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ベルリン・現代アート:Boros Collection

ベルリンのミッテ地区にあるBoros Collectionに行った。

何の下調べもなく行ってしまった私は、建物の歴史と展示作品にど肝を抜かれた。ベルリンの目まぐるしい変化の詰まった建物、そして、現代アートはなんぞやということについて考えさせられた。


ボロス・コレクションの建物について

第二次世界大戦中に強制労働によって建てられた5階建ての真四角の元防空壕。空襲から身を守るため地下に建てられるものだと思っていたので、5階建てだと目立ってしまい空襲の攻撃対象にならなかったの不思議だったが、壁が2~3メートルのコンクリートと分厚く頑丈なのである。空襲を免れたためこうして立派にそびえる建物だ(上写真参照)。自分の家の壁を考えると半端ない厚さである。一度に約3千人を避難させることが可能だったらしい。多人数が収容されると空気薄になるため、建物の随所に空気を入れる換気口がある。むむむ。息がしづらく苦しんでいる人がいたのかと思うとおぞましい。

大勢の人々の出入りを可能にするため、それぞれの階の両脇にシンメトリーとなって交差する階段が設置されている。各階のレイアウトも全てシンメトリーに作られているので、一人だったら迷うこと間違いなし。地下を掘って防空壕を作れるほどの時間と金銭がなかったものの建築美を階段やレイアウトや鉄のドアのデザインに感じたが、建物に入った瞬間は建物の無機質さに背筋がぞくっとした。

各階のレイアウト、ボロス・コレクションのロゴに使用されている

敗戦後、建物はソビエト赤軍に占領され、2、3年間はドイツ人の捕虜収容所になったそうだ。怖い。その後は織物関連の倉庫と化し、50年代の半ばはキューバから輸入される果物の倉庫になった。換気口からバナナの香りが屋外に漏れたことから人々は「バナナ・バンカー」と呼んだとか。唯一のほっこり期間。89年のドイツ東西統一後はテクノ・クラブとして使われたそうである。激しいテクノの音楽に合わせ、BDSM的行為なんかをしてたとかで。90年代の無法地帯ベルリンに存在したサブカルがこの建物にもあった。

ナチス軍は近代アートを軽蔑し、戦時中にこれらのアートを退廃芸術(英語:Degenerate Art、ドイツ語: Entartete Kunst)と呼び押収するなど酷い弾圧をかけていた。だからこの建物を現代アートの所蔵に選んだボロス夫妻はナチス軍を永久に否定するというメッセージも発信してるんだろうな。(最上階を増改築してボロス夫妻の住居になっている。うーむ、私だったら怖くて住めない。)

ボロス・コレクションに所蔵されているアート


Eliza Douglas, Anne Imhof, Bell, 2021 // Foto: Boros Collection, Berlin © NOSHE

最初の展示ルームは2017年のヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞(ドイツ館)を受賞したドイツ人アーティストのアンネ・イムホフ。彼女の展示物は、等身大以上の大きな絵二枚と、天井から鎖でぶら下がっているスピーカー(上記写真)、そして、彼女の過去のパフォーマンスに使われたオブジェが一つ、それだけ。彼女の作品を経験していないと、意味の分からない部屋である(彼女の作品についてはこの記事が詳しくわかりやすく書いているので、知りたい方はこちらを是非ご一読を。)

特に印象に残ったのはこの作品。

Anna Uddenberg, Rona's Revenge, 2020 // Foto: Boros Collection, Berlin © NOSHE

上記写真にある像はスウェーデン出身でベルリン在住のアーテイスト、アナ・ウッデンバーグの作品。グラマラスな完璧ボディーの顔なし女性像。安価な生地で作られたであろう性のアピールしまくりの安っぽい服をまとい、性器がコードで繋がれていて、それを自撮りしているという、もうホラーの世界としか言いようがないが、アーティストの露骨なメッセージ(自分中心文化、女性=セックスオブジェクト)に作品の力強さを感じた。

ボロス夫妻のコレクションへの想い

「馴染みのない型破りな作品に惹かれる」とボロス氏は語る。現代を理解するためにニュースや新聞でなく、現代を反映させたアート作品に触れることが大事だとかで。未知の作品が新たな洞察をもたらし、複雑な世界を理解するための手がかりを提供してくれて、人間を進化させる可能性を秘めていると信じているとのこと。

https://youtu.be/s8NAE2KKO8w?si=cEjzPVwg4mpWNVKh

むむむ、私はアートといえば、美術、美しいものを鑑賞するという頭だったので、ボロス夫妻の現在のコレクションを通して現代アートはなんぞやということについて初めて真剣に考えた現代アートはただ単に分かりづらいだけではないのだな。

そして、これらの記事に出会った。

ボロスコレクションは社会に存在する問題をこれらのアーティストを通して提起しているのか。だから到底一回の訪問だけで全てを理解することは困難で、何回も足を運ぶか、もしくは、展示されているアーティストについて突っ込んだ調べと実際にそれらのアーティストたちの展示に行く必要があると思った。

私の今回の訪問の収穫は現代アートをかじり程度ながらも、ボロス夫妻のコレクションを訪問することによって知ることができたこと(鑑賞は1時間30分間のガイド付きを通してのみ。英語もしくはドイツ語で)。今現在話題のアーティストをボロス夫妻に紹介してもらったと感じがする。私が直感的に良いと思ったアーティストの今後の動向を社会情勢と照らし合わしながら追っていこうと思う(終)



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