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『お嬢ちゃん、幾つ?』
『街はずれの焼き鳥屋』
暖簾を手で払い
引き戸を開けて
店に入った。
カウンターに席は五つ
畳のボックス席が三つの
小さな店。
馴染みの客だろうか
一番奥のボックスに三人
熱燗に焼き鳥で
ワイワイしていた。
へぃ
いらっしぇい!
店主の威勢のいい声が
店内に響く。
ボックス席の三人が
こちらをチラリと見て
また談笑に戻る。
初めて来た店だ。
ネギマがかなり美味いらしい。
やっはり目の前で
焼かれるのを見ながら
ネギマを食べたかった。
カウンター席のど真ん中に
腰を下ろした。
店主が目の前に立ち
カウンター越しに
おしぼりを渡しながら
言うのだ。
飲み物は
何にするかい?
お嬢ちゃん。
烏龍茶を下さい。
あいよっ!
ウーロン一つ!
店主が若い店員に
呼び掛ける。
それに応えて
若い店員が手早く
グラスに氷を入れ
烏龍茶を注ぐ。
店主はカウンターから
少し顔を突き出して。
お嬢ちゃん
幾つ?
と、聞いてきた。
何で焼き鳥で
歳を聞かれなくっちゃいけないのか
怪訝そうに眉をひそめる。
だか再び
店主は聞いてくる。
お嬢ちゃん
幾つ?
しつこい。
だか
これ以上その場の雰囲気を壊したくなかった。
美味しいネギマを早く食べたかったからだ。
十九です!!
少しきつ目に
大きな声で応えた。
応えた途端
店主をはじめ
店員やボックス席の客まで
笑い始めた。
何がそんなに可笑しいのか
ポカンとしていると
店主が笑いを堪えながら
おっおっ嬢ちゃん。
とっとっ歳じゃねぇんだよぉ。
くっくっくっ…。
ねっねっネギマのなぁ
さっさっ皿のさぁ
なにを聞いたんだよぉ。
はっ⁈
皿のなに⁈
数?
皿の数。
その店は
飲み物以外はネギマしかない店だった。
はっはっはっは〜ぁ。
もう笑うしか無かった。
出されたネギマは
鶏肉のモモ肉は
ふわふわで噛むと滲み出る肉汁か
たまらなかった。
間の葱は
少し焦げたところはあるものの
火の通し加減と葱の繊維との競り合いが
絶妙だった。
タレでない塩焼き。
何本でもいけてしまう。
一皿三本
二百円。
あの時いったい何皿たいらげたか
記憶は不確かだ。
ネギマがかなり美味しい焼き鳥屋は
街はすれにある
ネギマしかない美味しい焼き鳥屋だった。
完
お読みいただき
ありがとうございます。
これは実際には
鍋焼きうどんしかないうどん屋で
成人式の帰り
振り袖姿で友人が
うどん屋の店主と交わしたやり取りを
焼き鳥屋仕立てで書いてみました。
『トミー』
『見ているかい?』
『今』
『お前さんのネタで一作書き終えたよ。』
と、
随分まえに
天に昇って行っちゃった
友をふと思い出した
今夜の品でした。