【小説】アルカナの守り人(22) 幕間
目的の地、孤児院 アルボス アミークスは、木々が生い茂る森の中、しかし、そこだけ奇跡的に拓けたような平地にあった。敷地の周りは、不揃いの岩を何層にも重ねたような、素朴な高い石壁に囲まれていた。所々から、シダ植物が顔を出し、苔むしてもいるので、全体的に緑がかって見える。石壁の一部、ちょうど石壁の真ん中にあたる部分は、アーチ状に形取られ、そこから、敷地に出入りできるようになっていた。
そのアーチの入口に近づいていくと、賑やかな声が聞こえてくる。
はっきりとは聞こえないが、数人の子供たちの声と、それを諌めるような女性の声だ──。
「──もう、いい加減に…──」
「だって、──…姉、こいつが──」
「─違うよっ。ぐすっ。僕は…───」
声が聞こえる方から察するに、畑か──?
フウタは、アーチをくぐり抜けると、左の方向を覗いつつ、立ち止まった。ヒカリも同じように立ち止まると、フウタが見ている方向に目をやる。
左側の奥、ちょうど角地に当たる場所には、野菜やハーブを育てている畑があるようだ。その場所で、数人の子供たちが向かい合う形で立ち合い、言い争っている。そして、その子供たちの間に入って、場を収めようとする女性の後姿も見える。
「何かあったのかしらね?」
そう言いながら、ヒカリはフウタの顔を見上げたが、フウタが悪そうな顔でニヤついていたので、思わず、眉根を寄せてしまった。
「何…、その顔──。」
「──え? あ、いや──、なんか懐かしいなぁと思ってさ。」
フウタは、慌てて、表情を隠すように、手のひらを顔に押し当てた。とはいえ、子供たちの諍いの原因には心あたりがあり、なおかつ、幼かった頃の記憶も甦ってくるので、どうしても顔はニヤけてしまう。
その様子を、遠くから微笑ましく眺めつつ、横目に一歩踏み出したフウタだったが、その腕は、がっつりとヒカリに掴まれていた。
(まさか、このまま、放置するつもりじゃないわよね──?)
と、半眼が訴えている。
やっぱり、そのまま素通りはダメか…。
フウタは、仕方なく、ニヤけた顔を整えると、畑へと向かってヒカリと歩き出した。
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