Teaching:学習指導の最終目標は、生徒から手を放すこと。
私が生徒として通っていた某個別指導塾には、「伝説の講師」がいた。
授業中に歌う。
「ちょっとトイレ」と勝手にお手洗いに行ってしまう。
隣のブースを茶化しにいく。
生徒も他の講師も全員ちゃん付けで呼ぶ。
授業と全く関係のないガールズトークで毎回授業時間が潰れる。
武勇伝をまとめるともうそれだけで本が一冊書き上がってしまいそうな、
まさに伝説の講師だった。
「生徒に寄り添う」という個別指導の存在意義に忠実に従っていたかはかなり怪しいし、
親御さんがその授業の様子を見ようものなら確実にクレーム待ったなしだったであろう。
では、その講師が担当していた生徒の成績はどうなったか。
これだけを読んで考えれば普通下がると思うだろう。
上がるのである。
当時生徒だった私も含め、全員彼女のことを
「常識が通用しない」
「アイツは別だから」
…等々、例外として処理するのが定番(?)になっていた。
その講師の名誉のために付け加えておくと、
彼女は都内の某有名大学に当時通っていたし
卒業後は都内近郊で公務員をやっているぐらいだから、能力は十分にある。
その上で今振り返ってみると、
彼女の教える生徒が成績を伸ばしたのは単なる偶然ではなく
確かな理由があったように感じる。
それはつまりこうだ。
講師がいい加減でかつ手を話されると、当然生徒は不安になる。
不安になるとどうなるか。
「私の方がしっかりしなきゃ」と自立心が芽生えるのである。
「私がしっかり宿題しないと授業にならないからちゃんとやらないと」
「質問は事前にまとめておかないとガールズトークになっちゃう」
「逆に考えれば、先生がどこかに行っている間は一人で集中して問題が解ける」
これでは一体どちらが保護者なのか分からない、というツッコミはごもっともだ。
だが実際こうして彼女の教え子は成績を伸ばしていたから、
彼女は講師として役目をきっちり果たしていたのだ。
ここが極めて大切だから読み飛ばして欲しくないが、彼女はスペック自体は高い。
宿題の答え合わせや質問対応等、
塾講師としての知識やスキルを求められるところは問題なくさばくことができた。
その上で「手を放す」というのがポイントだったのだ。
流石に100%彼女の真似をする必要はない。
そもそも無理だと思うし、少なくとも私には無理だ。
ここで大切なことは、
生徒が自ら行動するような環境作り・サポーターに徹するのが講師の役目だということだ。
方法は正直どうでもいい。
分かりやすい話をして、そして実際に問題を解かせて
「簡単に問題が解ける!」という体験をさせてあげてもいい。
(ちなみに私はこうだった)
面白い話をしてまずは生徒のハートをがっちり掴んだ上で、
「じゃあちょっとこんな話もしようか」とそれに関連させて授業をしてもいい。
徹底的に生徒の危機感を煽った上で、
「じゃあどうすればいいと思う?」と生徒に尋ねてみるのもアリだろう。
ここで共通するのは
生徒に「言われたからやった」と思わせるのではなく、
生徒に「自分の意思でこうした」と思わせることである。
その為には、講師の方がべったり手を尽くすだけでは足りない。
その上で「委ねる」ことを選ばないと、本物の自立心は芽生えない。
換言すれば、講師側からいちいち何も言わなくても
生徒が自ら勝手に動くようになれば勝ちである。
…筆者、透佳(スミカ)