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息子と2人旅

海を越えてポートランドからオラクルメッセージのお手紙が届いた。


“空を泳ぐクジラ”

未知という言葉に惹かれ
そこに平和を感じるというなんとも矛盾な2つ

絵にもメッセージからも旅の出だしを鼓舞されて
お手紙が届いた丁度翌日から息子と初2人旅へ

パパの展示会を見に行くという名目で
初の北九州、小倉にて空白の数日間をどう過ごそうかと
久々に行き先を調べることから始まった。

【平尾台】
無数の角の丸い岩がでこぼこと、まるで羊の群れのように見える草原がどこまでも広がる台地。
電車やバスを乗り継いで
山の空気を吸いにホテルを出た。

2両のこじんまりとした電車、
乗り継ぎのバスがちゃんと来るかな?と少しそわそわして
異国の滞在先でも乗り継ぎによくハラハラしていた事が懐かしく甦ってきた。

そんなことも含めて
久々の冒険心が“ドクン!ドクン!”と高鳴っていた。
息子は電車の扉の開閉に、乗ってくる人たちにキョロキョロしながらも穏やかに 辺りの様子を伺っていた。
「そら、出発進行!」と片腕をあげるポーズに、くしゅっと笑う8ヶ月児。
なんとなくでもママのハイテンションを感じていたかな。

外を見ると、春真っ只中の元気な緑や黄緑が広がる山の方へと電車は奥地へ進み、
無人駅に着いた。電車を降りてバスを待つ間に、辺りを散策していたらこんな花に出会った。

花びらにしてはめずらしく固くパキッとした肌触り。
まっ黄色に
白いペンキが飛び散ったようなまだら模様

こんなことでも隙間隙間に、見つける発見が嬉しくて
「あ〜旅してるぅ〜!」と軽快になっていく。

前に8Kgの息子を抱っこして、後ろにリュック、
2人で帽子というスタイルでバスに乗ると
ベテラン登山家の風貌をしたおばさまに出逢った。

「まさかと思うんだけど、赤ちゃんとトレイルするんですか?」という一言から
調べてピンと来たのが平尾台であったことや
どこで降りるか迷っていることを伝えると、
この日は年に一回のトレイルランの大会で人が集まっていることや
降りるべきポイントを教えてくれた。
運転手さんも話に加わって今乗っているバスの最終地点からぎりぎり車で行けるところまで今日は特別にシャトルが出ていることを教えてくれた。

おばさまは
「茶が岳まで行ったら平尾台の景色は一望できて、道があるから近くの散策も赤ちゃん連れにはいいかもしれない。お花が好きなら辺りで登山してる人たちに聞いたら大体みんな知ってるから聞いてごらんなさい。
シャトルが出るのは年に一回しかないのに、あなたラッキーね。
運転手さん、有益な情報をありがとうございました。」
と私に代わってお礼をして、車内でプランを立ててくれた。

自分のことなのに内心
「わぁ、今日の登場人物、早速登場!」とちびまる子ちゃんの歌(インチキおじさん登場〜♩)を歌っている気分で話を聞いていた。(全くインチキではない、むしろ大助かりおばさん。)

バスを降りておばさまとはお別れをして、起きた息子を前向き抱っこに変えた。
彼はこの体勢が好きなように見える。両手と両足をバタバタさせて、キャッと声を出す。次のシャトルまでひと段落していると、またおばさまがこっちへ戻って来た。

「あ〜いたいた!
山にはトイレがあるけれど、トイレットペーパーがないからこれどうぞ!
あのね、毎回山に登る時には2セット用意して、1つはトイレに置いてくるようにしているの。ここら辺の登山家みんなで一応やっているのよ。」と言って
芯を抜いて折りたたんであるトイレットペーパーをくれた。

「なんてやさしいの!」
山に登ったどこの誰かも分からない人への心遣い。
この時点で今日平尾台を選んでよかったと心はたっぷたっぷに満たされていた。

最後のラッキーシャトルに乗って
目的地、茶が岳に着いた。

バスを降りると給水ポイントのテントが立っていて、ベルを鳴らしたり声を掛けているサポーターの人たち、ゼッケンをつけたランナーたちが登って下って険しい山道を走って、程よく人が散らばっていた。
抜けた空に遠くに見える赤い土の山、岩の羊群原が360度広がった
大きな、おおきな眺めだった。


青空が広がって、新緑のみどりみどりした匂い、四方八方から聞こえる
"ホーホケキョ"、一番高いところから全身に当たるお日様、たまに肌に触れる
そよ風も心地よく熱を冷ましてくれて

もうそれだけで充分だった。

育児に少しずつ慣れ余白が出てきたら
人にお世話になるばかりで自分は何も返せていないとか
生み出せていないとかそんな気持ちが膨らんでいたけれど、
目の前に広がる大きな景色が膨らんだ気持ちに針を刺した。
パンっと弾けて、ぐにょぐにょした気持ちがスッと抜けた。
すくすくと我が子がは大きくなっているのに、家で育児をしているとなんだか時間が止まっているようで退屈に感じるのも正直なところ。
一定の日常やルーティンを外れて
いつだって動けることを確認したら何だかホッとした。

辺りを少し散策すると“ドリーネ”という大きな50m位の穴があった。
人気もなく、静かで影になって風も通る場所だった。
ベンチでオムツを替えると息子はイビキをかいて寝始めた。
彼にとってもこの山の空気が少しでも元気になっていたら良いなと思った。
ただ座ってボーッとした。

山道はどこまでもどんな行き方もあって、気になる方へ進んでみると
また色鮮やかな葉っぱが迎えてくれた。

透き通って見える光と赤。
生き生きしているものたちに「こっちだよ!」と呼び止められるように
引き寄せられる。

一つ一つに止まっていると帰るシャトルの時間まであっという間だった。

帰り道、ふと空をみると
パラグライダーが右へ左へとゆらゆらと泳いでいた。

奈々緒さんがくれたお手紙、泳ぐクジラを思い出した。
旅の始まりと終わりと不思議なシンクロに心が踊った。

初めて息子と旅をして感じたものは
見知らぬ人との距離がぐっと近くなったこと。

小倉に向かうまでの新幹線、ホテルに着くまでも 
必ず誰かが「可愛いねぇ〜!」とか「何ヶ月?」と席を譲ってくれたり、ただ息子を見てニコニコ笑いかけたり、息切れで余裕がなさそうに見えるランナーたちも、手を振って、声を掛けてくれた。おばさまも運転手さんも、私たちがちゃんと行って帰って来られるように把握してくれていたようで
これまでの一人旅には感じたことのない景色だった。
社会ってこんなに温かいものだったのかな〜ともう一度体験し直している。


何の気なしに出かけてみて
子連れ旅も、いざ行ってしまえばどうにでもなることも分かったし、
旅をした!という気持ちが止まっているものを流していくような機会になった。

2人して手も顔もまた一段と小麦色から茶色に近づいてホテルへ帰ってきて、
泥のように寝た。
仕事で全く観光気分ではないパパを置いて、すっかりリフレッシュ。


単純だけど、実際に旅に出る!とかどうしたらいいか迷っているとか人に話してみるとこの1日だけでも何もないところから広がっていくことをこの日も体感した。
足を使って、言葉を交わして
自分の中でも外でもぐわんとエネルギーが動いていく事の信頼がまた厚くなった。


息子よ、8か月でママとはじめて旅へ出たよ。
覚えていないだろうけど、あなたのおかげで優しい世界をまた知ったよ。