オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その82

82.   さよならメデューサ

「元に戻してください。」

私は恵比寿に居た。
咳き込みながら美容師さんが言う。

「元がどんなだったかゴホッゴホッ、忘れましたけど、ゴホッ、とにかく縮毛矯正しましょおゴホッゴホッ、ぅか？」

きっと臭いから咳き込んでるのかもしれない。
最初は風邪でしんどいような感じではなかった。

「しゅくもう、きょうせい？」

「はい。ゴホッ。ストレートパーマの強力なゴホッやつです。ゴッホ。オエッ。」

やっぱり臭いようだ。
それかゴッホのファンか。

良かった。
由紀ちゃんとお芝居を観に行くその前に
美容院に来れて。
でも私にとっては病院に来た気分。

このままでは死に絶えたメデューサ達が
全部ポロッと取れて、つるつるてん。
もうぺんぺん草も生えない頭に
なってしまうかもしれない。
そんな予感がしたから美容院に来た。
私には手術が必要だ。

「お、お願いします！」

「はい。分かりまし、、、」
タッタッタッタ。

言葉も途中で、どこかに行ってしまった美容師さん。
戻ってきた美容師さんは白くてやたらデカいマスクをしていた。

「ちょっと咳が出るんで・・・これを付けて・・・」

濁した言葉で私を傷つけないようにしてくれた。
（あなたの髪が臭いから毒ガス専用のマスクを
したいくらいですが、この普通のマスクで
なんとか頑張ってみます。）と、
見えないくらいの小さな字で
マスクの左下に書いてあった。

さて手術が始まった。