東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと #9
テキスト:石原夏実(すこやかクラブ)
このマガジンは、東京の小さな劇団「すこやかクラブ」が、2020年2月以降、刻々と変化する状況のなかで「あーだこーだ」と考え悩んで、結局やらないことにしたことたちと「あーだこーだ」の記録です。
(もしよかったら初めての方は初回記事をご参照ください)
第2回 青い鳥プロジェクト座談会 その2
2020年4月2日。LINE通話で、ひさびさにメンバー全員が顔を合わせました。みんなそれぞれ大なり小なり変化した生活のなかで実感していることと、それでもやりたいこととの葛藤が、ぐるぐると堂々巡りする、まさに「あーだこーだ」と取り留めのない話し合いになっています。
この数日後にやってくる緊急事態宣言で、物理的に叶わなくなってしまったこともあります。刻々と変化する状況についてゆけなかったのか、いま読み返すと、なんで?と思うほど、捨て切れていないこともあります。
いずれにしても、「何をするのか」を話し合っているつもりが、「何が大切なんだろう」の周りを回り続けたような、第2回 青い鳥プロジェクト座談会の模様です。
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石原夏実(以下、な):むっくん(メンバーの向原徹)もさっき言ってたけど、自分たちだって、いま大変だよね。私もスタジオレッスンを今月ぜんぶ無くすことにしたんだけど。とかもね。あるけど。
うえもとしほ (以下、う):うん。そうよね。
な:でも、こういうときに、それどころじゃないので表現活動やりませんって、言える?のか?私たち?と思ったり。こういうときこそ大事って言いたくない?と思ったりも、してる。
う:うんうん。
な:いま稽古してると、ああ~いいなあって思うんだ。自分でダンス作ってきたなかで一番楽しくて(笑)
う:いやあ、いいよねえ。うちもこの前、シェアオフィスで鮭スペアレさん(すこやかクラブが製作拠点にしている「たちかわ創造舎」のシェア・オフィス・メンバー)が、換気とかもちろんしてるけどね、稽古してるの見て、ほんとに、いいなあって思ったよ。
な:ふふふふふふ。ね。それって、作品をつくるってことが、私たちにとっても大切なことだっていうのは、大事だと思うんだ。いまこれをやるのが社会的に意味のあることなんだ!とかいうより。このあいだ読んだ坂本龍一のインタビューで、「"音楽の力"っていう言葉が大嫌いだ」って言ってて。そんなものは無いぞって。
う:…いや、あのね、音楽の力は、あるよ!
鵜沼ユカ(以下、鵜):ふははははは(笑)
う:最近ね、たちかわ創造舎行って、絵描くじゃん。それで2階の音楽室にピアノがあって。最近、ゴールドベルク変奏曲を練習してるんだけど。
な:はははははははは(笑)
う:もう、ピアノでも弾いてなきゃやってられねえよ!って思って。
な:うんうんうん。いいじゃん。
う:ひとりでピアノを演奏するってことはね、癒しになるから。音楽の力っていうのは、絶対にあると思う。
な:でもそれ自分のために弾くんでしょ?
う:そうそう、自分のためよ。
な:それはね、それでしかないって言ってたよ、坂本龍一も。
う:え?なになに?
な:「僕は、別に観客がいなくてもピアノ弾くんで」って。自分のために。
う:あーうん。うちも、もう自分のためにゴールドベルグ変奏曲を弾いてるだけだよ。
な:だから、それでいいんだって思ってさ。いいんだよ、と。あらためてさ。私これやってるから、生きていける!って思ってダンスつくってるなあって実感してて。
う:そうかそうか。
有償? 無償? 寄付? 問題
笛木加奈江(以下、ふ):あのー、私が引っかかってるのは、今の計画だと、クラウドファンディング的な、応援してくださいねって形でやろうとしているってところで。これからもしかしたら、世の中みんな、エンタテイメント的なことにお金を使うことができなくなってくるかもしれないし…そこは一旦、お金で応援してくださいっていうことを外してもいいのかなって。表現する者としては、いま、暗いニュースばっかりで気が滅入る~ってなってる人たちに、ちょっとでもほっこりしてもらいたいし、そういうものを発表していくのがいいのかなあって。お金で応援してくださいっていうよりは。なんか。
う:そうだよね。いろんな団体が、無料で映像公開しますみたいなことやってるよね。
ふ:すこやかクラブもね、これまでの公演動画をウェブに上げ直したりとか、そういうことをやっていくっていうのもアリかなと思うよね。
う:そうだね。
ふ:それに、ギフトボックスやるなら買ってもらわないといけないんだよね?
