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東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと #6

テキスト:石原夏実(すこやかクラブ)

このマガジンは、東京の小さな劇団「すこやかクラブ」が、2020年2月以降、刻々と変化する状況のなかで「あーだこーだ」と考え悩んで、結局やらないことにしたことたちと「あーだこーだ」の記録です。
(もしよかったら初めての方は初回記事をご参照ください)

第1回 青い鳥プロジェクト座談会で決まったこと

すこやかクラブが2020年の1年間を通して様々な展示・イベント・上演などを構想していた「すこやかクラブ青い鳥プロジェクト」は、2020年3月5日の話し合いを通して、ひとまず以下のような企画内容で進めることになりました。

4月 ウェブ版「あおいとり展」+"ギフトボックス"
主宰・うえもとしほ が戯曲「青い鳥」をテーマに描くイラスト20点ほどを、ウェブ上で公開。同時に、メンバーの石原夏実、向原徹それぞれによる「青い鳥」をテーマにした小パフォーマンス作品も、動画やテキストなどの形式を用いて同ウェブサイト上で公開する。
また、これに関連した”ギフトボックス”も販売。各作品をより立体的に体験してもらうための関連グッズをベースに、プロジェクト内で今後展開される公演等のチケットや、各メンバーから購入者に向けた様々なリターンなど、ボックスの中身を選択できる「クラウドファンディング的な」グッズとする。

※ 3月5日の座談会を新聞スタイルのチラシに起こし、4月一日から配布を開始する

***この時点では、以下の企画は2月時点の計画から変更なし***
6月 ワークショップ+ショウイング「あおいとりremix」
8月 体験型演劇イベント「真夏のたちかわ怪奇クラブ2020」
   ※ 関連ワークショップを6月から開催
11月 すこやかクラブ本公演「すこやかクラブの青い鳥」


石原夏実 演出作品「こうふく」

ここから、私はまず自身が演出する小パフォーマンス作品を、ウェブ上で公開するために動き出しました。
もともと出演オファーを受けてくれていた面々には、今回の作品を、上演という形ではなく、映像におさめてウェブ上で公開することにしたい。というお話をしました。しかし、映像という形で自作を発表する、というフィールドに立ったことなんてなくて、もう冷や汗が止まらない思いです。
そこで、ない頭をひねっては、ボーッと途方に暮れたりしながら、こんな企画書を書いてみました。

「こうふく」企画書_グッズ製作依頼用


ダンスの構成は、神楽の構成を念頭に置く。シンプルなモチーフを繰り返し、場を練りあげる”練り”。そこでギュウッと凝縮されたエネルギーが解き放たれる、リズムも舞も崩れてダイナミックになる”くずし”。(韓国の伝統芸能では「締め」「放し」と呼ぶようです) 音楽の進行も、そのような流れを根底に据えた展開になることを希望します。「渦を巻いて変形してゆく日常」というコンセプトを踏襲して、日常的・家庭的なモノで奏でる音(鍋・ヤカンなどの調理器具とか、マットとか...)、会話する声、サイレン、などなどが入るのもアリ。くずし部分が壮大で、壮大にバカバカしくなってゆくのが理想。どんちゃん騒ぎ、ばか 騒ぎの渦のなか、その真ん中は、どんどん空っぽになってゆく、というようなイメージ。そして、ふわっと吹き飛ぶような、 カットアウト。

ギフトボックス
購入を希望した方には、「あおいとり展」に関連した品物の詰められたギフトボックスが届くという企画。
うえもとしほ は、1人に1枚、手描きのイラストを添える。向原は、「青い鳥」に着想を得たストーリーからオリジナルテキストを書きおろし冊子にする。「こうふく」の関連グッズは、ウェブで公開されるダンス映像を補完してくれる役割を持つものとして、「日常生活の中の家庭的な物体が渦に呑まれて変形した」というコンセプトのキーホルダーを製作。
製作は、数組のアーティストに依頼する。

ここには書いてありませんが、撮影機材にはiPhoneを縦向きに使って、最初から最後までずっと据え置きで撮る。ということも決めていました。
カットを割ったり、いろんな角度・距離から撮影したり、カメラが動いたりするのは、なんとなく、私には不似合いだな。と感じていたからです。あと、使ったこともないカメラを回すことも。iPhoneだったら、ほぼ毎日、娘や夫の姿を残すのに使っているので、肩肘張らずに使えます。

この企画書を、出演者、音楽家、そしてキーホルダー製作を担当してくれる美術家の方々、そして撮影のために自邸をお貸ししてくださるという方にも送って、それぞれに反応をいただくところから、製作を具体的に進めてゆきました。

