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小さくて良いお店になりたい

京都でお灸専門の治療院「新町お灸堂」をはじめて今年で7年になります。実はこの度、色々あって院を移転をすることとなりました。12月4日㈮より新店での診療がスタートする予定です。年明けくらいのつもりが、契約などの関係で急に決まった話だったので、患者様や関係者の方には突然のご報告になってしまって大変申し訳ありません。公式なお知らせはホームページにも書いたのでnoteにはここに至るまでのお話や新店の意匠などをまとめておきたいと思います。

「効率化」から「強くなる」へ

たぶん今年の1月くらいだったと思います。私にしては珍しく落ち込んでしまった時期がありました。お正月にしっかりとした風邪をひいて年末年始の予定がふいになりました。空いた時間で3人娘にこれからかかる教育費を計算したり、なんてことをしていたせいだったと思います。人間暇になったらろくなことをしませんね。わかりきっていることですが、子育てにはたくさんのお金がかかります。

開業当初から毎年自分でテーマを決めて一年の行動指針にしているんですけど2019年のテーマが「効率化と自動化」でした。おかげ様で少しずつ大きくなってきたと思っていた弊院も実際にはまだまだで、精一杯大きくなろうと無駄を省いて、背伸びしてを積み重ねた先に教育費という大きな壁が立ちはだかって「なんだかな~」という感じで張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのかもしれません。

“頑張る”ことも“怠る”ことも同じくらい大事です。

大きくしたり、背伸びをしたくなる感覚について…どの業界でも仕事のキャリアパスというか王道パターンみたいなものがあると思います。たとえば私たちの場合は「修行」→「独立」→「スタッフ雇用」→「分院展開」のような流れです(実際の状況は別にして)。大きくすることやステージを変えることは方法のひとつですが、それ自体が目的のように刷り込まれている感覚ってやっかいだなと思います。私も少なからずそうでした。

そこからなんやかんや気分を持ち直して、2020年のテーマは「強くなる」でした。「やっぱり強くならなきゃだめだな」と。とはいえ、大きくなる方向は挫折をしましたので…大きくならずに強くなる方向でごそごそ動きだしました。(この時期から頻繁にTwitterを更新したりしていました。それも強くならなきゃな…の一環です)

大きくならずに強くなること

大きくしたり、頑張ることへの違和感みたいなものはそれ以前から感じていました。たとえば施術中に患者さんのお話を聞いていると、寝る時間がないという人は多くいらっしゃいます。睡眠って大事ですから、寝る時間を削って働くと身体には不調がおこりやすくなります。でもよく考えてみると不思議なことで。世の中はすでに物もサービスもあふれているわけです。頑張らなくても横這いで進めばそれなりにやっていけるのかもしれないのに。めいっぱい働いて、しんどくなってしまう。もちろん生きていくためには働いてお金を稼がないといけないわけですし(私も開業当初は食うに困って本当につらい日々を過ごしたので)、誰かがやらないといけない仕事というのもあるとは思うのですけど。

職業柄こんなことを考えていました。頑張るなとはいわないけれどタイミングとか流れがあると思うし。大きくしよう、頑張ろうみたいな無言の圧力から生まれる歪みがお悩みの根本なのかもしれません。

そんなわけでこのあたりから弊院の今後の方針としてはあまり大きくならないようにやっていこう。少なくとも治療に関してはひとりでやっていこうという風に心が決まりました。大きくならずに小さいままで強くなりたい。量的な変化ではなくて質的な変化を目指したい、みたいなことです(治療以外の業務は別です。妻や税理士さんにもサポートをいただいています)

ありがとう養生人

そうこうしているうちに世間はコロナの渦へまっしぐらで。弊院の先の予約も気が付けばまっさらになっていました。そのタイミングで海外留学の予定が延期になってしまった企画広告のお仕事をされていた篠田さんを用心棒の先生としてお迎えして、院の仕事の整理をしたり、新しい企画をしたりといったことをしていました。そんな取り組みのひとつがYOJO ZINEというインタビューです。

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YOJO ZINEとは…身近であるがゆえに解像度が低く、家族や恋人同士でも全然違う「健康」という概念について「養生人」とすきからが対談し、その知恵を集めることで自分らしい「健康」や「養生」をみつめるきっかけを作りたいという思いでスタートしたインタビュー企画。トップのイラストがかわいいです。

第1話「面白い方を選んで、捨てる力」
大山崎COFFEE ROASTERS 中村佳太さん
第2話/前編「あなたのカンフーはなんですか?」
後編「強さと余裕のつくり方」
香港禦拳師範(中国武術) 奥圭太さん
第3話「わたしは火星人。ひとりぼっちの幸福論」
小説家 土門蘭さん

