つまさきの秘密
青にした。
結局バイトに行くまでもドタバタして、ギリギリの時間。あわてて引っ掴んだ靴下を履く前、青色の足の爪。
ふと目に入って、可愛い、大丈夫って心の中で唱えて、バイト用の鞄を掴んで外に出た。
「あんただって5年後には結婚してるかもしれんやろ」
バイト先でミス連発だった。
すみませんって謝り倒して、ええよって店長に言われてタイムカードを切ろうとしたら、突然。
「そんなことないと思いますよ」
「人生何があるか分からんやろ」
「それはそうだと思いますけど」
思いますけど、なんだ。
ひとりが楽なのだ。ひとりで過ごすの、寂しいって感覚があんまり分からない。ひとりって最高じゃない?好きな時間に、好きなことを、好きなだけ出来る。それって寂しいことなんだろうか。
『あたし結婚する気ないんです』
メンタルがある程度無事だった頃、元気だった頃は胸を張ってそう宣言していた。
なんで、今日はそれが言えなかったんだろう。
ミス連発でメンタルやられてたから?ワンオペ7時間勤務に疲労でやられてたから?暑くて仕方なかったのに水分取ってなかったから?
どうなんだろ。
《毎日やだよね〜》
大学の同期とLINEで交わす会話文第1位。トークルームの一番上にあって、今日もやだったな〜って思いながら帰路に着いた。
汗でベトベトの服を脱ぎ捨てて、靴下を脱いだら青色が見えて。
あれ、朝は可愛いと思えたのにな。
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