《音楽×絵画》オトナのディズニー 塔の上のラプンツェル編
シンデレラやアリエルに加えてディズニーの新たなプリンセスといえば「ラプンツェル」。彼女の黄金に輝くスーパーロングヘアは魔法の力を持ち、その力を知った老婆ゴーテルは王国の王妃であったラプンツェルを塔の上に閉じ込め、自分が母親だとウソをついて育てます。成長したラプンツェルは大泥棒フリンによってゴーテルからの呪縛そして長い髪の魔法からも解き放たれ外の世界に飛びだす、そんな物語です。
今回はディズニー映画が生まれる前のラプンツェルの挿絵や絵画、そして印象的な「髪」にまつわる音楽をご紹介します。ちょっぴりオトナのおとぎ話の世界をお楽しみください。
『塔の上のラプンツェル』の元ネタは、グリム童話を書いたグリム兄弟による『ラプンツェル(髪長姫)』。原作とディズニー映画版ではところどころストーリーが違いますが(グリム童話版ではフリンは王子)、どちらにも共通するのは特徴的なラプンツェルの長い髪です。塔の窓から垂らされた髪は、はしごのようにも、ディズニー版では敵とたたかう武器にもなります。
そんなラプンツェルの姿を描いた絵がこちら。
エマ・フローレンス・ハリソン 『ラプンツェル』
ラファエル前派の女流画家によって描かれたラプンツェルは、塔のバルコニーから髪をなびかせながら、外の世界に思いをはせているのでしょうか。夜の風景と憂いをおびた姿が美しいです。
アーサー・ラッカム『ラプンツェル』
こちらはラプンツェルが母のふりをする魔法使いゴーテルを塔にいれてあげる場面です。三つ編みになった長い髪がロープのようです。ちょっと痛そう…。挿絵画家の大家アーサー・ラッカムの繊細な筆遣いがみられます。
ファッショナブルでエキゾチックなイラストを得意としたカイ・ニールセンの手にかかると、ラプンツェルの髪を切られるシーンはこんな風に描かれます。
カイ・ニールセン 『ラプンツェル』
大きなハサミで髪を切ろうとしているのは原作版での魔法使い、ディズニー映画ではラプンツェルを閉じ込めている老婆ゴーテルとして登場する人物です。この挿絵ではいかにも魔女っぽい恐ろしい見た目です。
さて、このようにラプンツェルを描くとき彼女のスーパーロングな髪がいつも印象的に描かれますが、長い髪というのはヨーロッパのおとぎ話ではよく登場するモチーフです。
たとえば19世紀後半メーテルランクが書いた戯曲『ペレアスとメリザンド』。
静まり返った夜、メリザンドは塔の上で歌をくちずさみ、長い髪を梳いています。塔の下に現れたペレアスは、愛するメリザンドに触れようとしますがお互い手が届きません。するとメリザンドの長い髪が塔の外に落ちてきます。ペレアスはメリザンドの髪を顔や手で感じながら喜びに満たされる、そんな場面があるのです。長い髪が塔から垂らされる、というモチーフはラプンツェルとそっくりです。
そのロマンチックな場面を歌った歌があります。ドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』の第3幕より、『私の長い髪は』です。
こんな歌詞で始まるこの歌は、幻想的でノクターンのように響くオーケストラの音色とともに歌われます。メリザンドに直接触れられないかわりに彼女の髪に触れる…控えめなロマンスに満ちた場面です。
そういえばドビュッシーはもう一つ「髪」にまつわる名曲を残しています。
ドビュッシー 前奏曲集第1巻より 『亜麻色の髪の乙女』
この曲は、フランス象徴派の詩人ルコント・ド・リルの同名の詩からインスピレーションを得たものです。亜麻色の髪の美しい乙女に一目ぼれし、その髪に口づけしたいと思いを募らせながらも片想いのまま終わる、というこの詩。ドビュッシーはとびきり甘く切ないメロディとハーモニーでこの短い詩をつむぎます。微妙にうつろいゆく和音が、浮足立ちながらもとまどう恋心を表現しているかのようです。ちなみに亜麻色という色は、黄色がかった薄茶色のことだそうです。
オトナのラプンツェル、いかがでしたでしょうか?人気のディズニー映画がうまれる背景には、今回ご紹介したようなインスピレーション源がたくさん存在しています。長い髪と閉じ込められたプリンセス、このモチーフは様々な芸術家たちの想像をかきたてたのでしょう。
おなじみのディズニー映画も、少し違った視点で観てみると新たな発見があるかもしれません。ぜひ、楽しんでくださいね。
角田知香