インタビューでは養生人たちから各界の専門的なお話や養生観に触れる機会をいただいています。私の中での方向性も明確になりました。手前味噌ですが皆様楽しく学びになるお話をしてくださったのでまだ読まれていない人ぜひご覧ください。養生人の皆様ありがとうござました(現在養生界の巨匠へのインタビューも編集中です。)

資本主義と自立、柔軟性のある強さ、アートや言葉の力強さみたいなことに触れて院のイメージが固まってきたところで、京都R不動産さんにてぴったりの物件を発見して見学、即申し込みという流れで移転が決まりました。

新店の意匠など

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お灸を据える治療自体はベッドの上で行われるものですが、大きな意味での治療や癒しという行為はお店全体、またはそれよりも広い範囲で行われているものだと思っています。以下はお店が新しくなるにあたって特に大切にしたかったポイントです。

①安心できるように
②リラックスできるように
③施術後もゆっくりできるように
④商品を販売できるように


①安心できるように
現在の院は新町通り沿いの立地というのも相まって月に何人かは「こんなところにお灸が?」と飛び込みでのぞかれる人もいらっしゃいます。平時であれば偶然の出会いも大歓迎なのですが、昨今の事情を考えるとあまりよろしくありません。今は誰でも入れる場所よりも、必要としてくださっている人のための場所というのが必要なはずです。YOJO ZINEでインタビューさせてもらった中村佳太さんの記事「あなたのお店は入りにくい」には大変感銘をうけました。新店は駅から近いビルの一室ですので場所はかなりわかりやすいですが、知っている人以外はかなり入りにくいようになっています。入りにく分だけ入った人は居心地の良く過ごせるように。

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加えて今は何しろ感染対策です。そんなに広くはないお部屋に天井から、吊り下げるタイプの大きな換気扇が2台設置します。イメージは焼き肉屋さんのアレです。エアコンも2台あるし、冬場の煙対策も換気はばっちり。

②リラックスできるように

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先にも書いたことですが、治療や癒しという行為はお店全体、またはそれよりも広い範囲で行われているものだと思っています。お灸で身体が巡るのはもちろんのこと。整った部屋で施術を受ける。なんだか美しかったり、いい匂いがしたりする。施術後にお茶を飲んでホッとする。そのすべてで元気になって頂きたい。

③施術後もゆっくりできるように
あらゆるサービスにおいて帰り際は最も重要だと思っています。「良かったな、楽になったな」という気持ちができるだけ長続きするように。帰り際バタバタしてして現実に引き戻されてしまうようではもったいないですから。よきタイミングでお帰り頂けるように施術室と待合室は広くしました。バックヤードは小さいです。

④商品を販売できるように
多少自覚はしているんですけど、私たち鍼灸師は少し怪しいです。しんどい時に予約していきなり全部まかせるというのはハードルが高い人も多いと思います。また養生というのはご自宅でも実践して頂きたいものなので、治療未満の健康状態の人もサポートをさせて頂くとなると治療院にショップのような機能を持たせてあげるのは長年の夢でした。(こういう状況なのですぐに不特定多数の人が出入りする仕様にはしにくいのですが、おりをみて日時を限定するなどの形で養生ショップとしての機能も充実させていきます。)

お店のデザインや施工に関して普段からお世話になっている先輩方にご協力いただいて、現実的な形に着地することができました。年末にかかる忙しい時期にご無理をお願いしました。本当にありがとうございます。謹んで御礼申し上げます。

据えさせていただきます

以上でございます。「こんな時に大変ですね。」とお声かけいただいたりすることもあるのですが、昨今のような状況になってから“死に至る病以外でも人は動けなくなってしまったり、時には命を失ってしまうこともある”。みたいなことを今まで以上に意識するようになりました。健康は大事です。本当に大事。そのためにお灸や養生がお手伝いできることは多くあります。安心して皆さんが身体や心を緩められる場所としてこれからもお灸堂は小さく強く頑張っていきたいと思います。今後も一生懸命据えさせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。

本来であれば今まで弊院に通ってくださっている方へは直接ご報告をさせていただきたかったのですが、このような形のお知らせとなってしまい申し訳ありませんでした。新住所についてはこちらのおしらせをご覧ください。今の院から少し東に移動しました。ご面倒をおかけしますがお間違えのないようお願いいたします。心地よい場所を整えてご来院お待ちしています。



お灸とデザインの人。お灸治療院のお灸堂、お灸と養生のブランドSUERUの代表をしています。みのたけにあった養生ってどうすりゃいいの?という課題に向き合う毎日です。