Teaching:上のレベルしか教えられないというのは、何もしていないのと同じ。
塾業界には割と高い確率で
「私は上のクラス専任です」
「私は上位クラスしか担当していません」
という講師が存在する。
どの塾にも最低一人はいるだろうというレベルだ。
別にそれ自体は問題ではない。
優等生を最後まで優等生として導くのが一番大変なのは先述の通りだ。
その塾の最上位クラスには
一番スペックの高い講師をあてがうのが当然であり、
トップのクラスに対応できる講師は貴重な戦力になる。
だが、そういった講師がこれらの言葉を口にし始めると危険信号だ。
「私は上のクラスしか教えられません」
「下のクラスは他の先生に全て任せています」
なぜこれが危険な発言なのか。
勉強ができない子の気持ちが理解できない、と言っているのと同義だからだ。
勉強ができる子というのは、
こちらの説明を一回で正しく理解してくれる可能性が高い。
そして忘れない。
それが勉強ができる所以でもある。
だが、そういう子が全てと思ってはいけない。
一回説明されたぐらいでは分からない。
分かった「つもり」にはなれても、本当に理解するところまでは至っていない。
すぐに忘れてしまう。
こういう子も塾には必ずいるし、
むしろこういう子の方が
助けを求めて学習塾を頼る場合の方が多いだろう。
ハイクラス「専任」講師が問題なのは、
こういった子に向かって
「なんでこんなのも分からないの?」
「小学生レベルの問題だよ」
「中学の最初の方でこんなのやるじゃん」
と言ってしまうことである。
そしてそれに一切の悪気がない。
「そんな先生いるの?」
と思われるかもしれないが、
私が直接見てきた限りでも
これらの言葉を毎回の授業で必ず発していた講師は一定数いた。
意識して使うようにしているのでは、と疑ったほどだ。
そういう講師に限って役職に就いていたりした。
そして、これらを言われた側の生徒はどう思うだろうか。
「なんでって、分からないものは分からないよ…」
「お前は小学生以下だってこと?」
「何?その言い方は」
「勉強ができない」というのを指摘するのはともかくとして、
その指摘の仕方が殺意を抱かせるほどイラッとくるのがこの手の講師の特徴なのだ。
繰り返すが、講師に一切悪気はない。
「こんなのも理解できないなんて不思議だな」
と自然に思っている。
こうして、もうこの講師には優等生以外がついていかなくなるのだ。
確かに上位クラスに対応できる知識は大事だ。
だが、世の中の子供は
「一回聞いただけでどんなことも理解できる」という子ばかりではない。
同じことを何回も丁寧に説明して、初めて理解してもらえる。
教科書通りに説明しても首をかしげられてしまうから、
可能な限り・一番分かりやすい方法で説明しようとする努力が必要だ。
上位クラスしか担当しなくなると、この感覚がごっそり消えてなくなるのだ。
「説明は一回で理解するのが当たり前」になってしまうのだ。
率直に申し上げて、
上位クラスの子達は多少説明が分かりづらかろうと
その説明を一回で全部理解してしまう。
それに浮かれた講師は、その同じ感覚を引きずって
「説明は一回で理解しろ」と全ての子供に向かってしまうのだ。
こうなると、その講師の説明力はそれ以上成長しなくなる。
成長しなくなるどころか、厳密にはどんどん落ちていくだろう。
説明力なんてなくても優等生には理解してもらえるからだ。
だが、これを繰り返していくと
優等生すら理解できないほどに説明力が落ちる瞬間がやってくる。
もうこうなったら塾講師としては終わりである。
これだけは塾講師として断言してもいいが、
「こちらの言ったことをそのままスッと飲み込んでくれる」
という子はある意味一番ラクだ。
一回正しいことを教え込めばそれで指導が終わるからだ。
だが実際には、
正しいことをあの手この手で繰り返し伝え続けなければならない子の方が多い。
そういう子に向かって
「どうして一回で理解しないんだ!」
と怒鳴るのはただの虐待であり、職務放棄である。
畢竟、上位クラスは知識さえあれば教えることができる。
だがそれ以外のクラスを教えるのは「(知識+伝え方)×回数」になるから、
こちらが塾講師としての本当の仕事なのだ。
極端な話、説明を一回聞いただけで理解できるような子は
独学で十分である以上学習塾など不要なのだから。
…筆者、透佳(スミカ)