2月27日のにっき

水筒が話しかけてきた。


「ボク、次、出番いつ頃ですかね?」


胸がぎゅんとなった。
私は無神経にも、水筒のそばに空ペットボトルが大量に入ったゴミ袋を放置していた。
毎日増えていく空のペットボトルをよりにもよって水筒の前に溜めてしまうとは、無神経すぎる。

水筒の横にペットボトルを置くとはつまり、妻の前に愛人の死体を山積みにして、ちょっと例えが違うかも。

水を外で買うのがもったいないから水筒を買ったのに、結局面倒でずっと使っていなかった。とても酷いことをしていると水筒の遠慮がちに言った一言でようやく気づいた。

「ボク、次、出番いつ頃ですかね?」

いっそのこと、「俺を使えや!」「これみよがしにライバルのペットボトルを愛用しやがって!俺って存在がいるのに!!」と怒ってほしかった。

350mlのスリムな体からか細い声で、遠慮がちに言ってくれるな。



普通に考えて、水筒が話しかけてくるのはあり得ないことなので、このイタズラの犯人を探す。犯人は私がメソメソ水筒に泣きつくのをケラケラ笑うつもりだったんだろう。そうはいかない。部屋に隠しカメラがないか探してみる。本棚の裏とか、ベッドの下とか。埃が思ったより積もっていた。カメラを探すのは一旦中止。掃除はまた今度。


カメラは見当たらなかったけれど、イタズラに違いない。水筒が言葉を話すなんて、ありえない。
でも、この罪悪感をなんとかしたい。いち早く水筒に謝罪がしたい。

実生活でも不自然じゃない範囲の行為と態度で、水筒へ謝罪の意を示すことにする。

1.ペットボトルを全部捨てる
 (ちょうど明日はペットボトルの日)

2.水筒を今すぐにでも使うぞという気持ちでキッチンの流しに立てかける

3.2Lの水の側面に「水筒用」とマッキーでメモする

4.敬意を持って水筒をスッと撫でる


「ボク、明日出番ですか!? 使ってもらえるんめっちゃ楽しみっす」

水筒がまた話しかけてきた、気がする。

もし水筒が出番無さすぎて怨念になって喋ったのだとしたら、成仏してほしい

もし誰かがドッキリで水筒が喋ってるかのように操作してるなら、はやくネタバラシしに来てほしい




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