オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その81
81. 反省の心を忘れると痛くなる便利な胃
時々うずくまる真田丸。
忍者のように背中を丸め、
靴の紐を直すフリをする。
私のことだ。
まだ胃がキリキリと痛む。
そんな波がやって来る。
キリキリの波がやって来たら
まず足が止まる。
そして思考が停止する。
私は何も考えられなくなって
ただその場にひっそりと佇んだフリをする。
もともと芸術家肌だから自然に見えることだろう。
風景に溶け込む私のシルエット。
もちろん白黒で。
何もない場所でいきなり佇む。
葉の付いていない街路樹の枝をそっと指で摘んで誤魔化す。
よく考えたら胃が痛くなくても
そんな事をしているのかも知れない。
そんな楽しい新聞配達。
誰も私に干渉する者は居なかった。
いつもより30分も遅くお店に戻った。
「ただいうっ!」
また来た!胃がキリキリと舞う。
「くう〜」と小さく私は唸り声を出しながら
左手で胃の辺りを押さえて
右手はお店の柱を掴んだ。
そして下を向いて奥歯を噛み締めて
キリキリ舞が去るのを待つ。
「なに真田くん?その格好。反省のポーズ?」
先に帰って来て明日のチラシを整えていた竹内に小馬鹿にされた。
今は痛みの波に揉まれているから喋れない。
黙ったままうつむいてる私。
「えっ?真田くんが反省してんの?似合わんねー。」
坂井も居た。
キリキリ舞が舞うのをやめるまでは
何も考えることが出来ない。
私がどんな格好をしていようが
それを好きになってくれる人を探すだけだ。
いや、私が探しに行かなければ・・・・
「いててて・・・・」
声を出すと痛みが和らぐ不思議。
この世界は不思議だらけだ。
「ふぅ〜、あ〜、よし収まってきたぞぉ〜」
この調子でもなんとか新聞配達は出来てしまう。
私は痛みのハンディーがあっても、
ちゃんとお給料に見合うだけの仕事をこなしている。
なんと相性の良い仕事だろうか。
「おかえりー!真田くんまだ胃が痛いだろうからお粥作ってるからね!」
「うっ!」
胃が痛くなったのではない。
優子さんの優しさに思わず声が漏れた。
「あ、また痛み出した?あっ、味が薄かったら、お塩ここに置いとくから。」
塩は必要なかった。
涙でちょうど良い塩加減になったお粥を
ありがたく頂いた。
コンビニのアルバイトは休んだ。
配達の時にコンビニの前を通るのに素通りし、
朝刊を配り終えた後、
敢えて公衆電話からコンビニに電話をした。
「すいません。真田ですけど。今日もまだお腹が痛くて吐き気が止まらないんです。休みます。すいません。」
少し大袈裟に言った。
「えっ?まだ治んないの?大丈夫?病院行った?」
「いえ、病院に行くほどのことではないと・・・痛てて・・・なかなか思うように動けなくて・・・」
「何か変なもの食べたんじゃない?牡蠣とか?食あたりじゃないかな?俺も前に・・・」
店長の話が長い。早く電話を切りたい。
「いててててて・・・」
「おーい!痛そうじゃん!早く医者に診てもらいなよ。おわっ、弁当来たらから切るよ!んじゃね!ガチャ・・・・プープー・・・・」
まるで友達のように話してくれる店長に少し救われた。
そんな、
やつれた日々を送る私に気付く由紀ちゃん。
「なんか最近全然しゃべんないね。真田くん。」
「いんやぁ、心は大騒ぎなんだどもぉ。」
「え?すんごい田舎のおじいちゃん?でもものすごく疲れてそうな顔。いつも眠そうだね。」
「うん。眠いのは生まれた時からずっと。」
由紀ちゃんが一歩前に出て
かなり私に近付いてから上を見上げて言った。
「ねえねえ、あのさ、真田くん!今度一緒にお芝居、見に行かない?」
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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
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