東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと #3
テキスト:石原夏実(すこやかクラブ)
このマガジンは、東京の小さな劇団「すこやかクラブ」が、2020年2月以降、刻々と変化する状況のなかで「あーだこーだ」と考え悩んで、結局やらないことにしたことたちと「あーだこーだ」の記録です。
(もしよかったら初めての方は初回記事をご参照ください)
第1回 青い鳥プロジェクト座談会 その2
(写真:左から うえもとしほ、向原徹、石原夏実)
2020年3月5日。すこやかクラブメンバーの鵜沼ユカがご主人とともに経営しているバル「マホラ食堂」。
「すこやかクラブ”青い鳥”プロジェクト」広報のため、すこやかクラブの主宰・うえもとしほ、メンバーの石原夏実、向原徹、そして写真家のbozzoさんが集って座談会を開催しました。
ここでは、前回記事に引き続き、その座談会の内容をお届けします。
2月半ばからCOVID-19が本格的に生活へ影響を及ぼしはじめていた当時の状況下で、今後の活動について悩みながら協議していくメンバーの様子が記録されています。
今読み直してみると、ウイルスに関する情報にも、自粛に対しての考えにも、私はこの時こういう考えだったのか、と、すでに忘れかけていたこともあったり、今も当時も一貫して感じている違和感もあったりします。そんななか、演出家ですこやかクラブ主宰のうえもとしほ が当時すぐに感じ取っていた「モヤモヤ」は、事態の真ん中をきちんと照射していたなあと、いまでも感じます。
これを書いているのは5月最終日で、明日から東京は自粛解除のステップ2に入ります。またひと月、ふた月後の超近未来で、私自身が何を感じ何を大切にしているのか、するべきなのか、その種はすでに現在の中にあるのだなと身をつまされる思いです。
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石原夏実(以下、な):えっと、今日は、プロジェクト全体の話もしたいのですが。プロジェクト内容を、一回整理するね。
うえもとしほ (以下、う):うん。
な:1年でひとつの題材を選んで作品にするっていうプロジェクトを、これから3年間やります。それで、うえちゃんは前から童話、特に『モモ』の…
う:ミヒャエルエンデ?
な:そう、ミヒャエルエンデが好きなんだよね?
う:うん。
な:うえもとのミヒャエルエンデ愛についてとか、すこやかクラブ作品と童話の親和性とかについては、ここではちょっと割愛しますけれども。年間で扱う題材、つまり原作には童話を選びましょう、と。そしてそれを舞台作品だけじゃなくて、色んな形態でやってみようと。
う:うん。
な:なぜ色んな形態で、なのかと言うと。うえちゃんは、イラストを描けば、もう、有無を言わさぬパワーを持っていて(※ すこやかクラブのチラシ画を毎回担当するほか、近年ではイラストレーターとしての活動も増えてきている)。
向原徹(以下、む):ほんとねー。そこは、尊敬してますよ。
な:だから、そこすげーから、うえちゃんが意図を誰かに伝えるには絵にするのが一番いいんじゃないか?ということで、最近の作品「ビューティフル」(※ 2018年11月八王子・禅東院にて上演/馬喰町バンドと共同制作)と、「ささやきの海」(※2019年2月下北沢・劇小劇場にて上演/若手演出家コンクール最終審査会出品)をつくるときに、"絵台本"っていうものを描いた。絵で台本を描いて、それを舞台化するということをやってみたんだけど。
もちろん舞台作品として仕上がったものは悪くなかったけれど、うえもとの絵と舞台を繋げるには、もう一歩、何かが必要だって私は思って。
(絵:うえもとしほによる「ささやきの海」イメージイラスト)
う・む:うん。
な:じゃあそれって、ひとつの本公演でやるだけじゃなくて、もっと長いスパンをかけてやってみたらどうだろうって考えた。だから、年末に本公演を設けて、そこへ向かって様々な形態でひとつの題材を探求する1年間のプロジェクトにしようと。スタートは、うえもとのイラスト展。イラストで始まって舞台で締めくくる。む:あー。
な:それで、当初、予定していたプロジェクトの内容としては。まず4月にイラスト展をやって。会期の最後に、私と向原くんが、それぞれ、イラスト展の会場で、青い鳥を題材にした15分くらいのパフォーマンス作品、小作品を発表する。ということをやる。
う:うん。
