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Teaching:授業は延長するな。サービス残業かつ逆効果だから。

私が以前勤めていた教室を含め、

英会話教室の世界にはある「鉄の掟」があった。

それはレッスンの授業時間を絶対に延長しないということだった。

1コマ60分なら、なんとしてでも60分で収まるように努める。

ここでもし生徒側から「もっとやりたいです」と言われたら、

「でしたらレッスンの時間や回数を増やしましょうか」とキッチリ言う。

レッスンの時間や回数が増えるということは人件費も増えるのだから、

その分のレッスン料もキッチリ頂く。

以上、当たり前のことを書いたつもりだ。

だが、こと学習塾となるとそうではなかった。

授業の延長をタダでやるのが美徳であり、

そんなことでお金を取るなんてがめついという風潮があったのだ。

百歩譲って、生徒側がこう思うのはまだ分かる。

同じお金を払うのなら少しでも長く勉強したいと思うからだ。

だが、とりわけ私が不思議に思っていたのは

学習塾側、つまり教える講師の中にもこう考える人がいたということだ。

これは同業の知り合いの塾講師に聞いた話だが、

彼の塾のトップは

授業は絶対に定時(時間通り)に終わらせるな

という指導を全講師にしていた。

早い話、必ず授業を延長しろということである。

その話をよく聞いてみると、

「同じ料金で目一杯授業をやってくれる熱心な塾」

ということでその塾は評判だという。

延長してナンボであり、

定時で終わらせる講師は仕事をサボっているヤツだという風潮があった。

この話を読んで何か変だとは思わないだろうか。

私は強烈に変だと思う。

何が変だと言えば、

本来「延長料金」としてキッチリ請求するべきところを

当たり前のように講師のサービス残業扱いにして、

しかもそれを美徳として捉えるのはビジネスとして異常ではないか

ということである。

講師の不幸の上にビジネスが成立しているのはどう考えてもおかしい。

もし講師がそれに満足していたとしても、

それはサービスの安売り行為であり自らの価値を下げることになる。

「授業中話をよく聞いていなくても、後でどうせ延長してくれるんでしょ?」

と生徒に思われたらもう授業にならない。

そしてもう一つ、衝撃の告白をしなければならない。

私も不慣れな新人講師の頃、どうしてもその日の授業内容が終わらず

授業時間が延長してしまうことがあった。

機械的に考えれば、時間が長くなる分勉強が沢山できるのだから生徒はより満足だと思うだろう。

だが、実際は真逆だった。

延長中はあきらかに「電池切れ」状態の生徒が少なくなく、

「頼むからもう帰らせてくれ」と言わんばかりであった。

否、厳密に言えば

「もう帰っていいですか」「終わりましょう」と生徒の方から言ってきたぐらいだ。

これは少し考えてみれば絶対に分かる。

学習塾での授業時間は学校のそれより長い。

多少の前後はするだろうが、

1コマ90分〜100分(1時間30分〜40分)というところがほとんどだ。

その長さの授業を、しかも学校が終わって夕食も済んだ後に行う訳である。

この状態で授業延長、しかも深夜となるともはや拷問である。

ただでさえ正規の時間90分でヘロヘロになっているのに

その上延長などされたらたまったものではない、

というのが私の教えてきた生徒の多数派の意見だったのだ。

つまり、

こちらはサービス残業で授業を延長している上に

それに対して一切感謝されないどころか迷惑がられていたのだ。

これが「延長」の実態だった。

無論、本来90分行うべきところを80分で切り上げてしまうのはまずいと思う。

それはお客様(生徒)を裏切る行為である。

だが、その場のノリや好意で授業を延長したところで誰も幸せにならない。

であればそんなものはさっさとやめた方がいい。


…筆者、透佳(スミカ)


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