ピアノ弾きたい欲
ここ最近の自己分析の結果が昨日の記事である。
しかし、大事なことを書き忘れてしまった。ピアノについてである。
私は子供の頃にピアノを習っていたが一度大きく挫折している。とにかく繰り返し練習するのがつらかった。ハノンも、ブルグミュラーの前にやりなさいと言われたギロックも。発表会の緊張感と達成感、好きな曲を弾けるところは唯一好きだったがあとは正直なところなにも楽しくなかった。
受験勉強を言い訳に中学生のときにあっさりとやめた。
朝起きてピアノがべらぼうに上手くなるなら300万円ぐらいローンで払うのにな、とは思う。根本的には嫌いではないが、反復練習がどうしても続けられない。ピアノは想像よりもずっと地道な練習が必要である。うまく弾けるようになるには、気が遠くなるほどの時間と努力がいる。大人になった私は『ロングバケーション』『のだめカンタービレ』の再放送や『四月は君の嘘』のアニメを見てもピアノがやりたいとは思わなかった。
しかし、数年前に当時の恋人から、たまには戦争映画をきちんと見たほうがいいとしつこく言われ、『プライベートライアン』などを薦められたのだが怖くて手が出ず、仕方なくピアノのシーン見たさに『戦場のピアニスト』を見た。
残酷な描写は薄目で見てやり過ごした。
いつピアノを弾くのだと、今か今かと待ち構えていた。
物語中盤ぐらいに主人公が建物に隠れているときに、ピアノの前でエアピアノをしている姿。
ピアノが弾きたい、そのために生き残りたいという執念のようなものを感じた。
※以下ネタバレあり感想
夜、家の中に身を潜めていた主人公が缶詰の缶をどうにか開けようとしていたところ、うっかりドイツ兵に見つかってしまう。このドイツ兵は、戦地のピアノでこっそりベートーヴェンの月光の第一楽章を弾くシーンがあり、音楽が好きだと推測できる。
普通なら問答無用で殺されるところだろう。だが、あくまでも冷静に君は何者なのだ?と話しかける。
そして主人公がピアニストだと告げると「弾いてみろ」とピアノの前に座らせる。
そこで震える指で弾き始める、ショパンのバラードの第一楽章。吐く息が白くはっきりと見えるようなあんなに寒いなかで、ご飯も食べられず体力もない状態で、弾けるような曲ではない。
しかし、淡々と情熱的に弾きあげる。
(ちなみにバラード自体はめちゃくちゃカットされており、実際全部弾くともっと長くて10分ぐらいはかかる。『四月は君の嘘』の重要なシーンや、羽生結弦が使用していたこともあり聴いたことがある人も多いかもしれない。)
主人公の魂のこもった演奏に触れたドイツ兵は、翌日から主人公に食べ物やコートをこっそり差し入れして助ける。
この映画から、敵や味方である前に、ひとりの人間なのだ、などともっと別の感想をもたなくてはならない、ということは百も承知だ。しかしあえて言わせてほしい。
私はこのとき、音楽ってすげえ。
と直球でばかみたいに感動した。あんな極限状態でも、人と人を繋ぐ音楽というものの素晴らしさ。主人公の弾くバラードを聴きながら号泣した。
そして、エンディングに流れる『アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ』のなんと力強くて美しいことか。
ピアノってすごい、ショパンってすごい。そうだ、もう一度ピアノを弾こう。駅ピアノにも挑戦したい。そして私も極限状態に陥ったときでもピアノが弾ける人になろう。
そんなことを考えて今に至る。
ピアノも、習うとすれば月謝に、年一回の調律に、夜も弾きたいのでヘッドフォンがつけられるものか防音ルームが必要だ。たまには演奏会にも足を運びたいし、ピアノの先生が発表会を開いてくれるなら絶対に出たい。そのためには髪の毛も可愛くセットしたいし、ドレスとまではいかなくても素敵なワンピースが着たい。ペダルが踏みやすいローヒールだけれどエレガントな靴もほしい。
やっぱり欲望はつきないのであった。