寿げ! ワンワン
うたた寝しつつ仕事をしたりサッカーのワールドカップを観たりでほぼ徹夜してしまったので、ちょっと早いとは思ったが、5時過ぎにシロを連れ出した。
こんな早朝に出かけたのは記憶にない。
それでシロも興奮したのか、以前のように「ハーハー、ゼイゼイ」と呼吸を荒げグイグイとリードを引っ張って門を出た。
かつてはこの無敵の息遣いでご近所を震撼させていたものだが、それが蘇って、ついガッツポーズをしそうになった。
もっともその勢いはすぐにしぼんでしまったのだが…。
オシッコを流しウンチを落としたらすっかり落ち着いたのか、団地のワンブロックをまわったあたりでいつものチンタラ歩きとなり、「頭を垂れて」飼い主の後ろを歩くようになった。
そして、思い出したようにイヤイヤをするとUターンして帰ってきてしまった。
所要時間10分あまり。なんのことはない、思わず元気に出かけたものの、いつもより短い時間で散歩を切り上げてしまった。
このシロの「ハーハー、ゼイゼイ」は、ご近所では有名だった。
その必死さというか真剣さが好感を持たれたのか、おばさんたちによく声をかけていただいたものだった。
「あらシロちゃん、きょうも元気ね!」
様々な笑いとともに、こんな声をかけられたものだ。
こっちは恥ずかしいばかりだったが、大きなベロを振りながら毎日精魂込めてこんな歩みをしているのを見るにつけ、そのうち利他というのか、この「ハーハー、ゼイゼイ」がシロなりの祈りなのではないかと思うようになった。
家々をめぐり、辻々を抜けながら人々を、そして生きとしいけるものを寿いでいる、そんな風情に見え出したのだ。
それからは「ハーハー、ゼイゼイ」リードを引きながら歩くシロに背中から無言の声をかけるようになっていた。
「ことほげ! ワンワン」と。
「ハーハー、ゼイゼイ」の霊言が、どれほどのご利益があったかわからない。
それでもシロの健気な姿は見る人の心を和ませてはいたようで、多少の癒しにはなっていたのだろう。