な:で、そのあと、5月ごろに、今度はすこやかクラブじゃない、全然違うジャンルのアーティストたちと一緒に、青い鳥についてクリエイションをしてみる。っていうワークショップがあって。
う:うん。
な:そのつぎは、すこやかクラブが毎年夏に立川市で主催してる「真夏のたちかわ怪奇クラブ」っていう体験型演劇イベント、そこでも、青い鳥を題材にする。全面的にではなくても、イベント内の小作品としてでも、青い鳥をやる。そこで初めて、うえもとが単独で「青い鳥」を何らかのパフォーマンス作品にするっていうことをしてから、最終的に、11月に、本公演をやる。っていう1年間のプロジェクト。
む:はい。
な;今後の3年間は、この流れは変わらず、来年は青い鳥ではなく別の題材、再来年もほかの題材。っていう風に、継続してみたら、うえもとしほの、すこやかクラブの、絵と物語と舞台との、いちばんいい…マリアージュが(笑)
む:ははは(笑)
な:ベストバランスが見つかるんじゃないかなと。毎回絶対同じじゃないと思うし、同じになっちゃったら、なんか、変なメソッドになっちゃって気持ち悪いから(笑)でも、何かが、見えるんじゃないかなっていうことで。やってみてます
う:うん。
な:…が。
3人:(苦笑)
な:今日は、2020年の、3月5日で。状況としては、周りの、舞台とか、イベントとか…
う:うん。
な:中止せざるを得ないところもあるし。それぞれ何かしらのステートメントを発表して、続行するところもあるし。
む:はい。
な:あ…なんか、東京都の公園でさ、お花見の時期にさ、シート敷いてご飯食べちゃいけないんだね。
う:えー?
む:はは(苦笑)そうだよ。
う:コロナのせいで?
む:そうだよ、花見も、自粛。
う:じゃ、シート敷かなきゃいいの???
む:はは(笑)
な:そうだよ、歩いてればいいんだけど、なんか、それをさ、検閲…っていうか、花見しないでくださいーって呼びかける人員も、置くんだって。
う:えー?
な:いや、もう、そこまで、っていうか、なんかもう…危ない!と思うよ私は。この流れは。
む:ねー…。
な:まあ、そういう状況の中で、私たち…まだこのプロジェクトの全容を発表してないから。
う:そうなんだよ。
な:公にしてないから。今、どうしても、公演を中止しなきゃいけなかった人たちとか、何かしらの形で続行している人たちにしても、すでに公演やることを発表して宣伝して、全部を準備して、っていうところからの、判断。っていうことになるんだけど。
う:そうそう。
な:私たち、これからなんだけど…ていう。
う:うん、そうだよね。
な:そういうところで、じゃあどういう考え方をして、行動する?っていうことを、昨日話したんだよね。
む:はい。ミーティングでね。
う:そうだね。
な:昨日話したことは、なんでしたっけ。
う:昨日話したことは…えっと、あれだね。まず、イラスト展のために予約してたギャラリーが、その30日前までにキャンセルしないと半額取られるってことで…
な・む:(苦笑)
う:で、まあ、この流れだと、あの、まだなんにも発表してなかったから。
な:うん。
う:公演じゃないから、スタッフの人をおさえたりもしてなかったから、
な:そう、スタッフワークは全部、手弁当でね、
う:そう、自前でやろうとしてたから。動かせるっちゃ動かせるなって思って。で、無理にやることでもないかも…って思ったから、1ヶ月前までを目処にイベントをどうするのか判断したらどうかって、うちが投げかけたんだよね。LINEで。
な:メンバーみんなにね。
う:うん、で、昨日集まって、じゃあどうしようってなったときに、でも、宣伝のこともあるから、もう決めなきゃってなって。
な:うん。
う:あ、で、なんか、うちがその、キャンセルのことで1ヶ月前までを目処に判断するって考えてたのに、いつの間にか、政府が3月15日頃までが感染拡大するかどうかの山ですって発表したのを判断基準にしたっていう話し方をして、それでみんなにすっげー責められて、
な・む:(苦笑)
な:いや、違う違う、みんなが落胆してしまったのは、
う:うん。
な:まあ、こういう状況なら、やらなくてもいい。って、うえちゃんが思ったんだなっていうところが、それが言葉足らずだったから、すごく落胆してしまって。(向原に)ね? 私たちは、こういう状況で…鵜沼も向原くんも言ってたけど、飽くまで、こういう対策をとって、こういう考えで、上演することを選びます、と。で、それは、来場するもしないも、皆さんの、体調とか考え方に合わせて、選んでもらえれば、それがいちばんいい考えだと思う。っていうことを、みんな…うえちゃん以外は(笑)念頭に置いてて。で、そこでうえちゃんが、「こんな状況だったらやめてもいいかなって思って」って、最初言ったから、それに対してみんな、がっくりーってなっちゃって、