な:それは、無理だよね、無償では。
ふ:うーん。そうすると、今の時期だと勿体ないかなって思うんだよね。みんながこういうものを楽しめるようになったときに、出してもいいのかなあと思っちゃうなあ。
な:うん。…うん。つまり、笛木は、いま私たちが有料で何かを提供すること自体があんまりよくないって思ってるのかな。
ふ:うん…。仕事がある人は楽しめるだろうけど。いま、明日も分からない人がたくさん出てきてるから。エンタテインメントにお金をかけられる人がどれくらいいるんだろうって思っちゃうかな。いまこういうものを世に出しても、目に止まらないんじゃないかなあ。
う:うんうん。
な:ただ…こういうときにね、自分たち自身にとって、作品をつくるってことが必要なことだというのと同じように、見ることも聴くことも必要なことだよね。そこにお金は出せませんって、なっちゃう?のかなあ。この業界自体を支援するっていうか、助け合うというか、そういう気持ちは持っていたいと思うんだけど…でも、でも、わかるよ。お金出せなくなっちゃうのもわかるんだけど。
ふ:言ってることはわかる。エンタテインメントとか芸術とかは、無くなっちゃいけないものだと思うんだけど。実際…田舎の話だけど。うちの地元って観光地ばっかりだから。もう休業しなきゃいけない旅館とかお店とか飲食店とかばっかりで、友達の働いてるお店も休業してて。補償もないから。国からの。収入がなくなる人が、これからどんどん出てくると思うんだよね。そこで…うん…。
いまの状況じゃなかったら面白い試みだと思うんだけどね…ギフトボックスも。
な:うん。わかるよ。そうだよね。
ふ:いまやることが、効果的…じゃないっていう…
鵜:単純に、面白そうだから買うっていう人が減っちゃうよね。面白そうだけど、今だから買わない。ってなっちゃう人が増えるっていうことは、結果的に、届けられる人が減っちゃうよね。
な:そうだね。しかも、初めてやることだから、前例のないものに出費するのも…
鵜:こっちにもリスクだよね。準備も大変なことなのに、誰にも届けられないかもしれないっていうリスクは大きい。
ふ:だったら、みんなも安心して、生活も大丈夫だってなったときに、ギフトボックスとかは、やったほうがいいんじゃないかなって思う。無料のコンテンツとして届けられるものは、気まぐれに見て楽しめるものだと思うから、どんどんやったらいいと思うんだけど。
それでも捨て切れないあれこれ
な:「青い鳥プロジェクト」は延期にするとして…でも、ウェブ版「あおいとり展」は、やるの?
う:あー。
な:混乱するよね、受け手が。
鵜:むずいな。
な:だからその、色々な紆余曲折を分かってもらえればいいんだけど…それには「すこやか手帖」(座談会記事をベースに「青い鳥プロジェクト」の紆余曲折や進捗を記すフリーペーパー。年間3回程度発刊する予定だった)を、ちゃんと読んで、お付き合いいただいた人にしか分からなくて、そういう人は超超超少数だと思った方がいいから(苦笑)やっぱり、シンプルな打ち出し方をするには… 「あおいとり展」が無ければ分かりやすいんだけど…
う:うん。うんうん。そうね、そうだね。
な:うえちゃんの絵は、いま、みんなに見てほしいなって思っちゃうけどねえ。
う:まあ、そこは、「青い鳥プロジェクト」をやるときに一緒に出すのが気持ちいいと思う。そこは、うん。いま発表できなくても落ち込まない(笑)
な:そう?うーん。じゃあ、例えば、いまは、「青い鳥プロジェクト」の一環ということではなく、上演する以外の形態での活動として「すこやか手帖」も、うえちゃんの絵も、ダンス映像も、発表していくのはどうかな。
鵜:うん、いいんじゃない。それで全部ができるってなったときに、それらをかき集めて、大々的に、今までのは実は「青い鳥プロジェクト」だったんですっていう発表にすればいいんじゃない。
ちょっと見てポロッと面白い、みたいなのが、求められてる
ふ:話戻っちゃうんですけど、やっぱ、ちょっと見てポロッと面白い、みたいなのが、求められてるんじゃないかな、って思うんですよね。ツイッター見てても、みんなやっぱ、不満とか、不安とかが流れていくなかに、知り合いがユルユル踊ってる動画とか出てくると、ホッとしたりするんだよね。
う:そういえば、立川で劇団の主宰してる人が、猫の可愛い動画見て癒されてるって言ってた。平田オリザさんのツイッターと、猫の可愛い動画見て癒されてるって。
な:ふふふふふふ(笑)でもそれすごいね。両方大事ってことだよね。私たちはその、猫になりたいのか、オリザさんになりたいのかっていう。あ、オリザさんにはなれないんだけど(笑)
う:オリザさんは、ちゃんとこの危機に対応してくれてるっていうさ。いろんな提言をしたりしてて。よすがっていうか、そういうことなんだなって思ったけどね。
な:私、最近ふと思い出した物語があって。それは、長い間ずっとひたすら黙り続けていたタコが、ある夜突然、口を開いて大ーーーーきな声を出すと、森中の動物がひっくり返るほどすんごい声だった。ていう話なの。それで…何が言いたいかっていうと。いま、こういうときに、遮二無二なにかを出していくだけではなくて、一回、篭って熟成させるというのも、すごく大事なこと。そのことにすごく価値があるよな、とも、思ったんだよね。いろいろ発表していこうって言いつつ、すごい矛盾してるんだけど。
ゆっこみたいなことをやるっていうのが、いま、いい感じ。
な:鵜沼は、何かを発表していくってことについては、どう思う?
