせる、というのがその際のメカニズムです。

ある実験では、20人の活動的な人が1日30分、週5日4週間にわたって呼吸筋のトレーニング(横隔膜と胸郭の筋肉を鍛える運動)を行いました。その結果、サイクリングの持久時間が20.9分から26.6分へと27%も増加したのです。興味深いことに、高強度運動と持久系運動のいずれにおいても、呼吸筋を鍛えた選手の血中乳酸濃度は低く維持されました。この実験の効果は、鍛えた呼吸筋による乳酸の取り込みが向上したためとされています。呼吸筋のトレーニングに加え、運動前に呼吸筋のウォームアップも組み合わせると、ランナーはさらに優れた結果を残しました。

走ったり歩いたりするときには、大きく一定の呼吸をするのがポイントです。呼吸を意識することで、体への酸素供給は絶たれず、ヘルニアや筋肉のけいれん、めまい、転倒につながる危険性などを予防することができます。上手く動き続けるには定期的に酸素を供給し、筋肉に栄養を送り続けることが必要不可欠なのですね。

お金もかからず場所も選ばずに、少し意識するだけで効果を得られる呼吸の力、今日からあなたも是非使ってみませんか。

【参考文献】

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