う:うんうんうん。
な:でも、そのあと、野田秀樹さんがこういうこと言ったよね、とか。えっとー王子小劇場の北川大輔さんがこういうこと言ったよね、とかっていうことを話してて。でも、どっちを読んでも、なんか、しこりがすごいあるっていうか。
う:うん。
な:なんなんだろうこのモヤモヤは、っていうのを、みんなで考えたときに。その、野田さんに対して北川さんが言ったことにさ。野田さんは3.11のときにも、自粛ムードのなかで、劇場の灯を絶やしてはならないって言って、それには、ものすごく励まされたけれども、今回は状況が違うって。
う:うん。
な:確かにそうなんだよね。今回は状況が違う。いまは、ウィルスが蔓延していて、それが未知のウィルスで、このウィルスに対してどう考えるかっていうのはそれぞれあるにしても、私たち誰も専門家でもないし、なんなら国のトップも訳わかんなくて学校休校にして学童に子どもが溢れてる、とかさ、
う:ねえ。
な:訳わかんないことになってるけど…だからつまり…そこで、やっても、やらなくても、
う:うん。
な:見る側も、やる側も、
う:うん。
な:なんか…モヤっとする。っていう。
む:そう(苦笑)
う:そう!モヤっとすんだよ。そうなんだよ!
む:ねー。
な:で、この、「モヤッ」は、すこやかクラブ的には、非常に不健康であると。
う:そうなんだよ、嫌なんだよー。しかもさ、やっぱさ、いろんな情報が入ってくるじゃん。「満員電車は危ないんじゃないか」とか「密室がダメなんじゃないか」とか「密室で長時間だったら危ないんじゃないか」とか、で、そう言われてるなかで、その状況を作り出すわけじゃん。公演するってなると。で、絵の展示だけだったら、好きなときに出入りできるし、止めようって言わないと思うんだけど、
な:あ、そう?
う:うん、言わないと思うんだけど。でも、そういう可能性のある空間を、本当かは分からないんだけど、危ないって言われている空間を作り出すことをしてまで、やるの?っていうことと。あと、未就学児も入場可ってしてたし、もちろん(重症化の危険が高いとされている)高齢の人たちにもさ、本来なら誰でも分け隔てなく来てほしいのに、声かける相手もちょっと選んだりしてさ、それで、来てください!って、気持ちよく言えるかなって。来てほしいけど、判断は任せる!って、そういう誘い方も、どうなのって、思って。ていうことがあったから…うちは最初、止めるってことまでは考えてなくて、繰り越すっていうか、延期するっていう選択肢もありかな、みたいに、思ったっていうか。
な:それで、まあ、じゃあ、延期をするとなったところで、いつそれを判断するの?準備するなら、宣伝するなら、ってなったときに、
う:そうね。
な:もう、私たちは、飽くまで、舞台芸術をつくる団体であることには変わりないけれども。そもそも今回は新しい試みとして、イラスト展をやるっていうところから、全然、離れた分野の人たちとも、何かやってみて、で、本公演へ持っていこうとしてたっていうこともあるから。
う:うん。
な:まず、上半期に予定していたものを、人を集めて…ひとつの空間のなかに集めてプレゼンテーションするっていうことではない、別の形態で、新しいことをやる機会にしたらどうかなってことになったんだね。
む:うん。
な:…どうやんの?ってことはさておき(笑)
む:あのー、ちょっと話戻っちゃうけど、自粛、っていう形じゃなくなったのは、よかったと思ったのね。
な:大事よね。
む:気持ちよく人呼べるか?っていう…気持ちも、すげー納得できるから。それはよかったなって。
な:まあ、そこがさ、うえちゃんは最初の言葉で「まあ、やんなくてもいいかな」って、言うから!そこで、みんなが、カチンとくるわけよ。
う:あはは(笑)
な:「やんなくてもいいかな」じゃねえよ!って、なるよ。
む:まあ、まあね、そうね。
な:そう(笑)
む:解きほぐせてよかったよね。
う:私の、奥の、気持ちを…(笑)
む:そう、それが分かったらさ、石原さんもさ、「それは納得できる」って言ってたからさ。
う:そうね。
む:よかったなって、相互理解に、近付けてね。
次回へ続く
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