研究進捗・研究書評【日本における女性のキャリア形成の難しさ】(2023.04-2025.01)
2024年秋学期
2024年9月26日:研究進捗
卒論の構成
はじめに:問題意識・研究目的・仮説
第1章 研究背景・現状分析
女性のキャリア形成の課題(キャリアプラン)・(ライフプラン:転勤・長時間労働) 管理職の役割
第2章 政府・企業に求められる役割
政府と企業の取り組み・ ダイバーシティ・マネジメント・男性の育児、家事促進
第3章 クオータ制 韓国 ルワンダ
おわりに
夏の進捗確認
第1章第3節管理職の役割
性別ではなく、管理職という職の面からなりたくない理由を考える
管理職になりたくない→77%(日本能率協会マネジメントセンター2023年4月)
求められる役割が複雑化しており、精神的な負担になりすぎている
ex.)プレイングマネージャー・拘束時間の長さ・やりがい搾取
経団連:業務のマネジメントや部下指導・育成に取り組める状況を組織的に整備・精神的支援
第2章 政府・企業に求められる役割
政府と企業の取り組み・ ダイバーシティ・マネジメント・男性の育児、家事促進
くるみん認定・えるぼし認定制度・新・ダイバーシティ経営企業100選・なでしこ銘柄
→女性活躍推進に対するアプロ―チが企業側のみに偏っている
根強く残る性別役割分業等の価値観を打破することが大切
→多様な働き方を認めていくことも1つの手段となるのでは?
現行制度は、女性の育児休業などの数値面ばかりにとらわれすぎている。
男性の家事育児も促進していく価値がある。
今後の展望
・海外のモデルケース
→ダイバーシティマネジメント以外にも海外の女性労働政策を見る
・海外の事例がどこまで日本で通用するのか
・卒業論文の執筆及び推敲
2024年10月3日
研究進捗報告:フィードバック
日本が通用するのがどの範囲なのか?
海外の成功事例等のケーススタディを用いて雇用政策のあり方や政府の役割を明らかにするという感じか?研究目的が若干捉えづらかったからこそ、そこを確実なものにすると理論構造がはっきりして伝わりやすいのでは?
ルワンダは虐殺や内戦によって男性がいなくなってクオータ制が導入された?
管理職になりたくないのは日本的な傾向か?欧州は管理職へのネガティブなイメージはなさそうなイメージがあり、他国との比較をしてみるといいのでは?労働観の違いが浮き彫りになるのでは?
「アファーマティブアクション」的な政策は日本でどの程度受け入れられるのか?
卒論の進め方
序章(イントロ)→序章と結論と要約は同じ意味のことを書く。序章をさらに要約したのが(要約)となる。バックグラウンドや背景は絶対に書いてはいけない。背景は第1章以降の文献調査に入れるようにする。
目的
主張→主張を構成の後ろに持ってきてもよい。
理論・調査方法
構成 第1章
第2章
第1章 主文:各段落のセンテンスの最初で意味がわかるように書く
(あとはレファレンス)(これはサポート)→最初と最後の文章を読んでその章のことがわかるようにする。
第2章 主文:各段落のセンテンスの最初で意味がわかるように書く
(あとはレファレンス)(これはサポート)
結論 ・要約 (各章の主文をつなげる)
・主張は証明された
・final (筆者の意見)
※チャプターごとに完結する。
女性管理職に関する海外の状況(女性が管理職になるメリットや求められるスキルとは (michaelpage.co.jp)より)
内閣府の資料から、女性管理職の割合はフランスで35%程度、スウェーデンで39%程度、アメリカで41%程度となっています。一方、日本では13%程度となっており、諸外国と比べて遥かに低い水準となっている。国際労働機関の2019年の報告でも、日本の女性管理職比率は主要7カ国中最下位となっている。日本の数字は、世界全体の女性管理職比率と比較しても半分以下の水準である。海外の各国では、女性管理職を増やすためにさまざまな施策を展開されている。アイスランドでは2010年からクオータ制を導入しており、従業員50名以上の企業では管理職の4割超を女性にすることが義務付けられている。また、ドイツでは管理職業務のジョブシェアリングを導入し、子育て中の女性も管理職に就けるよう工夫を凝らしている。
海外の女性管理職はなぜ多いのか?(女性"だから"という理由でキャリアを諦めない!-女性管理職を巡る各国の対応- | 株式会社ネクサスエージェント (wantedly.com)より)
女性管理職の拡大が進むカリフォルニア州が行う3つの取り組み
①法律制定
2018年に上場企業に対し、女性役員の配置を義務付ける法律を制定した。
この法律で
・2019年末までに役員会に最低1人は女性を含むこと
・2021年末までにはさらに女性役員の最低数を引き上げることを義務化し、違反した企業に罰則を科すだけでなく、女性役員の有無の情報をオンライン上で公開している。
②女性が安心して働ける体制の整備
・12週間の産前産後休暇を設ける「家族医療休暇法」
・育児休暇として最長12週間の無給の休暇を付与する「カリフォルニア家族法」
上記2つの独自の規定を2004年に制定。また、男女の賃金格差を取り除く目的で、「雇用の際に候補者の過去の給料額を聞いてはならない」という法律を制定している。
③女性リーダー育成プログラムの充実
女性幹部がメンターとなり、参加者が1対1で指導を受けられるイベントを開催している。メンターは全米各地の大手企業の女性幹部や経営者で構成されており、女性人材育成に関する企業の取り組みの共有や人脈形成の場として活用されている。
2024年10月10日
損保総研 主席研究員 田中栄嗣(2017)「諸外国における女性活躍推進について イギリス、ドイツ、スウェーデンの事例」『損保総研レポート』118号 p1-27
イギリスにおける施策
イギリスの保険会社アビバでは、環境変化に対応するためには有能な人材を引き付けることが大切で、そのために多様な背景を持った人材が必要であると考えている。そのため、性別、性的指向等の多様性を活かす施策を実施している。アビバにおける女性取締役比率は、2015年12月末から2016年12月末にかけ、16.7%から21.4%に増加しており、今後は25%を目指すとしている。女性従業員は、過半数を超えている。
多様性戦略担当女性取締役の任命→2016年12月にアビバは、グループ横断で多様性戦略を専任で担当する女性取締役を2017年1月付で任命することを発表した。人事担当取締役の配下に置かれ、従来にはない、新設の職務である。当該女性取締役は、以前よりストーンウォールの理事も務めており、同性愛者であることを表明している。アビバは、多様性に関する強力な文化を作るにあたり、当該女性取締役は適任であるとしている。
女性ネットワーク→アビバは、イベントを開催したり、地域社会の活動を支援したりする「女性ネットワーク(Women’s network)」を2006年に組織し、女性の能力開発と社会貢献を絡ませた取組を行っている。 2015年は、国連の「国際女性デー(International Women's Day:IWD)」のスローガン「実現させよう(Make it Happen)」に沿った取組を実施した。ノース・ヨ ークシャー州のヨーク大学では、女子学生に対し、女性が働くことの意義に関するワークショップを開催した。また、社会的企業(social enterprise)である「ビヨンド・ ザ・クラスルーム(Beyond the Classroom)」と連携し、アビバ・デジタル・ガレージ(Aviva Digital Garage)において、経済面等で問題を抱えた家庭環境で育っている10代の女性を対象とし、ITを活用して女性がキャリアを形成するヒントを与えるワークショップを開催している。 こうした活動を行う女性ネットワークは、本国イギリスのほかに、イタリア、スペ イン、インド、カナダにもあり、同社の世界各国の拠点で組織しているという特徴がある。
金融女性憲章への調印→2016年3月にイギリス財務省は、金融業界における公正な男女比率を実現するために「金融女性憲章(Women in Finance Charter)」を公表した。金融女性憲章は、 金融機関等が女性従業員を経営陣・管理職に登用するよう努めることや毎年達成状況 を公開すること等を求めており、主旨に賛同した金融機関等は、調印することによって金融女性憲章に参加する形式となっている。アビバも「金融女性憲章」に調印しており、2016 年から3年間の目標として、以下の 2 点に取り組むとしている。
業務執行を担う役員の 30%を女性で構成する
女性指導者育成のため、女性向けのリーダーシップ・プログラム確立を重点施策とする
イングランド銀行
復帰プラン→イギリスにおいては、労使ともに必要と認める場合、産前産後休暇中に10日まで 働くことができる「連絡日(Keeping in touch days)」という職場復帰を支援する制度が認められている。イングランド銀行では、当該制度の自社版として、産前産後休暇等を取得して長期間職場を離れていた女性のために、復帰イベントを実施している。当該イベントでは、 復帰前の女性が精神的余裕を持って職場復帰できるようにするコーチングセッション を行っている。
福利厚生制度→特徴的な福利厚生制度として、従業員に対する育児バウチャー(Childcare Vouchers)の支給がある。ただし、イングランド銀行がどの程度育児バウチャーを支給しているかについては、情報開示はなされていない。 育児バウチャーは、従業員が勤務先より支給され、保育サービス事業者に提出することにより、子供の保育を受けることができるクーポンである。クーポンが支給される際、給与が減額されることにより、従業員は、減額相当分だけ所得税や国民保険料 が節約できるメリットが享受できる。片親あたり1週あたり55 ポンド(約7865円)まで、年間で約1000 ポンド(約14万3000 円)までの節約が可能である。一方、 企業側にも、減額相当分だけ政府から国民保険料の支払いを軽減できる、企業の魅力がアップする、企業内保育所の設置に比べて負担が軽い等のメリットがある。
2024年10月17日
西浦和樹・池田和浩・川崎一彦(2019)「スウェーデン教育セミナー 2018 in 仙台 開催報告(2) ~宮城学院女子大学 公開講演会「スウェーデンの女性活躍の現状と課題」~」『宮城学院女子大学発達科学研究』19巻p132-140
エリザベート・ニルソン氏(エステルヨートランド県知事)のセミナーよりスウェーデンにおける男女共同参画の定義→男女平等は女性と男性が同じ可能性、権利そし て義務を持っている状態のこと。
スウェーデンの男女平等政策→2006年にスウェーデンは与野党が一致して多 くの男女平等に関する目標を設定した。平等な社会を実現するには男性の参加が前提条件です。スウェーデン政府が男性の参加と責任に焦点を当てている理由となる。スウェーデンの男女平等政策の基本的な目標は、 女性と男性が社会と自分の人生を形作るのに同等の力を持つことである。この基本目標にしたの6つの下位目標が繋がっている。
6つの下位目標 1.権力と影響力の同等な比率 2.経済的な平等 3.教育の平等 4.家事、介護などアンペイドワークの分担 5.健康の平等 6.家庭内暴力の全廃
教育の平等→女性と男性、女の子と男の子は教育、教育分野 の選択、個人の自己発展でも同じ可能性と条件を持つべき。平等な教育の目標は就学前学校から大学まですべての段階を含む。教育分野の選択には依然男女の差がある。女の子、男の子の将来就きたい職業は早い時期に決定される。それでも変化は見られる。例えば、教師、牧師、医師などは、以前はほぼ男性ばかりだったが、今日では女性の方が多くなっている。女の子は今でも医療や介護、男の子はITや技術を選ぶことが多い。今日では銀行の管理職や弁護士など高給の職業に就いている女性も多くなっている。大学では学生数の過半数が女性です。女の子の方が一般的に成績がよく、そのために就職の際に逆の男女の不平等の傾向も見られる。
家事、介護などアンペイドワークの分担→女性も男性も家庭における仕事に同じ責任を持つべき。有給の仕事をしながら家事育児、近親者の介護もできることはスウェーデンの男女平等政策の基本となる。両親保険という制度があり、 子どもが生まれると480日間、社会保険から所得補償をもらって育児休暇を取ることが保障されている。現在の両親保険制度では最低3ヶ月間は 父親にしか取得できない“父親月”とされている。最近男性の育児休暇取得が増えているものの、 実際には今でも両親保険の過半の期間を女性が使っている。2016年には男性の取得率は27%
男女平等庁の発足(2018)
男女平等の分野におけるスウェーデンの成功要因→革新的な法制度(男女平等に関する法律の分野)所得税は重要であり、税制は女性の立場に大きな影響を与える。スウェーデンでは1971年から 夫婦が別々に分離課税されている。 分離課税制度はシステムの大きな変更である。かつてはスウェーデンでも男性が外で稼ぐパターンがあったが、分離課税制度の導入により当時世界でもユニークな“夫婦が共に稼ぐ”モデルに変更された。福祉の研究者によれば夫だけではなく、夫婦が一緒に稼ぐ大きな変化。分離課税制度の導入によって、女性は家庭とは別に個人としての経済的な市民権を得られることになった。女性は“主婦”ではなく、国に対しても独立した個人と見られるようになった。
男女共同参画には独自の所得を持ち、自分の銀行口座を持つことは重要である。スウェーデンは買春(性的サービスを買うこと)を禁止する法律を世界で最初に制定した。この法律により買春は犯罪ですが、売春は違法ではない。この法律の立法過程では性的サービスを買う方に焦点があてられた。警察によればこの法律は人身売買を防ぐ効果もあった。1998年に刑法に“女性の権利の重大な侵害” に関する法律が導入された。これは処罰対象 となる行為が重なって重大な犯罪を誘発する可能性があるとみなすユニークな法律である。1970年代にはスウェーデンで体罰についての議論が高まった。成人とは違い、子どもには暴力に対する保護策がなかった。そして1979年に体罰防止法が成立した。この種の法律としては世界で初めてのもの。
男女平等はもちろん法律だけでは達成できない。政治的な意思による態度の変化も大切です。企業にとって魅力的な雇用者であることも重要。そのためには女性が歓迎され、キャリアパスの可能性も男性に劣らない職場だと女性が感じることが大切。企業や役所の取締役会、理事会などでも男女平等が重要。
古橋エツ子(2016)「【連続シンポジウム】岐阜発「わが国の政策課題への処方箋」 諸外国におけるジェンダーギャップへの取組み スウェーデン:育児保障におけるジェンダーギャップへの取組み」『法政論叢』52巻2号p145-162
保育政策への取組み→保育所への取組みは、1941年に人口問題委員会が建設の促進を勧告し、また44年の「労働運動の戦後プログラム」で保育所の増設が掲げられた。保育施 策は、35年~55年間に国民総生産が2倍に達したことから前進したが、50年代後半は半日保育の幼稚園の建設が増えた。しかし、60年代後半の既婚女性の 就労率上昇により保育施設への要望が増大していった。また、国連の社会経済委員会に提出した報告書の基礎となった68年の世論調査「スウェーデン社会における女性の地位」のなかで、「女性が家庭外へ出るためには、家族の世話を愛情と引き離した機能としてとらえ、社会サービスを増やした社会へと変革する必要がある」の明言が保育政策強化につながった。70年代以降、保育所不足への対策は「家族福祉政策プログラム」として保育施設の充実が優先的に行われた。そこで、①就学前の保育を充実させること、②家庭と保育施設が子どもにとって総合的な環境とみなされること、③保育施設は住居に近い地域内にあることなどが、望ましいとしている。
男女の雇用と出産・育児へのジェンダー平等
男女平等からジェンダー平等への背景→1846年、スウェーデンの女性は働く権利が認められたが、父親や夫の許可が必要であり、妻の賃金は夫のものであった。58年に25歳以上の未婚の女性は働く権利に関する承諾年齢に達したとされたが、妻の賃金が妻のものと認められ たのは28年後の74年であった。86年に初の女性労働組合ができ、1900年には年少者・女性工場雇用保護法が制定され、9年後に女性労働者の深夜業が禁止された。その後、19年に女性参政権が議会で可決し、21年の総選挙から女性の参政権が実施され初の女性国会議員が誕生した。
雇用の場における男女平等→1939年施行の特別法で12週間だった出産休暇は、45年に6カ月間となっ たが、休暇中の所得補償はなかった。10年後の55年に国民健康保険法の施行に伴う出産保険制度改革で出産手当を90日間支給することになった。62年には、ILO100号条約を批准するため「男女同一賃金」が国会で決議され、同時に深夜業禁止規定を削除した。翌63年の男女賃金差は100:72である。同年、出産手当が180日間の支給となり、出産休暇の6カ月(180日間に相当)と保育所へ の入所要件である「生後6カ月以上の子どもから」に対応した連動性・実効性ある制度となった。69年に、教育庁が指導要領に「男女平等」を導入している。 71年には、税制面での男女平等を図るため夫婦合算課税方式から「個人課税方式」に移行した。それ以降、70年代から90年代にかけて、賃金決定の見直しとスウェーデン・ モデルの再構築という一番大きな変化期を迎えながら、女性が就労することにより仕事と家庭の調和をいかにするかが課題となっていった。そこで、82年に経営者(SAF)、組合(LO)、鉱業・サービス部門の連合組合(PTK)の三者による開発契約締結の際、開発努力4項目のなかで「男女の平等」が最も重要な目的であると定めている。こうした動きが、新しいスウェーデン・モデルの 再構築、教育現場でのジェンダーギャップへの取組みにつながった。
両親への育児保障制度→両親休暇法の施行当初は全日休暇型のみであったため、父親の休暇取得率は低く、母親からは労働生活の中断への不安から職場への早期復帰が望まれた。こうした声を反映すべく、かねて懸案であった「1日6時間、1週30時間労働制」という労働条件のレベルアップの端緒として、1978年に両親休暇法は全面改正され、いわゆる「育児休暇法」が制定され、そのなかに労働時間を短縮できる部分休暇型の両親のための育児休暇が導入された。現在の育児休暇には、全日休暇型と部分休暇型がある。全日休暇は子どもが生後18カ月未満まで、部分休暇は子どもが8歳未満または小学校1年生終了までの間に取得することができる。部分休暇は、通常の1日8時間労働を3/4(6時間)、1/2(4時間)、1/4(2時間)、1/8(1時間)に短縮できる休暇で、この部分休暇に対応して、両親手当を受給できる。例えば、1/2の部分休暇の場合は2日間で1日分の両親手当が支給される。なお、単親の場合は、「両親合計分の育児休暇」を取得することができる。
両親手当給付の現状→両親手当には、①すべての親が対象の「両親手当」、②働く親を対象に、子どもの病気・出産立会い・養子縁組・障害児の授業参観などへの「一時介護両親手当」がある。これらを総称して両親手当給付という。働いている親は、全日休暇・部分休暇に対応して受給できる。両親手当は、480日間支給される。働く親には、給与の80%を390日間補償している。この390日間には、各90日間のパパ月とママ月が含まれている。残りの90日間は、1日一律180クローナ(約2700円)が支給される。なお、専業主婦・ 主夫、学生などの親は、480日間一律180クローナの支給である。
一時介護両親手当は、働いている親を対象に子どもの病気・伝染病・病院へ の付添い・授業参観などの際、子ども1人に付き1年毎に60日間、さらに必要な 場合は60日間の合計120日間を給与の80%で補償している。単親の場合は、育児休暇と同じく両親合計分の両親手当給付を受給できる。
その他の両親手当 →このほか、①子どもの出産立会い・出産時に他の子どもの世話・養子縁組に関する最高10日間の「パパのための休暇」、②障害児のため最高10日間の「参観日休暇」、③子どもが死亡時の休暇などにも両親手当が支給される。
その他の育児支援サービス (1)ホームヘルプ・サービス →子どものいる家庭には、①母親が病気や出産の場合、家事一切を務める専門職のホームヘルパーが派遣、②子どもが病気や伝染病の後期で元気だが保育所に行くことができない場合には、親の就労中に子どもの世話をするホームヘルパーが派遣される。この派遣制度は、一時介護両親手当が年間120日間の受給が可能となったことから、利用は少なくなっている。(2)パーソナル・アシスタント制度→従来、障害児・者へのアシスタント保障は、コミューンの福祉職員が行っていた。1994年に、「機能障害者を対象とした扶助とサービスに関する法律」と 同時に、「アシスタント補償法」が施行され、アシスタントの費用を障害児・ 者に支給して本人が自分の指定した人を雇用できる制度となった。
参考
女性が活躍している、スウェーデンと米国の保育園事情はどうなっているの?(THE PAGE) - Yahoo!ニュース
埼玉大学院・教授:田中恭子
スウェーデンでは、子どもの住居する近隣に必ず保育園があり、待機児童もいない。スウェーデンでは、法律により自治体は子どもの家のそばに保育園を設置しなければならない義務があり、自治体は住宅開発をする都市計画において、保育園、学校、病院、商業施設などを適切に配置している。駅やバスの終点の徒歩圏に集合住宅が立地し、徒歩圏に保育園が立地している。しかも集合住宅地区では徒歩圏内に複数の保育園が立地しているのが普通である。スウェーデンの保育園は、乳母車で子どもを送迎できる徒歩圏に立地しているである。集合住宅地区よりも人口密度が低い一戸建て住宅地においては、自宅において保育する家庭保育所(保育ママ)も多く分布している。 保育園は公営と民間の保育園があり、自治体は年齢別の1人当たり予算を各保育園に配分して保育園が運営されている。保育園の運営にはそれぞれ独自の教育理念・哲学に基づいており、親が自由に選択でき、保育園間に競争原理が働く仕組みとなっている 。子どもの家から保育園へのアクセスがいいということは、保育園の収容人数から見る規模は、日本の保育園よりもはるかに小規模であることを意味する。単独立地する保育施設もあったが、集合住宅の中に保育園が設置されているケースも多い。集合住宅では1階部分に保育園が開設されて、集合住宅の中庭が遊び場として利用される 。20人程度の異年齢児を一緒に保育する縦割り保育が行われる。集合住宅の中の3戸分の居住スペースを、仕切りドアを開放して、連続した広い保育スペースとして活用できる構造になっていた。賃貸スペースを保育の場として利用することよって、地域の需要変動にフレキシブルに対応することが可能となっている。 スウェーデンの保育園には0歳児保育はない。母親、あるいは父親が皆、育児休暇を取得し、育児休暇中は、自営業も含めて皆、手当てが給付される。また、スウェーデンの保育園には夜間保育もない。お迎え時間も早く、午後5時に残っている子どもはほとんどいない。小学校6年生まで、親は労働時間を短縮する権利が認められているので、子どものいる母親の有業率は高いが、ほとんどの母親の労働時間はフルタイムではなく、たとえば、30%とか、50%とか、子どもが幼い時期は労働時間をかなり短縮して働く母親が大半であった。スウェーデンの働く母親の子育ては、子どもにも親にも余り無理がかからないようなゆとりのあるものであった。同一賃金同一労働の原則が貫かれた福祉国家なので、保育士の賃金が極端に低く抑えられることもない。資格と経験により昇級するが、年齢間格差が余り拡大しない賃金体系である。
2024年10月24日(研究発表)
仮説・リサーチクエスチョン
キャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等
あらゆる性別による格差を是正するのではないか?
⇓
周辺環境の整備→待機児童問題の解消・働き方改革・男女雇用機会均等法
⇓
女性も男性と同じ環境で働くことができる社会(あたりまえの社会)
⇓
自然と女性は会社に長く在籍しやすくなる
⇓
女性が責任ある仕事(管理職)を志望しやすくなり、数値面(管理職割合)でも上がるのでは?
研究進捗&先行研究(背景)
1.なぜ女性の管理職の増加・女性活躍を進める必要があるのか?
経済政策
➀少子高齢化が進む日本にとって重要な潜在的労働力
年金などの社会保障制度の維持・生産性の向上・新たな価値観創出
女性が従来向き合ってきた課題解決
➁業種や性別役割分業から生じる男女間の賃金格差の是正など
製造業の平均月収は36万3300円
医療・福祉の平均月収は27万2800円
コロナウイルスはサービス業の多い女性の雇用に大きな影響
現状
2.管理職(部課長クラスと定義)の役割
現在、男女関係なく多くの人が管理職になりたくない(77%:JMAM 2023年4月調査)
プレイングマネージャー
非管理職である部下と同様の業務を行う&部下の管理や育成を行う
→管理職の役割は対人関係・情報関係・意思決定の3つある(ヘンリー・ミンツバーグ)
→求められる役割が多くて複雑!精神的に不安などの声が挙がる
その他にも、現在の仕事にやりがいを感じている人材もいる
3.ライフプラン・キャリアプランの両立の難しさ
女性の管理職率は多くても10%台後半。
➀家事・育児負担率の女性の高さ
➁就職の段階でのコース別雇用管理制度
男性には職場で負担を強い、女性は家庭で負担を強いる環境が形成されてしまった
→公平な社会にしていくためには、男性には家事・育児に積極参加できる環境を生み出す!
そして、女性には労働にも積極参加できる循環型社会を形成する必要がある!
*男性の育児休業取得率:30.1%(2024年度発表)
4.政府・企業が取るべき取り組み(既存例・新規例)
➀女性が継続的に社会活動を行っていくための取り組み(えるぼし認定など)
➁働き方改革に基づく多様な働き方の形成(テレワークなど)
➂ダイバーシティ・マネジメント(社内部署・人事制度改革)
➃男性の育児休業取得促進
企業の制度充実・国、自治体としての法律、条令策定の考案
女性が継続的に社会参画を行うことができる社会(あたりまえの社会)を形成
自然と女性管理職の数値も増えていく環境を形成
→これでも、女性活躍が進まなかった場合、ポジティブアクションの導入をすべき
研究の考察・今後の展望
G7で、日本は女性管理職の割合が最下位
→欧米ではなぜ日本よりも女性活躍が進んでいるのか?
→厳格な法律・基準の存在、企業も遵守、社会保障制度の充実(保育)
→社会全体で子育て世代のサポートをする環境が大事?
•管理職自体の負担を考える策はないのか?
→根本的にマネジメントに従事できる仕組みづくりが重要
• 卒業論文の執筆
フィードバック
・「どの業界においても女性管理職を増やす」という風に今後の研究は進めていくのか?