クラウドファンディングってなんだ

座談会後、すこやかクラブのメンバーとは、LINE上で、クラウドファンディングについての話し合いが「あーだこーだ」していました。
ウェブ上での作品公開に合わせて販売するギフトボックスを、 ”クラウドファンディング的な” 仕組みで提供する。ということまでが勢いで決まったわけですが、そもそも、クラウドファンディングってなに?と聞かれると、あのー…だからアレですよ、つまりその… と、奥歯にものが詰まったような物言いしかできない。
そこで、それぞれに興味を持ったり寄付したことのあるクラウドファンディングを事例として出してみたりするけれども(映画の製作費を募るものや、義足をつくるプロジェクトなどなど)、これまたそれぞれのプロジェクトごとに毛色が異なりすぎてあまり参考にならない…。
ちなみに、演劇界で当時話題だったクラウドファンディングには、すこやかクラブも参加させていただいたことのある佐藤佐吉演劇祭が中止/延期に際し参加劇団への支援を募るプロジェクトや、京都の劇団・ヨーロッパ企画が映画を製作するプロジェクトがありました。なんと、ヨーロッパ企画の映画は6月5日より下北沢で封切られ、今も全国の映画館で上映が始まっているそうです。早い。すごい。

クラウドファンディングについて、色々と試算しているうちに、そもそも何を支援してもらおうとしてるんだ、なんてことで「あーだこーだ」し続けて、この議論はなんと3月末までずっと続きます。

6月もやめておこうか

座談会から約1週間後の3月11日。すこやかクラブメンバーが全員わが家へ集まり、プロジェクトについて細かな話し合いをしました。
ちなみにこの日は、WHOがCOVID-19の流行を「パンデミックとみなせる」と宣言した日でもあります。(私がそれを知ったのは、この翌日、家族で外食をしたときに、カウンターから漏れ聞こえてきた「昨日の宣言をどう受け取るかってことだよねえ〜」という会話によってでしたが。)

ここで、一番大きかったのは、6月に開催を予定していたワークショップ+ショウイング企画も、ウェブ上で展開することにしよう。と決めたことでした。
あの座談会から1週間も経たずして、今年の上半期中は人を集めてワークショップしたり上演したりするのはやめておこう。ということになったわけです。
記憶が曖昧だったので調べてみたら、初出はこの2日後、3月13日だったようですが、外出が禁止されたシチリアでバルコニーに出た人々がそれぞれに一緒に演奏したり歌ったりして励まし合っている動画をツイッターで見て、やっと、自分の身の回りにも危険が及ぶかもしれないという実感が芽生えたのを覚えています。
ヨーロッパでの感染拡大のニュースを通して、やっとそんな気持ちになり始めた、というのも、なんだかなあと思ってしまいますが、実際、そうだった。
すこやかクラブとしては、お客さんをひと所に集めることの”モヤモヤ感”が無くならないなら上演もできない。というのが、メンバーみんなの一致した意見だということを確認したばかりです。このときの状況からして、うん、6月も、状況がどうなっているかは分からないけれど"モヤモヤ感"は消えないのではなかろうか。という結論に至り、企画は以下のように変更されました。

・ウェブ上で「オンライン ショウケース」として開催する
・6月頭に全クリエイターの作品をウェブで公開
・6月下旬で、うえもと×クリエイター陣の座談会の様子をウェブ配信

ゲスト選定基準
すこやかクラブの作品に参加したことがない
すこやかクラブの過去作品 / 青い鳥プロジェクトの企図 / 「青い鳥」そのもの の、いずれかに賛同・関心を寄せてくれる
(3月11日分 議事録より)

音楽、ダンス、パフォーマンス、美術、漫画… すこやかクラブとは違ったフィールドで活動している方々をゲストに招いて、「青い鳥」を題材にした作品を製作してもらいウェブ上で「オンライン ショウケース」として開催する、という企画です。
ところがその後、この企画は、ゲスト参加をお願いする際に、「この状況下だからこそ新しい表現にチャレンジしてみる」という趣旨に賛同してもらうのがいいのではないか、という私の提案も加わったからか、うえもとがゲスト選定に惑ったところで宙ぶらりんになってしまいます。
翌月、緊急事態宣言が出てからの2ヶ月ほど、とにかく盛んにSNS上で日々の小さな創作活動をアップしたり、「○○チャレンジ」のような投稿が目立っていたことを思うと、もう少しだけ後になれば実現できたのかもしれない。と、今になっては思うと同時に、それでは本来の企画意図が薄れてしまっていただろうな、とも感じます。

フリーペーパーをつくりたい

そもそも、3月5日の座談会は、この「青い鳥プロジェクト」を宣伝する新聞形式のチラシに掲載するために開催されたわけですが、プロジェクト自体の変更に次ぐ変更と今後の活動(というか世界的な状況)の不透明さから、どのタイミングで、何を知らせるためにこのチラシを発行すべきなのかが、てんで分からなくなっていました。
そこで私は、これを1回限りの発行にするのではなく、年間で全3回程度、そのときどきのプロジェクトの進行具合や計画を記すフリーペーパーにしよう、と提案。3月半ばには、うえもとに表紙等のイラストを描いてもらい、デザイナーさんに相談をはじめました。
フリーペーパーのタイトルは「すこやか手帖」でした。

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(イラスト:うえもとしほ による表紙イラスト)

結局、その座談会の内容も、このnoteでの連載によってやっと世に出せた。つまり、「すこやか手帖」も、その後、幻と化してしまったというわけです。
言い出しっぺの私としては、ここでやっと、この素敵な表紙イラストを公開できて、ちょっとホッとしています。

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いろいろあった、誰もが惑った、3月。
私たちの「あーだこーだ」は、次回へと続きます。


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