【創作】何もできない君が好きだった
「君は出来過ぎだね」
幼い頃から言われ続けた言葉。
出来過ぎ。
無意味な言葉とは思わないが、僕にとっては無価値な言葉だった。
僕は僕に出来ることをやっているだけで、誰にも出来ないことをやっているわけじゃない。
少し外を見れば僕より出来過ぎな人なんて沢山いる。
僕はこの学校という閉鎖された空間の中では出来ることが多い方、ただのそれだけだ。
クラスメイトがいた。
彼は何も出来ないと言われていた。
「何も出来ないなんてことはないだろう」
そうは思っていたが、確かに彼は座学も体育も学年で一番下の成績だった。
それが僕には興味深かった。
そんな彼がある日変わった。
彼に素敵な友人が現れたのが原因だ。
その友人さんは不思議な道具で彼の手助けをしているらしい。
いや、らしいというのは不適切な表現だ。
僕も実際にそれを見た。体験をした。
確かにその道具は素晴らしく、僕なんかより優秀と言わざるを得ない。
友人さんがやってきてから彼の周りはいつも大騒ぎ。
不思議な道具でテストを乗り切ったり、体育で1番になったり、かと思えば何やら壮絶な冒険もしているらしい。
きっと多くの人は「何も出来ない彼が、特別な友人のお陰で人生に潤いを与えている」と羨ましがっていることだろう。
その友人さえ自分の元に居れば、自分こそ幸せになれたのに。
もしくは、自分であればもっと不思議な道具を使いこなせたのに、と。
でも僕にとってそれは間違いで。
自分でも呆れてしまうくらいな考えをしてしまっていた。
どうして僕がその友人の立場になれなかったのだろうか。
僕はそれが悔しくて仕方がない。
誰よりも彼を見ていたのは僕なのに。
ぽっとでの友人さんにすべて持っていかれてしまった。
彼のことも、彼の周囲の人間も。
いつしか僕は彼との間に大きな距離を感じていた。
漫画で言うならきっと、彼は主人公で僕は脇役。
何が出来過ぎだ、笑わせてくれる。
僕の存在は彼を目立たせるためにしか存在していないのに。
あぁそれでも、と思う。
それでも僕が彼の為になれているのであれば、それでいい。
彼が僕を頼ってくれるなら、僕は誰よりも彼の力になろう。
そのためにこの「出来過ぎ」さに磨きをかけよう。
それが彼の為になるならば。
だけどいつか。
いつかは彼の全てを僕のものにしたい。
その願いを胸に秘めて今日も僕は「出来過ぎ」を演じていく。
-Fin-