・独自性を出すための研究というよりは先行研究をまとめているという印象を受ける。
・管理職の女性の数値が高いとしても、飾りで立ち位置がある可能性がある。 本質的に役職を果たしているか、は疑問である。 個人的には、管理職割合を上げるというよりも、日本の雇用システムや多様な働き方の実現が重要に感じる。(しかし、女性の管理職割合が1つの分かりやすい指標なのかもしれない。)
・研究の意義はあるが、研究の新規性・独自性は少し少ないのでは?リサーチクエスチョン・仮説が曖昧なため、研究のアプローチが定まっていないと感じました。発表の多くが現状分析に割かれている印象がある。仮説の検証はどのように行うのか?(全て検討の段階では研究としての新規性を獲得できないのでは)
・女性の管理職の志望者割合は多いですか?そもそも志望しても管理職になれる環境は作れているのか?、海外との比較があったらよいと思った。
・女性のための社会創りが出来ている企業等が多くなったとしてもやはり怖いという人が多いと考えられる。また、管理職のなかでも女性役員の割合は非常に少ないとも思われる。管理職の推進が進んでいるのであれば、なぜ役員の割合も高くならないのか疑問に思う。
・今回の発表内容は全て先行研究で論じられていることなのかどうか。どのような点を明らかにしたのかが気になった。
・数値目標より先に質的に女性の働く環境を良くするという流れが理解できた。いくら働きやすくなっても子どもが生まれたときに結局女性がほとんど育児をすることになると働きにくい、ということになってしまうから、男性の育児参画に触れられていたのが良いと感じた。大企業であればあるほど女性が働きやすくなっていると思うので、規模の差についても気になった。
2024年10月31日
田中洋子(2020)「ドイツ企業の管理職における 短時間パート勤務とジョブシェアリング」『筑波大学地域研究』41巻 p9-29
これまでドイツでは、主に女性のキャリア形成をめぐるジェンダー不平等の問題として議論されてきた。女性が管理職になる割合がドイツで低いことの問題性はドイツ経済研究所のエルケ・ホルストが早くから指摘してきたが、最近になってもドイツでは高い教育を受けた女性の力が企業内で十分に活用されておらず、キャリア機会が限定され ていることが指摘されている 。
ケルン経済研究所の報告書はその要因として、管理職に求められる仕事量が多く、労働時間が男女ともかなり長いことが女性管理職の 困難さを招いていると指摘した。これに対して、女性が家族への責任を果たしつつ管理職を続けることはむしろ責任感やモチ ベーションの向上につながるという議論が起きる一方、女性の問題としてのみ捉えるのではなく、企業組織の多様性としてこれを議論する方向が進んできた。多様性にもとづく企業のために、性別と無関係な管理職登用の必要性が論じられ、そのために「その場にいることを求める企業文化」の見直しの重要性が指摘された。ドイツ政府の 各省庁や関係機関もこれを促し、結果指向という方向に転換することで、個人レベルで仕事を柔軟に段取りできるようにし、チーム仕事や仕事の代替方法、工程の経過確認の方法や仕事の効率 的組織化等の新しいコンセプトを使うことで、仕事と個人・家族のバランスを保てると議論された。
ボッシュ社
ボッシュ社は社内の人事プロセスおよび新人採用の過程において「キャリアに差をつけない」ものとして、男性か女性か、高齢か若年か、出身地の違い、という点に加え、フルタイムで働くかパートタイムで働くか、職場で働くか家やカフェで働くか、という点をあげ、いずれの条件であっても同じキャリアの形成を行うとしている。新卒を採用する時にも「フルタイムで働きたいですか、パートタイムがいいですか」と尋ね、「会社としてはどちらでも同じ労働条件とキャリアを提供します」と説明する。こうした要因によって将来の昇進の機会に差異がないようにするのが多様性、ダイバーシティだとしている。
面倒を見ている家族がいたり、通勤に時間がかかる人がいる場合、その部局では午後5時以降 に会議を開かないとされる。またダイバーシティ室では、毎週火曜に部局会合で全員が集まる以外の曜日は、職場にいようが家にいようが、すべて個人で決められるようになっている。こうした働き方の自由度、柔軟性を全社あげて日常化するのが、ダイバーシティ室の任務である。
ボッシュ社「柔軟で家族に配慮した働き方文化のための指針」
(1)個人別ソリューション
・柔軟な労働時間をつくりだし、家族への配慮と企業の必要性を同時に満たせるようにする。
・一人一人の個別の状況に合わせた働き方の解決策を、個人と会社双方によい形で見つける。
(2)モバイル・ワーク
・仕事の多くは、必ずしも職場で行われる必要がない。
・ 職場を離れたモバイルな働き方・在宅勤務を認め、仕事と個人・家庭生 活を調整しやすくする。
(3)早いキャリア復帰
・ 親時間(育児休業)、介護休業、自己教育のための休暇、サバティカルなどで会社を離れた人たちが社に戻った時、できるだけ速やかに元のキャリアに戻れるようにする。
・短時間パート勤務で職場に戻っても、フルタイムと同じキャリア形成ができるようにする。
(4)結果志向
・ 出勤こそが重要であると考える「出勤重視文化」を遠ざける。
・ その代わり、仕事へのコミットメント)や仕事の結果を重視する志向を中心に据える。
・長期休暇や休み時間は当然尊重する。
(5)管理職の短時間パート勤務
・管理職が短時間パート勤務することを積極的に支援する。
・それにより管理職であっても家族に責任をもってかかわれるようにする。(6)状況への配慮
・誰でも家族の事情などで特別な課題に直面する時があることを配慮する。 ・こうした状況に対応できるようにできる限り支援する。
(7)責任ある日程調整
・責任をもつべき仕事のスケジュールについてしっかり周囲と合意しておく。
・出勤や打ち合わせの日程は、一定の期間内にできる限り決めておくことが必要である。
(8)仲間の尊重
・家族に大きな責任を持たなければならない同僚を、周囲で支援している仲間を尊重する。
ジョブシェアリングの展開
1ポストを2人で分担するタンデム方式
タンデム方式とは、短時間パート勤務の導入が進む中で、仕事の責任が重く、対応しなくてはいけない仕事の範囲や仕事量が多い場合に、短時間バート勤務の労働時間内で仕事を処理しきれないという問題が発生していた。重い責任がある場合、短い時間で十全に仕事を処理することに大変なストレスがかかり、うまくいかないと管理職を辞めざるをえない状況にも追い込まれる。 やりがいのある仕事を続けて将来にキャリアをつなげたい希望と、家族のために短時間パート勤務で働きたい、働かざるを得ないという事情の矛盾が生じるケースが現れた。
こうした問題を解決しようと2010年代半ばから拡大してきたのがタンデムという働き方である。これは責任が重くて仕事量が多い管理職ポストを、短時間パート勤務の二人が担うという ジョブシェアリングである。一人では担いきれない大きな仕事を二人で行う方法である。 タンデムとは、馬を直列につないだ二頭立て馬車や、サドルが縦に並んだ二人乗りの自転車を指す言葉である。二つの力を合わせてものを動かすという意味で使われる。ここでは、同一の管理職ポストに二人が就くことにより、二人の力を合わせて一つの管理職業務を執行するという意味になる。一つのポストの仕事を二人が完全に共有・分担することにより、二人とも短時間パート勤務であっても、管理職業務を十分に執行できるという状況をつくる。勤務時間の短時間化と柔軟化を斬新な形で進めようとする働き方である。
2024年11月14日:学士論文
・誤字脱字確認・研究課題及び研究目的の明確さ・結論に至るまでの論理の整合性と裏付け・適切なデータが扱われているかを確認する。
はじめに
問題意識
2023年6月16日、参議院でLGBT理解増進法が可決した。ジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別を認めないと定めた法律であったが、一部からは理解ではなく、差別を助長するとの意見が出ている。その理由として、トランスジェンダー女性と偽装した男性が、公衆トイレ・浴場に出入りが大丈夫との主張が認められる可能性があるからだ。その他にも賛否両論の意見があるが、本法に対して、当事者を含め多くの人が反対しており、法成立以前の毎日新聞の調査[1]では評価する40%・しない38%と賛否両論となっている。
この社会問題における、最も本質的な課題は、当事者の意見が含まれていないことである。特にこの法律によって一番被害を受ける可能性がある女性の意見が全く反映されていないことが問題である。特に日本では、女性は賃金・文化・ハラスメント・就労差別等、男性と比べて多くの課題を抱えている。中でも本研究の議論の一つである女性国会議員比率は、衆議院では10.4%・参議院では26.7%、両院合わせ16.1%[2]と低い水準となっている。
さらに、2023年6月21日ジェンダーギャップ指数が発表され、日本は146か国中125位となり、中でも政治部門では138位と世界最低レベルである。ここから、日本におけるジェンダー平等の一環の即効薬として、まずは国政レベルで女性に議席を一定の比率で割り当てるクオータ制の導入が、将来的に必要であると本研究は考える。それにより男女間に内在する課題だけでなく、ダイバーシティを含めた政策面での多角化が進み、LGBTQや様々なマイノリティを守っていくうえでも作用する制度であると考える。
そして、本研究では企業における指導的地位である管理職に着目し、女性管理職が少ない国内企業において、女性管理職を増やす意義・増やすための施策の検討を行う。
研究目的
本研究の最終目的として、日本において家事・育児を始めとした女性が抱える課題に対する法整備や、企業に対する制度の義務化により、社会において性差なく、スタートラインが設けられ、そのうえで新たな政策の視点の創出を促し、男女に限らずLGBTQを含めた全ての人々が、公平と呼ばれる社会形成を目指す。
リサーチクエスチョン・仮説
2023年6月、政府は「女性版骨太の方針」を策定し、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指す方針(第五次男女共同参画基本計画では、民間企業の役職者に占める女性割合を2025年までに、係長相当職30%・課長相当職18 %・部長相当職12%にする)を発表した。これにより、2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を企業に対して促す。
しかし、問題意識ではクオータ制の導入は即効薬として必要だとしたが、「現在の状況下の中で女性は昇進することを望んでいるのか?」と考える。そこで、本研究では、社会活動を積極的に行っていくためにも、クオータ制導入を即座に促すのはいけないと考える。男女関係なく自らのキャリアを広げていきたいと思うことができる社会を実現するために、仮説として「周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?」挙げたい。
そこで、本研究では女性の積極的な社会参加を促していくために、周辺環境の整備として、待機児童問題の解消・働き方改革・男女雇用機会均等法などを挙げる。そして、これら周辺環境を整備することにより、男女同じ環境で働くことができる社会を理想像として目指す。最終的には、どのような諸事情があった場合で、誰もが会社に長く在籍することができる人事制度・社会制度を構築することで、女性管理職割合は向上するのではないかと本研究では考える。
[1] 毎日新聞(2023年5月21日)「LGBT法案修正案、支持政党で評価割れる」 https://mainichi.jp/articles/20230521/k00/00m/010/126000c
[2] 衆議院は2024年2月1日、参議院は2024年2月18日の数
第1章 研究背景・現状分析
三浦(2017)[1]はクオータ制が必要な意義として、女性には様々な障壁が存在し、それを一つ一つ取り除くのはあまりにも時間がかかるからであると述べている。また、様々な障壁は政治面においては、3つ挙げられており、性別役割分業・政党・女性のなり手の少なさが挙げられた。そのため、クオータ制法整備以前に、女性の管理職を増やすことができる社会・周辺環境の整備をしていくことが必要だ。その一環として、第二次男女共同参画計画で、社会のあらゆる分野において、2020年までに女性管理職の割合を、30%に増加させることを目標に掲げていた。しかし、現段階で12.7%の割合(厚労省2023年:従業員が10人以上いる全国の企業6000社対象)となっている。そこで、女性がキャリアプラン・ライフプランを双方の形成が困難な点について現状分析を行う。
第1節 日本における女性のキャリア形成の意義(キャリアプラン:賃金格差など)
そもそも女性管理職の増加・女性活躍をなぜ進める必要があるのか。2012年から2020年まで政権を担っていた安倍政権のリベラル政策[2]を見る。安倍政権では女性政策は大きく3つの目的があったと考えられる。
1つ目は経済政策の一環として、労働供給増加を目指し、年金などの社会保障制度維持を維持するうえで、女性は潜在的労働力の必要性があった。2つ目は生産性の向上を目指し、収入増加することからの消費拡大と共に、時代に合わせた新しい価値観の創出を促す役割が、女性にはあった。3つ目に規制緩和(企業主導型保育事業)、雇用流動化策(女性が再就職しやすくする)を行うことで、戦後日本で続いている雇用形態の変革を起こす目的があったとされる。
しかし、現在、男性と女性の間には大きな賃金格差が生じている。その要因として、宿泊や飲食を始めとした対面型のサービス業に従事している非正規の女性が非常に多いことが挙げられる。そのため、新型コロナウイルスの流行は女性の雇用に大きな打撃を与え、内閣府男女共同参画局の調査では、2020年4月の3月対比の就業者数の減少幅は女性が70万人と、男性の37万人に対して雇用喪失は約1.9倍となっている。
正規雇用者間でも賃金格差は生じている。女性が従事する割合の高い業種は、男性に比べて給与報酬が低い。特に、男性就業者の46%が従事する製造業の平均月収は36万3300円となっている一方で、女性就業者の52%が従事する医療・福祉の平均月収は27万2800円であり、業種間に大きな差が生じている。
加えて、女性就業者間でも業種により格差が生じており、2016年時の保育士・宿泊・飲食業の平均月給は約21万円だった。製造業の女性平均賃金が32万500円であり、これと比べると約10万円の差があり、今日まで人手不足が生じている要因として考えられる。
また、本研究で重要な課題となる性別役割の分業の点も賃金格差の要因となる。特に、これまでの場合、女性は正社員として就職することができても、結婚や出産を機に退職・休職すると想定されているため、昇格や昇給を抑制するキャリア形成が行われてきた。
佐藤(2020)[3]からは、ある企業では、システムエンジニアとして採用された女性には「こつこつ行う」データ変換やシステム開発のサポート、拡販デモなど「女性用」の職務が割り当てられるようになっていた。
また、1990年代までの都市・地方銀行では、大卒男性には融資業務や得意先との関係を築き上げ、支店長に必要な能力を形成する環境があった。その一方で、女性は出納・預金・テラー(窓口)といった職務に配置され、異動を通じた育成機会が得られず、支店長を始めとした管理職キャリアを形成することが難しかった。現在でも、一部で女性をリテール業務に誘導するケースがある。
企業がこのような性別による職務や役割を分業したことにより、内閣府の調査[4]によると、常用労働者100人以上を雇用する企業の役職者に占める女性の割合は部長級で6.6%、課長級で11.2% 、係長級で18.3%となり、役員比率以上に女性の割合が少ないケースも散見される。その結果、女性が企業内で指導的地位に立つケースが少なくなり、賃金格差は長年に渡って、広がった状態である。
しかし、これらの課題をなくしていくためにも、本研究は女性管理職を増やすことが1つ意義になる。森川(2023)[5]は、大企業の管理職を対象に、女性管理職を増加させたことによる男女賃金格差の影響について研究を行っている。
この研究で得られたことは、女性管理職は男性管理職に比べて、相対的に男女平等な評価を行う。これにより、企業規模・職種・業種・企業特有の慣習などを除き、大企業では、女性管理職であれば適正な評価を行うため、同等の男女労働者間における賃金格差が縮小する傾向があることを示した。
また、吉田(2022)[6]も指導的地位(管理職)につく女性には,他の領域でのジェンダー不平等の程度を変化させる「原因」としての側面があるとしている。特に、組織の指導的地位である管理職は,採用・昇進に関わる人事決定や,給与や待遇に関する部下の処遇を通して,従業員や求職者に影響を及ぼす存在となっている。
そのため、女性管理職が多い企業は、ジェンダー不平等を是正するのではないかと研究が行われた。その結果、権限の強い部長職以上に女性が参入することで,福利厚生や在宅勤務などの企業内施策が充実し,定着率のジェンダー差を縮小させる力が働いている可能性があることが判明した。
加えて、女性管理職を増やしていくことは、ESG投資の観点からのメリットや、女性活躍のロールモデルとなり、管理職を目指す女性が増加する可能性がある。以上のことから女性管理職の増加・女性活躍を進めていくことは意義があると本研究では見出す。
第2節 女性のキャリア形成の課題(ライフプラン:転勤・長時間労働など)
日本では、現状女性も含め管理職にはなりたくないと考えている人が増加している。そこで、第2節では、結婚・出産・子育てなど女性が直面するライフプランの課題・女性が管理職を男性に比べて特に目指さない本質的な課題を中心に見る。
総務省社会生活基本調査(2021年)から、子供がいる6歳未満の子供がいる世帯の家事関連時間を見ると、夫は114分・妻は448分となっている。夫の家事時間は2016年よりも31分増加しているが、多くの家庭の妻にとって、家事が過重な負担となっている。また、家事関連時間の内訳をみると家事時間は減少している一方で、育児時間は増加傾向となっている。
ここから家事関連時間やその内訳である育児時間の多くを妻が占める理由として、男性の育児休業取得率が変わっていないことが考えられる。厚生労働省が行った令和5年度雇用均等基本調査では、30.1%(17.13%:令和4年度)となっている。2019年度は7.48%であったため、4倍増加しているが、まだまだ7割近くの男性の職場で、上司の理解・職場内の人手不足などが理由により、育児休暇を取る際の職場体制が整っていない足枷となっている。結果、仕事と家庭の両立が難しく、女性が管理職になりにくい社会が形成されてしまっている。
これらの働き方の根本的な理由として、清山(2020)[7] はコース別雇用管理制度による転勤や長時間労働が、日本の男性の働き方を前提としたコース区分が女性に対しても当然視され、採用時には、本人同意を前提としない「転勤」と「長時間残業」といった家族的責任を果たすことが困難な働き方が求められるからだと考える。これらは、男性と同じタイミングで、昇進する機会の平等はある一方で、女性のライフスタイルに合わせた仕組みではなく、就業継続・昇格昇進などキャリア形成を阻んでいる。
また、法整備に対しても無策ではないが、法の抜け穴を見つけられている現状である。働き方改革関連法が2019年に施行され、時間外労働上限規制を罰則付の強化が行われた。しかし、範囲内で労使による協議によって実際の労働時間が決められる仕組みとなっており、時期や業種などでのさまざまな例外規定・上限の水準の甘さが露見した。そこで、山本(2019)[8] は単なる長時間労働の是正だけでなく、働き方そのものを改革することが重要としている。第2章以降で、働き方改革についてより詳しく見ていく。
第3節 管理職の役割
第2節では、女性のライフ・キャリアを中心に議論を行ったが、そもそも現在管理職に求められる役割が多岐にわたっているという課題がある。第3節では、現代の管理職に求められる役割と女性のキャリア形成における相関関係を見ていく。
まず管理職は3つの分野に一般的に分けられる。坂爪(2020)[9]では、経営層(役員)に近い管理職をトップ・マネジメント、そして部課長クラスと呼ばれる非管理職と管理職の接点となるフロントライン管理職、ミドル管理職に分けられる。本稿では、部課長級クラスを想定した管理職について議論を行いたい。
次に管理職の役割だが、日本における管理職はプレイングマネージャーとしての側面がある。プレイングマネージャーとは非管理職である部下と同様の業務を行いつつ、部下の管理や育成を行うことである。実際、学校法人産業能率大学総合研究所(2019)[10]が行った調査では、プレイヤーとしての仕事を全くしていないと答えた課長は1.5%しかおらず、質的にも量的にも、現場が人材不足を抱えているために、管理職がプレイングマネージャーとして活動する必要性がある。
また、カナダの経済学者であるヘンリー・ミンツバーグ(1973)[11](2009)[12]が管理職の役割は対人関係・情報関係・意思決定の3つの役割があるといったことを提唱している。特に、対人関係については対話志向が役割として求められることや、現代の1on1 meetingといった形で部下とのミーティングに費やす時間も役割として必要と提唱している。
そんな中で、管理職になった場合、自らのことについて考える暇はあまりなく、現代ではさらに、役員や部長といった上司との関係(成果や数字が求められる)や、部下との関わり方(ハラスメント・時間外労働など)も細心に注意を働く必要が管理職には求められる。
また、佐藤(2020)[13]では小売業x社を研究対象として、女性管理職が増加しない理由についての調査が行われた。この要因として、一つは店舗管理職の労働時間や拘束時間の長さも挙げられた。加えて、次長に昇格すると一つの売場の責任者としてではなく、衣料品部門全体の責任者としての役割が求められ、売場づくりに関与することができず、現時点での職務にやりがいを感じているからこそ、売場責任者である管理職になりたくないとの意見も挙がった。
もちろん、このように多岐に渡った役割を求められる管理職に対する対応策も日本経済団体連合会(2012)[14]では検討されている。ここでの解決策として、1点目に、実務的な負担を軽減のための、業務のマネジメントや部下指導・育成に取り組める状況を組織的に整備すること。2点目に、より良いマネジメントの実践を可能とするための OJT(仕事を通じた部下指導・育成)への制度的支援を行うこと。3点目に、ミドルマネジャーの自律的な成長を支援するためのOFF-JT(企業内研修)の強化を行うこと。最後に、ミドルマネジャーのやる気や意欲を高める精神的な支援が挙げられた。
しかし、上記の対応策ではミドル管理職の定着・増加にはつながらないと本研究は考える。実際、JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)が2023年4月に行った調査では、77%が管理職になりたくないと示している。以上から、男女関係なく管理職になりたくない現状は、求められる役割が複雑化しており、精神的な負担になりすぎていることが課題である。
そのために、管理職そのものの、働き方改革を行う必要がある。例えば、ドイツでは日本の正社員制度に近い、管理職業務のジョブシェアリングが行われている。ドイツでも日本と同様に長年、管理職の業務量の多さ、労働時間の長さが課題となっている。
そこで、ドイツでは企業を中心に管理職の働き方改革が行われている。世界的に有名な自動車部品会社ロバート・ボッシュでは、1つのポストを2人で分担するタンデム方式が行われている。この制度を導入することによって、やりがいある仕事を続け、自らのキャリアを創っていくだけでなく、子育てや家事などの両立が必要といった希望を実現することができるようになった。
これにより、業務時間内に仕事が処理しきれなかった場合でも、2人で共有・分担を行うことで、管理職業務を十分に達成することが可能になる。加えて、心理的な負担・ストレスも軽減することができる点もある。
以上から、男女性別関係なく、どのような人にとっても配慮される立場に管理職は変わっていく必要があるのではないかと、本研究は考える。
[1] 三浦まり(2017)「1.政治分野におけるクオータ制導入の意義」『国際女性』31巻1号 p111-115
[2] 堀江孝司(2017)「安倍政権の女性政策」『大原社会問題研究所雑誌』700巻 p38-44
[3] 佐藤洋子(2020)「女性活躍推進を進める企業で 女性が管理職になりたがらないのはなぜか 小売業X社における管理職志向のない女性正社員の語りから」『労働社会研究』21号 p23-42
[4] 内閣府(2019)『令和元年版男女共同参画白書』
[5] 森川ゆり子(2023)「女性管理職は“適正”男女賃金格差を縮小させるか」『理論と方法』38巻2号p225-239
[6] 吉田航(2022)「女性管理職は「変化の担い手」か「機械の歯車」か?新卒女性の採用・定着に与える影響に着目して」『理論と方法』37巻1号p18-33
[7] 清山玲(2020)「コース別雇用管理の限界とダイバーシティ・マネジメントの可能性」『日本経営学会誌』44号 p.32-40
[8] 山本勲(2019)「働き方改革関連法による長時間労働是正の効果」『 日本労働研究雑誌 特集働き方改革シリーズ(2)労働時間』61巻1号 p29-39
[9] 坂爪洋美(2020)「管理職の役割の変化とその課題 文献レビューによる検討」『日本労働 研究雑誌』62巻12号p4-18
[10] 産業能率大学(2019)「第5回上場企業の課長に関する実態調査」
[11] Mintzberg, H.(1973) The Nature of Managerial Work. New York: Harper & Row.
[12] Mintzberg, H.(2009)Managing Berrett-Koehler
[13] 佐藤洋子(2020)「女性活躍推進を進める企業で 女性が管理職になりたがらないのはなぜか 小売業X社における管理職志向のない女性正社員の語りから」『労働社会研究』21号 p23-42
[14] 日本経済団体連合会(2012)「ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応」
2024年11月21日
第2章 政府・企業に求められる役割
第1章では、女性が昇進できないもしくは、管理職になりたくない要因として、日本特有の雇用制度である転勤や長時間労働が前提となる雇用制度などを挙げた。その中で、国としても働き方改革関連法(2019)を行うことによって、時間外労働上限規制を罰則付に強化するなど、長時間労働の是正に努めてきた。しかし、現状の制度では範囲内で労使による協議によって実際の労働時間が決められる仕組みとなっており、時期や業種などでのさまざまな例外規定・上限の水準の甘さが際立っている。国内全体で、働き方そのものを見直す必要がある。そこで、第2章では、女性活躍における企業と政府の取り組み、ダイバーシティ・マネジメントといった欧米諸国の事例や、日本の女性がキャリアとライフプランを両立するための施策としての男性の家事・育児労働促進について検討する。
第1節 政府・企業の取り組み
企業が対外的(広報や就職活動)に向けて示す、女性活躍が企業内で促進されている指標として、くるみん認定・えるぼし認定制度・新・ダイバーシティ経営企業100選・なでしこ銘柄がある。本節では、この上記制度など政府・各省の取り組みとともに、企業にこれから求められる働き方改革に着目する。
まず、女性に関わる保育の課題・介護問題など社会福祉全般を担う厚生労働省の取り組みを紹介する。厚生労働省は2005年に政府が一体となって女性活躍推進に取り組むこととなる、次世代育成支援対策推進法の制定の旗振り役となった。次世代の文字通り、出産・育児をサポートするために、国や地方公共団体だけでなく、企業や国民までもが、それぞれの担う責務を明確にするために制定された法律(2025年までの時限立法)である。
この法律では、従業員101名以上の企業には、一般事業主行動計画と呼ばれる労働者の仕事と子育てに関する目標設定を義務付けることが求められる。また、この計画で定められた目標を達成することによってえるぼし認定が与えられる仕組みとなっている。
続いて、第1章の一部で紹介した女性活躍推進の積極的だった第二次安倍政権下で施行された、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)の取り組みを紹介する。女性活躍推進法では、次世代育成支援対策推進法と比べて、より具体的かつ厳密な女性活躍推進における各企業に合わせた数値目標設定が義務付けされた。
この法律を主導する国・地方公共団体に加えて、301人以上の企業は官公庁・社内の女性活躍の取り組みに対する状況把握や課題の分析を行ったうえで、女性活躍推進における課題を解決が可能となる数値目標と取り組みを行動計画の中に盛り込む。その上で、この行動計画を届出、公に対して自社の女性活躍に関する情報の周知・公表を義務付けた。
そして、この目標を達成することや一定の基準を満たすことで、厚生労働大臣によりえるぼし認定がなされる。以上より、くるぼし認定は育児といった子育て支援に取り組む企業に認定されるのに対して、えるぼし認定は女性活躍推進における採用、継続的な就業や管理職比率、働き方、多彩なキャリアコースが実践されているかなどといった5つの評価項目に基づき認定される違いがある。
また、産業や通商、エネルギー政策など民間企業の経済活動全般に携わる経済産業省でも独自の女性活躍の推進を行っている。経済産業省は、ダイバーシティ2.0行動ガイドラインを策定し、これに基づき2012年から新・ダイバーシティ経営[1]企業100選の表彰を行っている。加えて、東京証券取引所と共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を、中長期の企業価値向上に取り組む企業として、なでしこ銘柄として選定している。経済産業省は、各企業の女性活躍への取り組みを加速化させ、企業の自発的な取り組みを促進させる狙いがある。
しかし、これらの取り組みを実施しても、中西(2021)[2]は依然として日本における男女格差は縮まっていないとしている。特に、取り組み自体が社会に十分浸透していないことや、女性活躍推進に対するアプロ―チが企業側のみに偏っていることを指摘している。その上で、根強く残る性別役割分業等の価値観を打破することが大切だとしているが、では多様な働き方を認めていくことも1つの手段となるのではないかと、本研究では考える。
政府の取り組みのように認定するだけでなく、より労働者が働きやすく、ライフプラン・キャリアプランの見通しが立てやすい企業づくりをしていくことが、女性活躍推進に対するアプローチになる。
第1章第2節の終盤に、山本(2019)[3]の言葉を引用したが、実際、現在の働き方改革は数値目標(残業時間の減少)ばかりに目を向けすぎて、画一的なものとなっている。また、働き方改革を行うために、今まで10時間かけて行っていた仕事を8時間で行う必要が出てくる。だからこそ、今以上の生産性の向上が求められる。
この働き方改革と生産性の向上の両立に当たって、鶴(2020)[4]は2つの視点が重要であると指摘している。1つは効率性として、いかにして時間当たりの生産性を高めていくのか。もう1つは、創造性を高め、新たなアイデアを発現させていく点が重要であるとしている。
これらそれぞれの解決策として、ICTの活用、時間・場所に捉われることのない働き方を認めるが挙げられる。つまり、多様な働き方を様々な人々に認めていくことが解決策になる。
特に、多様な働き方はICTの活用だけでなく、勤務間インターバル制度[5]や、テレワークなども働き方の一つである。また、今回のテーマの中心アクターである女性に関わる短時間勤務を認めることなども1事例となる。
この第1節では、企業や政府が、女性が継続的に社会活動を行っていくための取り組みや働き方改革に基づく多様な働き方という考え方に重きを置いてきた。しかし、本研究を通じて、日本社会全体としての女性活躍に対する本質的な課題が分かった。
現時点で日本政府が推進する女性活躍政策は、女性が労働参加することや、女性管理職の増加が目的となっており、つまり女性が子どもを産み育てることの両立をしやすい社会を形成することで、国や地方の経済活性を図ろうとすることが垣間見える。そのため、今の日本社会は、女性にばかり社会全体で負担を求めているのではないかと本研究では考える。
一方で、福祉国家である北欧諸国は女性活躍施策に対して、政府を中心に長年取り組んでいる。中でも、スウェーデンは女性だけでなく、男性も家庭においては女性と同じ役目を果たすべきとの考えから、社会保障政策が推進されてきた。
中でも、両親保険制度は、子どもが0歳児の間は、両親がそれぞれ育児に関わる。子どもが誕生してから、480日間手当(労働する親には給与の80%)が保障される権利だ。最も特徴的なのは、母親月と父親月が3か月ずつ定められており、強制的にどちらかしか休暇を取ることができない仕組みとなっている。これにより、父親も家事・育児に対して主体的に取り組むことができる環境づくりが形成されている。
また、このような制度は子どもが成長してからも保障されており、子どもが病気に感染した時の病院への付き添いや、授業参観など、子ども1人につき1年ごとで60日、給与の80%で保障している。介護についても同様の制度が適用される。
加えて、保育施設の充実である。両親保険制度により、0歳児保育の必要がないことも挙げられるが、スウェーデンに待機児童はほとんど存在しないと言われる。1970年代に、家庭福祉政策の一環として保育施設の拡充が行われたためである。これにより、家庭と保育施設は切り離すことのできない関係であり、女性が家庭の外へ出ていくためには社会サービスとして必要だとされたためである。よって、現在では徒歩圏内に複数の保育園が立地しているケースが多い。
さらに分離課税制度は、女性を家庭の一員として見るのではなく、独立した個人として認識する点で重要となる。日本では、夫婦を単位とした課税システムが取られているが、スウェーデンでは個人課税方式となっている。これにより、税制面からも男女平等の環境づくりを整えていった。このように、スウェーデンでは、社会全体で家族を支え、誰もが社会との関係を持ち続けながら、家事・育児を行う仕組みづくりがなされている。
だからこそ、日本においても男性も家事育児が制度面で当たり前と言われる社会を目指さなければならない。そして、女性には労働にも持続的に積極参加することができる循環型社会を形成する必要がある。そのためにも、次節では企業の取り組みであるダイバーシティ・マネジメントに対する有意性を検討するとともに、3節では男性の家事・育児の促進について考える。
第2節 ダイバーシティ・マネジメント
現在、日本の女性が占める管理職の割合は先進国と比較して、非常に少ない状況にある。内閣府男女共同参画局が発表した調査[6]では、2023年7月末時点でプライム市場上場企業の役員数は21306名のうち、女性役員2847名(13.4%)。併せて、プライム市場上場企業で女性役員がいない企業数は199社(10.9%)で、2013年7月末が1472社(84%)だったころと比較すると、女性役員の数は着実に増えている。しかし、先進国の女性役員比率(優良上場企業50社)では、フランスが45.2%・イギリスが40.9%・ドイツが37.2%・アメリカが31.3%となっており、先進国と日本の間には依然大きな差がある。
