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スイスのブドウ品種⑤ PETITE ARVINE:プティット・アルヴィン
![](https://assets.st-note.com/img/1727674118-2Q6Rhkx7ucEKfAebWDlMPXvT.png)
スイス国内のブドウ畑の約1.5ー2%である約250haしか作られておらず
どの言語で検索しても情報があまり出てこないブドウ品種です。
ワインの作り方によって辛口から甘口まで、幅広い表現が可能
典型的なアロマも様々なため、ワイン生産者さんの探求心をくすぐる
バランスが取れた構成になりやすくそれを欠いたワインは稀な、安定感
ヴァレーで作られていて、弱く、栽培条件が難しいために
『要求が厳しすぎる領主』に例えたがる専門家もいるとか。
これからの発展が楽しみなブドウ品種の一つです。
原産地
かつてSavoie公国で栽培されていた大変古い高貴とされる品種の一つです。
![](https://assets.st-note.com/img/1727676772-or7YWKAlFbDMI8OPiVaCJkHd.png?width=1200)
シャスラの回でもSavoie(サヴォワ)は登場しましたが、同じエリアで栽培されていた可能性があります。
最初にこのPETITE ARVINEが歴史に登場したのは1602年のMolignon村とされています。
また、1878年の国際Ampelographic(ブドウ品種学)協会の学会が
Geneva(ジュネーブ)で行われたときに以下が定められました。
PETITE ARVINEは、世界中でもスイスのValaisにしかないユニークな
ブドウ品種であると宣言する。
現在の生産地はスイスのValaisがほぼメインで、ほんの一部が
イタリアのValle d'Aosta (ヴァレ・ダオスタ)でも栽培されています。
やはりかつてSavoie公国のあったエリアで、国境はあるものの
ほぼ同じ地域といっても過言ではありません。
![](https://assets.st-note.com/img/1727675324-huRaPigFpGm3lO50yrUSsQDk.png)
1970年代には14haしか栽培されていなかったPETITE ARVINE。
いまではその品質が認められたため生産量は増え始め、かつての30倍以上に
なっています。
名前の由来
Petite: 房が小さい
Arvine:Valle d’AostaエリアにあるArve Valley
=(シノニム)ARVENA / ARVIN / ARVINA / ARVINAZ / ARVINE /
ARVINE BONNE / ARVINE BRUNE / ARVINE DE SION /
ARVINE GRINGE / ARVINE MAUVAISE / ARVINE ROUGE /
AVENA BONNE / ERVINE / ERVINAZ / ERVINE / ERVINE BRUNE
つまり、名前からも推察できるのは:
Savoy公国であったValle d'AostaからスイスのValaisに(南から北上)
PETITE ARVINEが入ってきたこと
ブドウの起源がこの周辺であることもほぼ間違いないでしょう。
ただしここで注意があります。
ARVINE と ARVINE GRANDE = SILVANER のシノニム
![](https://assets.st-note.com/img/1727678216-UZwnDIz4V6oLt0ecpBqG82hu.png)
Grosse Arvine(Grande Arvine) ≠ PETITE ARVINE
(Grosse ArvineはPETITE ARVINEの子孫とされます。)
つまり、Arvineだけが記載されているワインの場合、PETITE ARVINEなのかSILVANERなのかわかりません。
さらに、Grosse Arvineとの混同も避けなくてはなりません。
PETITE表記は19世紀にGrosse Arvineと区別するために修飾語として
あてられることになった、常に必要なものなのです。
『要求の厳しすぎる領主』とは
![](https://assets.st-note.com/img/1727678748-C4vOjkoDfYR6LwSNTzx9FqKM.png?width=1200)
ブドウ栽培上PETITE ARVINEは傷みやすく繊細で、収穫を無事に終えるには生産者さんの手を煩わせます。
その様子が厳しい領主を髣髴とさせる、というのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1727679982-25fXrBCjvEdLyVN6ptaAbnOz.png)
房が壊れやすいので風から守る必要がある。
若い新梢も脆くて風に弱く、簡単に折れる。
葉っぱは更にもろい。
ペド病、ダニ、灰色かび病(Botrytis cinerea)、除草剤、水ストレスに弱い。
石灰質のよく露出した土壌で、日当たりも水はけも良く、夏の乾燥に悩まされない土壌を特に好む。
日当たりは良くても上述したようにもろいので風はNG。
夏の乾燥しすぎはNGだが、肥沃で湿った土壌とは相性が悪い。
これだけ大変にも拘らず、発芽は早いのに非常に晩熟で、完熟には多くの日数・日照が必要になる。(Chasselasより1カ月も熟すのが遅いことも)
PETITE ARVINEを完熟させるとシロップのようなワインを作ることもできるため、生産者さんは大切にPETITE ARVINEを育てています。
なお、PETITE ARVINEの一般的なOechsle指標は95-110°Oeです。
Oechsle指標とは:
°Oe = <1ℓの果汁(20℃)の質量> ー <1ℓの水の質量(1 kg)>
例:1ℓの果汁の質量が1070gだと、Oechsle指標は70°Oe。
この質量の差は果汁中の溶解糖によるため、ブドウの熟度や糖度を示す。Oechsle指標が高いほどアルコール含有量が高くなる。
DNA分析結果
PETITE ARVINEは孤児的ブドウ品種といわれる程、近縁が
見つかっていません。
2019年に発表された論文で、古代ローマ時代のブドウ種子のゲノムワイドシークエンスデータと関連性があることだけはわかっています。
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これによって、Amigneと近縁の噂は否定されました(完全に関係がないとは言えないものの、少なくとも近縁ではない)。
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どちらかというとChasselasや上述したGrosse ArvineとDNAのつながりを
示唆されていますが、詳しくはわかっていません。
PETITE ARVINEを調べて見つけたこのブドウの図で、
なかなか存在感を放つSavagnin Blanc(HEIDA)と、古代ローマブドウ品種との関連にも驚きました。
PETITE ARVINEから作られたワインの特徴
The Oxford Companion to Wine– 2006/10/1では、『Valaisの特産ブドウの中で最高級』との記載があります。
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非常に個性的で、エレガント、複雑です。
基本的に非常にバランスが良くて、塩味の後味を持ったキビキビとした
フルボディの力強いワインを産みます。
塩味(ミネラル感)は、石灰質系の土壌から来ています。
骨っぽい辛口とねっとりした甘口まで幅広い
辛口だとグレープフルーツや藤の花系
甘口だとルバーブやパイナップル、マンゴー系になる傾向です。
フローラル系:白い花、オレンジブロッサム、ジャスミン
![](https://assets.st-note.com/img/1727683152-zrOTnl52jg7d1DiPAVWEfpM0.png)
果物系:グレープフルーツ、レモン、タンジェリン、リンゴ、メロン、
パイナップル、グァバ、パッションフルーツ、バナナ
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野菜系:ルバーブ(のジャム)、フェンネル、緑茶、グーズベリー、
さやえんどう、ハーブ
![](https://assets.st-note.com/img/1727683256-LgDmUE0qaukPjevlJAQwFX2V.png?width=1200)
穀物系:全粒粉パン、菓子パン、大麦
火を通した系:レモンの皮の甘煮、レモンキャンディ、フルーツジャム
ミネラル:砕いた石、塩味、火打石
国際的な評価を得た生産者の一部が、スイス以外のヨーロッパで
PETITE ARVINEの栽培を始めているとのうわさもあります。
Valaisは、PETITE ARVINEを保護するルールを設ける仕組みを作ろうと試みているようです。