【千夜閃冊/三冊目】祖父が見た日中戦争 ~東大卒の文学青年は兵士になった~
あー、ども。夏樹です。今回はですな。日中戦争(第二次大戦の中国大陸方面)に出征した帝大文学部出身のインテリ祖父を孫でノンフィクション作家の早坂隆がインタビューしてまとめた「戦争体験」である。
一部悲惨なこと、凄惨なこともあるけれど、いわゆるサヨクな戦後思想とは異なる視線で描かれている本。
青春を戦争で奪われた文学青年。そんな青年の偽らざる「本音」の部分だ。インテリらしく少し斜に構えて愛国にも染まらず、戦後の「全部日本が悪かった」にも傾かず。
ただただ当時体験したことを当時の心情を死ぬ前に孫に語り尽くしたという感じがすがすがしい。「男同士、最初で最後の真剣勝負をしよう」いう祖父は、ルポライターとしてインタビュアーとして自分からすべてを引き出してみろ、と孫にいうのだ。そんなガンで余命いくばくもない祖父の気概もかっこよい。
ただ死に瀕した強さというより、自分のなりたかった文筆業で身を立てている孫への最後のプレゼントのようにも感じられた。
そうして語られる祖父の青春。帝大の青年の淡い初恋。旧家らしく、親の根回しによる聖心女子大の学生との破局。女性の身の引き方も時代を感じる。
出征が決まり、大陸での戦闘。意外なほど現地中国人との良い関係。(日本軍は小さな町にとっていい客だった。)しかも町の治安もよくなったという感謝の声。
一方でうずまく上官の理不尽な暴力。ゲリラ戦をしかける八路軍の厄介さ。戦況の不利に伴う絶望感。国に帰れぬと思い、首を吊った仲間。その三日後に、部隊の7割ほどへの帰郷命令・・・。そして生き残れぬ地への転戦する仲間への罪悪感。
運命の不思議さをどことなく渇いて、悲壮感のあまりない筆致でしかし逆に淡々と浮き出るリアリティが読者に当時の状況を用意に脳裏に描かせてくれる。まるで、当時の渇いた大陸の砂塵の匂いがするかのようだった。
さて、「祖父」はそうして日本に帰り、体調不良で入院。その後も病院の看護婦・医師の配慮で結核か何かということにされて長期化、そうこうしている間に終戦となった。
そして生き延びたのである。
歴史的、戦史的、むろん政治的に右だの左だのという本でもない。そういう価値はない。しかし、一人の東京帝大を出た文学青年の視点を通じた「戦争、そして敗戦のリアル」である。
さて。自分には実質、祖父という存在はいなかった。父方の祖父はそもそもで僕が生まれる前に亡くなった。母方の祖父は6歳頃に一度会ったはずだが、その一度だけで記憶にほぼない。
二人とも戦争はいったが、生還した。母方の祖父はロシア語ができたそうで、露探(笑)というヤツだったそうだ。生きていたらその話を聞いてみたかったもりである。
むしろ大学生になり、旧帝国陸軍士官学校卒の軍事・外交研究家のじーさんと知り合い、彼との交流により多少、祖父というものがいたら・・・という感覚を知った程度だ。
その人も今はいない。「祖父が見た日中戦争 ~東大卒の文学青年は兵士になった~」を読み、僕は祖父のようだった研究家のじーさんを思い出した。いつか彼が教えてくれた米軍のことやベトナム戦争のことを少し書いてみよう。(笑)
何はともあれ、おもしろい本だったと思うよ。戦争とは何か。確実に一側面を教えてくれる。