そんな中で、日本の大企業はダイバーシティ・マネジメントを、部署の設置などにより促進させている。ここで言う、ダイバーシティ・マネジメントは性別だけでなく、年齢・国籍・LGBT・障害の有無などといった多様な人材の活用を行い、組織全体の活性化を図って、企業の付加価値を高める狙いを表す。そこで、現在、ダイバーシティ・マネジメントの一環として女性役員・管理職の登用が行われている。本節では、企業が行うこのダイバーシティ・マネジメントの優位性について紹介する。
吉田(2024)[7]は、ダイバーシティ部署の設置の有効性として、3つ挙げている。1点目は、人事決定から差別を排除する有効性(反差別ポリシーの制定・バイアスを軽減するための管理職へのトレーニングなど)、2点目は、マイノリティに機会を提供する有効性、3点目はダイバーシティの結果を監視し,説明責任を負う有効性(ターゲット採用やアファーマティブ・アクションなど)があるとしている。実際、海外文献では管理職の多様性を高める結果が出ていることや、ダイバーシティ担当の管理職が設置されることで、ジェンダー・人種多様性に関わる人事施策の改革・効果も示されている。
しかし、どの文献からもダイバーシティ・マネジメントの推進・部署の設置が女性管理職の割合を増加させると直接関連付けることは示されていない。吉田(2024)[8]は、ダイバーシティ部署設置の効果は組織間で均質ではなく、企業の特徴によって変化するとしており、ダイバーシティ部署の設置のみだけでは、自社の雇用行動を改善するには至らないとしている。
つまり、ダイバーシティ・マネジメントを推進していくには経営層を含め、企業内全体の協力体制の構築が必要不可欠である。しかし、現在、欧米も含め市場では、女性活躍の状況がESGといった非財務情報を投資判断に考慮されるようになってきている。
企業にとってこのことは、女性が管理職・役員といった地位で活躍することで、市場の競争が激しい中で、長期的な投資リターン向上につなげる狙いがある。また、物言う株主として知られる機関投資家の多くも、上場企業に女性役員がいない場合は、株主総会における議決権行使を否決する方針を示している。内閣府の機関投資家を対象にしたアンケート調査[9]では、女性活躍の推進企業は、「イノベーション」「働き方改革による生産性向上」「人材の確保」「ダイバーシティによるリスク低減」が見られると機関投資家は考え、重要な投資判断材料としていた。結果、一部調査では、役員層に女性を1名以上有する企業は、1名も女性役員を有しない企業に比べて、営業利益率・ROE・株価などの業績が高いことが分かった。
加えて、ダイバーシティ・マネジメントで、女性管理職を増加させることは、経営パフォーマンスを向上させる効果が示される事例もある。山際(2021)[10]は、ドイツのグローバル上場企業3社において、ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策を併せて推進すると、女性管理職・役員への登用を実現が可能となり、経営パフォーマンスを向上させていると示した。
また、田中・脇(2023)[11]は、多様性に富んだ社員を戦略的に活かすことが、ビジネスでの競争力のさらなる強化につなぐことができるとしている。実際、ダイバーシティ・マネジメントは,女性管理職の増加といった雇用面に加えて、多様化する消費者のニーズや価値観をビジネスに結びつけ展開できるチャンスもある。
その理由として、顧客が抱える多様なニーズに対して,営業・マーケティング・商品開発によって、迅速・的確に対応しやすくなるからだ。民間企業が行った調査[12]では、購買意思決定権は8割が女性であるという結果や、そのほかの研究でも、女性が半数以上決定権を持つことが示されており、女性の経営戦略への参加は重要であることが分かる。
しかし、そもそも社内に女性が少ないことから、新たに登用したい管理職・役員の候補者が少ない課題もある。多くの日本企業は、この問題に対して外部の女性人材を社外取締役などのポストに登用することで解決している。実際、内閣府の調査[13]では、女性役員2847名のうち87%が実際社外取締役となっている。
以上がダイバーシティ・マネジメント施策の有意性である。現在、多くの企業の女性役員は社外取締役となっているケースが多い。これを解消するためにも、社内のプロパー女性社員が、管理職になるためにはワークライフバランスとキャリアを両立できる社会にしなければならない。第3節では、両立するための解決策として男性の家事・育児の促進について考える。
第3節 男性の育児・家事促進
第1章で紹介した通り、日本では賃金格差や、性別役割分業など職業・職種による格差などが男女間で生じ、女性管理職が増加しない要因にもつながっている。育児休暇なども男性の取得率は上昇傾向にあるものの、今もなお多くの女性が家庭内の家事の主体となっている。
大石(2023)[14]からは、6歳未満の子供を持つ日本の男性の1日における家事育児関連時間は、2016年は1時間23分であったのが、2021年は1時間54分と5年間で31分間しか増加しなかった。この点から、政府・企業のみならず、家庭内でも家事は女性が行うものという考え方は固定観念化している。そこで、本節では女性がキャリアプランとライフプランを両立していくためには、どういった制度を政府や企業は構築していけばよいのか、現状や海外事例を交えながら検討する。
日本では、父親の育児休業取得率は30%と徐々に上昇してきたが、海外の一部地域では義務化されており、男性の育児休業によって家庭内の家事・育児に男性が積極的に参加できる環境が作り出されている。
まず、フランス語を話すことで知られるカナダのケベック州では、男性のみが取得できる5週間の育児休業であるパパ・クオータ制度が実施されている。実際、パパ・クオータを実施したことにより、大石(2023)[15]からは子供が生まれた父親たちの家事時間が3年間で15分増加し、育児時間に関しては22分も増加していることが判明した。さらに、スペインでも同様に2007年から2週間の有給父親育児休業が開始され、父親の育児参加時間の増加に加えて、母親の社会参画増加の傾向がみられた。
そして、ドイツでは2007年から上記2か国よりさらに長い2か月の有給のパパ・クオータ制度が行われている。先ほど同様、父親の家事育児時間の増加効果に加えて、育児休業終了後の子供が6歳の時点でも、パパ・クオータ制度が行われる以前と以後で父親の家事参加時間の増加が報告されている。
しかし、日本でも父親の育児休業制度は充実しているが、紹介した欧米の国々によりも男性の家事・育児参加は進んでいない実態にある。この点に関しては、日本やアジア諸国の社会に蔓延するジェンダー意識が原因である。男性は働き、女性は家事をするこうした固定観念をなくしていくためにも、一人でも多くの男性が育児休業の取得を積極的に行うことができる環境づくりを政府・企業が行わなければならない。
そのための一つの施策としてダイバーシティ・マネジメントは重要となる。第1節では、ダイバーシティ・マネジメントのメリットとして、経営パフォーマンスの向上などを挙げた。しかし、川口(2023)[16]では女性管理職の割合の上昇傾向が強い企業ほど、男性の育児休業取得も増加し、上昇傾向となっていることが示された。
この要因として、上記で挙げた男性の家事・育児への積極参加(性別役割分業の解消)やワークライフバランス施策(育休・短時間勤務制度)利用者に対する不満の解消などが挙げられる。特に、職場内で女性がワークライフバランス施策を利用した場合、上司や同僚にそのしわ寄せが来る場合があり、不満の的となっていた。
また、女性にとってもワークライフバランス施策を活用することによって、同僚と同じタイミングでの昇進が難しくなり、自らが希望するキャリアを形成することをあきらめなければならなくなるマミートラックになる可能性があった。
しかし、今回のように男性も育児休暇を取得しやすくなったことで、取得者に対する不満が解消し、ワークライフバランス施策を利用した女性に対する処遇も差別的にする必要がなくなる可能性がある。だからこそ、ダイバーシティ・マネジメントは女性管理職を増やす可能性があるだけでなく、女性管理職を増やすための本質的な課題を解決することが考えられる。
日本全体では男性の育児休業取得率は少ない一方で、2021年の厚生労働省の調査[17]では金融業・保険業の男性は40%も育児休業を取得している結果もある。徐々に育児休業があたりまえになっているからこそ、男性の中でのロールモデルをさらに増やすことで、男性の育児休業取得を促進し、育児・家事参加時間をさらに伸ばしていく必要がある。
また、山際(2021)[18]と同様に、中村(2020)[19]も女性活躍を促進しつつ、ワークライフバランス施策など柔軟な働き方を認める制度を整備することが重要であるとしている。そもそも、男性の育児休業取得は、母親の育児・家事労働時間を削減することで、母親がキャリアを形成するための時間に割くことができる環境づくりを行う狙いがある。それにより最終的には、女性の昇進機会も拡大し、今以上に女性管理職の割合を増やすことができるのではないかと考える。
[1] ダイバーシティ・経営(マネジメント)については次節で紹介する。
[2] 中西哲(2021)「女性活躍推進に向けた我が国の課題」『跡見学園女子大学マネジメント学部紀要』31号 p57-67
[3] 山本勲(2019)「働き方改革関連法による長時間労働是正の効果」『 日本労働研究雑誌 特集働き方改革シリーズ(2)労働時間』61巻1号p29-39
[4] 鶴光太郎「働き方改革と生産性向上の両立を目指して」『経済研究所年報』第33号 p31-53
[5] 就業から次の始業まである一定時間、休息を取ることが義務付けられていること。(日本では、情報産業労働組合連合会を中心に導入されている。)
[6] 内閣府男女共同参画局(2023)「「女性活躍・男女共同参画の重点方針2024(女性版骨太の方針2024)」の策定に向けて」(男女共同参画会議)
[7] 吉田航(2024)「ダイバーシティ部署の設置は企業の女性管理職比率を高めるか?」『組織化学』57巻3号p67-80
[8] 同上
[9] 内閣府(2018)「機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と情報開示」
[10] 山極清子(2021)「企業における女性活躍の阻害要因とその解決への道筋」『社会デザイン学学会誌』12巻p12-23
[11] 田中利佳 脇寛(2023)「女性就業実態の現状から見る女性管理職登用の課題」『鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要 人文科学・社会科学編』第6号p139-150
[12] 株式会社MaVie(2021)「消費における購買意思決定権をもつのは、女性が8割 ミレニアル世代では「夫婦で決める」がスタンダードに」
[13] 内閣府男女共同参画局(2023)「「女性活躍・男女共同参画の重点方針2024(女性版骨太の方針2024)」の策定に向けて」(男女共同参画会議)
[14] 大石亜希子(2023)「少子化対策としての男性の家事・育児促進:その有効性と課題」『社会保障研究』8巻3号p295‐307
[15] 同上
[16] 川口章(2023)「女性管理職が増える企業と増えない企業 ─どこが違うのか─」『生活協同組合研究』565巻 p15-23
[17] 厚生労働省(2022)「雇用均等基本調査」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450281&tstat=%E3%80%80000001051898
[18] 山極清子(2021)「企業における女性活躍の阻害要因とその解決への道筋」『社会デザイン学学会誌』12巻p12-23
[19] 中村艶子(2020)「人手不足下の女性活躍と人事労務管理 ーダイバーシティ&インクルージョンに向けてー」『労務理論学会誌』29巻p39-52
2024年11月28日
第3章 海外事例:クオータ制を中心に
海外事例を取り上げるにあたって、日本でもほぼ同様のケースをそのままの形で導入できるわけではない。それを踏まえたうえで2か国の事例を示す。特に今回、クオータ制の事例として、韓国を挙げた理由は、文化的背景面にある。日本とは地理的距離だけでなく、文化面・政治面でも密接な環境となり、日本との比較を行っていくうえで最適だと考えた。また、ルワンダを取り上げる理由は、女性議員比率が最も高い国であり、ポジティブ・アクションとしてのクオータ制の効果を示すうえで適していると考える。以上のことから2例を紹介する。
第1節 政治面でのクオータ制が進む韓国
大澤(2016)[1]は韓国でのクオータ制導入要因として、「女性団体の運動」「政治環境」の2点を挙げる。1点目の女性団体の運動は80年代の民主化運動の過程で誕生した女性団体が女性の政治参加の問題へ関心を寄せ始めたことの影響が大きい。団体はその影響力を2000年のクオータ制導入後も、法改正において保持し続ける。
2点目の政治環境では、韓国の大統領制が起因する。韓国では大統領に大きな政治的指導力を付与している。当時女性政策に対して比較的関心が高かった金大中(任期:1998年~2003年)が大統領に就任したことで、クオータ制の導入及び政治改革の導入の必要性が大きく呼びかけられた。
また湯淺(2009)[2]も同様に、儒教的慣習である男尊女卑的傾向を制度改革による変革運動や盧武鉉大統領(任期:2003年~2008年)になったことで参与政治へ変化し、民主化の風潮が女性を後押ししたとする。
政治環境が整っていく中で、2000年にクオータ制が国会議員・道議会議員選挙で導入され最低30%の女性登載を義務付けた。また2002年には道議会議員選挙では50%の女性登載が義務付けられ政治資金法により30%以上の女性候補者擁立政党に優遇措置が行われた。
2004年には国会議員でも50%義務となり、そのことから小選挙区でも30%以上が女性候補となった。2005年には制度上の問題であった比例名簿において女性を下位とする政党を防ぐために、男女交互に登載することを必須として、守らない場合は議席没収などの改正が行われた。そのことにより1992年は2.7%であった女性議員の割合は13%と2004年には増加した。
罰則規定は設けていない中で、特に比例代表選出部分において2004年以来女性割合は50%を超えている。この理由として、大澤は法的規定の明確性・女性団体をはじめとする「市民団体によるモニタリング」効果・韓国で比例代表名簿は政党の民主主義に対するバロメーターの意味を持ち、法律違反の負担が相当高い・議会全体に占める比例議席の少なさに加えて比例選出議員は再選を目指さないという原則があることから男性現職議員の既得権益が弱い4点を挙げている。
ここから韓国におけるクオータ制の課題が読み取ることができる。それは比例選出議員の影響力の弱さである。比例選出の議席が議会全体に占める割合は18%に過ぎず、導入以前に比べれば改善はみられるが、国会全体における女性の割合は未だに低い状況[3]である。
しかし女性議員の一定数の増加は目に見える形での効果を示す。その一つは、女性関連法案の数の増加である。これにより2005年家族法改正がなされ、戸主制度及び戸籍の廃止が行われた。また2004年4月から2006年9月の間、また2004年から2008年の第17回国会では、女性議員の議案発案数は男性議員を上回っており、このことにより能力の面での指摘も免れ、ただ女性の視点や利益を高めるだけではなく、国家全体の立法作業の活性化にもつながっていることが示されている。
第2節 女性活躍が進むルワンダ
ルワンダは長く家父長制であり、現在もDV等の社会課題を抱えている。その一方で2003年クオータ制が導入され、家父長制の社会変化が促されている。戸田(2020)[4]はルワンダにおいては家父長制社会が解消され、男女平等の意識が社会で高まったから、女性議員の数が増えたのではないかと考える。
ルワンダの歴史背景における女性の立場は、植民地以前のルワンダ王国ではQueen Mother(多くの場合、王の実母)の地位、及び家庭における伝統的な女性の地位が高かった。そのためクオータ制導入に対して反感は少なかったとされている。そしてルワンダ大虐殺(ジェノサイド)後1994年、移行政府(GNU)が誕生したことによりそこから大きく改善がなされる。
ルワンダでクオータ制法律導入過程において大きな役割を果たしたのは、「ルワンダ女性議員フォーラムFFRP」の超党派議連とされる。2003年以前には女性(一夫多妻制の禁止)や子どもの権利(虐待)を守る法律の制定に貢献している。そして導入後もますます影響力を持ち、ジェンダーに基づく暴力の防止と処罰に関する法律」の制定(2006)・民法・土地法・労働法の多くの規定の修正に尽力した。
具体例を示すと、1988年制定の民法第 206条(夫は家族の長であることを規定)は、人と家族を規定する法律の第206条(夫婦の平等を規定)に置き換えられた。2005年の土地法は2013年に修正され、土地と財産に対する権利について夫と妻の平等が強調されている。また産前産後休業期間中の給与支払いに関する2009年の労働法を補うために、産前産後休業給付制度を制定した法律も制定されている。
特に2013年の修正によって、女性は土地をはじめ財産を相続できず、所有権は父から息子に移譲された。離婚の場合、女性には夫の土地に対していかなる権利もなく、子どもがいない寡婦は、亡夫の兄弟と結婚した場合のみ亡夫の土地の使用権を主張できるだけであった。しかし、相続できるようになったため、女性は所得を含め財産を持ちやすくなった。それにより、女性の意思決定参加割合が増えたとされる。さらに子どもの授業料や家族の医療保険が払いやすくなったこと、HIVがもたらす様々な影響にも対処できるようになったとしている。
しかし現在でも慣習面においては、文化および宗教が法律の実施及び改正を妨げており、完全な男女平等の実現がなされたとは言い難い。
[1] 大澤貴美子(2016)「韓国:政治代表の男女不平等を是正するためのクォータ制度」『法政論叢』52巻2号p203-215
[2] 湯淺墾道(2009)「クォータ制と新たな政治秩序の形成」『社会文化研究所紀要』63巻 p1-18
[3] 導入以前の1992年から1996年までの間女性議員比率は2~3%であり、法改正後の2004年に13%となり、現在は約20%程度となっている。
[4] 戸田真紀子 フォーチュネ・バイセンゲ(2020)「女性の政治参加と家父長制社会の変容 ルワンダと日本との比較」『現代社会研究科論集 : 京都女子大学大学院現代社会研究科紀要』14号 p29-43
2024年12月5日
おわりに
今回の研究から、企業や政府、日本全体としての女性活躍が進まない理由に対する本質的な課題として、女性に対して積極的な労働参加・女性管理職増加を促しつつ、子どもを産み育てることの両立を行うことで、国や地方・一企業の経済活性化を目指す、そんな女性にばかり社会全体で負担求めた女性活躍施策の捉え方から根本的に課題がある。
だからこそ、これからの未来に必要なのは、男性も家事育児が制度面で当たり前と言われる社会を目指す必要がある。そのために、女性がキャリアを形成しやすい世の中を作るために、企業的立場から、ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策の導入を行うことが重要である。その上で、女性活躍が促進されないければ、クオータ制を始めとしたポジティブ・アクションの導入を段階的に、より前向きに考えるべきである。
一方で、会社の同僚を始めとした誰かが子育て世代を支えていることも忘れてはいけない。今回紹介した働き方改革だけではどうしても限界がある。そのため、職場では誰かにのように働く子育て社員のしわ寄せが、人手不足によって一部社員に押し寄せるケースが多発している。
そのため、三井住友海上火災保険[1]が導入した育休を取得した社員の同僚に一時金を支払う制度や、業務のカバーをした社員に対して手当の給与や高く評価する企業の人事評価制度改革の導入なども前向きに検討する必要がある。そして、政府は育児休暇の多い企業の同僚社員に、一時金を補助する制度上の仕組みが必要ではないかと考える。
本研究は、女性だけが抱える課題として捉えるのではなく、男性・LGBTなど全ての人が抱える課題解決に着目してきた。以上のことから、国全体に存在する全ての組織が多様化していくことで、一人一人が抱えるミクロな課題を新たな法整備・人事制度改革によって解決し、誰もが希望するキャリア形成の実現に近づけることに寄与すると結論付ける。
[1]三井住友海上火災保険(2023)「~育休を取得したら同僚に応援手当 最大10万円~育休職場応援手当(祝い金)の創設」 https://www.ms-ins.com/news/fy2022/pdf/0317_1.pdf
2024年春学期
2024年4月11日:研究進捗
社会的意義・目的・仮説
「女性版骨太の方針」
2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指す。 2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促す。
⇓
女性は望んでいるのか?(ロールモデルとしては適切だが)
⇓
社会活動を積極的に行っていくためにも、クオータ制導入をすぐに促すのはいけない。
まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?
仮説の深堀(フロー)
女性が長くキャリア形成をするためには、周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?
⇓
周辺環境の整備→待機児童問題の解消・働き方改革・男女雇用機会均等法
⇓
女性も男性と同じ環境で働くことができる社会
⇓
自然と女性は会社に長く在籍しやすくなる
⇓
責任ある仕事(管理職)の数値面でも上がる
現状分析
ミドル管理職が存在する。→部課長クラスor課長以上級(坂爪)
2015年の全産業での管理職に占める女性比率は部長6.2%,課長9.8%
⇓
第二次男女共同参画計画(2005)で,社会のあらゆる分野において2020(令和 2)年までに女性管理職の割合を30%に増加させることを目標
⇓
14.8%(内閣府2020年) 12.7%(厚労省2023年)
政策は作用しているのか?
女性が昇進できない要因
日本特有の雇用制度(転勤・長時間労働が前提となる終身雇用制度)
⇓
働き方改革関連法(2019)
時間外労働上限規制を罰則付の強化
⇓
範囲内で労使による協議によって実際の労働時間が決められる仕組み
時期や業種などでのさまざまな例外規定・上限の水準の甘さ
⇓
単なる長時間労働の是正だけでなく,働き方そのものを改革することが重要(山本)
ダイバーシティーマネジメント
欧米諸国:日本より先に経済が成熟。標準化と価格競争だけを追求する経営からの脱却(山極)経営構造に多様性を導入
⇓
これまで活かされてこなかった女性人材を登用
組織のパワーバランスを変える経営手法の確立
⇓
女性管理職を登用し、経営パフォーマンスを向上させる効果的施策
⇓
ドイツの上場企業 160 社
ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策を統合・推進
女性管理職・役員への登用を実現し、経営パフォーマンス向上が判明
まとめ
女性がキャリアを形成しやすい世の中を作るために、
1.ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策の導入を行う
2.女性管理職の数値目標の設定は,女性活躍を進める必要性を明確にし、なぜ女性が活躍できていないのか要因を分析し、その克服に向けた取り組みを進めることで、効果的なものにしていく必要がある
3.管理職の在り方も今と昔では異なっている(命令・統制→対話志向)
4.女性活躍が投資家にとって企業への1つの指標になっている。(ESG投資)
5.男性にとって、洗濯物の畳み方など些細ないざこざによって、仕事場だけでなく家でもプレッシャーになっている
6.アメリカでは、履歴書に性別・年齢・配偶者の有無・顔写真も求めてはならない仕組みとなっている。→スキル重視型(雇用差別をしないための法律)→差別が多いアメリカだからこそ、日本でも差別に関する認識は深めなければならない
今後の課題
1.メーカーなどの業種や職種によってはどうしても女性がいない部署がいる。そこでも同様に形態でクオータ制や女性管理職制度を用いるのか?
男性から見たアパレル業界も同様なのではないか?
2.今、管理職のポジションについている人の処遇はどうするのか?
3.女性社員全員が管理職というポジションを求めているわけではない。
→管理職の労働環境(残業代がつかないからこそ、進んで残業する等)
4.かえって社内で無駄な対立を生んでしまうのではないか?
5.数値目標とは正しいのか?
これらの問題に対して行うべき研究方針
1.女性だけでなく、男性にとっても納得感のある政策も検討する必要がある。
2.この政策を導入すると、反対に男性が生きづらい社会になるのでは?との意見が予想される。だからこそ、仮説に着目し、働き方に焦点を当てた研究を行っていく。(誰もが働きやすい社会の再定義など)
3.今までは女性にとってのメリット(フェミニスト寄りの論文)ばかりに注目していたため、デメリットにも今後着目していく。
研究発表:フィードバック
・課題の深堀だけでなくどのような手法でどんな結論を出していくのか気になりました。
・ 読んでいる文献のバイアスに気づき、批判的な視点での文献を引用しようとしている点は非常に良いと思った。実例の積み上げ(政策評価のような資料)をするとより解像度が上がると思う。
・男が頑張れと言われない→女性だけが頑張れと言われる→制度が男性も頑張らなければいけない世の中を作っていく必要がある
2024年4月18日
鶴光太郎「働き方改革と生産性向上の両立を目指して」『経済研究所年報』第33号 p31-53
<内容総括・選択理由>
女性が長く働く社会を実現していくうえで、必要となるのは長時間労働の是正・転勤だとこれまでの研究から重要要素になると考えられる。その上で働き方改革を行っていくうえで大きな課題となるのは生産性である。例えば、現在残業2時間、計1日10時間かけて行った仕事を1日8時間で行う必要が出てくる。この2時間分の仕事量を削減もしくは代替していくためにはどのような形で改革を行っていくのか、今回の文献はそのことに着目した。
<内容>
企業グループウエアで知られるサイボウズが広告で「いまの働き方改革はこんなのでいいのでしょうか」いまの働き方改革はすごく画一的になっているのではないのか。例えばプレミアムフライデー、みんな金曜日は早く帰ってくださいとか,8 時になれば消灯します,オフィスも鍵を閉めます,帰ってくださいと。働き方改革は、画一的にただやればいい、残業時間を減らせばいい, そういう話ではない。いろいろな人が多様な働き方をできるというところが、いちばんの根幹である。
今回の働き方改革の成果は罰則付き時間外労働時間の上限規制の導入である。ただ上場企業においては、3〜4 年くらい前か らこういう働き方改革、利用に熱心に取り組むときはすでに進行して,先手を打っている。今(2019年)、政府がこういう法案を出して,企業はこのようにやってくださいと,政府から押し付けるということではなくて,それぞれの民間企業が自分の企業に合った働き方改革というのを,どんどん推し進めて,まさに企業と企業が競争している,というような状況がいま盛んに出てきている。
企業の中には残業を減らせばいいというところに留まっている企業など意識的にかなり差がついている。まさにこの働き方改革をきっかけに,企業の従業員の満足度とか,企業全体のパフォーマンスをどう上げていくかという事は,それぞれの企業,特に大企業にとってものすごく大きな課題である。単に労働時間だけ減らして,あとの条件が変わらなければ,企業にとっても従業員にとっても,それは損失だと。そうすると労働時間を減少させるなかで,時間当たりの生産性をどのように向上させていくのか,という事を考えていかないと,従業員も企業にとっても「ウィン・ ウィン」の関係になる,働き方改革というのは難しい。そうなると働き方改革と生産性向上をいかに両立するのか,という事が大きなポイントになる。
働き方改革と生産性向上を両立させるというのは,この2つの視点でより重要である。1つは,いかに時間当たりの生産性を高めていくのか。効率性を高めることである。筆者はそのなかでICTの活用というのが,非常に重要だ と考える。業務・仕事の内容とプロセスを見直していくうえでも,これが重要。
2点目は創造性を高めるということで,生産性,まさにイノベーションを起こす,新たなアイデアを発現させる,こういった視点が重要。その1つとして,私は時間とか場所にとらわれない働き方で集中力を高めるという事が大事で,テレワークということもそのような視点からやるべき。それからき高プロと言われている,ある特定の専門的な年収1千万 よりも超える方々,労働時間規制の適用除外,例えば残業をしても残業代が出ないとか,こういう制度も運用されていく。 これも1つ同じ時間・場所にとらわれない働き方の1つとして,より創造性の高い仕事をするというように位置づけるべきだ。
生産性を向上させるために文献内で導入すべき案
勤務間インターバル制度,就業から次の始業まである一定時間,EU では11時間取るという事が定められている。(情報労連:KDDIなど)労働時間貯蓄制度、ICT活用によるインプット可視化、アウトプットは紙文化をなくすこと(デジタル化で誰が何をやっているのか、プロセスを可視化し、アクセスしやすくする)仕事の標準化、業務の棚卸し・見直し、テレワーク→創造性を要する仕事にはなお有効。健康経営、正社員の多様な勤務体系に関する部分で,短時間勤務正社員,労働時間限定正社員,職務限定正社員。RPA、社外取締役、女性社外取締役の比率が高い,社会貢献活動、健康ケア、LGBT への対応など
<総評>
働きやすい職場と、女性や性的マイノリティの問題は切り離すことができない問題となっている。今回は対象が大企業中心となっており、全ての企業に通じるわけではないが、一モデルとしてやはりICTの導入は必要不可欠である。
2024年4月25日
安田宏樹(2012)「管理職への昇進希望に関する男女間差異」『東京大学社会科学研究』 64巻1号 p 134-154
<内容総括・選択理由>
今回は、非常に古い論文にはなるが、実際のところ女性管理職を増やす道筋は1年の研究を通して、大枠にはなるが以下の通りと考えた。
現状:女性管理職が少ない→課題(GAP):周辺環境の整備:結婚・妊娠・出産などライフステージに合わせた対応ができる企業を1つでも多く増やし、長期的に同じ企業にいることができる仕組み→女性も男性同様に信頼を得ることができる→女性管理職の増加→理想:女性管理職割合を気にすることなく、男女が勤続年数関係なく、実力で経営層になることができる社会
今回は、反対に、実際に女性管理職になりたくない人もいる背景を掴む文献を選択した。どのような特徴を持つ正社員の昇進希望が強いのか、どのような特徴を持つ正社員の昇進希望が弱いのか(20代が研究対象)をデータから導く文献となる。
<内容>
内閣府の『平成24年版男女共同参画白書』から我が国の役職別管理職に占める女性割合(2011年)をみると、 民間企業の係長相当職で15.3%、課長相当職で8.1%、部長相当職で5. 1%と年々増加傾向にあるものの、管理職の大多数は男性が占めていることが分かる。
筆者の文献やその他調査によると、女性は男性よりも昇進希望や昇進意欲が低いことや、我が国の均等法以後に入社した総合職女性においても管理職になりたいと考える女性よりも管理職になりたくないと考える女性の方が多いことが明らかになっており、 将来の管理職候補である総合職女性においても昇進意欲は低いことが見出されている。
日本の労働市場では雇用主の嗜好に基づく女性差別による女性の過少雇用が存在することを見出している。また、別の文献では日本の製造業において、 女性役員が増えること、女性役員がいること、女性課長がいることが企業の収益性を高めており、嗜好による差別理論と整合的な結果を得ている。 さらに、女性正社員の管理職昇進機会が大きい企業ほど、 従業者の週労働時間1時間当たりの売上総利益(粗利)が増加する傾向が見られることを指摘している。 一方、「再雇用制度の存在」や「男女の勤続年数格差が小さいこと」などの企業固有の要因が女性比率と利益率をともに引き上げることを見出している。
女性のライフコースは仕事中心型、家庭中心型、適応型の3タイプに大別される。そして、およそ10~ 30%が仕事中心型、10~30%が家庭中心型、40~80%が適応型であると指摘している。 実際に、我が国においても女性の理想のライフコース(18~34 歳の未婚女性が対象)を見ると、仕事中心型(DINKS コース+非婚就業継続コース)が 8.2%、家庭中心型(専業主婦コース)が19.7%、適応型(再就職コース+両立コース)が65.8%となっている。このように女性は多様なライフコースを選好しており、仕事中心型の女性が多くないことが労働市場における女性の管理職比率を反映している可能性がある。
女性よりも男性の方が競争的報酬体系(トーナメント制報酬体系)を選択する確率が高いことや男性の方が女性よりも自信過剰であることなどが明らかにされている。 これらの研究から示唆されることは、労働市場において女性の管理職比率が低い背景には、女性が管理職に昇進すること(≒競争すること)を望まないという, 女性の選好や志向が影響している可能性がある。
均等法以後に入社した総合職女性においても、その多くは管理職に就くことを希望していないことを確認している。筆者の別文献からは、管理職に「なりたい」とする総合職女性(21.89%)よりも管理職に「なりたくない」とする総合職女性(32.70%)の方が10ポイント以上多い(「わからない」が 45.14%, 無回答が 0.27%となっている。
企業が合理的に行動すると仮定すれば、企業に利益をもたらす能力の高い 人材が昇進すると考えられ、競争に対する嗜好や自信過剰度だけで男女の管理職比率の違いを説明できるわけではない。特に日本では2011年においても大学・大学院卒の割合 は女性(22.0%)よりも男性(37.1%)の方が高いため、現在の課長相当職, 部長相当職における男女間格差は教育年数などを反映した結果であると考えられる. しかしながら、女性の4年制大学への進学者は増加の一途をたどっており, 今後の女性管理職の増加の素地はできつつあるといえる。そのような人的資本の蓄積に対する男女差が縮小している現在においては、女性が管理職への昇進を望むか否かが将来の管理職数を占う重要な要素になる。
結果、男性よりも女性の昇進希望はかなり弱い。課長クラス以上への昇進希望」は個人属性や企業属性などさまざまな要因をコントロールしてもなお女性よりも男性の方が約 34 ポイント強い。 また、昇進希望を規定する要因は男女で大きく異なる。女性正社員の場合、自身がスペシャリストタイプの社員であると認識している女性は管理職希望が弱く、面倒見の良い上司の下で働く女性は管理職希望が強い。一方、男性正社員 の場合、チーム作業である仕事や職場で働く男性の管理職希望が弱く、反対に裁量性の高い仕事や職場で働く男性の管理職希望が強い傾向がある。
そして、男女ともに観察された結果として、仕事と生活の調和が取れていないために昇進希望が弱くなるという関係は見られなかった。 仕事と生活の調和を図る施策も重要な施策であると考えられるが、本文献の分析からは、 管理職希望との明確な関係は得られなかった.
