
声はかけないで、まだ信じていたいから。
学生の頃、3か月間だけ仲良くしてた後輩がいたのよ。
まだ新人だったけど仕事もできたし、いつも優しくて、
私がバイト帰りにお財布から1万円なくなった時なんかは、来た道を一緒に戻って探してくれてさ。
「お財布を新しくしたその日にお金なくすなんて」と落ち込む私に
「明日は良いことあるよ!」
なんて言ってくれた。ちょっと生意気だけど良い子だったな。
その子はいつも突拍子なくって、
バイト終わりに「ジェットコースター乗りに行こう!」と突然言い出したかと思えば、
TSUTAYAで借りた映画をいますぐ見たいからといって、DVDプレーヤーをその場で購入して一緒に公園で見たり、
息ができないくらいドシャ降りの雨が降ってきたときは
「ちょっとコンビニ行ってくる!」
といって走り出し、
「これで雨に邪魔されず息できるよ!!」と
”ちくわ”を渡されたりした。
いやいや、シュノーケリングかってw
結局2人で大雨の中、ちくわくわえて家まで走った。
雨なんか吹き飛ばせるくらい笑って。
息することなんか忘れてた。
何でもない毎日を特別にする天才だったと思う。それは私にはない才能で、いつも素直で楽しそうにしてた。ほんのちょっぴり、羨ましくもあった。
3か月間だけね。
ある日、バイト先の先輩の財布から1万円なくなってたんだ。
「外部から侵入者が来たんじゃないか」
そんな話になり、裏口のドアのセキュリティを強化した。
でも盗難はまた起きた。今度は同期の2人が掏られてた。
「部外者が勝手にお店入ってきて人のお金盗むなんてどうかしてる!犯人見つけたら、一発殴る!!」
とカリカリ怒りながら店のゴミ出ししてる私を見て、仲良くしてた後輩は、
「殴ったらだめですよぉ~。あ、クローズ作業終わったんで売り上げの入金いってきまーす」
なーんて気のない返事をかまされた。
おいおい、先輩の話ちゃんと聞いてんのかってw
そんでその日の夜、バイト先の店長から全体ラインがきたんだ。
「本日お店の売り上げが盗まれました。」
このライン見たとき唖然としたね。だって、今日売り上げの入金に行ったのって一人しかいないんだもん。
回らない頭で考えだしたところに、仲良くしてた後輩から電話がかかってきた。
「ごめんなさい。お金盗みました。」
後輩さ、泣いてたわ。
電話越しにわんわん泣いてた。
みんなの財布からお金盗んだのも自分だってわんわん泣いてた。
みんなから嫌われるのやだよ~わーんわーんわーん、って
そりゃ、お金盗むやつなんか誰も仲良くしてくれないでしょうよw
当たり前でしょうよwww
「 すみれちゃんにだけは嫌われたくない。」
この言葉、号泣されながら何回も言われたわ。
いやいや、最強メンヘラかまってちゃんかってw
ワードの重み半端なwwwww
こんな電話越しで取り乱してる相手に、なんて声かけてあげればよかったのよ。
だれか、あの頃に戻って私に模範解答を教えてやってくださいよ…。
後日店長から聞いたんだけど、お金を盗んだ理由は
「欲しいものを買いたかったから」だったんだって。
史上最強にくだらない理由だよ。
店長は警察沙汰にしない代わりに2つ条件をだしたらしい。
1.即刻バイトを辞めること
2.バイトのメンバーとは今後一切、連絡を取らないこと
それから、その後輩とは一切連絡を取ってない。
街中ですれ違ったこともない。
おい、後輩。
3か月だけの思い出だったね。あの時は楽しかったよ。
もしもどこかで見かけても、声はかけないでね。
私も見なかったことにする。
「明日は良いことあるよ!」
って君がくれたこの言葉はホンモノだったと、
まだ信じていたいからさ。
written by:美波すみれ
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※美波すみれが書くエッセイは事実を元にしたフィクションであり、
そもそも全てがフィクションである可能性も大いにあることを
ここに記しておきます。
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