終わり、そして始まり 完 (終わりと始まり)
食事会の翌日、午後にはもう名古屋に帰る。一泊二日の沖縄への里帰りは少し短すぎました。
芽衣と連絡を取り、最後にもう一度、母の家にお邪魔した。自分の母の家に入るのに”お邪魔”って言葉は使いたくないけど、50年の距離がそうさせる。
母が住んでいたこの家は、近いうちに引き払われてしまうから、今日で見納めとなる。母の遺品として名古屋に持って帰る物は、昨日のうちに整理したので、今日はただ見るだけです。
家の中に入って、もう一度母の記憶は探るが、やっぱり何も思い出せない。もし、母の温もりとか匂いとか、そういったものを覚えていたら、会いたくて、会いたくて、もっと辛い人生を送っていたのだろうか?
逆に記憶に残っていない方が、いくらでも美化できるので、そうほうが幸せ?
名古屋へ帰る飛行機の時間が迫ってきた。やはり何も思い出せないまま、母が住んでいた家を出た。
表の道へとつづいている私道を歩きながら、
「今度は、弟も一緒に三人会えるといいね。
兄弟喧嘩したことないから、一度、ケンカしてみたいな。
たとえば、冷蔵庫に置いてあった妹のプリンを、私が勝手に食べてケンカになるとかね。そして、弟が仲裁に入って、オレのプリン食べていいから泣くな。って・・・」
芽衣は少し苦笑いしながら、「ハイハイ」と、ちょっと照れを隠すように答えた。
そして、昨日初めて妹の芽衣と会った場所でさよならをした。
レンタルしてた車を返し、レンタカー会社の送迎バスで那覇空港まで行った。外は台風の影響で雨風が強く、空の便は結構乱れている。私が乗る飛行機は遅れはしているが、何とか飛びそうだ。
私は母の遺品で増えた荷物を受付カウンターで預け、自分が乗る飛行機の搭乗口に向かった。
母の影を追い駆けるのは、もうおしまいにしよう。兄妹会うことができた。これから新しく思い出を作って行けばいい。
指定の座席に座った私は、スマホを取り出し電源を切る前に、母が開設していたFacebookを開いて、絶対に許可されることのない友達申請を取り下げた。そして電源を切った。
でも、やっぱり・・・。
母の温もりとか匂いとかが、どういうものか知りたかった。