女性管理職を増やすための施策は、自分自身を「特定の分野で特に活かせる能力を持ったスペシャリストのタイプ」だと考える女性は、「多様な分野で活かせる能力を持ったジェネラリストのタイプ」だと考える女性よりも昇進希望が弱いことから、専門職志向の強いスペシャリストタイプの社員も管理職に就けるような人事制度の見直しが女性管理職の増加に寄与する。 日本企業の多くでは、ジョブローテーションや配置転換を通じて幅広い仕事経験を積むジェネラリストタイプの社員が昇進し管理職に就くことが一般的であるが、女性管理職の増加策を考えるためには昇進構造を見直し、スペシャリスト志向が強い社員も専門部署などにおけるプレーイングマネージャーなどの管理職に就くことが可能となるような職場環境の見直しが必要である。
また、女性の場合、上司の役割が昇進希望に影響している可能性があるため、面倒見の良い上司を管理職候補の女性の上司に就けることや研修や教育によって女性部下の面倒を良く見るように働きかけることも管理職候補の女性の管理職希望を強める効果が期待できる。
<総評>
この間の書評の時間に指摘された教育上の問題もあると見受けられた。女性はこうあるべき、男性はこうあるべきと知らないうちに固定観念化されている可能性が高い。教育までは幅が広すぎるため、今回は即効性のある仕事をしていくうえで、管理職になりたいと思うことができる環境構築について考えたい。
2024年5月2日
佐藤洋子(2020)「女性活躍推進を進める企業で 女性が管理職になりたがらないのはなぜか 小売業 X 社における管理職志向のない女性正社員の語りから」『労働社会研究』21号 p23-42
<内容総括・選択理由>
前回までは、女性が管理職になることができない現状、そしてなりたくない背景を調査し、そこからクオータ制など打開策についてこれまで検討してきた。今回は特定の業界に絞り、なぜ女性が管理職になりたくないのかより文献調査を通して深めていきたい。
<内容>
役職者に占める女性の割合は部長級で6.6%、課長級で11.2% であり、依然として低い水準となっている(内閣府2019)。X社での調査は、2018年2月にX社女性活躍推進プロジェクト担当者に対して行った聴き取り調査と、2018年4月から6月にかけてX社本社、各店舗で働く従業員25名(女性21名、男性 4名)に対して2度聴き取り調査が行われた。
なぜ女性の管理職が少ないのか→昇進意欲(前回文献)or 性別職務分離:職場で男女にわりあてられる職務が異なることが、昇進やキャリア形成の男女格差をもたらすとされている。あるシステムエンジニアは、同一待遇で採用されたシステムエンジニアであっても、女性には「こつこつ行う」データ変換やシステム開発のサポート、女性が行ったほうが「場が和む」と考えられている拡販デモなど「女性用」の職務がわりあてられる。女性が行う職務は男性が主として行う職務 に比べて周辺的であるがゆえに、女性には職務を通じた知識やスキルが十分に与えられず、その結果、男性が女性より昇進していく傾向がある。銀行も同様で、1960年代から 90年代の都市銀行では、大卒男性が「融資」や「得意先」に重点的に配置され支店長に必要な能力を形成する一方、女性は「出納」や「預金」、「テラー」などの「女性職」に配置され、異動を通じた能力育成機会が得られず、管理職に昇進することは稀であった。1990年代後半以降の「女性活用」は女性の管理職を増加させているものの、女性をリテール業務に誘導する「女性活用」が新たなキャリア格差を生成している。
X社は1960年代に設立し、ショッピングセンター、GMS、スーパーマーケット等100 店舗以上を 展開する企業であり、近年も新規出店や譲渡・継承物件への出店などを進めている。従業員数は、正社員約2,800 名、パートタイマー約6,100 名(8 時間換算)であり、正社員の男女 比は男性60.3%、女性39.7%である(2019年2月時点、X社ウェブサイトより)。「女性の活躍推進企 業データベース」で公表されている情報(2018年2月時点)によれば、正社員採用者に占める女性 の割合は45.1%である。正社員の平均勤続年数は男性16.6年、女性13.6年であり、女性のほうが3年短い。
X社における女性管理職は52名。女性活躍推進の取り組みを進め女性管理職は増えているものの、いまだ全管理職632名のうち8.2%を占めるにすぎない。女性管理職52名のうち店舗の 女性管理職は14名(店長4名、次長10名)とさらに数が限られている。本社勤務であれば勤務時間 が9時から18時で土日が休みであるため生活との両立がしやすいが、店舗では1か月ごとのシフト制で勤務時間帯も休日も定まっておらず、病欠者が出た場合に代わりに出勤するなどシフト変更が頻繁に起こるため、女性が管理職につきにくい。→X社では女性管理職を増やすための照準を出産前の比較的若い段階の女性 に定めている。出産前に管理職を経験していれば子育て後に管理職に復帰することも可能であるという言葉から、数値目標のために無理やり女性管理職を増やすのではなく、長期的な視野で女性管理職を増やそうとしていることが分かる。
女性主任8名のうち7名管理職になりたくない→正社員やパートタイマーの部下と一緒に売場を作り上げていくことにやりがい:次長に昇格すると一つの売場の責任者としてではなく、衣料品部門全体の 責任者として振る舞う必要があり、売場に関与しづらくなってしまうことから、売場づくりの楽しさ や売場責任者としてのやりがいがなくなる。
店舗管理職の労働時間や拘束時間の長さ:これまで接してきた上司の多くは、毎日長い時間店舗におり、休日も少ない働き方をしている。そのような長時間拘束される働き方はしたくないと彼女たちは考えている。もちろんX社でも大型店の中には管理職同士で早番・遅番のシフトを組み、管理職が長時間労働にならないよう工夫をしている店 舗もある。だが次長に昇格してすぐはたいていの場合小型店や中型店に配属される。管理職の人数が少ない小型・中型店舗ではそうしたシフト制をとることが難しく、長時間勤務せざるを得ない。
「行き詰まっている」、「もうなんか常にわからない」、「なんでこうなってしまったのか」:「結婚」という言葉がインタビュー中にたびたび現れる。実際には、1 ~ 2 年に1度転勤があり、 昼から夜にかけてのシフトで働く衣料品部門の主任の彼女たちは、結婚相手を探すことすら難しい。 結婚しないと強く思ってきたわけでもないのにいつの間にか結婚せずにいる自分。店長や管理職になりたいと思っていたわけではないのに、いつの間にか主任としてのキャリアを一定以上積んできた自分。いつの間にか選択肢がほぼなくなっている状況に直面していることが伺える。
政策レベルにおける「女性活躍」とは、国や地方の活性化や成長のために、①女性が労働参加すること、とりわけ指導的地位に占める女性を増やしていくこと、②子どもを産み育てること、の両方を求めることである。
X社であれば、独身で管理職として頑張る女性がマイナスにとられないような環境づくり、本社を含む複数の部署を経験していくようなキャリアプランの設定、子育て後の女性を管理職に登用する取り組み等が考えられる。その際、子育て後の女性を管理職に登用するためには、彼女たちの持つ段取り力や仕事を振る力、コミュニケーション力といった能力を評価する仕組みをつくり、時間的・空間的制約のある社員が活躍できる環境を整備することも欠かせない。 その後2018年秋にX社では、転居のない正社員制度が導入された。
<総評>
勝手に女性活躍は子供を育てながら、仕事を行いやすくする仕組みだと私自身も考えており、多様な背景を抱えている女性に対してまだまだ課題のあるシステムだと感じた。徐々に政府の政策としての検討も行いたい。
参考資料
フェミニストの主張を「不快」に感じるのはなぜ?SNSの論争からフェミニズムと男女差別の本質を探る | Kindai Picks
2024年5月9日
前半:2024年5月2日文献補足 後半:中間発表
佐藤洋子(2020)「女性活躍推進を進める企業で 女性が管理職になりたがらないのはなぜか 小売業 X 社における管理職志向のない女性正社員の語りから」『労働社会研究』21号 p23-42
なぜ女性管理職が少ないのか?→昇進意欲:労働政策研究・研修機構が実施した調査のデータ→個人属性や企業属性を調整したうえでも女性の昇進意欲は男性と比べて低い・積極的改善措置を熱心に実施している企業では男女とも昇進意欲が高い・女性管理職が多い企業では女性の昇進意欲が高い・仕事と育児の両立支援施策は女性の昇進意欲と有意な関係がなく、男性の昇進意欲とは負の相関関係が明らか・女性の昇進意欲を高めるうえで均等化施策が有効
労働政策研究・研修機構が2012年に実施した「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」のデータ→女性の昇進意欲を高めるうえで企業レベルでの施策実施の効果は限定的・職場における取り組みとして従業員が認知すること、とりわけ上司の部下育成にかかわるマネジメントのあり方が重要
女性新入社員の管理職志向に影響を及ぼす要因→入社1年目から女性は男性より管理職志向が低く、入社2年目にかけて女性は男性より管理職志向を失う傾向が顕著。また入社1年目 から2年目にかけて管理職志向を変化させた要因として、残業頻度や上司が熱心に育成してくれるという認識、将来のキャリアにつながる仕事をしているという認識、リーダーシップ力に対する自己評 価等の影響。加えて、女性が男性よりも「主に女性が担当する仕事」についている傾向があること、リーダーシップを求められない仕事についていることに着目し、そういった仕事の状況に管理職志向が影響される。
管理職になった女性たちの経験から、何が意欲を変えたのか?→ある研究では、大手スーパーの女性管理職者・専門職者へのインタビューから、 入社当時は強い目的意識もなく数年働いたら退職して結婚しようと考えていた女性たちが、売場を任され自らの工夫で売場を組織していく経験を得たことで、売ることの楽しさや売場を組織することの 楽しさを覚え、仕事に対する意識を変化させ昇進していったことが分かった。
X社における女性活躍推進
X社では以前から女性の活躍や両立支援に力を入れてきた。過去には厚生労働省の「均等推進企業」 や「ファミリー・フレンドリー企業」を受賞した経験があり、近年では「くるみん」マークや「えるぼし」認定(3段階目)も取得。仕事と子育ての両立に関する制度は、育児休業制度(満3歳まで)や育児短縮勤務制度(小学校3年生まで)、子育てや介護を理由に退職した職員の再雇用制度など充実しており、そうした制度は正社員だけでなくパートタイマーの従業員にも利用されている。
しかし、女性の管理職登用という面での女性活躍推進は十分に進んではおらず、2014年9月時点の女 性管理職比率は7.3%にとどまっていた。X社としてもこのように管理職に占める女性比率が低いことを課題ととらえ、2014年には「女性活躍推進プロジェクト」を設置し、2020 年までに管理職に占める女性の割合を20%にすることを目標とする取り組みを始めた。このプロジェクトでは、①制度の充実(両立支援制度の拡充)、②能力開発(研修制度の拡充)、③全体への周知(広報誌の発行等)、を3本柱に置き、女性従業員の定着、スキル向上と能力発揮、意識改革と制度周知に努めている。またX社では「働きがいのある会社」をめざし、男性社員を含めた働き方改革を同時に進めている。 担当者への聴き取りにおいても、短時間で成果を出しているのに十分に評価されていない社員がいるならば評価軸を変えることも必要。このようにX社の女性活躍推進プロジェクト は、女性管理職比率を20%に上昇させるという数値目標が掲げられているものの、女性だけでなく従業員全体が仕事と家庭を両立しやすい環境をつくること、男性社員も含めた働き方改革を念頭に置いた取り組みである。
X社管理職昇進要件:①管理職登用検定に合格すること、②ライセンス要件を満たすこと(販売士2級と社内ビジネススクールの受講)
出産前の女性を管理職に登用するための施策→「女性リーダー育成研修」と「ライフプランセミナー」→「ライフプランセミナー」は入社3年目の女性従業員を対象に2017年から実施している研修であり、自身のキャリアプランの設定やX社の両立支援制度の説明などが行われる。2014年から行われている「女性リーダー育成研修」は、女性活躍推進プロジェクトの中心に置かれる取り組みであり、管理職候補とされるある程度キャリアを積んだ女性主任を集め、キャリアアップ志向の醸成やスキルアップを図るための研修が行われる。女性リーダー育成研修には、聴き取り時点で20代後半から40代前半までの女性のべ70名程度が受講している。受講者の中には子育て中の女性も含まれているが、中心は30歳前後の独身女性である。→それでも研修内アンケートで管理職になりたいと答える人は1割→5月2日内容
管理職になりたい人・なりたくない人(キャリアの途中でなりたくなくなった人・もともと高い昇進意欲を持っていない人→この人がX社には多い)
X社の女性活躍推進プロジェクトの本質的な問題点→男女とも仕事と家庭を両立しやすい環境、すべての人が働きやすく活躍できる環境(長期的に女性管理職を増やす)→育児と仕事を両立する女性ばかりが理想的な姿として示されている→独身で働く女性主任たちは自らの存在を肯定されていない→「結婚し、子育てをし、管理職になる」ことが目的化している。→一般社員として働いている以上(転居を伴う異動が1 ~ 2年ごとにあり、昼から夜のシフトで働く女性主任たちの働き方とは矛盾)ライフプランとキャリアプランを予想して建てることは不可能。*は勤務地限定社員として働く女性社員が異動範囲に制限のない社員区分に戻り管理職になることも難しい。
一方で、女性のこれまでの勤務経験の中で具体的に上司が自分のふるまいを評価してくれたことについては数少ない中でのエンパワーメント効果を生み出していた。
まとめ
現在のX社の女性管理職登用の取り組みは、独身女性を管理職に登用し、その女性たちを出産・子育て後に再び管理職にするという想定→女性をマミートラックに乗せず、子育てしながらでも管理職として活躍できる環境を目指す→しかし実際にはこれは勤務地限定社員の縮小と併せて進められている→X社で想定されている女性活躍の姿が「結婚し、子育てをし、管理職 になる」ことだが、対象となる女性主任が結婚することは困難である。1~2年ごとに転居を伴う異動があり昼から夜のシフトで働く彼女たちが結婚相手を探すことは難しく、結婚を理由とする勤務地限定社員への転換ができなくなったここともより困難に。結婚し子どもを産み育てることのプレッシャーと管理職として活躍せよというプレッシャー、その両者の間で彼女たちは戸惑い、管理職になるという選択をとらない。また、勤務地限定社員の規模を縮小させ子育て後の管理職を増やそうとする方策は、正社員に時間的・空間的制約なしに働くことが求め られる限りにおいて、子育て中の女性社員に受け入れられることは難しい。正社員として働くことが難しいと感じた彼女たちは、パートタイマーとして働くか退職することを選択する。
2024年5月16日:中間発表
社会的意義・目的・仮説
「女性版骨太の方針」 2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指す。 2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促す。
⇓
女性は望んでいるのか?(ロールモデルとしては適切だが)
⇓
社会活動を積極的に行っていくためにも、クオータ制導入をすぐに促すのはいけない。
まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー 平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?
仮説
まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー 平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか? ⇓
周辺環境の整備→待機児童問題の解消・働き方改革・男女雇用機会均等法 ⇓
女性も男性と同じ環境で働くことができる社会 ⇓ 自然と女性は会社に長く在籍しやすくなる
⇓
責任ある仕事(管理職)の数値面でも上がる
現在の進捗状況:働き方改革と生産性の両立
通常なら10時間かけて行う仕事を働き方改革によって8時間で行う必要が出てくる
鶴(2020)は2つの視点が重要だと定義
1.効率性(いかに時間当たりの生産性を高めていくのか)→ICTの活用(自動化機能の導入)
2.創造性を高め、新たなアイデアを発現させていく→時間・場所にとらわれない働き方で集中力を高める
働き方改革は、画一的に残業時間を減らせばよいのではない。 様々な人が多様な働き方をできるというところが、一番の根幹となる。
多様な働き方とは?
勤務間インターバル制度→就業から次の始業まである一定時間,EU では11時間取るという事が定められている。(情報労連:KDDIなどの企業)
労働時間貯蓄制度 ICT活用によるインプット可視化・アウトプットは紙文化をなくすこと(デジタル化で誰が何をやってい るのか、プロセスを可視化し、アクセスしやすくする)
仕事の標準化 業務の棚卸し・見直し
テレワーク→創造性を要する仕事にはなお有効。
健康経営 正社員の多様な勤務体系に関する部分で、短時間勤務正社員、労働時間限定正社員、職務限定正社員。 RPAの導入、社外取締役、女性社外取締役の比率が高い,社会貢献活動、健康ケア、LGBT への対応など
なぜ女性は管理職になりたくない?➀
安田(2012)・佐藤(2020)
女性の昇進意欲が低い 仕事中心型(DINKS コース+非婚就業継続コース): 8.2% 家庭中心型(専業主婦コース)が19.7% 適応型(再就職コース+両立コース)が:65.8%
⇓
仕事と生活の調和が取れていないために昇進希望が弱くなる関係は見られない 教育? 専門職であると認識している女性は管理職希望が弱い→今の仕事にやりがい?
⇓
女性の昇進意欲を高めるうえで均等化施策が必要不可欠
なぜ女性は管理職になりたくない?➁
佐藤(2020)
ある小売業X社:100店舗以上展開 全管理職632名のうち52名(8.2%)→女性管理職を増やすための照準を出産前の比較的若い段階の女性に定めている。出産前に管理職を経験していれば子育て後に管理職に復帰することも可能であるため。
要因:従来通りの店舗管理職の労働時間や拘束時間の長さ・今の仕事に対するやりがい 「行き詰まっている」、「もうなんか常にわからない」、「なんでこうなってしまったのか」 実際には、1 ~ 2 年に1度転勤があり、 昼から夜にかけてのシフトで働く衣料品部門の主任の 彼女たちは、結婚相手を探すことすら難しい。
なぜ女性は管理職になりたくない?➂
X社の女性活躍推進プロジェクトの本質的な問題点
男女とも仕事と家庭を両立しやすい環境 全ての人が働きやすく活躍できる環境(長期的に女性管理職を増やす) →育児と仕事を両立する女性ばかりが理想的な姿→独身で働く女性主任たちへの否定 →「結婚し、子育てをし、管理職になる」ことが目的化している。→一般社員として働いている以上(転居を伴う異動が1 ~ 2年ごとにあり、昼から夜のシフトで働 く女性主任たちの働き方とは矛盾)ライフプランとキャリアプランを予想して計画建てることは不可能。
今後の課題
企業や政府、日本全体としての女性活躍に対する本質的な課題
女性活躍政策=①女性が労働参加すること・女性管理職増加 ②子どもを産み育てることの両立=国や地方の経済活性
⇓
女性にばかり社会全体で負担を求めているのではないか? 男性も家事育児が制度面で当たり前と言われる社会を目指す必要がある
やってもらってあたりまえの社会も合意形成は得られない
職場では誰かに“子持ち様”のように働く子育て社員のしわ寄せが一部社員に押し寄せるケー スが多発している
⇓
人手不足の日本市場では、誰かが自己犠牲になる可能性が出てくる(win-winは不可能)
⇓
三井住友海上火災保険:育休を取得した社員の同僚に一時金を支払う
業務のカバーをした社員に対して手当の給与や高く評価する企業の人事評価制度改革
政府は育児休暇の多い企業の同僚社員に、一時金を補助する制度上の仕組みが必要
中間発表・フィードバック
今後オリジナリティを出すために企業に対してヒアリングを行ったり、女子大学生にターゲットを絞り、管理職になりたいのかみたいなアンケートを取るのもよい
女性の社会進出を目指す上で労働時間の削減は不可欠だと思うが、ICTなどでカバーできない部分もあるから、それをどうするかは大変だと考える。
管理職を希望しない女性に対して、なぜ女性の管理職を増やそうとしているのか?ライフプランとキャリアプランの両立の難しさの示唆出しとして、クラウディア・ゴールディン氏「なぜ男女の賃金に格差があるのか:女性の生き方の経済学 」が参考になるかもしれない。
2024年5月23日
大石亜希子(2023)「少子化対策としての男性の家事・育児促進:その有効性と課題」『社会保障研究』8巻3号p295‐307
<内容総括・選択理由>
現在、女性活躍=子育て+管理職(仕事で活躍)など、女性にとって求められるものが非常に多くなっている。そんな現状から今回は、男性にも積極的参加→当たり前を目指すそんな社会形成を行っていくために、家事・育児両面の促進について書かれた文献を調査する。
<内容>
2022年の日本の出生数は統計調査開始以来初めて80万人を割り込み,同じく出生率も1.26と最低記録を更新した。これを受けて政府は「少子化は,我が国が直面する,最大の危機である」として「こども未来戦略方針」(2023年6月)を閣議決定し,児童手当や育児休業制度の拡充を含めて従来とは次元の異なる少子化対策を実施する方針を明らかにした。同方針では,こども・子育て政策 を推進するうえでの「乗り越えるべき課題」の1つとして,男性の家事・育児関連時間の短さと,それが結果的に女性の「ワンオペ」育児を招いている現状を挙げている。この課題を克服するため に,同方針では社会全体の意識変革や働き方改革を実施し,固定的な性別役割意識から脱却する必要があるとしている。
育児時間の国際比較データで,日本の子育て期の男性の家事・育児時間が,日本よりも出生率の高い欧米諸国と比較して大幅に短い。また、「21世紀成年者縦断調査」(厚生労働省)の再集計結果では、例えば 平成18(2006)年版少子化社会白書では,①夫の休日の家事・育児時間が増加した夫婦では高い割合で子どもが生まれている,②夫の一日あたりの 仕事時間が10時間以上の夫婦のうち,夫の仕事時間が減少した夫婦ではより高い割合で子どもが生まれている,などの結果を引用し,少子化対策の観点から男性の育児参加の拡大が必要としている。
政府は,男性の家事・育児関連時間の長さを政策目標にしている点で,家庭内における家事・育児分担の平等化よりも女性の時間制約の緩和(とそれによる女性の労働参加の増加)を目指しているとみられる。
6歳未満の子どもを持つ日本の男性の家事・育児関連時間は5年間で31分の増加にとどまっており(2016年:1時間 23分→2021年:1時間54分)この増加ペースでは, 出生数への影響は限定的なものとなりそうである。少子化対策の観点からは,より大幅かつ継続的な男性の家事・育児関連時間の増加が求められる。
近年,父親の育児休業が男女間の家事・育児分担に及ぼす効果が注目されている。カ ナダ・ケベック州では2006年から男性のみが取得できる5週間の育児休業(いわゆる「パパ・クオータ」)が実施されるようになった。ある分析では,「パパ・クオータ」の施行後に子どもが生まれた父親たちの家事時間は3年間で15分,育児時間は22分増加していた。さらに,「パパ・ク オータ」の施行前に子どもを持った父親たちについても,制度施行後3年間に家事・育児時間が増加する傾向が観察され,結果的にケベック州では父母間の家事・育児分担が以前よりも平等化した。 これは「パパ・クオータ」が社会規範を変えたことに加えて,母親たちがより仕事にコミットするようになったためと解釈されている。
同様に,2007年に2週間の有給父親育児休業を導入したスペインでも,父親の育児時間の増加と 母親の市場労働参加の増加が観察されている 。さら に,ドイツ で2007年に導入された2か月の有給「パパ・クオータ」は,父親による日曜日の育児時間と平日の家事時間を増加させる効果があったと報告されている。しかも父親の家事・育児時間へ の影響は育児休業中に限ったものではなく,子どもが6歳の時点でもなお有意な増加が観察されている。 先進諸国の中でも父親育児休業制度が充実している国として日本や韓国をあげながら,これらの国々で父親育児休業制度が望ましい効果をもたらしていないのは,社会に根強いジェンダー規範があるためだと考えられる。父親の育児への関与は周囲の父親たちの行動に影響され、希望子ども数も職場の同僚に大きく影響されることを踏まえると,男性の育児休業取得を促進するとともに,社会規範の変革をもたらすような強いメッセージを政府が出すことは有効と考えられる。
他方,高学歴の父親ほど,労働時間が長いにもかかわらず育児頻度も多いという観察事実を踏まえると,政府による男性の家事・育児の促進は, 父親の子どもと過ごす時間の差を通じて子ども間 の格差拡大をもたらす可能性がある。男性の育児休業取得推進と育児休業給付の拡充も,格差拡大への影響を考慮しつつ,不利な立場にある子どもへの給付などの施策と合わせて実施する必要がある。
<総評>
政府の政策というよりかは、現状を踏まえた海外が取ってきた政策の紹介になっていた。だからこそ、次の文献では、より企業や政府が行うべき政策について着目したい。
2024年5月30日
中村艶子(2020)「人手不足下の女性活躍と人事労務管理 ーダイバーシティ&インクルージョンに向けてー」『労務理論学会誌』29巻p39-52
<内容総括・選択理由>
今回は、企業の人事目線での男女格差・解決法についての調査及び、女性活躍が求められる要因である人手不足といった面から文献調査を行いたい。
<内容>
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(2018年11月)によると、34.1%の企業が「非正社員 」レベルにおいて、「正社員」レベルでは52.5%(前年度比3.4%増)が人員不足だと回答している。規模別でみても、大企業の60.8%、中小企業の50.3%の過半数を上回る企業が人手不足だと回答し、人手不足は調査開始以来最高となっている。このように過去最高 となった憂慮すべき人手不足の原因は働く世代の人口減少に起因すると考えられる。確かに人口減少は人手不足となる一つの要因であり、人口減の推移をみれば労働人口の減少はゆるぎない事実である。しかし注目すべきは、現在生じている人手不足の原因が、そのような人口減によるものとは内容を異にしている点である。 総務省「労働力調査」によると、1975年の就業者数は5223万人で、その後、就業者数は増加し、2018年(11月)の就業者数は6713万人となった。実際にこの数は高度経済成長期やバブル期よりも多く、就業者数からみれば、現在の人手不足は単に人口減のみに起因するものではない。
この人手不足の原因は、むしろ労働供給が雇用情勢に追い付いていない状況によるものである。それは「未充足求人」(事業所において欠員が生じ、仕事があるにもかかわらず、その仕事に従事する人がいない欠員補充のために行う求人)によって、ある程度裏付けられる。 厚生労働省「雇用動向調査 」によると、未充足求人は2009年から継続して増加し、2009年には254.1千人、2017年は1207.8千人、2018年(6月末日現在)では149.7千人増加して1357.5千人に上り、欠員率は2.7%となっている。(参考:パートタイム労働者は578.0千人(欠員率4.4%))実際には、仕事があるにもかかわらず欠員状態が増加している。 就業者数は過去最高で、かつ仕事もある状況の中で、仕事に従事する人材はそのポジションに適用されていない。そのような労働供給との不均衡が、現在の深刻な人手不足を招いている。そういう状態であるため、「89%の日本の雇用主が必要な人材を見つけられない」と、マンパワーグルー プ『2018年人材不足に関する調査』では回答している 。
さらに、この未充足求人を上記の雇用動向調査の業種別でみると、2018年(6月末日現在)での未充足求人数は、「卸売業、小売業」が28万人、「宿泊業、飲食サービス業」が24万人である。また、「医療、福祉」では7万人増、「卸売業、小売業」では6.5万人増と増加率が高く、欠員率については「宿泊業、飲食サービス業」が5.4%、「建設業」が4.8%と高い。 これらの人手不足業種が求心力を欠いている理由の一つとしては、仕事内容と待遇の不釣合いが考えられる。産業別・男女別平均給与をみると、「卸売業、小売業」、「飲食店、宿泊業」「医療、福祉」の平均給与はいずれも下位を占め、低報酬の業種は人手不足業種と合致している。つまり、給与が希望に見 合わず、従事する人材が不足していると示唆される。また、収入以外の長時間労働や職場環境といった働きやすさの影響もある。
全就業者数の増加同様、女性の就業者数は顕著に伸びている。総務省「労 働力調査」によると、1975年の就業者数5223万人のうち女性は1953万人(37%) であったが、2018年11月には女性就業者数は全就業者数6713万人中2946万人と史上最高となっている。全就業者数における女性就業者は44%を占め、労働市場における男女比率は同等に近づく方向にある。
女性が従事する割合の高い業種は、男性に比べて給与報酬が低く、人手不足業種が多い。平均給与を総務省「労働力調査」の2017年平均での産業別就業者数と併せてみると、男性就業者の46%が①「製造業(734万人20.0%)」:36万3300円、②「卸 売業、小売業(523万人、14.2%)」:36万7600円、③「建設業(422万人、11.5%)」:38万400円に従事し、次いで運輸業、郵便業:33万8100円等が続く。 一方、女性就業者の場合は、52%が①「医療、福祉(613万人、21.4%)」:27万 2800円、②「卸売業、小売業(552万人、19.3%)」:24万6500円③「製造業(317万人、 11.1%)」:32万500円で占められ、次いで「宿泊業、飲食サービス業(240万人、8.4%)」: 21万4100円「教育、学習支援業(181万人、6.3%)」:31万4200円が続く。このように、 男女の職域は異なる傾向が今もあり、給与格差もある。
男女の明瞭な職域格差のある状況下で女性活躍を一層推進する条件は以下のように考えられる。 まず、男女の給与格差縮小である。給与体系が低い人手不足業種においては、 給与報酬体系と職場環境の見直しを図り、求心力を持つ必要がある。低賃金が是正されない限り、働き方の柔軟性も促進されにくい。働き方も含めた処遇改善によって優秀な人材が効率良く働けるようになり、好循環が生まれて長期的 に利益回収が可能となる。 女性従事者の比率の高い人で不足業種の中には、例えば保育従事者(保育士)がある。保育士の待遇がどのようであるかをみれば、人手不足時代の労働市場 の需要と供給関係が顕著に表れているとわかる。
