球場巡礼 第6番 「東京ドーム」
1996.8.26
草薙球場で翌々日の横浜ベイスターズ対ヤクルトスワローズのチケットを手に入れ、清水でその日の宿の手配済ますと14時10分発の熱海行に乗車して、東京ドームでの都市対抗野球を観戦するために東京へと向かった。
東京駅に到着するとコインロッカーに荷物押し込み、京葉線に乗り換えて3つ目の汐見駅で下車して『上々颱風祭り』の会場に向かった。
ライブでは、しこたま飲んだらしく、ふっ、とわれにかえったときには、すでに白々夜明けの朝。どうやら酔っ払ったままライブ会場のウッドランド東京の敷地内で野宿を決め込んだらしく、なぜか体操用のマットにくるまって寝ていた。
枕がわりにした頭陀袋から頭をあげて、鈍く錆びついてしまったようなからだをマットからひっぱりだすと、自然に大きなあくびがもれた。
球場を見て歩きたいという好奇心を、巡礼という宗教的な行為に昇華というかすり替えて、もうしわけていどの〝行〟をみずからに課した身ならば、野宿は成り行き。とはいえ、不惑過ぎの男がライブはねた後にひとり住宅展示場に転がっていた体操用マットに潜り込んでいたのには、いささか情けなさが募った。
さて、きょはトラ東京ドームの前で合流して都市対抗野球を観戦することになっている。目指す聖地は水道橋。駅数にすれば、この汐見からは5つか6つ目で、青春18きっぷの一日分を使うにはもったいない距離。自販機で乗車券を購入し、まずはコインロッカーに預けた荷物を出すために東京駅までもどった。
東京駅の構内は、さすがにもう勤め人で活気づいていて、売店、立ち食いうどん、コーヒーハウスも店開きしていた。さて朝食はなんにしようか、と人込みにもまれながら思案する。
朝のコーヒーは捨てがたいが、モーニングじゃ、ものたりない。かといって、食後のコーヒーはぜいたく、と出した結論がラーメン屋。朝のみそ汁がわりに、味噌ラーメンを食べたくなったのだ。
ひきつるのどを麺でこじ開け、荒れた胃に味噌のつゆ流し込んで、所要時間5分か。このままドームに向かっても、どうせまだ開場前の時間だろうが、ラーメン屋に長居は無用。仕方なく腰をあげ、コインロッカーから真っ赤な登山用リュック引っ張り出して、水道橋の聖地に向かった。
東京ドームに着いたのは9時前。駅前から陸橋を渡って敷地に入ると、後楽園ホールの外壁と、『後楽園ファミリーミュージカル・ゲゲゲの鬼太郎』の広告用垂れ幕かかった壁面の間から、ドームの屋根の一部が見えた。
鬼太郎、なんのポーズかバンザイのようなかっこうをしているのが、野宿明けをからかっているようで、視線を外すように壁面の横の階段をそそくさとあがる。
するとそこはタイルを一面に敷き詰めた人工地盤の広場。その先に、偉容誇る東京ドームが聳え、正面に掲げられたパネルには『第67回 都市対抗野球大会』とあった。
広場には、第一試合の対戦カードだろう、NTT北陸と三菱重工広島の幟がはためき、それぞれの応援団や関係者、晴れやかな、そしてよそ行きの顔で集まっていて、この人工的な空間のどこから聞こえてくるのか寝ぼけたように間のびした蝉時雨が降り注いでいた。
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