鵜:うん、いいと思うよ。なんだろ、「すこやかクラブが変なことしてる。プププ。」ってなるのがいいかなって思うけどね。
な:うんうんうんうんうん。
鵜:だからその、意味のあることをしたい、っていうことじゃなくてさ。
な:うん。…だから、いま、あえてコロナのことを言うのではなくて、私たちらしいことを…
鵜:うん。だから、ゆっこ(すこやかクラブのオリジナルウェブラジオ番組「ゆっこのミッどナイトホッパー」)とか、いいと思うけどね。
う:ゆっこ、やっぱいいよね。
な:ふふふふふふふ(笑)自分でももっと録音したいから、もっとテキスト欲しいって思っちゃうもん(笑)
鵜:ゆっこみたいなことをやるっていうのが、いま、いい感じ。うん。
う:うちもなんか今、テキストをさ、また書いてるんだけど、それに助けられてるもん(笑)
な:やばい、ゆっこやばい(笑)
う:ゆっここんなこと言うんだ、へえ~みたいな(笑)
あのとき、やるっていう決断をしてたら、もっと辛いことになってた
な:じゃあ、その、コロナがどうのとかではないところで、すこやかクラブらしいものを発信していくってなると、こうやって真面目に話し合ってる様子をお伝えする「すこやか手帖」っていうのは、いまは公開しない方がいいのかね。
鵜:うーん難しいよね。「すこやか手帖」は「すこやか手帖」でやりつつ、バカなこともするっていうのも、いいと思うけどね。
う:まあね。
ふ:なんか、「すこやか手帖」は、オンタイムで出していった方が。
鵜:単純に、文字数が膨大だから、溜めちゃうと大変かもしれないよね、読む方も。
な:それはそうだよね確かに。すごいすこやかクラブが好きな人じゃないと読まない(笑)
鵜:読むの楽しいけどね。
な:(3月5日の座談会記事を)いま読むとさ、ほんとに、たった1ヶ月前なのに、って思うよね。
う:1ヶ月経ってないんだよ。
鵜:うえちゃんがさ、公演をさ、気持ちよくやれないからやらないって言ったのは、的確だったよね。
な:ほんとにあの、尊敬します。うえもとさん。
鵜:ほんとに。
う:ははははは(笑)
鵜:あのとき、やるっていう決断をしてたら、もっと辛いことになってたよね。
う:うん。スッゲー辛かったと思うよ。
鵜:だから、うえちゃんの感覚っていうのは、すごいと思った。
う:おー、そっか。よかった。
鵜:ふふふ(笑)「よかった」(笑)
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この翌日、鵜沼からこんなメッセージが届きます。
今日、けやきネットの方から電話来て、今月14日まで世田谷区内の地域センターは全館休館するとのこと。なので、すこやかで借りている日もキャンセルでお願いしますとのことです。キャンセルの手続きはあちらでやってくれるそうです。
これで、私のダンス動画撮影に向けた稽古は出来なくなってしまいました。
出演予定だった面々とは電話で話し合いを重ね、結局、ダンス作品「こうふく」は「青い鳥プロジェクト」とともに”寝かす”こととなりました。
(作品が上演されるまでのあいだ、出演者同士で交換日記「こうふく日記」を書くことにしました。こちらも読んでみてください。)
その更に2日後の、4月6日。うえもとからのメッセージ。
みなさま
たちかわ創造舎、緊急事態宣言が発令されることを受けて明後日から5月6日まで誰も立ち入れなくなりました。
とりあえず情報共有しときますー。
これで、うえもとも色鉛筆の大きな絵を描くことができなくなりました。
次回は、それからちょうど1ヶ月後の5月6日に開催した、最後の青い鳥プロジェクト座談会。この連載の最終回です。
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