2016年時の保育士の平均月給は約21万円で、上記産業別平均給与データで見ると、宿泊・飲食業とほぼ同等の賃金水準である。これは、女性の平均賃金が製造業:32万500円、教育、学習支援業:31万4200円と比べると約10万円の差があり、人手確保が難しくなる要因の一つであった。
しかし同年、特に待機児童問題が大きくクローズアップされてからは、人手不足解消のために大手保育サービス企業を中心として保育士の給与引き上げが次々に行われた。保育士の需要は高く、給与引き上げ基調にある。例えば、大手保育・介護サービス企業の株式会社ポピンズホールディングス では、2019年4月、東京都・神奈川県・千葉県など首都圏の保育所で採用する保育士の新卒初任給が保育サービス業界トップの大学卒260000円~(4年生大学新卒、経験考慮のうえで決定)へと引き上げられている 。
このように、キャリアや能力に応じて給与を引き上げ、人員確保、離職防止や「潜在保育士」の復職を促している。 女性は育児理由によりパートタイマー化する傾向が高いため、専門性を高め、効率良く働く専門性のある人材としてキャリア形成をする必要がある。そうす れば、より高報酬のポジションに就くことが可能になる。パートタイム、フルタイムを問わず、ワーク・ライフ・バランス(あるいはインテグレーション)を図り柔軟な働き方ができれば、継続就業がしやすくなる。
具体策としては、人手不足下の女性活躍と人事労務管理就業希望者たちの出産や育児理由による労働市場からの離脱を回避するために、育児休業時の柔軟性や、保育支援の利便性を高め、再雇用も含めて継続就業を容易にする制度を充分に整備し、利用可能とすることである。職場のキャリア形成制度では、パートタイムとフルタイム間の転換制度やキャリア関連の研修を充分に利用できるよう、キャリア形成の強力な支援も重要である。
<総評>
データとして少し古いものにはなるが、原点に立ち返って、女性が多い業界・少ない業界、そして日本全体としては労働力人口が上がっているにもかかわらず人手不足が生じているのかといった未充足人口といった課題をもう一度一から整理することができた。
2024年6月6日
吉田航(2024)「ダイバーシティ部署の設置は企業の女性管理職比率を高めるか?」『組織化学』57巻3号p67-80
<内容総括・選択理由>
ここまで、日本における女性のキャリア形成の難しさということで、女性管理職が少ない現状に着眼点を付け、そのためには子育てとの両立・日本型雇用形態の課題解決を図っていくことが重要であると考えた。そして、その上で、韓国やルワンダで行われている議会内でのクオータ制を行うことが男女の雇用格差・ジェンダー平等につながる論文作成を行っていこうとしている。その上で、今回は課題解決の点で、国外企業で用いられ、国内の企業でも徐々に多様化が進んできたダイバーシティ政策に着目する。
<内容>
ESG投資の広がりも背景に、企業のジェンダーバランスは市場での関心も集めており,機関投資家による投資判断の重要な材料にもなっている。こうした圧力を受け企業は様々な対応に取り組んでおり,その1つにダイバーシティ推進を目的とする部署(ダイバーシティ部署)の新設がある。2000年代に,一部の有名企業が女性活躍を 目的とする専任部署の設置に着手し、2010 年代以降は,より広義のダイバーシ ティ推進を目指す部署が大企業を中心に普及している。こうした部署を設置している企業の多く は,ダイバーシティのなかでも「女性活躍」をめぐる領域に注力していると考えられる。本文献では、国内大企業によるダイバーシティ部署の設置が,管理職に占める女性の割合を高めるかどうかを検証する。
ダイバーシティ部署の設置の有効性は、①人事決定から差別を排除する施策(反差別施策)、②マイノリティに機会を提供する施策(機会提供施策),③ダイバーシティの結果を監視し,説明責任を負う施策(責任施策) である。反差別ポリシーの制定や,バイアスを軽減するための管理職へのトレーニングが①に含まれる。②機会提供施策は,人事決定の際に,属性に関する情報も考慮に入れる。②にはターゲット採用やアファーマティブ・アクションなどが含まれる。
そして、比較的最近に注目されはじめたのが③である。①と②が,ダイバーシティに関わる目的を達成するための手段であるのに対して,③は目的そのものに関わる。すなわち,ダイバーシティ推進に関わる目標の達成状況を監視したり,その達成に関して人事決定権者により多くの責任を付与したりする施策である。たとえば,管理職への人事評価基準に,ダイバーシティに関わる目標達成状況を含める施策が挙げられる。③責任施策の典型に,ダイバーシティ推進の担当者や担当部署・委員会の設置が挙げられる。
その中でも責任施策を4つに分類され,その1つにdiversity positionsがある。これは「組織のダイバーシティへの取組を監督する責任者を,組織のなかで一時的あるいは恒常的に任命する」施策であり, 専任部署もこれに含まれる。こうした担当者・担当部署の設置は,いくつかの面から,企業の多様性拡大に貢献する。まず, 専任担当が目標の達成状況を監視することで,ダ イバーシティ推進の状況が可視化され,より有効な取組が可能になる。加えて,専任担当者 は,ダイバーシティ推進に関わる専門知識を組織に導入する担い手としても機能する。こうした知識を援用して,企業の人事戦略と,ダイバーシティ推進を結びつけることも期待される。
実際に,英語圏の実証研究の多くは,部署の設置を含む責任施策が,管理職の多様性を高めることを明らかにしてきた。1971~2002年における米国の民間企業708社を分析した結 果,女性や黒人の管理職増加にもっとも有効なのが③であり,③責任体制を確立することで①や②の有効性も高まることが確認された。責任施策の有効性は,他の研究でも確認されている。ダイバーシティ担当の管理職を設置することで,人事施策の改革が管理職のジェンダー・人種多様性を高める効果はより顕著になることが示された。
そして、研究の結論として、ダイバーシティ部署の設置は,管理職に占める女性の割合を高めるとは言えない。国内の先行研究は,部署設置と女性管理職比率の間にポジティブな関連を見出してきたが,これは時代的なトレンドによる交絡を反映していた可能性がある。
ダイバーシティ部署設置の効果は組織間で均質ではなく,企業の特徴に依存して変化していた。ダイバーシティ・マネジメントの成功や,公式構造からの脱連結は,常に起きるわけではない。部署がおかれた文脈―ここでは組織の役員構成―に応じて,その効果も変化する。加えて、ダイバーシティ部署の設置は,単独では自社の雇用行動を改善するには至らない。これを支える経営層の存在があってはじめて,人事行動に効果を発揮する。行政側も,単に部署の設置を推奨するだけではなく,経営層の多様性向上も同時に促す必要があるといえる。ただし,女性の役員を内部から登用する場合, 女性管理職の少ない企業は一種のジレンマに陥る。部署の設置によって女性の管理職を増やすには,設置以前に女性役員の登用が必要になるが,その候補となる女性管理職の数がそもそも少ないからである。このとき,女性役員を外部から任用することは,ジレンマを打破する有効な手立てになりうる。
専任部署などの諸施策を導入する前に,女性役員を社外から任用することで,ダイバーシティ・マネジメントを効果的に進められる可能性を示している。また,女性役員に対するクオータ制の導入は,役員のみならず管理職への波及効果も期待できる点で,ジェンダー不平等是正への効果的な政策といえる。
<総評>
就職活動を通じて、多数の企業を見てきたがその多くにダイバーシティに関する部署が設置されていた。しかし、意思決定者である役員層などに多様な人材が居なければなかなか、この問題に対しては女性活躍の促進を作用させることは難しいと分かった。
2024年6月13日
川口章(2023)「女性管理職が増える企業と増えない企業 ─どこが違うのか─」『生活協同組合研究』565巻 p15-23
<内容総括・選択理由>
前週までは、政府施策の検討・ダイバーシティ施策について学んできた。今回は、企業比較を行うことによって、企業の女性活躍の在り方を考えていきたい。
<内容>
2003年に政府が発表した目標「2020年ま でに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を30%にする」は,達成できなかった。政府は第五次男女共同参画基本計画で目標を下方修正し,民間企業の役職者に占める女性割合の目標値を2025年までに,係長相当職30%,課長相当職18 %,部長相当職12%とした。
女性活躍が進まない中で、政府は,2015年に施行された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に期待している。この法律によって,2016年4月より常時雇用する労働者が301人以上(2022年4月より101人以上)の 事業主は,「女性の活躍状況の把握,課題分析」,「行動計画の策定」,「女性の活躍に関する情報の公表」が義務付けられた。
しかし、女性活躍推進法が施行されて7年が過ぎたが,女性管理職割合の上昇に関しては, 目立った改善は見られない。従業員10人以上の企業における「課長相当職に占める女性の割合」は,同法が施行された2015年には8.4%であったのが,6年後の2021年には10.7%と2.3ポイント上昇したにすぎない。 同法が施行される前の6年間にも2.3ポイント上昇しており,上昇が加速する兆しはない。1年あたりに換算すると0.4ポイント弱の上昇である。目標を達成するのに必要な1.1ポイントには程遠い。
女性管理職割合が上昇している企業と上昇していない企業の特徴を見る。ここで着目する指標は,「女性管理職割合」,「ワークライフバランス施策数」,「ダイバーシティ推進部署設置企業割合」,「40歳未満の女性従業員数に対する女性育児休業者数の割合」,「40歳未満の男性従業員数に対する男性育児休業者数の割合」の5つである。
その他、過去10年間の女性の育児休業取得割合の変遷からも相関関係は見出すことができなかった。しかし、男性の育児休業取得割合の10年間の変遷を見ると、女性管理職割合の上昇が大きいグループほど,すべての年におい て,男性育児休業取得割合が有意に高く, 上昇の度合も高い。つまり,女性管理職割合の上昇傾向が強い企業ほど,どの時点においても男性育児休業取得割合が高く,また,男性育児休業取得割合の上昇傾向も強い。 このように,女性管理職割合の上昇と男性育児休業取得割合の間に強い正の相関関係があることを示す。
上記の関連要因として、性役割分担の解消・WLB施策利用者への不満の解消・女性従業員の夫の育児参加の促進が挙げられる。WLB施策利用者への不満の解消については、「男性が育児休業を取得することで,育児休業を取得する女性に対する男性の不満や不公平感が小さくなる」 ことである。育児休業を取得すると,上司や同僚がそのしわ寄せを受けることが少なくない。女性しか育児休業を取得しない職場では,しわ寄せが男女間,あるいは子どものいる女性とそれ以外の人(男性および子どものいない女性)の間の軋轢となる。育児休業や育児のための短時間勤務制度を取得した女性が,取得しなかった人と同様に昇進したのでは,不公平感がますます高まる。このような不公平感を解消するために,企業は,育児休業を取得した女性には,配置や昇進におけるペ ナルティーを科す可能性がある。いわゆる マミートラックがそれである。子どもを産んだ女性は,昇進を諦めたものとみなされ,重要な仕事を任されなくなる。ところが,男性の育児休業取得者が増えることで,育児休業は性別に関係なく子どものいる従業員が取る制度となり,取得者に対する不満や不公平感が軽減される。それにより,育児休業を取得した女性に対する差別的処遇が解消されると考えられる。
また、女性従業員の夫の育児参加の促進については「職場の同僚男性が育児休業を取っているのを見た女性従業員が,自分の夫にも育児参加を促す」ことである。2010年頃には,男性育児休業取得者はほとんどいなかったため(2010年の男性育児休業取得率は1.38%), 自分の夫が育児休業を取らないことについて,疑問や不満を持つ女性は少なかったと思われる。しかし,2021年には男性の育児休業取得率が全体で13.97%,金融業・保険業では40%を超えている(厚生労働省2022)。企業によっては,男性も育児休業 を取るのが当たり前になった。同僚の男性が育児休業を取るのを見て,自分の夫にも育児休業の取得や育児参加を促す女性が多くなった可能性がある。夫の育児参加は, 妻の育児負担を軽減し,妻が仕事に割く時間や労力を増やす。それにより,昇進機会も拡大すると考えられる。
以上のことから、女性管理職割合の上昇を目指す企業は,むしろ自社における男性の育児休業取得に着目する必要がある。両者の間には,強い正の相関関係がある。男性が育児休業を取りやすい職場と女性が活躍してい る職場は,性役割分担の解消が進んでいる という共通点がある。女性管理職割合の上昇には,女性の家事・育児の役割分担を前提とした施策から,男女の平等な家事・育児分担を視野に入れた施策への転換が必要である。
<総評>
今回の文献から、卒論作成における最終着地点である男性の育児家事促進という方向性は女性管理職を増やしていく一つの施策として作用することが分かった。引き続き、調査を進める。
2024年6月20日
山田久(2021)「コロナショックが促すジェンダー平等 ~働き方改革・男性家事参画・女性管理職登用の再始動を~」『日本総研:山田久の視点』
<内容総括・選択理由>
今回からは、男性の家事促進に焦点を当てた文献調査を行う。その上で、より論理的な根拠を筋道立てていくために、シンクタンクの研究員の文献からより理解を深めたい。
<内容>
「シーセッション」と言われるように、新型コロナウイルス感染症の流行は女性の雇用に大きな打撃を与えたが、(2020年4月の2月対比の就業者数の減少幅は女性が75万人と、男性の41万に対して雇用喪失は1.8倍)その背景にはコロナ禍の負の影響が宿泊・飲食やレジャーなどの「対面型サービス」(シフト制労働者→非正規)に集中して現れ、正にこの分野に女性の非正規労働者が多く働いていたという事情がある。また、パンデミックは、感染リスクを抱えながら現場の最前線で働く各種エッセンシャルワーカーに女性、かつその非正規労働者が多いことを再認識させ、男女間や正規・非正規間の格差が諸外国対比大きいわが国の処遇制度のあり様を、厳しく問いかけることになっている。
また、パンデミックを機に多くの既婚女性が労働市場から退出する動きがみられたが、それは、女性労働力の「M字カーブ」が解消に向かうという、近年進んでいた望ましい動き が足踏みを余儀なくされていることを意味している。この背景には、育児をはじめとする家族に対する「無償ケア労働」が、わが国では特に女性に偏っているという事情が大きい。人口減少・高齢化の進行が予想されるなか、既婚女性の本格就労が妨げられることは、ますます希少になる国内労働力確保の面で大きな損失であり、社会保障財政健全 化の面でもマイナスでなる。
「シーセッション」や「少子化進行」といった、コロナ禍で噴出した諸問題の背景には、「性別役割の固定化」という日本社会の構造問題がある。「ジェンダー・ギャップ」の象徴は男女賃金格差が大きいことであり、その理由は①正規・非正規の賃金格差と女性の非正規比率の高さ、および、②男女間の賃金カーブ格差に求められ、これらはいずれも日本型の「就社型雇用システム」と「性別役割の固定化」を背景としている。すなわち、“終身雇用”を前提とする正社員雇用を守るため、非正規雇用との処遇格差が大きくなり、“終身雇用”と表裏一体の長時間労働・会社都合の転勤は、「男は会社・女は家庭」という性別役割の固定化を前提としており、女性の多くが非正規雇用で働くことになる。加えて、女性は正社員で働いても、結婚や出産を機に退職するとの想定のもと、 昇格・昇給が抑制されてきた。
これを解決するために、「就社型雇用システム」と「性別分業家族システム」の組み合わせは、男性現役世代の人口が減少基調に転じるなか、その経済的な成立基盤を失っている。今後女性に十分な機会を与え、積極的に登用して能力発揮を推進することは、日本企業の成長にとって不可欠の課題となっている。
コロナ危機は変革のチャンスももたらしており、とりわけ必要性が謳われながら遅々として進まなかったテレワーク(*ホワイトカラー業務が中心)が、一斉に導入されたことの意義は大きい。元来テレワークが求められるのは、現役男性人口の減少で女性やシニアのコア人材化・戦力化が必要になっているという事情がある。テレワークは、生活上の制約のもとで仕事との両立を可能にする有効かつ不可欠な仕組みであり、今後、テレワークにより柔軟な勤務体系を 提供できる企業とそうでない企業との間で、人材獲得力に大きな差がついていくだろう。
ジェンダー平等の実現・女性活躍の推進に向けて企業・個人の行動変容を促す政策的な取り組みとして、①「働き方改革2・0」の推進(長時間労働の是正を超えて労働時間の自主的な決定が可能な制度整備、教育訓練投資の男女機会均等の保証、出産・介護などのライフイベント発生時の就業継続支援措置の充実)、②男性の育児・家事参画の推進 (マスメディアによる啓蒙活動、働き方改革とセットでの男性の育児・家事参画の奨励→スウェーデンの「パパ・ママ・クオータ制」のように、父親が育児休暇を取得してはじめメ リットが享受できる制度の導入が検討されてよい)、③女性管理職比率引き上げ目標など企業統治面からのインセンティブ(コーポレ ートガバナンス・コードの改定を契機とする総合的な女性活躍促進策)が重要である。
在宅勤務の普及はそれ自体が男性の家事・育児参画を進める有効な機会になるが、「家庭内無償ケア労働は女性の役割」という固定概念が壁になる。東京都の調査によれば、家事分担の状況につい て、若い世代ほど「夫と妻で平等に分担している」と答える割合が高く、「妻がほぼ担っている」という割合は低くなっており、新しい世代は新しい意識を持ち始めている。とはいえ、男女間では認識に相当の差があり、男性は自分が家事を多く行っていると過大評価する傾向が窺われる。東京都生活文化局(2019)「男性の家事・育児参画状況実態調査報告書」p18 図 2-1-2では、男性の家事・育児への積極的に参画することについての考え方が変わってきたと答えた人に、 何が影響を与えたかを聞いている。「テレビ、新聞等メディアのニュース」(42.2%)が最も大きくなっており、マスメディアによる啓蒙活動を継続していくことが重要。そのほか「職場」 も19.1%が指摘しており、企業の経営者が女性活躍の必要性・重要性を正しく認識し、そのための条件である男性の育児・家事参加の意義を理解し、働き方改革とセットで社員に奨励することも重要となる。
<総評>
今まで、大学の文献を見てきて、今回は民間のシンクタンクの文献だったが、非常に経済的側面に着目しており、理想ばかりでなく現実面での制度的導入を検討することができた。
2024年6月27日
森川ゆり子「女性管理職は“適正”男女賃金格差を縮小させるか」『理論と方法』38巻2号p225-239
<内容総括・選択理由>
今回は、女性管理職を増やすうえでの意義を説いていくために、女性管理職を増やすことは今ある男女格差の中でも最も課題である賃金面での課題を是正するのかを、数値面から立証できるように考えたい。
<内容>
女性管理職増加による組織内男女賃金格差への影響を検討するため,大企業管理職を対象に適正賃金評価のサーベイ実験を行った。その結果,全体として女性労働者は低賃金が適正とされるが,相対的に女性管理職は女性労働者に高い賃金配分を行うことがわかった。具体的には Status Characteristics Theoryで予測されるように管理職は誰もが女性労働者の低賃金を適正とするが,女性管理職は相対的に男女平等主義的な評価をし,同等の男女労働者間における適正男女賃金格差が縮小する。このことは,性別地位信念は強固で男女賃金格差は持続するであろうが,女性管理職増加により組織内男女賃金格差は多少改善されうることを示唆している。
日本の男女賃金格差は22.1%と先進国の中でも大きい。雇用形態間だけでなく,正規雇用者間でも格差が大きく,正規雇用者間の格差は女性管理職の少なさによるとされるが(課長相当職以上の女性管理職比率は12.3%),役職や勤務年数を考慮してもまだ男女賃金格差は存在する。
男女賃金格差の、当論文での要因として誰もが女性労働者の低賃金を適正と認識していることが指摘されている。特に性別は異なるパフォーマンス期待を生み出す地位特性であり,男性が女性より有能であるという性別地位信念が社会で共有されているため,不利益を被る属性の人も現状を社会的事実として受け入れるとしている。また、企業管理職は人事考課を通じ間接的に部下の昇給や賞与に影響を与えており,人事評価は女性労働者に不利に働くことがある。特に組織内のジェンダー不平等は男性による組織的権力の占有に起因するとされる。
上記の画像のようなサーベイを行った結果、適正男女賃金格差は0.929で,女性労働者は同等の男性労働者より低賃金が適正とされた。回答者の多くは給与の決定要因として性別は重要でないと答えたが,誰もが暗黙のうちに女性労働者の低賃金を適正とし,労働者性別は適正賃金評価に影響を与える変数であることが示された。
また労働者性別が交互作用的に評価に影響を与えることも確認された。年齢が高いほどより高賃金が適正とされる傾向は女性労働者で認められにくく,また学歴や成果の低い達成,残業ゼロのペナルティが女性労働者で認められ やすく,同等の男性労働者よりも低賃金が適正とされた。個人特性が労働者性別により異 なる効果を持つことは二重基準として解釈することができ,単に企業管理職が把握する参照構造の賃金相場がそのまま反映されただけでなく,女性が低い地位特性であり低いパフォーマンス期待に結びつく。
続いて,管理職の性別により女性労働者への評価差があるかを確認した。男性管理職は女性労働者が同等の男性労働者よりも8.7%少ない賃金を適正としたのに対し,女性管理職は5.5%を適正とし,相対的に適正男女賃金格差は縮小した。女性労働者に不利な男女賃金格差は管理職の性別によらず存在するが,女性管理職は相対的に男女平等主義的な行動をとっている可能性がある。さらに労働者性別の交互作用的効果の程度は,評価者性別によっても異なることを示した。男性管理職には子持ち労働者評価が男女で異なる二重基準がみられたが,女性管理職に親情報が労働者性別により異なる効果を持つことは確認されなかった。女性管理職は育児責任を持つ女性労働者へのバイアスが小さい可能性がある。
企業管理職に対象を絞った当研究は,全体として女性労働者の低賃金は適正とされつつも,女性管理職の適正男女賃金格差は相対的に縮小することを示した。男女平等主義的規範や育児責任の理解により,女性管理職では緩和されている可能性がある。性別地位信念は強固で男女賃金格差は持続するであろうが,本結果は女性管理職が増えることで組織内男女賃金格差は多少縮小することを示唆している。この結果をふまえれば,女性管理職比率を引き上げる政策により,よりバイアスの少ない人事考課の実現に近づき,組織内の男女賃金格差の是正につながるかもしれない。女性管理職は組織内のジェンダー不平等を多少なりとも減少させる「変化の担い手」になりうるかもしれない。
限界として,日本企業の人事考課プロセスには複数の意思決定者が介在することから,女性管理職が現実の職場で賃金格差を実際に是正する力はないか もしれない。管理職に昇進できる女性は男性優位組織と親和的かもしれず,本結果は管理職の性差を過小評価している可能性もある。また企業規模・業種・職種を絞ると,固有の雇用慣行や職場環境の違い等によって異なる結果がみられる可能性がある。
<総評>
女性管理職を増やすことにより、男女間の賃金格差を是正する可能性があることを示す文献となった。期末発表・卒論作成において、しっかりと意義を示すためにも、引き続き文献調査を中心に行っていきたい。
2024年7月4日:期末発表
社会的意義・目的・仮説
市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指す。 2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促す。
⇓
女性は望んでいるのか?(ロールモデルとしては適切だが)
⇓
社会活動を積極的に行っていくためにも、クオータ制導入をすぐに促すのはいけない。 まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー 平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?
仮説
まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー 平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか? ⇓
周辺環境の整備→待機児童問題の解消・働き方改革・男女雇用機会均等法
⇓
女性も男性と同じ環境で働くことができる社会
⇓
自然と女性は会社に長く在籍しやすくなる
⇓
責任ある仕事(管理職)の数値面でも上がる
卒論:研究計画(大枠)
はじめに:問題意識・研究目的・仮説
第1章:研究背景・現状分析 日本における女性のキャリア形成の意義・課題(キャリアプラン:賃金格差・ライフプラン:転勤・ 長時間労働・管理職の役割)
第2章 企業に求められる役割 ダイバーシティ・マネジメント・実のある働き方改革
第3章 クオータ制 韓国・ルワンダ・国政での導入
おわりに:今後の課題
第1章:研究背景・現状分析
女性活躍の促進・女性管理職を増加させる意義・必要性
堀江(2017)政治面:女性政策の目的(安倍政権の策)
1.経済政策の一環として、労働供給増加を目指し、年金などの社会保障制度維持を維持する うえで、女性は潜在的労働力の必要性
2.生産性の向上を目指し、収入増加することからの消費拡大と共に、時代に合わせた新しい 価値観の創出を促す役割
3.規制緩和・雇用流動化策など雇用形態に変革
賃金格差
1.宿泊や飲食を始めとした対面型のサービス業→非正規雇用が多い
新型コロナウイルスの流行→内閣府男女共同参画局の調査では、2020年4月の3月対比の就業者数の減少幅は女性が70 万人と、男性の37万人に対して雇用喪失は約1.9倍となっている。
2.女性が従事する割合の高い業種は、男性に比べて給与報酬が低い 製造業の平均月収は36万3300円 医療・福祉の平均月収は27万2800円 保育士21万円 第1章:研究背景・現状分析 3.性別役割分業 内閣府(2019):女性の割合は部長級で6.6%・課長級で11.2% ・係長級で18.3% →その結果、女性が企業内で指導的地位に立つケースが少なくなり、賃金格差が広がる
しかし森川(2023)吉田(2022)から、女性管理職が多い企業は、権限の強い部長職以上に女性 が参入することで,福利厚生や在宅勤務などの企業内施策が充実し,定着率のジェンダー差を縮小させる力が働く
ESG投資の観点からのメリット・女性活躍のロールモデルとしての役割を女性管理職は果たす意義もある。
女性への負担
家事時間:夫114分・妻448分(総務省)
厚生労働省が行った令和4年度雇用均等基本調査
男性育休取得率 7.48%(2019年)→ 17.13%(2022年)
要因:男性が上司の理解・職場内の人手不足 →仕事と家庭の両立が難しく、女性が同じ職場で長く働くことができない 管理職になりにくい社会が形成
転勤・長時間労働→昇進昇格に影響 ライフ・キャリアプランの両立困難→人生の選択肢を狭めてしまう
結果、男女問わず、管理職になりたくない人増加
JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)2023年4月調査:77%管理職になりたくない
男女問わず、働きやすく・管理職を目指したいと思うことができる世の中にするには →ダイバーシティマネジメント(性別役割分業の解消) 働き方そのものの改革(山本2019より)が必要?
第2章:企業に求められる役割(仮) 秋学期では第2章を中心にまとめていく
女性が昇進できない要因
日本特有の雇用制度(転勤・長時間労働が前提となる終身雇用制度)
⇓
働き方改革関連法(2019) 時間外労働上限規制を罰則付の強化
⇓
範囲内で労使による協議によって実際の労働時間が決められる仕組み
時期や業種などでのさまざまな例外規定・上限の水準の甘さ
⇓
働き方そのものを改革することが重要(山本)
多様な働き方を実現することが重要:説明は割愛
勤務間インターバル制度
労働時間貯蓄制度
ICT活用によるインプット可視化
仕事の標準化 業務の棚卸し・見直し
テレワーク
健康経営
短時間勤務正社員
労働時間限定正社員
職務限定正社員
地域限定正社員
RPAの導入
社外取締役・女性社外取締役の比率増・社会貢献活動・健康ケア LGBT への対応など
ダイバーシティーマネジメント
欧米諸国:日本より先に経済が成熟。
標準化と価格競争だけを追求する経営 からの脱却(山極)経営構造に多様性を導入
⇓
これまで活かされてこなかった女性人材を登用
組織のパワーバランスを変える経営手法の確立
⇓
女性管理職を登用し、経営パフォーマンスを向上させる効果的施策
⇓
ドイツの上場企業160社 ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策を統合・推進 女性管理職・役員への登用を実現し、経営パフォーマンス向上が判明
企業や政府、日本全体としての女性活躍に対する本質的な課題 女性活躍政策 ①女性が労働参加すること・女性管理職増加 ②子どもを産み育てることの両立=国や地方の経済活性 ⇓ 女性にばかり社会全体で負担を求めているのではないか? 男性も家事育児が制度面で当たり前と言われる社会を目指す必要
第3章:クオータ制
クオータ制導入
女性が議員・管理職になるためには様々な障壁(性別役割分業・政党企業風土(政治家の場合)、女性のなり手の少なさ)が存在し, それを一つひとつ取り除くのにはあまりに時間がかかる。そのため に即効性の高いクオータ制を推奨→韓国・ルワンダの政治面での事例 政治・民間企業両面での導入を考える
今後の課題
人手不足の日本で実現できるのか? 働き方改革だけではどうしても限界
↓
職場では休んでいる社員のしわ寄せは誰かに回る 育休を取得した社員の同僚に一時金を支払う制度 業務のカバーをした社員に対して手当の給与や高く評価する企業の人事評価 政府は育児休暇の多い企業の同僚社員に、一時金を補助する制度構築 今後の課題 多様な働き方を認めること
ダイバーシティマネジメント →本当に女性のキャリア形成を有意なものとするのか?
