若者の語彙力は本当に『ヤバイ』のか?
若者の語彙力が危ないと言われて久しいが、冷静に考えてみると、平安の昔からなんでもかんでも「をかし」だし、その「をかし」ですら省略してしまう国語の民族なのだから正直心配要らないのでは?とすら思う。
もっと言葉を尽くすべき、という紫式部的な人もいるけど、そういう点も今も昔も変わらないと思う。根本的に問題は解決していないし、実はそもそも問題になってない可能性すらある。
言葉は生き物で…などと気取った言い方はあまりしたくないが、かなり流動性の高いものであることに関して異論はない。流行語が毎年全然違うこともその証左の一端ではなかろうか。
単純に「近頃の若者は…」と言いたい為の一つのもっともらしい言い訳として、語彙力が槍玉に挙げられているように思う。
そもそも、「近頃の若者は…」なんて古代エジプトの粘土板にも同様の記述がされているくらいの使い古された概念なのだから、さすがにそろそろ進化なさってはいかがですか?
あなた方が若者がどうのこうのと嘆いている幾千年の間に、サイエンスの世界では四元素説やら、錬金術やら、天動説やら、永久機関の研究などを通じて数多くの失敗と発見と進化を遂げて、ニュートリノとか、重力波とか、ヒッグス粒子とか、量子コンピュータとか、iPS細胞がどうのこうのとか言ってるんですから。
ところで、iPS細胞のiが小文字なのはApple製品にあやかってのことらしいですね。
だからどうということもないんですけど。
単純に「ヤバい、エモい」という言葉が気に入らないだけなら、ヘンに偉ぶって「近頃の若者の語彙力が…」とか言わずに、あるがままに言った方がむしろ潔い。若者が語彙力を失った結果として何でもかんでも全部「趣深い」って言ってたならどうせ目くじら立てないだろ、そういう人は。
春はあけぼの。
これを「春は夜明けの時間帯が趣深くて良い」と訳させるが、清少納言はあけぼのとしか書いてないのだから、「春って、あけぼのよ!」というニュアンスが近いという主張(『桃尻語訳 枕草子』著:橋本 治)もあるけど、割とそうだと思うし、なんなら『桃尻語訳 枕草子』ですらまだまだ上品過ぎる気もする。
有名なコピペ「宇宙ヤバイ」
ヤバイ。宇宙ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
宇宙ヤバイ。
まず広い。もう広いなんてもんじゃない。超広い。
広いとかっても
「東京ドーム20個ぶんくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ無限。スゲェ!なんか単位とか無いの。何坪とか何ヘクタールとかを超越してる。無限だし超広い。
しかも膨張してるらしい。ヤバイよ、膨張だよ。
だって普通は地球とか膨張しないじゃん。だって自分の部屋の廊下がだんだん伸びてったら困るじゃん。トイレとか超遠いとか困るっしょ。
通学路が伸びて、一年のときは徒歩10分だったのに、三年のときは自転車で二時間とか泣くっしょ。
だから地球とか膨張しない。話のわかるヤツだ。
けど宇宙はヤバイ。そんなの気にしない。膨張しまくり。最も遠くから到達する光とか観測してもよくわかんないくらい遠い。ヤバすぎ。
無限っていたけど、もしかしたら有限かもしんない。でも有限って事にすると
「じゃあ、宇宙の端の外側ってナニよ?」
って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にも分からないなんて凄すぎる。
あと超寒い。約1ケルビン。摂氏で言うと-272℃。ヤバイ。寒すぎ。バナナで釘打つ暇もなく死ぬ。怖い。
それに超何も無い。超ガラガラ。それに超のんびり。億年とか平気で出てくる。億年て。小学生でも言わねぇよ、最近。
なんつっても宇宙は馬力が凄い。無限とか平気だし。
うちらなんて無限とかたかだか積分計算で出てきただけで上手く扱えないから有限にしたり、fと置いてみたり、演算子使ったりするのに、
宇宙は全然平気。無限を無限のまま扱ってる。凄い。ヤバイ。
とにかく貴様ら、宇宙のヤバさをもっと知るべきだと思います。
そんなヤバイ宇宙に出て行ったハッブルとか超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。
2ちゃんねるで生まれた有名なコピペである「宇宙ヤバイ」は正直語彙力がヤバイ。パッと見ると若干頭の悪そうな文章にも読めるが、それなのに宇宙のヤバさを的確に表しながら、内容としては崩壊してない。
このコピペを語彙力がヤバイからといって言葉を尽くして説明をされたところで、東京ドームの辺りで眠くなり、膨張の頃には意識を消失し、心を無限の大宇宙へ飛び立たせていることだろう。しっかり起きて聞いていたところで半分も伝わるかどうか怪しいところだ。枕草子でさえ同様のテンションで書かれていないとは言い切れない。
ヤバイ。春ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。春ヤバイ。
まず夜明け。もう暗いなんてもんじゃない。超暗い。
暗いといっても
「山の端っこだけ明るい?」
とか、もう、そういうレベル。
スゲェ!なんか雲とか紫なの。紫だし超細い。
この文章に良い感じの夜明けの写真を添付して「#エモい」とかハッシュタグをつけてTwitterかInstagramに上げていても何ら違和感は無いし、むしろこれこそ枕草子の姿ではないかとすら思うほどであり、をかし(エモい)。