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読書感想文 【米澤穂信】 黒牢城

 ひとの心と戦う

 のめり込んだ。米澤穂信氏は私が信頼を置く作者さんの一人。ミステリーに人情だったり生活感を織り交ぜてくるあたりは東野圭吾っぽさもあり、嫌ミスというか残酷なフィナーレを堂々と描き切るあたりは脚本家の野田亜希子っぽさもある。毎回引き込まれて満足感を感じることができている。
 今回は時代物かつ血なまぐさい戦国の代をどう描くのか…と思っていたら、あ、推理小説なのかい、と出だしで思わせてきた。一国の領主に成り上がった村重が、季節が流れ事件が起こるたびに少しずつ求心力を失っていく描写は見事だった。結局、戦乱の世で戦っていた相手はひとの心だったらしい。
 歴史に疎い私が名前を知っていた(黒田いや小寺?)官兵衛の使い方も巧みであるし、宗教と戦の紐付け方もどうしたらこんな考察が出来るのだろう、とただただ惹きつけられた。実は序盤で黒幕を疑っていて的中したのであるが、その動機やら心中やらは察することも出来なかった。官兵衛や黒幕をもってしても、いかなる人間でも思惑通りに事を進めることがいかに難しいか。私も現代において改善してくれない他人に辟易することがあるけれど、古来他人も状況も思い通りにはいかないのが通説だと思って諦めなければならない。
 想像しただけでシビアな戦国の世の物語であったが、満員電車の不快感を吹き飛ばしてくれるほど夢中にさせられた。
 この本は手元にとっておく。久々にそう思った。今年まだ一冊しか読んでいないことを差っ引いても、今のところ間違いなく私的2025年ナンバーワン作品。
 
 

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