クオータ制は業界や職種によっては克服できない男女比 がある →どのように認め合っていくのか
研究発表:フィードバック
・海外のモデルケースも当たるほうが良い。なぜうまくいったなど
・海外の事例をどこまで日本に取り入れるかが課題
・クオーター制の導入を検討していることに疑問点があって、クオータ制の導入を検討し出したのは研究の初期段階だった。これが、研究がしっかり進んだ上で、現状の課題に対して最も有効な策だと根拠をもって考えられているのか、それとも最初に決めてしまったこれについて研究を進めてきてしまったから変えるに変えれない状態なのかどうか?
2024年7月11日
青木崇(2024)「日本のプライム市場上場企業における女性役員の現状とダイバーシティの課題」『国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要』37巻3号p87-100
<内容総括・選択理由>
研究発表も終わり、本格的に卒論作成に取り掛かる場面となり、これからダイバーシティ施策を中心にまとめていきたい。今回は、このダイバーシティ施策の影の部分についてより可視化していきたい。
<内容>
2023年6月5日、政府「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)」においてプライム市場上場企業(約1650社)を対象とした女性役員比率に対して数値目標を設定した。女性役員を1名以上選任・女性役員比率30%以上(役員:取締役・監査役・執行役<指名委員会等設置会社>・執行役員)→努力義務・罰則無し。
プライム市場上場企業の役員数は21306名→女性役員2847名(13.4%)となっている。(2023年7月末時点)プライム市場上場企業で女性役員がいない企業数は199社(10.9%)となっており、2013年7月末が1472社(84%)だったころと比較すると、女性役員数、特に女性の社外役員(87%:女性社内役員と比較して)が増えたことが分かる。しかし、諸外国の女性役員比率(優良上場企業50社)では、仏が45.2%・英が40.9%・独が37.2%・米が31.3%となっている。
日本との違いは法律や上場規則で女性登用を義務付けており、英国では取締役会の最低40%を女性とする上場ルールがある。企業は年次報告書で人数攻勢を開示する必要があり、未達成の場合は説明責任が求められる。ドイツでは大手上場企業が2016年以降に監査役を選出する際の男女比率をそれぞれ30%以上にするように義務付けている。日本ではコーポレートガバナンスコードの原則2‐4に女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保が記載されている。
女性役員が求められる理由として、内閣府の男女共同参画局は、女性の活躍推進は少子高齢に伴う人口減少が深刻化し、多様な視点によってイノベーションを促進し、経済社会に活力をもたらすものであり、持続的成長のために不可欠であると挙げている。資本市場では、女性活躍状況が投資判断に考慮されるようにもなり、女性が企業の責任ある地位で活躍することはグローバルな競争が激化する中で企業の持続的な成長につながると考えられる。ESG情報を投資判断に組む混むことで、長期的な投資リターン向上を目指す狙いがある。近年、上場企業に女性役員がいない場合は機関投資家が議決権行使を否決する方針を表明している。また、女性取締役を1名以上有する企業は女性取締役を1名も有しない企業に比べて業績(営業利益率・ROE・株価など)が高い事例もある。
内閣府:ESG投資における女性活躍上の活用状況に関する調査研究によれば、機関投資家が投資判断において女性活躍情報を活用する理由として、企業の業績に長期的に影響がある情報と考えるためが68.9%と最も多い回答であった。
続いて女性管理職の現状と課題として、労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2023」では、就業者に占める女性の割合は44.7%であるが、管理職に占める女性の割合は13.2%となっている。
このL字カーブこそ、女性役員候補者育成の阻害要因として挙げられる。日本では、労働市場の流動性が低く、プロフェッショナルの経営者を取締役に迎えることが少ないため、正規雇用として長年勤務していたものが内部昇進で取締役になることがある。
M字カーブは女性が結婚や出産などで家庭の担い手になるのを機に退職し、育児後再就職するケースを表している。L字カーブは女性の正規雇用比率の低下を表している。20代後半59.7%ピーク。
そのため、女性役員比率を向上させる手段として、経営者・弁護士・公認会計士・大学教授・元アスリート・元アナウンサー・タレントなどが社外取締役として招聘されるケースがみられる。
社内取締役を増やしていくためには、L字カーブの解消が必要であり、家庭の担い手が女性に偏る状態を解消する必要がある。そのために、女性活躍推進法に基づく男女賃金格差の開示が2022年7月8日から導入された。また男性の育児休業取得を促すために、企業に取得率の公表を義務付ける法律が改正された。
<総評>
今までの自らの研究を整理する内容であった。引き続き来週もこの文献を用いたい。
2024年7月18日
青木崇(2024)「日本のプライム市場上場企業における女性役員の現状とダイバーシティの課題」『国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要』37巻3号p87-100
<内容総括・選択理由>
前回は、L字カーブこそが日本の女性管理職が増えない根本要因であると把握した。その上で、ダイバーシティ施策・コーポレートガバナンスについて今回は検討していきたい。
<内容>
まずコーポレートガバナンス・コードとは、東京証券取引所と金融庁が定めた実効的なコーポレートガバナンスの実現に質する主要な原則を表す。1.株主の権利・平等性の確保・2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働・3.適切な情報開示と透明性の確保・4.取締役会の責務・5.株主との対話などの基本原則を中心に、83原則あり、法的拘束力はない。遵守できない場合は、相当の理由を説明する必要がある。
2021年6月の改定では企業の中核人財における多様性の確保という項目が加わり、その中で管理職における多様性の確保についての考え方と自主目標の設定が新設された。多様性の確保に向けた人材育成方針や社内環境整備方針をその実施状況と併せて公表することになった。
SDGsでは目標5のジェンダー平等と女性のエンパワーメント、目標8の働き甲斐と経済成長、目標10の不平等の是正など、労働者や企業団体を対象とした取り組みが求められている。これらの目標に深く関係するのがダイバーシティ経営である。多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することでイノベーションを生み出し、価値創造につなげることを表す。多様な労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境を整える必要があるため、人材の確保と共に働き方改革が重要となる。その上で女性活躍水深が大きな鍵となる。
女性中心で開発された日産自動車のノートは子供を抱いて乗り降りしやすいように85度まで開く後席ドアを採用し、ガソリン登録車5か月連続販売台数1位を記録した。その他、女性が商品企画に関与したことで、ノンアルコールビール(キリンフリー)などといったヒット商品が生まれた経緯がある。
ダイバーシティ経営と働き方改革を進める上での日本企業の課題はジェンダー平等の推進である。1985年5月男女雇用機会均等法制定→2015年8月28日女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)成立→2026年3月末までの時限立法で施行。しかし、現状では差別的な慣習や制度が存在しているからこそ、単に男女を同等に扱うだけではジェンダー平等は達成できない。そのためにポジティブ・アクションが必要とされており、数値目標が政府で設定された。
2023年秋学期
2023年9月28日
清山玲(2020)「コース別雇用管理の限界とダイバーシティ・マネジメントの可能性」『日本経営学会誌』44号 p.32-40
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、機会の平等から結果の平等を重視するそういった傾向を捉えた論文である。春学期は主に「保守思想と同性婚」→「クオータ制による男女共同参画社会の実現(政策の多角化)」と内容が固定化されていなかった。そして研究発表を通じて今回から、女性のキャリア形成の難しさということで、管理職や政治面での不足面を中心に見る。もちろんこれまでの研究も無下にはせずクオータ制は解決策の一つのプランであることを示したい。
<内容>
コース別雇用管理制度(職務内容、責任の範囲、転勤の有無等によって、総合職や一般職等のコースを設け、コース別に雇用管理をする制度)は転勤や長時間労働に象徴される拘束性の強い日本の男性の働き方を前提としたコース区分が当然視され,採用時には,本人同意を前提としない「転勤」と「長時間残業」といった家族的責任を果たすことが困難な働き方が,コース決定の際の踏み絵とされた。
①結婚や出産というライフイベントが働き方に及ぼす影響をほとんど縮小できなかったこと,②女性の就業者数は増えたがその多くは経済的自立が困難な処遇水準にとどまる非規雇用であったこと③男性並みの処遇の総合職コースの女性の多くが離職を余儀なくされ,④職場で決定権を有する管理職女性はほとんど増えな かったことなどからも明らかである。コース別は大学卒業時に機会の平等はあるものの女性の就業継続や昇格昇進を阻むことになった。
そこでダイバーシティ・マネジメント(さまざまな職場において多様な属性を持つ人々を受け入れ,その能力を発揮できるように職場環境を整備することで,組織としての力や業績の向上を図ること)が競争力の保持・業績向上のために,実質的な意味での女性の能力活用・活躍(結果の平等)が起こった。日本の背景は、非労働力化している多くの女性たち,出産子育て介護等によるキャリアの中断により保持する能力を過少にしか発揮できない人々の能力を活かすことが企業や社会にとっても大きなプラスの効果をもつという思考の広がりが挙げられる。
例として、就業継続率が高い職場,産休・育休取得や育児短時間勤務制度の活用が不利にならない人事評価,個人の生活に配慮した転勤・異動免除の制度,転勤しなくても昇進できる人事管理,転勤の有無や移動の範囲等による雇用形態間の処遇格差の縮小を挙げる。
また、総合職・一般職という正規雇用 におけるコース制を廃止し 1 本にまとめる職場もでてきているが,従来のコース別雇用管理を採用する多くの職場でも,ダイバーシティ・マネジメントの普及により,転勤前提のコースであっても事前同意制の導入や,家族的責任に配慮して希望により一定期間の転勤免除を制度化する,総合職,エリア総合職,一般職といったコース間の双方向転換制度が導入・活用が促進されている。また,育児休業制度や短時間勤務制度の利用中に昇格昇進をさせるなど,家族的責任による働き方のセーブが昇格・昇進にあたって不利にならないような人事評価制度の導入も進んできている。
<総評>
少子高齢化社会になりさらなる生産性の向上が求められている日本において、誰もが働きやすい環境を作っていくことは不可欠であり、転勤・長時間労働といった壁となるものの撤廃は勧めなければならない。
2023年10月5日:研究進捗
日本における女性のキャリア形成の難しさ
社会的意義・目的・仮説
男女平等を目指し、2023年6月13日政府は「女性版骨太の方針」を決定し、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指し、2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促すことを決めた。
⇓
女性は望んでいるのか?
⇓
社会活動を積極的に行っていくためにも、クオータ制導入をすぐに促すのはいけない。
まずはキャリア形成のために周辺環境を整備することが何よりも経済・少子高齢化・ジェンダー平等あらゆる性別による格差を是正するのではないか?
現在の状況・背景
政治面:保守である安倍政権は意外にもリベラルの政策が多い。
→女性が潜在的労働力:成長戦略・経済政策であると価値を見出していたから。
収入増からの消費拡大、新しい価値観の創出等成長戦略としてこの上ない。また同時に規制緩和(企業主導型保育事業)、雇用流動化策(女性が再就職しやすくする)
生活面:平成 28 年における 6歳未満の子どもがいる共働き家庭の妻の1日の家事時間160分、育児時間 167分であるのに対し、夫の家事時間20分、育児時間47分(総務省社会生活基本調査)
理由:男性の育児休業取得率は変わっていない。これは男性が育児休暇を取る際の職場体制(上司の考え方も含めて)が整っていないからである。
仕事と家庭の両立が困難なため女性は管理職になりたがらない。
解決ツール
第一フェーズ
企業は、従業員の単一性を求めるのではなく個々人のダイバ―シティを認め、育成をはじめとする人材活用のためのコストをかける→職場のメンバーの超過勤務を皆で協力して行うのではなく、超過勤務自体をなくす方法を協力して考え実行したほうが、ワークライフバランスのためには効果的。女性は早く辞めるから育成に手をかけず、重要な役割体験をさせないのではなく、辞めずに働き続けたいと思える能力開発や役割体験をさせ、自己効力感を育てることが必要。
第2フェーズ
クオータ制導入
女性が議員・管理職になるためには様々な障壁(性別役割分業・政党 企業風土(政治家の場合)、女性のなり手の少なさ)が存在し,それを一つひとつ取り除くのにはあまりに時間がかかる。そのために即効性の高いクオータ制を推奨する。→韓国・ルワンダの政治面での事例がある。
参考文献(年代順)
田中聖華(2020)「日本企業における女性活躍推進の課題~日本社会における性別役割分業観の歴史的視点から~」『横浜商大論集』53巻2号p51-67
堀江孝司(2017)「安倍政権の女性政策」『大原社会問題研究所雑誌』700巻p38-44
三浦まり(2017)「1.政治分野におけるクオータ制導入の意義」『国際女性』31巻1号p111-115
大澤貴美子(2016)「韓国:政治代表の男女不平等を是正するためのクォータ制度」『法政論叢』52巻2号p203-215
戸田真紀子 フォーチュネ・バイセンゲ(2020)「女性の政治参加と家父長制社会の変容 ルワンダと日本との比較」『現代社会研究科論集 : 京都女子大学大学院現代社会研究科紀要』14号p29-43
2023年10月12日
村尾祐美子(2018)「「働き方改革」による時間外労働規制は女性管理職を増やせるか」『東洋大学社会学部紀要』58巻2号p65-78
<内容総括・選択理由>
前回取り上げた論文では長時間労働・転勤が女性のキャリア形成に大きな影響を与えることを示した。今回の論文ではこれを受けて働き方改革は女性のキャリア形成を優位なものとするか実際に検討を行た論文である。
<内容>
1984年から2017年の女性の労働市場への参加状況をみてみると、役員を除く雇用者の女性比率はこの間ゆるやかに上昇しているが、それは非正規の職員・従業員として就業する女性の数が増えたからであって、正規の職員・従業員に女性が占める割合は、この間、ほぼ横ばいである。管理職に占める女性比率は、非常にゆるやかな上昇傾向を示してはいるが、正規の職員・従業員の女性比率に比べて著しく低い。夫の長時間労働に伴う無償労働の重い負担が、妻の職業的キャリア展開の妨げになっていることが示唆される。この論文では過去における労働市場における昇進確率と時間外労働との関係について実証的に明らかにすることで、新たに導入された時間外労働規制が、共働きカップルの有償/無償労働時間配分を変更するようなインセンティブを持ちうるかを検討する。
まず月45時間以内という時間外労働の上限に注目する。この上限の導入により、夫と妻の双方が時間外労働を45時間以内に収めるという新たな有償/無償時間労働配分戦略が、共働きカップルにとって検討に値するオプションとなるだろうか?その前提として現実の係長昇進において、月45時間以内の時間外労働は全く時間外労働をしない場合に比べて女性の昇進確率を高めるのか、月45時間を超えて時間外労働をする場合に比べてどうか、ということを検討する必要がある。
*ここで用いられるデータは東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクトによる「東大社研・若年パネル調査(JLPS-Y)wave1-7,2007-2013」である。
結果、女性割合の高い職場にいる最終学校が大学・大学院の人は、そうでない人に比べて昇進確率が約15倍になることが明らかになった。また、初職入職後の年数(リスク期間)が長くなることは長期的にみるとさらに係長への昇進確率を下げることが示された。月45時間を超えて時間外労働する人は、月45時間以内で時間外労働する人よりも昇進確率が約3分の1と低いという少し意外な結果となった。
私たちは労働時間が長いほど係長昇進によい影響を与えると考えがちだが、示された結果はこの予想に反する。長時間の時間外労働を求められるような労働条件の悪い仕事は、正社員全体としてみた場合には、係長への昇進可能性が高いようなめぐまれた仕事ではないことが多いことが分かった。(ここまでは雇用者全体を見た。)
最終学校が大学・大学院である人たちについては月45時間超えの時間外労働をした場合、月45時間以内の時間外労働をする場合に比べ、係長に昇進する確率が5.347倍高かった。しかも、月45時間以内の時間外労働と時間外労働なしの場合の違いは有意ではなかった。月45時間以内の時間外労働をしても、時間外労働をしない人と係長昇進に有意な差がつかなかったのである。 また、時間外労働と性別との有意な交互作用はみられなかった。最終学校が大学・大学院の女性においても、時間外労働の量は有意な効果を持たなかった。
時間外労働規制は、共働きカップルにおけるジェンダー化された有償/無償労働時間配分にインパクトを与え、女性の管理職を増やすことに向けたポジティブな効果をもたらすかは、分析を通じ明らかになったのは、そのようなインパクトもポジティブな効果もおそらく生じないであろう、という悲観的な見通しである。彼ら/彼女らの管理職昇進にポジティブな影響を与えるのは月45時間超の長時間の時間外労働であって、共稼ぎカップルの一方がそのような働き方をするなら、共稼ぎカップルのもう一方の多くは、自らの時間外労働を抑える選択をするしかない。
もちろん、月45時間を超える時間外労働を完全に禁止するような、より厳しい規制が導入されれば、話は別である。これまでの昇進システムの変革を迫るそのような規制のもとでは、共働きカップルはジェンダー化された有償/無償労働時間配分を見直すかもしれない。しかし、「臨時的な特別の事情」によって一年のうち6カ月を超えない範囲で月80時間、月100時間といった時間外労働が許容されている限り、そうした長時間労働を前提とした現行の昇進システムの多くの部分は生き延びることができてしまうと筆者は指摘している。
<総評>
この論文は働き方改革が行われた時期のものである。現在分かる通り、完全な労働時間規制をしない限り、やはり多くの場合長時間労働したものが評価されやすい傾向がある。クオータ制を含め、今回は労働規制の必要性が改めて日本の少子高齢化・キャリア形成など多岐にわたる問題に大きな影響を与えるだろうと考える。
2023年10月26日
中西哲(2021)「女性活躍推進に向けた我が国の課題」『跡見学園女子大学マネジメント学部紀要』31号p57-67
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、日本におけるここ10年ほどの間に行われた女性政策である。当文献では改善策は示されていないが、政策の目的・省庁の狙いを理解する上で大切だと考えた。
<内容>
各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)を発表した。この指数は、経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示している。2020 年の日本の総合スコアは0.652、順位は153か国中121位となっており国際的に見ても男女格差が大きい傾向にある。この原因を分野別の格差に求めると、教育、健康の2分野については完全平等に近い一方で、政治、経済分野での値が低く、全体の指数を押し下げている。特に、政治分野での指数は0.1に満たず多き足を引っ張っている。
政府は戦後無策だったわけではない。日本はまもなく平等主義を標榜してきたことから、日本国憲法や労働基準法に代表されるようにあらゆる差別を禁ずる法律を制定してきた。このため法的な制度設計は相応に整っており、女性の人権が守られる建て付けになっていた。しかし、性差に基づく職種の区別、男女別の採用人数の決定、男女別の配置や昇進、賃金などの処遇の違い、女性の寿退社に対する暗黙の認識、男女で異なる定年などが厳然と存在しており、法律と実態が必ずしもマッチしていなかった。にもかかわらず、長らくその問題が顕在化しなかったのは、人種が圧倒的に同質であったこと、労使関係が良好なこと、さらには「男は外、女は内」という男女の役割分担に対する社会的規範が根強く残っていたことなどに起因する。近年では単に女性が働くだけでなく活躍することを念頭にした取り組みも行われている。
女性活躍推進に係る政府の取り組みとして、2005 年施行の「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」と言う)にもとづく「くるみん認定」制度、2016 年施行の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下「女性活躍推進法」と言う)にもとづく「えるぼし認定制度」と、2012 年より経済産業省が旗振り役となって推進している「新・ダイバーシティ経営企業 100 選」、「なでしこ銘柄」の認定制度を採り上げ、それぞれの位置づけを示す。
厚生労働省の取り組みとして、女性のキャリア形成に大きな影響を及ぼすライフイベント、すなわち、出産・育児をサポートする取り組みとして次世代育成支援対策推進法が挙げられる。環境を整えるために、国、地方公共団体、企業、国民が担う責務を明らかにする目的で 2005年から施行されている法律である。(2025年までの時限立法)従業員101名以上の企業に労働者の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」を策定することを義務付ける(従業員 100 名以下の企業は努力義務)こととなっており、企業の自発的な次世代育成支援を促すため、行動計画に定めた目標を達成するなどの一定の基準を満たした企業は「くるみん認定」と言う厚生労働大臣の認定を受けることができる。
2016年の女性活躍推進法では国・地方公共団体、301人以上の企業(300名以下の企業は努力義務)は、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析を行い、その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表を実施し、自社の女性の活躍に関する情報の公表を義務付けるものである。女性活躍推進法に基づく行動計画に定めた目標を達成するなどの一定の基準を満たした企業は厚生労働大臣により「えるぼし認定」が与えられる。くるみん認定が主に子育て支援が充実している企業に付与されるのに対し、えるぼし認定は採用、継続就業、労働時間等の働き方、管理職比率、多彩なキャリアコースの 5つの評価項目に基づき女性が活躍できる環境を整えている企業に付与される制度である。(女性の働く環境整備、女性の活躍そのものを目的とした取り組みを志向 法令に基づく取り組み)
経済産業省ではダイバーシティ推進を経営成果に結びつけている企業の先進的な取組を 広く紹介し、取り組む企業のすそ野拡大を目指している。その具体策として、2012年より「新・ ダイバーシティ経営企業100選」として経済産業大臣表彰を実施している。東京証券 取引所と共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定している。なでしこ銘柄は、女性活躍推進に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介し、株式市場における当該企業への投資を促進し、各社の取組を加速化していくことを狙いとしている。(所与のものとして、経営成果に結びつけることを目的 企業の自発的行動を後押し)
中西は以上のような取り組みがなされているものの、依然として我が国における男女格差は縮まっていない。これは、これまでの取り組みが十分に浸透していないことに加え、女性活躍推進にかかるアプローチが企業側のみに偏っていることにも起因するのではなかろうか。これらの取り組みを浸透させることで相応の効果が期待できることは明らかであると思われるが今後は女性自身の意識改革、ステレオタイプからの脱却を意図した取り組みも必要なのではなかろうか。依然として根強く残る性別役割意識、稼ぎ手としての夫への期待などからの意識改革が進めば、女性活躍推進は加速度的に進むのではなかろうか。
<総評>
根本的に経産省と厚労省の目的が異なるからこそ、政策にずれが出てくると感じた。その一方で、企業は積極的に表彰を受けており、改善していることも分かった。
2023年11月2日
山本勲(2019)「働き方改革関連法による長時間労働是正の効果」『 日本労働研究雑誌 特集働き方改革シリーズ(2)労働時間』61巻1号p29-39
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、働き方改革による長時間労働是正の効果はあったのかそこに焦点を当てた論文である。現状、働き方改革には残業をさせない取り組みは出来た一方で、タイムカードを切って労働をするサービス残業や、残業代が減ったことで生活に困窮するため副業に手を付けなくてはならないケースがあまた存在する。これらに注視し、メリットを見ていきたい。
<内容>
まず長時間労働をもたらす要因として、労働の固定費の大きさと人的資源管理の非効率性が挙げられる。企業が生産活動を行う際,労働の固定費(採用費用,解雇費用,人的投資(教育訓練)費用)が大きいと,企業は雇用よりも労働時間をより多く需要するようになることと指摘されている。欧州の日系グローバル企業で働く管理職へのアンケート調査データを解析し,欧州赴任後と比べて日本で労働時間が過剰に長かったことの要因として,①残業や休日出勤が評価されていたこと,②仕事内容が明確化されていなかったこと,③企業内での調整コスト(根回しの人数)が大きかったことなどがあることを明らかにしている。成果よりも長時間労働が仕事へのコミットメントとして評価される傾向にある。(労働需要側)
さらに労働供給側の要因は、長時間労働への選好(仕事を後回しにする)や自らの長時間労働が生じるだけでなく,長時間労働をすることが周囲にも影響を与え,結果的に組織的な長時間労働が醸成されてしまう可能性もある。
続いて働き方改革関連法は時間外労働の上限規制を罰則付で強化するなど,長時間労働を是正する目的で,労働時間の決定に対して法的な介入の度合いを従来よりも高めている。しかし,その一方で,時間外労働の上限には時期や業種などでのさまざまな例外規定を設けているほか,上限の水準自体も決して厳しすぎるものではないため,その範囲内で労使による協議によって実際の労働時間が決められる仕組みになっている。
直接的な介入効果として割増賃金率引き上げ(月60時間を超える時間外労働に対する法定割増賃金率が大企業について25 %から50%に引き上げられ,今回の働き方改革関連法において中小企業にも適用される)がある。しかし、減らすことには繋がらないと理論的実証的にも示されている。賞与や所定内給与の引き下げや他の生産要素への需要シフトなどが生じれば,労働時間への需要が減少するとは限らないからである。
その他にも法定労働時間の引き下げ(48→40時間 日本では土曜日の労働時間は減少したものの,平日の残業時間が増加したため,トータルの実労働時間はほとんど変化しなかった)・時間外労働の上限規制・労働時間規制の適用除外がこれまでの改革で行われてきた。
これら改革の効果として労働者のウェルビーイングの改善が指摘されている。身体的な健康については,長時間労働が脳・心臓疾患などの発症リスクを高める。また,精神的な健康については,産業保健の分野において,「仕事の要求度」が高まると労働者のストレスが 増加することが明らかにされている。
しかし、職場・企業での働き方改革が単なる長時間労働の是正に終始し,業務プロセスや必要な仕事の取捨選択などの改革が行われないと,これまでと同じ仕事量を短い労働時間でこなさなければならなくなり,労働強度(負荷)の増加という意味で仕事の要求度が高まってしまうことには注意が必要である。つまり,表面的な長時間労働の是正は,労働時間以外の形で仕事の要求度を高め,むしろ労働者の健康状態を悪化させる危険性をはらんでいる。単なる長時間労働の是正だけでなく,働き方そのものを改革することが重要である。
<総評>
働き方改革を考えていくにあたって法律の抜け穴が大きく存在すると感じた。そのためにこれからの企業は業務効率化に焦点をより充てる必要があると考える。一方で長年続いてきた長時間労働が是正されていることは本論文からも読み取ることができた。
2023年11月9日
駒川智子(2017)「女性管理職の数値目標の達成に向けた取り組みと組織変化」『大原社会問題研究所雑誌』703巻p17-31
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、いよいよ管理職を増加させるための具体的な企業別取り組みに焦点を当てる。実際成功したケースではどのような形で導入を行い、どのような組織変化をもたらしたのかごくわずかな事例であるが掴んでいきたい。
<内容>
数値目標が数合わせに陥り,組織に混乱が生じるなどの「失敗」事例も報告されるが,女性の管理職候補者の育成に力を入れることで女性管理職増加の効果をあげる企業も現れている。そのため管理職に占める女性比率は,女性の活躍を測る重要な指標である。2015年の全産業での管理職に占める女性比率は部長6.2%,課長9.8%である。
女性管理職比率が低い要因を組織内に見るならば,第 1 に採用時の男女差がある。すなわちコース別雇用管理制度の導入企業で,基幹的業務を担い昇進に制限のない総合職の採用者に占める女性比率は 22.2%であり(一般職82.1%が女性),将来の役員・管理職候補の女性は男性と比べてかなり少ない。第2に育成にも男女で違いがある。日本の企業の人材育成は,OJT(On-the-Job Training)と配置転換を通じて知識と経験を高める方法が主流である。すなわちどんな職務を担い,いかなる経験を蓄積するかが重要である。その職務配置において,男性は企業の基幹的業務に配置されやすいのに対し,女性は周辺的業務に配置される傾向にあり,同一部署間でも男女で割り当てられる仕事に違いがみられる。加えて配置 転換も,男女で経験の幅が異なる。初期キャリアにおいて男性は「転居を伴う転勤」「国内関連会社への出向」「海外転勤」などを幅広く経験しているのに対し,女性は「同じ事業所内での配置転換」が多い。第3に評価における女性差別がある。人事考課の評価結果は企業の内部情報のため,資料はきわめて限られる。しかし女性の賃金差別等に関する裁判資料ではあるものの,上司の評価基準に業務と直接関係ない「女性らしさ」が含まれることや,男女別評価・処遇を行う運用規定の存在が示されており,当該企業以外でも評価に女性差別が潜在しうると推測される。これら女性の管理職昇進の阻害要因には,採用,育成,評価における男女格差に加え,男性中心に築かれたマネジメントや組織文化が指摘される。
女性の活躍には,女性の能力発揮を促す「男女平等施策」と,女性の就労継続を支える「仕事と家庭の両立支援策」の両方が必要とされる。ここでは「採用から昇進までのプロセス」での課題克服を目指す企業に,TOTO株式会社・「組織の慣習・文化」における課題克服を目指す企業には、イオン九州株式会社を選定した。
TOTOは課長以上の女性管理職比率は 6.9%(2006年3.9%)であった。過去、TOTOでは男性が製造と営業の主力で、女性は一般職として間接部門でのサポート業務を担うという男女の明確な分業が見られ、それが男女別の扱いを生み出す意識を醸成させていた。そこで営業部門で新入社員の採用を男女同率にする方針をたてるとともに,ショールームアドバイザー等を対象に正社員登用制度を導入し,女性の営業職拡大を目指している。加えて2006年に採用を総合職のみとするのに際し,ジョブ・ローテーションを12年で4つの職場を体験すると定め,配置転換に男女差が生じないようにしている。さらに「ステップアップ研修」「マネジメント研修」「女性管理職候補者研修」の3つの研修を整備し,管理職登用を見据えた女性人材の育成を手掛けている。
イオン九州は課長以上の女性管理職比率は11.1%である。イオン九州では男女が同じ業務を担うが,「花形」とされる2つの仕事に女性は少ない。1つ目は、商品の仕入れを担うバイヤーである。取引先は業務経験豊富な男性が中心で,女性のバイヤーは数や価格の交渉を有利に進めるのが難しいとされるためである。アシスタントとして女性を配置し育成を試みたこともあるが,育ってはいない。2つ目は,店長をはじめとする管理職である。開店時間は8時か9時,閉店時間は22時か23時と営業時間は長く,定休日は設けられていない。管理職の労働時間は長くなりがちで,子育てとの両立が困難となっている。かつては「今日で 45 日目,どうだ!」と連続出勤を競い合う風潮も見られたという。イオン九州の女性活躍の取り組みは大きく2つある。女性人材の育成と店長の働き方の見直しを行った。結果、離職率の低下、女性に限らず若手の人材・技術向上ももたらせた。
女性管理職の数値目標の設定における効果は,「なぜ,どのように女性活躍を進める必要があるのか」を自らの組織に即し考えることを促すことにある。この思考過程を経ずに数値目標を設定し達成しようとするならば,効果が上がらないばかりか,男女労働者から不信感がもたらされるなど,組織の混乱を招く恐れがある。女性管理職の数値目標の設定は,女性活躍を進める必要性を明確にし,なぜ女性が活躍できていないのか要因を分析し,その克服に向けた取り組みを進めることで,効果的なものになると考えられる。
<総評>
紹介された内容は現状を打破する取り組みであり、過程段階であったが実際に効果や意義というものを確実に事例は示しているため、取り組みの説得性をますます増していくと考えられる。
2023年11月16日
田中利佳 脇寛(2023)「女性就業実態の現状から見る女性管理職登用の課題」『鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要 人文科学・社会科学編』第6号p139-150
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、2003年,内閣府が発表した「女性の指導的地位(女性管理職)の割合を2020年度までに30%程度まで増加させる」との目標が半分程度しか実現しなかった現状を踏まえ、これからの社会で実現していくために求められるダイバーシティ経営について着目していきたい。
<内容>
内閣府は,男女共同参画計画 (2次) で,社会のあらゆる分野において2020(令和 2)年までに女性の指導的地位(女性管理職)の割合を30%に増加させることを目標とした.2020(令和 2)年の調査結果では,14.8%と目標の 5 割にも満たない状況であり,到達目標の時期を 2030(令和 12)年度まで延期としている。また内閣府は,「女性は我が国最大の潜在力」と捉え,持続的な経済成長のため不可欠なものとして位置づけている.女性の活躍を推進するた め,様々な法制度を制定した.主なものとして,男女共同参画社会基本法 1999(平成11)年・女性活躍推進法2015(平成27)年・候補者男女均等法2018(平成30)年などがあげられる。 法制度化されたことで,女性の活躍推進に向けた社会の気運は高まってきたかに思えたが,女性の地位向上,管理職増加に対しては,効果的であったとは言えない.
そこで,2022(令和4)年7月8日女性活躍推進法が制度改正され,情報公表項目に,常時雇用する労働者が 301人以上の一般事業主に対して,「男女の賃金差異」を必須項目として追加することとなった.経済産業省は,2018(平成 30)年4月より「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」を開催した.つまり企業経営戦略としてのダイバーシティ経営推進を後押しするためである.女性を含む多様な人材の活用を経営戦略として取り込むこと,企業の付加価値を一層推進するための方策が確認された。
海外企業がダイバーシティ経営の推進に積極的なのは,ビジネスでの競争に優位性をもたらしてくれるからである.実際にダイバーシティを効果的に進めた企業では,多様性に富む社員を戦略的に活かすことで企業の競争力強化につなげている.さらには,投資家が企業への投資条件としても欠かすことができないとしている.
優秀な人材の確保と活用をするために、IT 化とグローバル化が進む 21 世紀の高度情報化社会では,企業パフォーマンス向上に大きく貢献してくれる高度な知識とスキルを持つ優秀な人材が常に求められている.世界レベルで有能な人材の争奪戦が起こっている.激化する競争の中で企業が生き残るためには,属性にかかわらず高い成果を出す有能な人材が必要なため,採用の対象層の拡大が不可欠である.また.優秀で多様な人材にとって,ダイバーシティ経営に真剣に取り組む企業は魅力的に映るため,結果的に優秀な人材が集まる.性別にかかわらず活躍のチャンスがあることが,女性の地位向上にもつながると考えられる.
海外で成功している企業は,ダイバーシティ経営が重要視される.ダイバーシティ経営は,雇用面だけでなく,多様化する消費者の嗜好や価値観をビジネスに結びつけ展開できる.多様な社員確保は,多様な顧客ニーズに対して,営業・マーケティング・商品開発などで,迅速かつ的確に対応しやすくなるためである.購買決定者の半数は女性であるという先行研究からも,女性の経営戦略への参加は重要であり,女性管理職の増加は,必須と考えられる。
<総評>
今回は日本の現状よりも、ダイバーシティ経営の在り方に焦点を当てた。来週はこの論文の前半部分に着目されていた日本の女性管理職が増えない根本的な理由を同文献を用い考えていきたい。
2023年11月23日
田中利佳 脇寛(2023)「女性就業実態の現状から見る女性管理職登用の課題」『鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要 人文科学・社会科学編』第6号p139-150
<内容総括・選択理由>
前回同様の文献を用いる。この論文の前半部分に着目されていた日本の女性管理職が増えない根本的な理由を同文献を用い考えていきたい。またダイバーシティ経営についても追加情報を蓄積していきたい。
<内容>
日本特有の制度に潜む要因として、日本総研経営コラム 小島明子(2013)『女性管理職増加にむけて』の中で,日本特有の終身雇用制度が根強く残る現状や男性基準の昇進システムは,結婚・出産・育児休暇を取得する(または退職後再就職)選択をする女性の管理職昇進を拒む要因であることを指摘している。
女性の自己効力感を喪失させる要因は、女性が管理職を打診された場合、キャリアアッ プとライフワーク(家庭)の両立が極めて困難であると認識していることから,躊躇することが多いと指摘している。女性が管理職に抜擢されると,女性であることを特別視され,孤独感が強くなる,または孤立しやすい状況に置かれることでの自己効力感低下が引き起こされる。女性管理職が少ない状況において,管理職業務を知る機会が乏しく,ロールモデル,キャリアアップ教育がなければ,いきなり管理職の仕事を任されてもうまく行くはずがない.加えてライフワークとの両立への戸惑い,重圧によるところが自己効力感低下を引き起こしている。さらに,育児復帰後のマミートラックによる自己効力感低下も指摘される。自分の意思とは関係なく,職場復帰後にルーティン作業への配置転換を余儀なくされるなどのキャリア低下,組織的な昇進意欲阻害による昇進・昇格コースから外れたことなどがあげられる。
続いて女性が管理職を望まない要因として、ここでは独立行政法人労働政策研究・研修機構「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」2013(平成 25)年3月が用いられた。女性が管理職昇進を望まない理由(表1)として は,「周りにより上位の同性の管理職がいない」(管理職)、「周りに同性の管理職がいない」(一般従業員)、「自分の雇用管理区分では女性が昇進する可能性がない」といった雇用管理に起因する理由と「自分には能力がない」、 「責任が重くなる」、「メリットがない(または低い)」や「やるべき仕事が増える」といった個人の意欲や環境に起因する理由が多く挙げられている。そのほかにも要因として当文献では、ロールモデルの不在・男性による敵意的性差別・好意的性差別が挙げられていた。
最後に日本の女性雇用の現状を見る。2020(令和2)年、内閣府による『男女共同参画局白書』では、日本国内の女性就業率は拡大していることが示されている。特に15~64 歳の女性就業率は,2013(平成25)年以降増加傾向にある。2022(令和4)年7月,男女就業者数は,全就業者数 6,755 万人であり,前年同月に比べ2万人の減少であったが、内訳を見ると,男性が3,714 万人で21万人減に対し,女性は3,041万人で19万人増である.つまり、女性の就業者は増加しており,全就業者数における女性の割合は45%にまで達している。2019(令和元)年に発表されたOECD諸国の女性と男性の就業率の差をみると,日本は35ケ国中,男性が84.3%で3位,女性は71.0%で13位となっている。男女の就業率格差を比較すると13.3 ポイントで9 番目に格差が大きい。
2020(令和 2)年における非正規雇用労働者の割合を見ると,女性は54.4%,男性は22.2% であった。女子就業者の非正規雇用の割合が多い実態が顕著である。女性は,結婚・出産・育児等による離職後の再就職にあたり、非正規雇用を選択する(選択せざるを得ない)ことが多いとされる。理由として内閣府は,長期化する景気回復の下,企業が雇用戦略の中で,正規雇用者と非正規雇用者の配分について依然として慎重な調整を継続していることを挙げている。
フルタイム労働者の男性平均賃金水準 100%としたときに,女性平均賃金水準は、2009(平成 21) 年で69.8%,2021(令和3)年は77.5%と是正されているものの,OECD平均の88.4%を大きく下回っている。長期的には縮小傾向にあるものの,先進諸外国と比較するとその格差は依然として大きい状況である。
<総評>
現状をもう一度分析し、課題点の整理を行った。女性の管理職を妨げる外的要因だけでなく、非正規・賃金等の実数値から具体的な格差が示された。次回以降は解決案の整理を行う。
2023年11月30日
坂爪洋美(2020)「管理職の役割の変化とその課題 文献レビューによる検討」『日本労働 研究雑誌』62巻12号p4-18
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、女性に限らず管理職共通の課題に焦点を当てたい。また、管理職と言ってもどの層が管理職なのか定義も含めて検討していく必要がある。
<内容>
管理職といっても,その中には大きく分けて,経営層に近いトップ・マネジメントや,非管理職が報告する、すなわち非管理職と管理職との接点となるフロントライン管理職,両者の間に位置づく,ミドル管理職が存在する。これらの中から,役員といったトップ・マネジメントを除く、ミドル管理職ならびにフロントライン管理職を対象として論考を行う。この層は,日本では部課長クラスと呼ばれる層である。
日本の管理職の特徴の1つは,プレイングマネジャーとしての管理職が定着したことである。産業能率大学(2019)で,プレイヤーとしての仕事を全くしていない(0%)と回答した課長は、1.5% にとどまる(図2)。第1回から第5回までの同調査において,プレイヤーとしての仕事が占める割合に変化は認められず,プレイヤーとしての仕事の割合は,いずれの調査でも21~30%が最も多い。一方で,プレイヤーとしての仕事の割合が50%以上を占める管理職の比率も,いずれの調査でも40%を超えている。管理職のプレイング業務については,リクルートワークス研究所(2000)も調査を行っている。 同調査は,プレイング業務を「部下が担う業務と同様の業務」と定義した上で,何らかのプレイング業務を行っている管理職が82.3%に上ることを明らかにした。管理職がプレイング業務を行うのは,部門の目標を達成するために必要な仕事量に対して部下の数が不足しており,仮に部下の数が足りていたとしても部下の力量が不足しているといった部下の量的・質的不足に起因すると考えられる。
過重な負荷を負う管理職の現状を解決すべく検討もなされている。日本経済団体連合(2012)は,ミドルマネジャーの現状を,経営環境や組織構造の変化,短期的な業績・結果志向の強まり等を背景に,目の前の課題解決に精一杯で,部下管理や部下育成,業務のマネジメントにまで十分に手が回らない状況にあるとした。その上で,課題解決に向け,①実務的な負担を軽減し,業務のマネジメントや部下指導・育成に取り組める状況を組織的に整備,②より良いマネジメ ントの実践を可能とするための OJT(仕事を通じ た部下指導・育成)への制度的支援,③ミドルマネジャーの自律的な成長を支援するための OFF-JT(企業内研修)の強化,④ミドルマネジャーのやる気や意欲を高める精神的な支援,の4点をあげている。
管理職の仕事を一言で言うと,自分以外の他者の仕事を組織化することである。具体的には,管理職は仕事を計画し,予定を立て,資源を配分し,様々な方法で進捗を管理する。管理職の役割に関する代表的な研究が、Mintzberg(1973)である。Mintzberg は,管理職の管理的役割を,対人関係の役割・情報関係の 役割・意思決定の役割という3つの領域に大別した上で,それぞれの領域に該当する10の役割を指摘した。
管理職の役割は大枠では維持されていることがわかる。基本的に管理職は,一貫して多忙で,自らの活動を振り返り内省する時間もなく日々の仕事に追われている。一方で,変化も認められる。例えば,言語的コミュニケーションを中心としていることに変わりはないが,関わり方が命令や統制という一方通行の形から対話志向へと変化した。ミーティングについては,短時間の電話や予定されたミーティングに費やす時間が最も多いことに変わりはないが,部下とのミーティ ングに費やす時間が増え,外部者との時間が減少するという,時間の使い方の変化が認められた。 また,管理職の中で,非管理職に最も近いフロントライン管理職に注目すると,仕事の断片化は高い水準で継続しつつも,仕事内容は管理や計 画,モニタリング業務をより担うという変化が認められた。フロントライン管理職の役割の変化について Halesは,業務の監督から「チー ムリーダー・コーディネーター」もしくは「ビ ジネスユニットマネジャー」へと変化し,その責任が急速に高まっていると指摘した。
<総評>
管理職の役割は時代と共に命令といった形ではなく、部下に寄り添う相談・コンサル型の組織の一角となったと考える。この変化と女性管理職のつながりを見つけていきたい。
2023年12月7日
山極清子(2021)「企業における女性活躍の阻害要因とその解決への道筋」『社会デザイン学学会誌』12巻p12-23
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、企業における女性活躍の阻害要因を考え、解決策の提案を行った文献を紹介する。解決策の場面で、心理的バイアスに関する文献は多い一方で、具体的な施策で是正することが検討された文献が現状非常に少ない。
<内容>
日本の役員に占める女性の割合は、OECD諸国の中では最下位にある。フランス 43.4%をトップに8か国は既に30%を超えているが、日本は5.2%にすぎない。2010年、日本の家計支出のうち、妻の購買決定権限は、世界の平均 64%に対し日本では 74%である。2019 年、女性マーケティング会社ハー・ストーリィによると、女性の購買決定への影響力は 89.8%に及び、男性の購買決定権はわずか14.3%にすぎない。生活財の買い手に留まらず、使い手も多くは女性である。しかしながら、食料品や日用品はじめ化粧品、衣料品を製造・販売する企業にあっても、商品・サービスの最終決定権を持つボードメンバーには圧倒的に男性が多い。つまり、購買者として消費者として経験値の高い女性が経営には参画していないことが問題である。
日本より先に経済が成熟した欧米諸国は、低価格で品質の高い日本製品等に追い上げられ、標準化と価格競争だけを追求する経営から脱却するために、先んじて経営構造に多様性を導入してきた。なかでも組織の競争力を高める要として多様性のある人材の活用を目指してきた。そこで、新たに求められる日本の経営革新は、従業員の多様性、なかでも、これまで活 かされてこなかった女性人材を登用して組織のパワーバランスを変える経営手法の確立にある。つまり、「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」の導入である。「ダイバーシティ・マネジメント」とは、性別、年齢、国籍、障がいの有無、LGBTといった個人それぞれを多様な人材として受け入れ、組織全体の活性化を図って、組織を強くする人事・経営戦略ともいえる。
日本の企業社会の問題に照らし、なおも女性活躍が、潜在成長力を顕在化させる成長戦略といえるのか。その際、大事なのは、労働力不足、少子高齢化、グローバル化を巡る日本の企業成長の足かせになっている社会問題とは何か、これからの社会のデザインと関連づけて考える視点である。なぜなら、これらの問題はいずれにも共通する根っことして女性活躍推進の課題と繋がっているからだ。いい換えれば、女性活躍のテーマは、これらの問題と有機的に結びついた複合的関係にあると捉えることで、いまや企業社会にとっての待ったなしの切実な問題としてクローズアップされるからである。女性活躍推進は、単なる女性問題に留まらず、男性問題であり、企業の成長戦略として経営にかかわり、社会の在り方を変えるすそ野の広い問題として位置付けるべきテーマなのである。
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)といった非財務情報を投資判断に組み込み、長期的な投資リターンの向上を目指すESG投資への拡大に注目が集まっている。実は、こうした非財務情報への注目もまた、女性活躍のテーマと大いに関連していることを見落としてはならない。内閣府が日本版スチュワードシップコードに賛同する227社の機関投資家等を対象に実施したアンケート調査では、投資残高が「1兆円以上」と回答した機関投資家が 30.3%に達している。そして、「機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と 情報開示」では、女性活躍の推進企業が成長につながる4つの成果を指摘しているのであった。「イノベーション」「働き方改革による生産性向上」「人材の確保」「ダイバーシティによるリスク低減」が、それであった。
日本的雇用慣行を変える施策は、女性管理職を登用し、経営パフォーマンスを向上させる効果的施策であることがわかった。日本でだけでなく、日本の就労モデルに近いドイツの上場企業 160 社、なかでもグローバル企業 3 社のケーススタディーにおいても、ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施策を統合・推進して女性管理職・役員への登用を実現し、経営パフォーマンスをあげていることが判明した。以上から、女性活躍の阻害要因を取り除き、女性が意思決定ボードメンバーに参画する女性活躍への最も有効な道筋は、ジェンダー・ダイバーシティ施策とワークライフバランス施ワークライフバランスことにあるという結論を得た。
<総評>
今後の投資家の判断材料の増加・ワークライフバランス施策とダイバーシティ施策の導入が今回の文献を通じて現状を変革すると考える。
期末フィードバック
女性が働きづらい理由について子育て等の理由が少し抜け落ちている。
現状の背景など歴史的な流れについてまた不十分だ。
格差を是正できるから、さらにいうのであれば「メリットがある」から女性を管理職を登用するという考え方ではなく、人権ベースや機会均等の視点で研究すべきだ。
2024年1月11日
吉田航(2022)「女性管理職は「変化の担い手」か「機械の歯車」か?新卒女性の採用・定着に与える影響に着目して」『理論と方法』37巻1号p18-33
<内容総括・選択理由>
日本では,組織の指導的地位につく女性管理職の効果に着目した研究は少ない。とくに,企業内のジェンダー不平等に与える影響を検討した先行研究はわずかである.日本企業における女性管理職比率の影響を検討した実証研究の多くは,企業業績や生産性への効果,たとえば ROA(総資本利益率)や労働時間当たり の売上総利益への効果を検討しており,雇用への影響はほとんど着目されてこなかった。そこで管理職の効果に着目することで,ジェンダー不平等をもたらす構造的要因の部分的な解明が期待できる。
<内容>
研究の意義として、指導的地位につく女性には,不平等の程度を示す「結果」としての側面だけではなく,他の領域でのジェンダー不平等の程度を変化させる「原因」としての側面もある。 組織の指導的地位である管理職は,採用・昇進に関わる人事決定や,給与や待遇に関する部下の処遇を通して,従業員や求職者に影響を及ぼす。そのため,女性の管理職が多い企業では,女性の採用が増える,女性社員の待遇が改善するなどの形で,ジェンダー不平等が緩和されるかもしれない.実際に,英語圏の研究は,不平等に影響する要因の1 つとして女性管理職に着目し,男女間賃金格差や職場の性別職域分離に与える効果が検討されてきた。
もし女性管理職が不平等を緩和していた場合,指導的地位に占める女性の少なさが, 他の側面でのジェンダー平等化も妨げていることが明らかになる。逆に,そうした効果が みられなかった場合は,女性の管理職による不平等改善を妨げる,日本企業に固有の構造・慣行の影響が示唆される.さらにこの検討課題は,ポジティブ・アクションの効果を 考える上でも重要な点である。もし女性の管理職が不平等の軽減に寄与していた場合,たとえば管理職の一定比率に女性を登用するクオータ制によって,管理職以外への波及効果も期待できると考えられるからである。
米国の貯蓄貸付業界を分析した Cohen et al.(1998)によると,上位の管理職に一定数の女性がいると,その下の職階への女性の昇進・採用が促進される.女性の採用担当者や現職の女性比率が女性の採用確率を高めることは,米国の法律事務所でも確認されている。さらに,企業固定効果と時点固定効果を統制してもなお,米国企業のトップ管理職における女性比率は,より職階の低い管理職に占める女性比率を高めている(Kurtulus and Tomaskovic-Devey 2012)。日本企業についても,女性管理職比率が高いほど新卒女性採用比率も高くなっており,この関係は企業業績の良し悪しに依存しないことが明らかになっている。
定着への効果についても,断片的ではあるものの,「変化の担い手」仮説と整合する研究結果が確認されている.具体的には,上司の性別が部下と同じであるとき,部下の離職率は低下することが知られている。ただし,これ らの研究は米国の一企業や公立学校を対象としている点に留意が必要である.もしこの知見が日本企業にも適用できると仮定すれば,女性の管理職が増加すると,定着率のジェン ダー差は縮小すると予想される。
行った調査の結果、時点不変の企業特性や時代的トレンドを考慮すると,管理職に占める女性比率は,下位 /上位ともに女性採用比率を高めているとはいえなかった 。これは、日本企業に固有の人事慣行,すなわち新卒採用を含む人事権を本社人事部が掌握しており,個々の管理職がもつ採用権限が相対的に弱いことが寄与している と考えられる。このような慣行のもとでは,たとえ女性管理職が増加した場合でも,新卒採用に関わる施策・慣行は変化しづらいことが示唆される.さらに下位管理職では年度ダミーの投入によって効果が逆向きになったことから,時代的なトレンドによ る交絡が下位管理職と新卒採用の女性比率をともに増加させていた可能性もうかがえる。一見女性管理職が新卒女性の採用を促しているように見えるものの,実際には時代的な影響,たとえば景気の好転や「女性活躍」をめぐる社会的圧力の高まりによって,両者がともに増加していたにすぎないことが示唆される。
職階による効果の違いは,下位管理職と上位管理職の間で,若手社員との関係が異なっていることから説明できる.新入社員の直属の上司は下位管理職であることが多い。分析結果から,女性上司が部下の女性を優遇する傾向はみられないとする米国の知見は,日本企業の下位管理職と若手社員の間に もある程度妥当していると考えられる。さらに,日本企業において,労働時間と昇進確率の関連は男性より女性の方がはるかに強いとする知見を踏まえると, 管理職に到達した女性は,仕事へのコミットメントを重視する規範をより強く内面化している可能性がある。その結果,同じ女性の部下にも同程度のコミットメントを要求し,女性若手社員の早期離職傾向をむしろ強めている。
一方で,上位管理職 と若手社員の業務上の関係はより希薄であるため,このメカニズムは,上位管理職にはさほど当てはまらない.その上で,より権限の強い部長職以上に女性が参入することで,福利厚生や在宅勤務などの企業内施策が充実し,定着率のジェンダー差を縮小させる力が働いている可能性がある。
組織の指導的地位に対する女性の参画が進展した場合でも,当該組織におけるジェンダー不平等は緩和されないことが多い。とくに下位管理職の女性比率は,女性採用を促進させておらず,定着率のジェンダー差をむしろ拡大させていた。この結果は,日本企業に固有の構造的な要因 ――本社人事部への採用権限の集中や,長時間労働が女性の管理職に対して強く要求される傾向――によって,女性管理職がジェンダー不平等の改善に寄与する効果が阻害されている可能性を示唆する。その一方で,女性の上位管理職が増加すると,定着率のジェン ダー差が縮小する形でジェンダー不平等が改善していた。ポジティブ・アクションによっ て単に女性管理職を増やすのではなく,企業内で強い権限をもつ部長以上の女性比率を高めることで,はじめて企業内のジェンダー不平等も改善する波及効果が期待できると考える。
<総評>
女性管理職をただ増やすだけでなく、比率を高めることで現状を変えていくほどの力を持つことができる環境を作る必要がある。
2024年1月18日
櫻田譲(2023)「女性役員比率と企業業績の関係性」『北海道大学 經濟學研究』73巻2号 p1-16
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、女性役員(管理職上位層)に増やすことで実際にそれは意義があるのか?これを確認していきたい。
<内容>
内閣男女共同参画局が公開した全上場企業の女性役員比率を基に日本経済新聞社が独自に算出したところ、「女性役員比率が 10%以上(15年9月から16年8月期)の企業について,会社が予想する営業増益率は42%と,全上場企業平均の34%を上回った」との報道もある。現在までのところわが国においては女性役員の採用は少数であり,この報道が示す通り,女性役員の採用による企業業績の向上が起きるということも予想外の出来事と受け止められている。世界的には女性活用に関する研究について,従業員や管理職の採用が企業パフォーマンスを向上させるか否かに関する検証は労働経済学分野において先行しており,対して女性役員に対する研究は後れを取っていると言えるものの興味深い成果が散見される。
女性従業員や管理職と女性役員の間 には,労働契約なのか委任契約なのかという差異があり,検証結果を単純に比較できない。それでも女性労働については彼女らを雇用すれば 企業業績が現実に上昇する証拠を示した研究も あれば,反証した研究も存在し,正確なところ確定的な成果は導出されていない。また女性役員比率の上昇が企業パフォーマンスに及ぼす影響は無いとする研究や上記新聞報道とは逆に委縮させるとの研究も存在する。このため引き続き,女性役員が企業パフォーマンスに及ぼす影響についての研究成果の導出には大きな意義がある。
女性の社会参画を促す企業努力の進展を有価証券報告書にて開示するため,令和5年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(改正開示府令)が公布・施行されている。その中で性的多様性に関する情報として女性管理職比率,男性の育児休業取得率,男女間賃金格差の開示が求められるとしている。従来,女性労働研究では女性活躍の観察対象として女性従業員や女性管理職に注目した成果が公表されてきたが,それらを受けて日本では女性活躍支援のための様々な法令の整備が行われている。
そこで本研究では観察対象を東証一部上場企業の女性役員の採用実態に注目し,女性役員比率が企業業績(ROA)の他,投資家による評価(トービン Q(以下「Q」と 略称))へ及ぼす影響について検証を試みる。本研究における 2SLS 分析の結果,東証一部上場企業は女性役員比率が上昇すると4つのモデルで一貫してQの上昇に貢献する。他方,ROAの上昇に関しては3つのモデルで1%水準から10%水準で女性役員比率の上昇と正の関係性を示し,Qへ及ぼす影響に比してやや安定しないものの,女性役員の存在が利益向上へ貢献するとの結果が導出されている。
また別研究では、女性役員がいる企業では投資家の期待がより高いとされているが、実際の収益獲得に貢献したかは明らかになっていない。
<総評>
女性役員を増やすことは、国家戦略である海外から投資を呼び込み、経済を活性化させる点では一致していると感じた。
2023年春学期
2023年4月6日
清水雄大(2008)「同性婚反対論への反駁の試み--「戦略的同性婚要求」の立場から」『国際基督教大学ジェンダー研究センタージャーナル』3号p95-120
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、同性婚反対論に対して保守的思想を中心とした考え方だけでなく法的・政治的にも現代の問題を捉えており、幅広い角度から多角的に反論している文献である。日本においての同性婚法成立の政治過程の研究を行うために、まずは制度の仕組み上の設計を理解することが適当であるとしてこの文献を選択する。
<内容>
まず初めに⓵婚姻とはそもそも『男女』による『生殖』を伴うものである ⓶同性愛者が増加し、種の存続に危機が生じる ⓷子の福祉への悪影響がある ⓸法的保障など必要ない ⓹同性婚などの法的保障の前にやるべきことがあるのでは? 法的場面だけでなく、個人の価値観等を含めた文化的観点に対しても反論を行っている。⓶の種の存続の危機の点からは同性婚の法的保障を行うと、同性愛者の増加そのことにより、子を産めないことから種の存続の危機が指摘された。それに対する反論としては、性的指向が同性の者に向かうという点は先天的or後天的なものであるかは定かではなく、法的保障が後天的な要因を後押しする懸念もある。しかし、同性愛者が増えるという確証もなく、セクシュアルマイノリティを切り捨てておりホモフォビア(同性愛車に対する嫌悪)である。また少子高齢化の中で認めるべきでないという意見に対しては、そもそもLGBに対して異性婚を強制させて異性愛的社会秩序の維持や少子化対策に有用とみなされるのは重大な人権侵害という反論をしている。更には法的保障を行う必要はなく現行上の制度で十分という意見に対して、メリットも踏まえたうえで具体的にどのような場面でデメリットになっているのかを指摘している。挙げられたのは⓵公正証書契約 ⓶成年養子縁組 ⓷事実婚/内縁 ⓸登録パートナーシップが挙げられる。現在日本において同性婚を求める人々が最大限婚姻関係に近い形になることができる手段であり、4つの方法いずれにしても法的保障が行われていない限り、権利関係等においてかなり限定されたものとなっていることが分かる。
<総評>
全体を通して現在の日本の法律であると、適用範囲がかなり制限されており、また同性婚先進地域であるヨーロッパをはじめ海外との比較も行われており、日本に足りない点が少なからず理解できた。しかし、政治過程において保守層とはどのようにして議論を図っていくのか、そして合法化を進めていくのかこの部分についてさらに研究を深める必要がある。今後は、政治面に対してさらに向けていく必要がある。
2023年4月13日
西山隆行(2016)「アメリカ合衆国同性婚をめぐる政治」『立教アメリカン・スタディーズ』38巻p135-151
<内容総括・選択理由>
アメリカは二大政党制であり、リベラル的な考えを持つ民主党、保守的な考えを持つ共和党に分かれている。また連邦制のため州の権限が強く、一部州では同性婚が認められている一方、伝統的に保守が強い南部地域では同性婚が認められていないケースが多い。そこで今回、政策を推進するうえで100%の支持を得ることは半永久的に不可能であるが、日本と同様様々な保守の背景を見つける鍵となると考えたことから今回の文献の主な選択理由である。
<内容>
これまでのアメリカの政治学は利益関心をどのように実現するかを議論されてきたが、同性婚は権利及び価値と尊厳を巡る妥協困難なアイデンティティを求めたものでこれまでとは異なる。世論は、日本と同様若い世代の方が賛成の割合が高い。人種では黒人に反対派が多く、学歴では高い人が賛成する傾向がある。また共和党保守派と民主党リベラル派では、同性婚に好意的な立場をとる人よりも、批判的な立場をとる人の方が、同性婚を重要な争点と考える傾向が強い。また近年、アメリカの有権者の中でイデオロギー的分極化が進展しており、大統領が中道を狙い、世論を糾合して政策目標を実現するという戦術が採りにくくなっている。議会でも同様に二分化されている。保守派は同性婚反対の意向を明確に示して、団結して行動しているのに対し、リベラル派は同性婚賛成の意向を必ずしも明確に示すことをせず、また、同性婚推進派団体以外のリベラル派団体は同性婚実現に向けて積極的に協力するわけではない状況にある。そこからこの文献では世論の動向、利益団体政治の在り方、政党政治の在り方を考えると、連邦議会を通して同性婚を認めさせるのは困難である。このような状況では、裁判所を介してその目的を達成するのが、賢明な策と考えられた。日本では、裁判所は政治的対立とは距離を置いた、中立的立場から正義を実現するところという認識が強く、裁判所には法令上の非合理を正すことは期待できても、国論を二分するようなまた、社会変革につながるようなことは国権の最高機関である国会で決めるのが当然だとの認識が強くなっている。一方アメリカでは裁判所も統治機構の一つとして政治的役割を担っている。同性婚をめぐる州レベルの訴訟について研究を行ったジェイソン・ピアースソンによれば、州レベルにおける一連の訴訟が同性婚という争点の存在を知らしめ、その是非をめぐる議論を巻き起こした。訴訟に勝利した場合には、判決によってその権利要求が正当なものだとの議論が積み重ねられ、敗訴した場合には、同性婚を求める人々による政治的、法的動員が進む結果をもたらした。それを別の論者は「敗北による勝利」と呼んでいる州レベルでの一連の訴訟は、たとえ敗北に終わった場合でも、連邦最高裁判所が同性婚を合憲と判断するための前提条件を作るうえで重要な役割を果たすと語った。
<総評>
日本とアメリカではなぜ同性婚に対する法的保障の差があるのかと考えていたが、裁判所の在り方の違いが分かった。しかし、世論に関しては日本と近いものが多く、また社会情勢でその流れが目まぐるしく変わることも理解できる。さらに政治的な問題の調査を行う。
2023年4月20日
横尾俊成(2019)「地方自治体の政策転換におけるSNS を用いた社会運動のフレーミング効果-渋谷区「同性パートナーシップ条例」の制定過程を事例に-」『関西学院大学先端社会研究所紀要』16巻p1-16
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、今回の統一地方選挙で港区議会議員を引退した横尾俊成氏がSNSを通じた社会運動を行い、それらが実を結んだ事例を寄稿したものとなっている。日本では同性婚の合法化、国会での審議は行われていないため、過程を見ることはできない。しかし、市町村議会にはパートナーシップという形で法律には劣るものの、一部条例でカバーしており、議論過程を参考にしようと考える。
<内容>
「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」の成立背景としては、SNSを用いた社会運動の影響が考えられる。9回開かれた検討会の中で同性パートナーシップ証明書を発行する方向で話がまとまり、2015年2月12日に平成 27 年度の当初予算に関するプレスリリースが出された。(通常渋谷区では通常、条例案は委員会に報告され、定例会に提出される。しかし、今回はそのような手続きを行っていなかったため、ニュースで初めて知った区議も多かった。)そのため。定例会に提出された後も、一部の議員から手続きの正当性や拙速性についての意見が繰り返し出された。その後、SNSでは保守派(反対派)が日本の伝統的な家族観を脅かすという主張がなされた一方、Twitterでは対抗して、賛成派が「#渋谷区の同性パートナーシップ条例を支持します。」というハッシュタグ運動が行われた。結果として反対の投稿数を上回る。もちろんネット上の意見と実際の世論は、しばしば異なるなど、またこれらはデータとして不適当なことがあることは否めない。しかし、職員にとっては、条例に賛同する人が実際に日本に多数いるのだということを反対派に対して示す説得材料となったのである。その後、条例可決された後、運用する際の区規則の策定については、別の会議で行われ、区長はパートナーシップに関する証明をすることができる内容となった。その要因としては議会でのパートナーシップ提案者である長谷部健氏が区長に後継者指名され、当選したことにある。元来長谷部自身が保守系議員とうまく付き合っており、選挙で支持されたことを受けて、協力体制をさらに築くことができたとしている。
<総評>
社会運動による動員は、一般に政治闘争を引き起こしやすく、少数派の政策実現に結びつきにくいと言われている。自民党は反対をしていたが、これら活動に反対することは自民党にとってLGBT の問題、男女共同参画の問題、女性の権利の問題は本来別々のものであるが、「ダイバーシティ」として一つにくくられ、長年培ってきた男女平等参画の活動をないものにしてしまうものであった。そのことはつまり、幅広い支持を失うことを意識したため、消極的反対として、目立った反対活動を行うことが難しかった背景が分かった。
2023年4月27日
堀江孝司(2017)「安倍政権の女性政策」『大原社会問題研究所雑誌』700巻p38-44
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、安倍政権の女性政策という法政大学に属する社会・労働学の研究所の文献である。普段私は同性婚と保守政権の関係を調べているが、今回は同性婚政策同様リベラルに分類される女性政策であるが、保守政権の代表格である安倍政権がなぜ女性政策に力を入れたのかに着目したいことから文献を選んだ。そこから同性婚政策はなぜ日本で進まないのかを理解するのに役立てることを目標とする。
<内容>
盤石な支持基盤を保守層に持つ安倍政権は経済政策の一環として女性政策を行っているとしている。一つは労働供給を増やす必要性、二つ目は社会保障制度を維持するために、潜在的労働力を探す必要性があったということだ。そこで焦点があてられたのが女性であり、女性が社会で労働することにより、生産性の向上だけでなく、収入増からの消費拡大、新しい価値観の創出等成長戦略としてこの上ない。また同時に規制緩和(企業主導型保育事業)、雇用流動化策(女性が再就職しやすくする)を行う。通常保守政権は女性を家に留めておく伝統的な家族観を持つ。その為一時期政権は育休3年・3世代同居支援税制等、女性の就労促進とは真反対の政策であった。しかし、少子高齢化が進んでおり、社会保障を維持するのが難しいと考えたからか、伝統的な家族観に反してしまう配偶者控除と国民年金第3号被保険者制度の存廃を政権は試みようとした。政権は、労働供給増が見込めそうな配偶者控除や第 3 号制度の廃止は検討したが,そうした効果が見込めそうもない夫婦別姓に,保守層の反発を買ってまで取り組む気配はない。一方、安倍政権の女性政策は単なる経済政策ではなく、マイノリティや弱者保護の社会政策化してきたとする意見もある。筆者は野党の争点潰し・規制強化規制緩和のセットの提案・女性就労促進のためが挙げられる。そのため結果として、やはり成長戦略・経済政策の一環として女性政策は使われていたとしている。
<総評>
今回、安倍政権の女性政策に着目したが、政権運営をするにあたって支持者と政策の間を保つバランスが必要であることが分かる。ここから考えると、同性婚合法化の実現は経済的側面等、政権にとってプラスとなる内容にしなければならない。自民党にとってはただ同性婚合法化を行うと、その反動で保守地盤が揺らいでしまう。だからこそ、人権と経済を結び付けるのは不本意であるが、保守政権の上で同性婚政策を実現するには何か経済的側面を見つける必要がある。
2023年5月18日
三浦まり(2017)「1.政治分野におけるクオータ制導入の意義」『国際女性』31巻1号p111-115
<内容総括・選択理由>
保守政権と同性婚政策の発表を行った際、女性差別につながっていることの方が問題ではないかと指摘された。事実LGBT理解増進法案は性自認の文言に関しては、一部議員は、それは訴訟の多発につながらないと言っているものの、トランス女性と自称して女性トイレに入る犯罪面での危険性や、またマイノリティーを認めなかった場合訴訟が引き起こされる可能性は否定できない。そこで私は、女性や当事者の意見や代弁者の不足がこの問題を引き起こしていると考え、それを解消するには政治面でのクオータ制導入が必要不可欠であり、今回全体把握を目的とする。
<内容>
三浦はクオータ制がなぜ必要か、それは女性が議員になるためには様々な障壁が存在し,それを一つひとつ取り除くのにはあまりに時間がかかることがあるからと述べる。障壁の一つは性別役割分業・第二に政党、第三に女性のなり手の少なさを挙げている。女性はジェンダー社会化の過程で,競争社会で勝ち抜くことよりも,協調性や共感が推奨されていることから、政治が権力闘争であればあるほど遠ざかる。これらを解消するための即効性が高いものとしてクオータ制を挙げている。しかし、男性への逆差別等多くの批判にさらされている。特に多い反対意見としては、能力に関する意見である。「能力のある女性はすでに議員になっている」それは確かとしても、男性はさほどの能力がなくても議員になれることとの衡平をどのように図るのかという視点が必要である。議員には異なるキャリアを経てから就くことが多く,クオータは他の分野で才能を発揮してきた女性が政治分野に参入することを促す効果を持つ。能力主義による批判は懸念に過ぎないといえる。能力議論はもっぱら新規参入する側の女性に焦点が当てられるが,男性に関していえば,クオータは当選する男性の能力を引き上げる効果を持つ点にも注目すべきである。それにより議員全体の質を上げることができる。実際日本の国政に導入する場合、法的クオータは違憲になりかねないという懸念があるため、強制力が強いほど政党の自由を制限するため違憲の可能性は高まる。だからこそ、三浦は民主主義と男女共同参画の理念からは候補者の選抜基準に性別均等を含めることが要請されることから、衆参比例代表部分にのみクオータ制を置くことは合憲であると解される可能性が高い。上記の案も完全とは言えないがそもそも日本で効果的なクオータが導入されるためには,女性が政治から排除される権力過程が理解されることが先決である。
<総評>
能力に対して懐疑心が昔あったが、私自身一度クオータ制を導入することである程度社会全体の女性参加数値が高まった段階で法律は廃案として、それが真の男女共同参画社会であると考える。そのため実践的に考えていくべきである。
2023年5月25日
行田邦子(2017)「「政治分野における男女共同参画推進法」制定を目指して」『学術の動向』22巻p61-67
<内容総括・選択理由>
同性婚・LGBTQ問題にこれまで焦点を当ててきたが、現状の法整備を行うことにより女性の権利がより狭まれるものとなってしまう可能性がある。そこの理由として自分は男性社会・視点からの物事の思案がこのような背景を生んでいると考える。ジェンダー平等政策により幅広く人を守っていきたいと感じるのであれば、私はクオータ制を導入することにより、政策の視点を多角的にしていき、そのことが差別解消のための法律において生み出された新たな差別を減らすことができると考える。
<内容>
政府は衆議院議員、参議院議員の候補者に占める女性の割合を平成 32年(2020)までに 30%とする「政治分野における 202030」を示したがクリアはできていない。衆院は2017年17.8%、参院は2022年33.2%が女性候補者の数が最高であった。しかし、2017年当時衆院の女性比率9.3%はOECDの中で最下位であった。OECD加盟国35か国中29か国がクオータ制を導入している。またクオータ制の形態は法制化の有無と規制の対象という二つの基準により分類することが出来、諸外国の実際の事例は 3類型に大別される。➀「法律型議席割当クオータ」特定の性別に対し、あらかじめ一定の議席割合を確保することを憲法や法律に定める。➁「法律型候補者クオータ」各政党が擁立する公認候補者の性別比率をあらかじめ定めることを法律で規定する。➂「政党型クオータ」候補者における性別比率について、法制化はされていないが、政党等の規約類において自発的に定められている。日本において、立法の目指すところは、法律で政党等にクオータ制などポジティブ・アクションを義務付けるものではなく、女性の候補者擁立など政党等による自発的な活動を促すための環境整備であることや、憲法の整合性、国政選挙における性差別の禁止(44条)、性別による差別の禁止の解釈の一つとして、男性候補者への立候補権侵害・逆差別、女性候補者・当選者のスティグマ(14条 1項)、政党の自律権、結社の自由の侵害(21条 1項)等、最終的には全会一致を目指し議連が立法に努めている。また行田は「政治分野における女性の参画と活躍の推進は、社会全体で取り組まなければ実現しない。」と述べている。日本における女性議員比率の低い原因としては女性の資金面、体力面、人材面の不足を挙げており、そのうち資金面においては、女性の経済力向上はもとより、政党その他による経済支援制度の充実が解決策の一つとなる。また体力面においては、そもそも政治家や候補者が有権者に求められる活動内容について、社会慣習の問題として考える必要があり、このことは選挙制度とも関係するとしている。人材面においては有力な人材源である地方議員や官僚に女性が少ないことも指摘している。結果として国権の最高機関である国会において、国民の多様な意思が的確に反映されるよう、立法府はもとより社会全体での取組みが求められる。
<総評>
著者が国会議員であったため、今の日本にあった法律制定・現実的な軸・指針が分かりやすく記されていた。しかし、憲法上強制力のあるクオータ制の実現は難しく、やはり政治分野だけでなく社会全体が積極的に女性登用に取り組む必要がある。
2023年6月1日
湯淺墾道(2009)「クォータ制と新たな政治秩序の形成」『社会文化研究所紀要』63巻p1-18
<内容総括・選択理由>
前回までは同性婚を調べることで、その政治過程において民主政治が行われている中でマイノリティの意見はある程度少なくなるのは許容の範囲であるが、同性婚は国民支持率6割以上の中で実行が遅々として進まない。これは代弁者が少ないためであり、LGBT法案などによりそれ以前に政治面では女性の意見が伝わらない現状が予見される。そのためにクォータ制が必要であり、能力面や政策の多角化多くのメリットがある中、日本特有の理由が分かった。今回はこの説得力を増すための準備である。
<内容>
ここではクォータ制は政党の比例代表名簿に一定割合以上の女性候補者の搭載を義務付けたものとしている。まず韓国の事例が記載されていた。2000年にクォータ制が国会議員・道議会議員選挙で導入され最低30%の女性登載を義務付けた。また2002年には道議会議員選挙では50%の女性登載が義務付けられ政治資金法により30%以上の女性候補者擁立西欧に優遇措置が行われた。2004年には国会議員でも50%義務となり、そのことから小選挙区でも30%以上が女性候補となった。2005年には制度上の問題であった比例名簿において女性を下位とする政党を防ぐために、男女交互に登載することを必須として、守らない場合は議席没収などの改正が行われた。そのことにより1992年は2.7%であった女性議員の割合は13%と2004年には増加した。このような背景としては、儒教的慣習である男尊女卑的傾向を制度改革による変革運動や盧武鉉大統領になったことで参与政治へ変化し、民主化の風潮が女性を後押ししたと言われる。さらに若い世代では男女間意識の変化も上げられる。日本の女性議員が進出した例としては、損後初めて行われた衆院選であり、女性に選挙権・被選挙権が認められた初めての選挙であった。39名当選し、平均年齢46歳半数は無職であった。また1989年は土井たか子の日本社会党が引き起こしたマドンナ旋風により女性であることを武器にした選挙が行われる。さらに2005年の郵政選挙時に小泉により送り込まれた刺客の中に多くの女性が含まれていた。日本における女性議員の少なさの背景として1つは政治文化(性的役割分業意識・世襲)2つ目には男女間の社会経済格差(ライフスタイル)、3つ目は制度的問題である。制度的問題に関しては日本においては女性の方が投票を義務と感じるからか男性よりも女性の方の投票率が高い。これは多くの女性有権者が男性候補者に投票していることが分かる。日本の2007年の参院選結果分析では女性候補者を数多く立てれば女性候補者や政党に多く集まるとは限らないことが分かった。ここから論文は日本の男女共同参画に関する意識の現状の投影に他ならないとし、意識を変えれば女性議員が増えるようになるから意識変革を先にするか、それとも意識変革するにはクォータ制を導入し、人為的に女性議員を増やすのかに対する答えを出すのは難しいと結論付けた。
<総評>
クオータ制を導入することで多くの議員の誕生につながるとは必ずしも結びつかない。また政策効果についても増えたことはわかったがそれにより何が得られたのか分からなかった。次回は、クオータ制の政策効果これを中心に調査したい。
2023年6月8日
戸田真紀子 フォーチュネ・バイセンゲ(2020)「女性の政治参加と家父長制社会の変容 ルワンダと日本との比較」『現代社会研究科論集 : 京都女子大学大学院現代社会研究科紀要』14号p29-43
<内容総括・選択理由>
政策を提案していくにあたって、その政策から得られるメリットや根拠を示す必要があると考えた。私はクオータ制を導入することで、女性視点の政策立案が行われるようになるようになり、これまで盲目となってきた部分の解明が可能となるから導入が必要と考える。日本では政治面でまだ実施されていないため、国内事例をもとに根拠を示すことは難しい。そのため、今回開発独裁国家でありながら、女性議員比率が最も高いルワンダ(61.2%)の政策効果を中心に紹介する。
<内容>
ルワンダは長く家父長制社会であり、現在でも DVなどの課題を抱えている。しかし、クオータ制が導入され女性議員比率が高まるにつれ、家父長制社会の変化が指摘されてきている。戸田はここでは、ルワンダにおいては家父長制社会が解消され、男女平等の意識が社会で高まったから、女性議員の数が増えたのではないとしている。そして2003年に制定されたクオータ制の導入が党派を超えた女性議員の連帯により女性の権利を守る法律が制定されていることに繋がっているとしている。ただルワンダは植民地化以前のルワンダ王国における Queen Mother(多くの場合、王の実母)の地位、及び家庭における伝統的な女性の地位が高かった歴史のあることから導入に反感は少なかったと指摘される。ジェノサイド後の1994年に移行政府(GNU)が誕生しクオータ制が導入された。女性議員が増加したことにより、ルワンダの女性議員たちは、女性と子どもに関わる分野に関心を持つ。(日本の男性議員は外交安全保障に興味を持つ傾向がある。)導入以前1996年に「ルワンダ女性議員フォーラムFFRP」の超党派議連が女性(一夫多妻制の禁止)や子どもの権利(虐待)を守る法律の制定に貢献した。そして導入後、ジェンダーに基づく暴力の防止と処罰に関する法律」の制定(2006)・民法・土地法・労働法の多くの規定が修正される。1988年制定の民法第 206条(夫は家族の長であることを規定)は、人と家族を規定する法律の第206条(夫婦の平等を規定)に置き換えられている。2005年の土地法は2013年に修正され、土地と財産に対する権利について夫と妻の平等が強調されている。産前産後 休業期間中の給与支払いに関する2009年の労働法を補うために、産前産後休業給付制度を制定した法律も制定されている。この法律ができたことにより、女性は土地をはじめ財産を相続できず、所有権は父から息子に移譲された。離婚の場合、女性には夫の土地に対していかなる権利もなく、子どもがいない寡婦は、亡夫の兄弟と結婚した場合のみ亡夫の土地の使用権を主張できるだけであった。その結果女性の意思決定参加割合が増えたとされる。また女性が財産を得やすくなったことにより、子どもの授業料や家族の医療保険が払いやすくなったこと、HIV/ エイズがもたらす様々な影響にも対処できるようになったとしている。しかし慣習面では文化と宗教が法律の実施を妨げていることが明らかにされている。
<総評>
本当に国民にとって必要な政策が議論されることに繋がると感じ、そのことが国民全体の幸福になると考える。ただ背景面が少し日本と違ったため、近い場面や地方議会の事例など調査したい。
2023年6月15日
大澤貴美子(2016)「韓国:政治代表の男女不平等を是正するためのクォータ制度」『法政論叢』52巻2号p203-215
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、隣国である韓国のクォータ制に関する文献である。日本と文化面での接点の多さや、男尊女卑が根強い文化に残っていながら、女性大統領の輩出などが行われ、進んでいる面も垣間見れる。また前回はウガンダを取り上げ、制度効果を中心的に見た。制度効果をさらに合理化するため、海外事例は背景が異なるため日本で導入する場合と異なる可能性となることは高いが、政策効果面では同様の成果が得られると考える。
<内容>
ジェンダーギャップ指数で見る限り、日本も韓国も、男女平等の状況については大差がない。それでは、なぜ韓国でクォータ制が導入されるに至ったのか。その要因として、「女性団体の運動」および「政治環境」の2つが要因として指摘されている。女性団体の運動としては80年代の民主化運動の過程で誕生した女性団体が女性の政治参加の問題へ関心を寄せ始めたことの影響が大きい。2000年にもクォータ制を導入後も、改正を求め続けた。そして政治環境では韓国の大統領制は、大統領に大きな政治指導力を付与しているが、比較的女性政策に関心の高い金大中が大統領になることによりクォータ制導入への道が開け、政治改革の必要性も同時に訴えられていたことも要因である。続いて効果と限界を見る。女性議員の数あるいは比率の変化を問うものである記述的評価としてはクォータ制導入の結果、女性議員の数・比率が増えているのは明らかであるとしている。特に比例代表選出部分において2004年以来女性割合は50%を超えている。これは罰則規定がないにも関わらず、このような状況が生まれている原因としては、①クォータ制の法的規定がより明確であること、②女性団体をはじめとする「市民団体によるモニタリング」があったこと、③「韓国で比例代表名簿は政党の民主主義に対するバロメーターの意味を持ち、法律違反の負担が相当高い」こと、④議会全体に占める比例議席の少なさに加えて比例選出議員は再選を目指さないという原則があることから男性現職議員の既得権益が弱いことなどがあげられる。しかし比例選出の議席が議会全体に占める割合は18%に過ぎないため、 議会全体における女性の割合はいまだ低いままである。ただ比例代表で議員を務めた女性が既得権の根強い小選挙区に挑戦するケースも多く女性候補者を増やすメカニズムとして機能している。そして実質的評価としては女性関連法案の数の増加であり、ウガンダと同様2005年の家族法改正による戸主制度および戸籍の廃止が行われた。また女性議員は男性議員に比べて活発な立法者であり、2004年4月から2006年9月の間、また2004年から2008年の第17回国会において、女性議員の議案発案数は男性議員を上回っており、議員としての女性の有効性が示唆されている。女性の視点や利益への関心が高まったのみならず、立法活動そのものの活性化にもつながっている。そして法律型クォータ制導入が難しい現在の日本においては、制度の導入を推進しながらも、同時に、「そもそもなぜ女性議員を増やす必要があるのかに関して、民主主義の観点から議論を深めていく作業が不可欠」ではないかとしている。政治代表におけるさらなる男女平等の必要性が認識されれば、クォータ制導入自体の可能性も、導入後に政党がクォータを遵守する可能性も高まるであろうことが予想される。また、有権者の多くが政治における数的男女平等を求めることになれば、そのような有権者にアピールしようとする政党が、独自に政党レベルでのクォータ制を導入する契機につながる可能性も ある。
<総評>
クォータ制を導入した場合でも、効果を発揮しにくい場合があり政党が遵法していくことを国民が見ていく必要がある。韓国ではまだまだ小選挙区で男性が強いが、確実に政治面では日本より進んでいると言える。
2023年6月22日
田中聖華(2020)「日本企業における女性活躍推進の課題~日本社会における性別役割分業観の歴史的視点から~」『横浜商大論集』53巻2号p51-67
<内容総括・選択理由>
2023年6月13日政府は「女性版骨太の方針」を決定し、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率30%以上を目指し、2025年をめどに女性役員を1人以上選ぶ数値目標の設定を促すことを決めた。しかしニュースのコメント欄を閲覧すると、逆差別などの意見が多数を占めていた。政府は女性がリーダーを目指すことのできる環境づくりの構築に勤しんでいるが、反対も根強いと見れる。そのため、クオータ制導入は女性活躍推進に当たるのだが、政治面と共に企業にも流れを波及させる必要がある。今回は企業の視点で考える。
<内容>
女性管理職の数は増加しているが、そのほとんどは係長あるいは課長といったクラスであり、全社的な意思決定に直接影響を及ぼす上級管理職や経営者層(役員層)には少ない。これは人事制度の仕組みに密接に関係している。均等法は、労働市場あるいは企業に雇用される場合における女性の地位を改善するために設けられた法律であり、育児介護休業法は、男女ともに小さい子供がいても働き続けられる、つまり仕事と育児の両立を図るために設けられた法律である。男性中心社会は労働市場に遅れて参入してきた女性に、均等に扱われるためには、男性と同様の働き方、いわゆる滅私奉公型働き方で働くことを要求した。現代ではライフスタイルは変化しているが、男性労働者にはいざとなれば滅私奉公を可能にする状況(女性を頼る)が整っている。しかし、その選択肢どころか実際は平成 28 年における 6歳未満の子どもがいる共働き家庭の妻の1日の家事時間160分、育児時間 167分であるのに対し、夫の家事時間20分、育児時間47分(総務省社会生活基本調査)であり、家庭生活における役割を分担しようという意識があっても、現実にはしていない、あるいはできないのである。企業も同様の考え方が残っており、女性が家庭の事情で残業を断ったり仕事の軽減を申し出たりした場合、男性上司はやむを得ないと思うことが多い が、男性が同じことを申し出ると良い顔はされない。それが最も顕著に表れるのは、育児休業取得時(男性の育児休業取得率は変わっていない)においてである。これは男性が育児休暇を取る際の職場体制(上司の考え方も含めて)が整っていないからである。企業は、従業員の単一性を求めるのではなく個々人のダイバ―シティを認め、育成をはじめとする人材活用のためのコストをかけるべきである。また女性はデータ上、管理職になりたがらないと結果が出ており、主な理由は仕事と家庭の両立が困難になるが大半を占める。これは労使双方が長時間労働を極めて例外的なことと認識する必要がある。職場のメンバーの超過勤務を皆で協力して行うのではなく、超過勤務自体をなくす方法を協力して考え実行したほうが、ワークライフバランスのためには効果的である。企業は従業員の働き方の多様性を認めた管理方法を実行すべきである。性別で見方を変えるのではなく、一人一人の個性を最大限に生かせる管理をすることが重要である。女性は早く辞めるから育成に手をかけず、重要な役割体験をさせないのではなく、辞めずに働き続けたいと思える能力開発や役割体験をさせ、自己効力感を育てることが必要だ。
<総評>
日本における長時間労働が求められる現状や、価値観が企業においても、政治面とはまた違った形で男女での差がつけられていることが分かった。政治・企業どちらも長く続けることのできる女性の人材育成環境を整えることが必要不可欠である。
2023年6月29日
砂原庸介 芦谷圭祐(2019)「女性の代表と民主政治の活性化」『連合総研レポート』32巻10号p12-15
<内容総括・選択理由>
今回取り上げた文献は、政治学者の方々から書かれた女性代表(議員)の必要性である。これまでの文献の多くはフェミニスト中心であり、違った見方が必要であると考えた。また海外事例が中心となっていたため、国内・地方にも目を向けていきたい。
<内容>
日本では、性別役割分業を基本とした福祉国家の発展を背景に、特定の家族像を前提として家族・女性政策が形成されてきた。女性の社会進出を促進しうる子育て支援政策は十分でなく、待機児童問題は都心部を中心に深刻化している。保育園に入園できない場合には女性が離職するケースも珍しくない。そのため共働き世帯が増加しても、女性の就労形態は非正規雇用であることが多く、男女間の賃金格差は依然として根深い。キャリアの中断を免れたとしても、女性は暗黙に設定された「ガラスの天井」に遮られ、それ以上の昇進が叶わなくなる傾向が強い。議会には、このような問題の解決が期待されているが、国会議員の女性比率は低く、地方議員における女性議員の少なさはさらに深刻であり、町村議会では女性議員が一人だけの議会や、一人もいない議会は珍しくない。社会問題の解決が期待されるはずの議会において、女性議員の少なさはそれ自体が問題である。女性議員比率が低いということは、議員候補を選びだす広義のリクルート過程のどこかに体系的なジェンダーバイアスがあることを意味している。例としては男女間の賃金格差も影響して、立候補に必要な金銭的資源も乏しい。また男性に比べて家事労働の負担も大きく、家族からの協力も得られにくいことである。そこから女性議員が増加すれば、女性にとって好ましいように政治や政策が変化するということは、素朴に期待されやすいが議会において女性がどの程度増えれば政治が変化するのかについては議論がある。現在の日本の少なくない地方議会のように、女性議員が存在するとしても極めて少ない状況では、女性議員はお飾りとしての地位を受け入れることを求められがちで、政策過程に影響を及ぼすことが難しい。したがって女性の利益が代表されるためには、一人や二人の女性議員が参入するだけでは十分でなく、女性議員比率が一定の水準を超えなければならないと主張されてきた。しかしこれは女性の利益を無批判に想定していることが批判につながっている。仕事と家庭の両立を求める女性団体は登場しにくく、大規模な女性団体の構成メンバーはほとんどが専業主婦であるため、独身女性の利益を代表する団体も存在しにくい。利益の多様性と組織力の弱さは政治的影響力の弱さに直結し、仮に女性の代表に積極的な女性議員が存在しても、「女性の利益」はまとまった利益として委任されにくい。そのため女性議員も選好や党派性において多様性を増している。女性に影響を与える政策の多くが、福祉国家や福祉レジームの中に埋め込まれ、簡単には変更しにくくなっている。歴史的に、税制や年金制度、保育政策などが、男性稼ぎ主を中心とする家族形態を支援してきた。このような福祉国家の形成と展開には、経路依存や制度的補完性がはたらく。現行制度は一定の合理性を有しているがゆえに定着しており、すでに多くの受益層が存在するため、そもそも変化しにくいのである。したがって、議員個人の選好や行動が福祉国家を変容させるということは、理論的に想定することも難しい。女性議員の限界的な増加が福祉国家体制を変容させ、女性の利益の実現につながるという単純な仮説は成立しにくい。そのうえ女性政策の形成に貢献をしているのは女性議員だけでなく官僚や理解ある有力な男性議員などもその一人である。具体的な政策に着目するのではなく、まずは女性議員の増加は政治の活性化につながることを期待すべきである。
<総評>
女性議員の増加が必ずしも政策実現にはつながらない一方でアメリカにおける上院議員が女性の州は地方議会で女性が増加する例の通り、活性化には間違いなくつながると感じた。
参考文献(作者:五十音順)
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吉田航(2024)「ダイバーシティ部署の設置は企業の女性管理職比率を高めるか?」『組織化学』57巻3号 p67-80